FINANCE Watch
商社危機の“実相”を暴露?~金融機関に衝撃のリポート

  「ゴーイングコンサーン(存続)を前提にした商社に対する見方はもう通用しない」―。こんな内容の経済リポートが、関係者の間に静かな衝撃を広げている。企業の国際化やノウハウの蓄積が進む中で総合商社の存在意義が問われ始めて久しいが、「負け組み」企業の淘汰に言及することは、ジャーナリストやアナリストなどの間では一種タブー扱いさてきた。

  大手が抱える有利子負債は、業界3位の伊藤忠商事(8001)で4兆円、4位の丸紅(8002)で3兆8,000億円、6番手の日商岩井(8063)でさえ約3兆円。その抜本処理は金融システムに計り知れないダメージを与え、取引先への連鎖的影響も超弩(ど)級に達するのが避けられないからだ。

  ●発信元は第一生命経済研
  外資系銀行の資金ディーラーに、「世の中には、本当のことを書くヤツもいるんだなあ」とをため息をつかせたのは、第一生命経済研究所の12月発行のリポート集のうち、「注目点・総合商社業界の現状と今後」。

  第一生命総合審査部の担当者が執筆したもので、総合商社のリスク対応力をこう分析している。

  「三菱商事(8058)、三井物産(8031)、住友商事(8053)が相対的にリスク対応力を維持している一方、伊藤忠、丸紅、ニチメン(8004)はストック面の対応力で見劣りする。日商岩井のリスク対応力は債務免除を受けたトーメン、兼松に近いレベルである」

  こうした認識自体は、商社や金融業界関係者にとって何ら目新しいものではないが、さりとて、例えば日商岩井が「債務免除」要請に踏み切った場合、融資銀行団はどのような対応が可能なのか。また、行政は「民間の経済行為」として突き放した対応で済むのか、視界はまったく閉ざされており、「誰も触れられなかった」のが実情だ。

  ●地雷原・インドネシアにも言及
  また同リポートは、「時価会計を先取りしていたはず」の伊藤忠が、1999年9月中間期に「突如として建設不動産関連資産や海外債権に対する引き当てなど巨額の不良資産処理」を行ったことを指摘。これは「総合商社の決算内容の信憑性を損なう」と厳しい批判を浴びせている。しかも、「損失の先送りを容認してきた監査法人の責任も重い」として、9社の監査法人一覧表を添える念の入れよう。

  もうひとつの注目点は、「巨額の不良資産処理を行った後でも、中・下位企業を中心に販売用不動産やインドネシア向けエクスポージャー(投融資残高)は依然高水準であり、引き続き資産リスクが顕在化する可能性が認められる」と指摘している点。

  インドネシアについては、「商社に経営危機の芽が存在するなら、およそこの辺り」(金融筋)との見方は従来からあるが、それを特筆するのは問題が生々しいだけに極めて異例だ。付属資料として、9社の同国向け投融資の一覧表も掲載。2,300億円と9社中突出している丸紅の関係者は、「スハルト(前大統領)親族企業の債務保証があるので大丈夫」としているが、崩壊した前政権に何の御利益があるのか、冗談とも本気とも判断つきかねる説明だ。

  ●火消しに躍起の大手銀行
  こうした商社の現状を銀行界はどう見ているか。伊藤忠のメーンとともに、日商岩井の並行メーンでもある第一勧業銀行筋は、商社向け債権について「法的処理にせよ私的処理にせよ、総合商社に手を付けるのは日本経済が黙示録的な場面を迎えることを意味する。そうならないように、景気回復に向けてみんなで頑張っているのだ」と、この問題には、経済再生にひたすら注力するしかないとの立場。

  日商岩井のメーンである三和銀行(8320)の関係者も、「要管理債権としての引き当てどころか、要注意債権に分類することすらとんでもない。何が何でも正常債権だ。そうしないと、総資産4兆800億円という巨大なストックに対してあっという間に信用収縮が起こる」と語る。

  市場関係者は、このリポートを童話の『裸の王様』にたとえ「王様は裸だ、とひとり本当のことを言った少年のようなものだ」と語る。

  しかし、王様が本当に裸なら、99年3月に公的資金という「お馬鹿さんには見えない素晴らしい洋服」を売りつけた詐欺師の仕立て屋は、「不良債権処理は大きな山を越えた」と表明している大手銀行と金融当局、ということになるのだが・・・。

■URL
・第一生命経済研究所
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/index.html

(小倉豊)
2000/12/15 09:33