FINANCE Watch
銀行・生損保最大手の目を覆う“惨状”~御身大事の生き残り戦略

  「金融システムが景気回復を力強く後押しするには至っていない」

  速水優日銀総裁は22日、都内で講演した中で、日本の金融機関の不甲斐ない現状にこう言及した。それもそのはず、「グローバルトップ5」「欧米有力金融機関に匹敵するIT投資規模」「国益に合致するメガバンク」を標榜してスタートしたみずほフィナンシャルグループが、2002年に発足するリテール(小口取引)部門の勘定系システムの統合を1年延期せざるを得ない体たらくが、同日明らかになったからだ。

  「安全性を重視した結果だ」(同グループ)と力説しても、みずほ銀行の預金などを処理する基幹システムが、“タコ足配線”でスタートすることに変わりはない。

  業界が再編や破綻の嵐の中にある生損保のトップ会社の“惨状”も目を覆うばかり。日本生命保険と東京海上火災保険(8751)が、自らの生き残りのため下位会社の生き血をすするような、なりふり構わぬ生き残り戦略に打って出ているのだ。

  みずほは、今年9月に持ち株会社の下で3行が統合し、総資産規模で150兆円と世界最大の金融グループとなった。2002年4月には事業分野別に再編し、リテールのみずほ銀行、大企業・中堅企業向けのみずほコーポレート銀行に再編し直す計画。

  ●鈍る再編の速度
  みずほ銀行は約600の営業拠点を持つため、新システムが正常に機能するか不安なようで、当面、第一勧銀と富士銀のシステムを並列させ、接続専用コンピュータでつないで事務処理する「1年間をメドとした経過措置」を設けるという。市場関係者からは「経営のスピード感などかけらも感じられない。欧米銀行との競争など断念したほうが身のためではないのか」との辛辣な批判が上がっている。

  一方、日本生命は、第百、千代田などの破綻前後に、営業レディーが「最大手で安全なウチに乗り換えたら」と顧客引き離し策に出て、「溺れる者の足を引き込むようなもの」と、関係者をあきれさせた。

  同社は、相沢英之・前金融担当相が目論んだ「予定利率引き下げ」に諸手を挙げて賛成しているが、それは「危ない会社を狙い撃ち」にする思惑があるからだ。「危ない会社」が予定利率を引き下げて逆ざやを解消したとしても、だれがそんな会社と保険契約を結ぶだろうか。日生は、「こぼれた客は所詮ウチに来る」とみている。

  しかし、さらに破綻が発生すれば、生保契約者保護機構の資金援助の負担がのしかかって来る恐れもあるのだが、日生は応じる気はない。昨年末、同機構への業界拠出金を1,000億円積み増す生保協会決議をした際、他の全社がやむを得ず賛成した中で日生だけが棄権票を投じたことは、業界内部では有名な話だ。

  ●プライドも捨てて・・・
  損保はどうか。東京海上は経営不安がささやかれる朝日生命保険と将来の経営統合をにらんだ提携を発表している。しかし、業界関係者によれば「この提携契約の中には、『朝日生命が自力更生した場合』という恐るべき一項が入っている」というのだ。

  最初に唾をつけておき、破綻に瀕しても助けず、倒れて契約者に負担を押し付けて身軽になったところで飲み込む。上品が売り物の三菱系とも思えぬ、外資顔負けのやり口だ。

  朝日生命は業務提携相手の米メトロ保険に袖にされてやむを得なかったようだが、こんな屈辱的条件ものむほどの苦境とは何なのか。第一勧銀色の強い同社だが、みずほ3行への支援要請は検討すらなされた形跡がない。

  株価1万4,000円割れで、「業界首位」といえども体力消耗はますます著しい。今後、さらになりふり構わぬ足掻きを見せ付けられても不思議はない。

■URL
・速水日銀総裁の講演(12月22日)
http://www.boj.or.jp/press/koen107_f.htm
・再編マップ「みずほフィナンシャルグループ」
http://www.watch.impress.co.jp/finance/map/bank/note/mizuho.htm
・再編マップ「東京マリン保険連合(仮称)
http://www.watch.impress.co.jp/finance/map/insurance/note/marine.htm

(小倉豊)
2000/12/25 10:20