日本の景気先行きに不透明感が強まる上に、米国経済の息切れも明確になり、株式市場を取り巻く環境は厳しさを増している。しかも、時価会計の導入に伴い、株価が少しでも持ち直すと、すかさず持ち合い解消の売りを浴びるという悪循環に陥った。目先にめぼしい好材料は見当たらず、兜町は株価低迷のまま21世紀を迎えることになりそうだ。
上場企業間の持ち合い比率の推移をみると、1950年から70年ごろまでは25~35%の範囲で安定していた。ところが、70年代以降に持ち合い傾向が強まり、83年度には43%まで上昇。国内最大の機関投資家である非上場の生命保険会社を含めると、86年度には56%という驚異的な水準に達した。企業系列が確立されると同時に、エクイティー・ファイナンスが容易になり、それをお互い引き受けてきたわけだ。
●亀井政調会長の余計な指示
バブル崩壊後の株価暴落を経験し、株式保有は企業にとって大きなリスクとなった。さらに、時価会計の導入が持ち合い解消を一層加速させ、2000年度初頭までに持ち合い比率は28%程度(生保を含めても約34%)まで低下したとみられる。
先月27日、亀井静香・自民党政調会長は内閣支持率と株価のスパイラル的な下落に業をにやし、大蔵省や金融庁などの幹部を緊急召集、持ち合い解消抑制策の検討を命じた。しかし、特効薬などあるわけなく、兜町は「余計なことをしてくれたものだ」(東証幹部)と頭を抱えた。「対策の打ちようがないことが明確になり、持ち合い解消に歯止めが掛からない」(同)という。
●主犯は外国人投資家
金融界も亀井氏の“暴挙”に猛反発した。日本興業銀行は12月11日付のリポートで「持ち合い株の処分は官民合意の構造改革」と反論。さらに、「今秋の株価の低迷に銀行は関わっていない」と株価下落の“主犯”説を否定するのに躍起だ。確かに、今年4~11月の売り越し額は、外国人投資家(3兆1,972億円)、個人投資家(1兆8,835億円)、信託を除く銀行(1兆1,787億円)、一般企業(9,279億円)―の順だから、金融界は「株価低迷の主犯は外国人」と主張したいわけだ。
持ち合い解消が進んだとはいえ、大手16行の保有株式は時価で約37兆円、簿価でも34兆円に上る。国際決済銀行(BIS)の自己資本比率規制が強化されると、各行が株式の大量放出を余儀なくされる可能性がある。興銀によると、16行の自己資本のうち、BIS規制の基本的項目(Tier1)の総計は22兆7,987億円(2000年9月末)に過ぎない。仮に、株式保有がTier1の範囲内に制限されると、時価ベースで14兆円強に上る株式の処分を迫られる計算だ。
●効果薄い「自社株買い」
持ち合い解消の歯止め策として、一部では「自社株買い」が指摘されるが、今のところ受け皿にはなっていない。大和総研によると、東証1部上場企業による自社株消却額は1999年が6,650億円。2000年1~11月も6,580億円にとどまっている。持ち合い解消の規模と比べると、自社株買いに株価下支えの効果を期待するのは現実的ではない。
■URL
・クロス取引の規制緩和でPKO?~自民の株価対策に失笑再び
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/12/01/doc1233.htm
(兜太郎)
2000/12/18
10:01
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