軟調な展開が続いていた米店頭市場(ナスダック)総合指数が先週5日、グリーンスパンFRB(米連邦準備制度理事会)議長の利下げ示唆発言を受け史上最大の急騰を演じた。ダウ工業株30種平均も過去3番目の上げを記録。日米の株式市場ともにグリーンスパン発言を好感、FRBが重い腰を上げて利下げに動き、下落局面にやっとケリがつくと楽観している。しかし、国際金融市場の早耳筋たちには、同議長の発言が「ロシア危機の再来」と聞こえた。第2のロシアと見られているのは、深刻な金融危機に見舞われているトルコ。年末年始で資金がひっ迫している国際金融市場を揺るがす危険をはらんでいる、との声も出ている。
●政策転換のもうひとつの理由
「米国景気は急拡大期から持続可能な成長ペースに鈍化しつつある」
銀行家の会合で講演したグリーンスパン議長は、淡々とした口調で話し始めた。が、直ぐに市場関係者をあっと驚かせる発言が飛び出す。「景気への警戒感が強まり資産価値が低下すれば、家計や企業の支出が過剰に鈍化する恐れがある」と強調、19日のFOMC(連邦公開市場委員会)で金融政策運営スタンスが現在の『引き締め気味』から『中立』に転換される可能性を示唆したのである。
FRBが利下げ方向に舵を切るのは年明け以降とみられていただけに、同議長発言は予想外の好材料と、市場関係者は受け止めた。が、国際金融市場の早耳筋たちには、大手ヘッジファンドのLTCM(ロングターム・キャピタル・マネージメント)の破綻が引き金となった1998年の金融危機の再来が迫っていると聞こえた。
これにはわけがある。折しもトルコの金融危機が深刻化、「トルコに資金を入れていた大手米銀やヘッジファンドが、巨額の損失を被ったとの噂が根強くささやかれていた」(銀行系証券)からだ。
早耳筋たちは、議長発言に込められた、米金融当局が金融緩和に動かざるを得ない「もうひとつの事情」を嗅ぎ取ったのである。
●危機に瀕しているトルコ経済
トルコ危機は、経済・構造変革を標榜するエジェビット内閣が脆弱な金融システム改革に本格的に乗り出したことが引き金となった。同政権は過去の銀行の不正を暴くため、経営破綻した銀行を捜査。これをきっかけに約80の銀行のうち上位10行の優良銀行が、他の下位行への疑念を強めて資金融通を拒否、金融機関の資金繰りパニックが起こった。
今月4日には、銀行同士が資金をやりとりする金融市場で市場金利が何と1万%まで急上昇。同国にはIMF(国際通貨基金)の特別チームが入り、5日に100億ドルの緊急金融支援が決まった。また世界銀行も10億ドルの緊急資の実行を決定したが、10~30億ドルの資金が連日流出し続けている。
トルコの金融危機とグリーンスパン議長の発言を直接関連づける話題は、今のところ日本の金融市場ではほとんど聞かれない。が、兆候は出ており、「トルコ向けの融資残がある、みずほホールディングス(8305)の株価が不気味に下がり続けている」(別の銀行系証券)という。
●日本市場にも兆候が
実際、トルコ危機の深刻な状況が伝わった11月27日、みずほ株は69万9,000円まで売り込まれ、年初来安値を更新した。みずほは、内外の銀行とともに同国向け40億ドルの協調融資(シンジケート・ローン)を実行、その主幹事を務めていた。このうち同グループの融資残は「3~5億ドル規模に上る」(米系証券アナリスト)もようだ。
また、トルコが発行した円建て外債も計9本、3,650億円分が日本の機関投資家を中心に販売されている。この他にも、同国向け債権やデリバティブ(金融派生商品)が販売されていたのは確実で、先行き混乱に拍車がかかれば日本も無傷ではいられない。
5日のグリーンスパン議長の講演には、「現在の金融市場には2年前のような危機感はない」と、トルコを意識した文言も盛り込まれた。額面通りなら、トルコ危機に起因する国際金融市場の混乱は「既に回避された」と読める。
しかし、「12月初めになんとか資金を引き揚げることができたが、動きの鈍い米銀や邦銀の債権に焦げ付きが出る可能性がある」(米ヘッジファンド筋)との懸念は払拭払されていない。2年前、突然降って湧いたロシア危機が、世界中の資金の流れを止め、金融不安の真っ只中にいた日本の景気に冷水を浴びせたのは記憶に新しい。
トルコの混乱が完全に終息していない中、ゼネコンや流通、生保の経営不安を抱えたままの日本は、2年前と同じ環境に置かれているとも言える。今しばらくはトルコ情勢への注視が必要だ。
■URL
・米でヘッジファンド危機再来?~市場でうわさ駆ける
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/12/04/doc1244.htm
(相場英雄)
2000/12/11
09:59
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