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正念場迎えた東証マザーズ~値がつかない不思議市場

  東証の新市場「マザーズ」が、正念場を迎えている。新規上場した企業の株がのっけから売り注文を浴び、2~3日間も値がつかないなど「事実上投資ができない摩訶不思議な市場」(米系資産運用会社)と化しているためで、こうした状態がさらに続けば、「市場閉鎖もやむを得ないのでは」と声も出ている。

  東証マザーズは昨年11月、高い成長性を秘めたベンチャー企業の資金調達の場として鳴り物入りで創設された新市場だ。市場開設当初こそ、ITブームの盛り上がりとともに高値追いする銘柄が相次いだものの、1年たった現在は50%以上の下落は当たり前という状態。中には90%以上も下げる株があるなど、見る影もない。

  こうしたベンチャー企業向けの市場としては、マザーズのほかに日本証券業協会が運営する「店頭市場」、全米証券業協会(ナスダック)と大阪証券取引所などが共同で設立した「ナスダック・ジャパン」がある。

  ●上場基準の緩和が裏目に
  店頭、ナスダック・ジャパンともに爆発的に取引が増加したり、公開企業の株価が急上昇しているわけではないが、マザーズのようようなお粗末な状況にはなっていない。なぜマザーズだけパフォーマンスの低下が著しいのか。そこにはマザーズが抱える根本的な問題がある。

  マザーズの抱える構造的な欠陥を、市場関係者のほぼすべてが「上場基準の緩さだ」(大手証券幹部)と指摘する。ITの発達とともに時間の経過スピードが7倍という経済のドッグイヤー化が進展しているため、ベンチャー企業の切り盛りには迅速な資金調達が不可欠。このため東証は、従来2カ月以上かかっていた上場審査期間を1カ月程度に短縮、ベンチャー企業のスピード上場を可能にした。

  また、経常損益が赤字の企業や設立間もない企業の上場も認めるなど、「上場企業誘致競争に勝つためハードルを極端に低くした」(準大手証券)ことが、逆に現在の低迷を招く結果となった。「他市場に行けない企業が手っ取り早くマザーズに集まってしまった」(市場筋)のである。

  ●不振助長するVCの投資行動
  こうした構造的な欠陥に、ベンチャーキャピタル(VC)を通じた急激な資金流入が加わったことも、マザーズの不振に拍車をかけている。VCは、ベンチャー企業の事業の先行きを精査し、高い成長が見込めると判断すれば投資し、ベンチャー企業が株式を上場したときの売却益を狙うハイリスク・ハイリターンの投資手法だ。

  米国でIT企業向けのVCが高収益をあげているのを横目に、日本でも証券会社や大手銀行がここ1、2年の間に競ってVCを設立した。ただ大半は米国のようにベンチャー企業の質を精査する能力や体制は整っておらず、「早期にリターンをあげるため、マザーズ上場を目指す企業に投資する」(都銀系VC幹部)という。

  マザーズの上場基準が、店頭市場やナスダック・ジャパンより緩いことに着目。ベンチャー企業の育成を目指すというVC本来の役割を忘れ、早期に株式上場時の売却益獲得のみを目指すという「にわかVC」の存在がマザーズの不振に輪をかけているわけだ。

  ●怖くて売買できない
  前週14日にマザーズに上場した土木設計向けソフト開発のソフトブレーン株は、15日に公募価格を38%下回る43万円で寄り付いた。

  米系資産運用会社の関係者は、同社を「ITバブルに踊ったような企業ではなく、地に足がついた企業」と評価するが、「“にわかVC”からの投資が多く、上場時の売りが確実視されるためとても売買できる状況にはない」という。

  マザーズでは、同社のようにVCの売りが続いて値が下がり続けたあと、ぱったりと売買がなくなる銘柄が続出している。「株が上場されたあとでもきちんと流通してこそマーケット」(大手証券のディーラー)との声が日増しに強まる中、東証が早急にマザーズ改革に乗り出さなければ、上場企業の株価パフォーマンス同様、マザーズの評価も上向くことは望めないだろう。

■URL
・東証マザーズ
http://www.tse.or.jp/mothers/
・東証、マザーズ上場の「健全性」について追加施策
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/12/11/doc1350.htm
・東証マザーズの健全性確保を強化~上場審査では元役員も調査
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/11/09/doc984.htm

(相場英雄)
2000/12/19 11:20