株式を国債に転換できる「転換国債」の発行構想が自民党内で浮上している。需給を悪化させている持ち合い株の市場流出を防ぐ“切り札”として検討されているもので、金融機関が持ち合い解消のため売却した株式を買い支えるのが狙い。クロス取引の規制緩和で敗北を喫した自民党としては、この新型の国債で挽回を図りたいところだが、市場関係者の反応は「あまりにセンスが悪い」などと最悪。「株価対策の“指南役”を交代させたら」との声も漏れてくる。
●血税の投入も?
転換国債の仕組みは、まず、持ち合い解消の対象になる株式を集めてファンドを設定。国は、このファンドの時価総額と見合う額の国債を発行、金融機関からの株式買い取り資金に充てる。
一方、この国債にファンドの信託受益権証書や投資組合への出資証書に転換する権利を付けることにより、投資家はファンドのパフォーマンスが好調なら転換権を行使して値上がり益を享受できる。逆に、ファンドが値下がりすれば、国債のまま償還すれば元は取れることになる。注目されるのは、どの程度の規模のファンドが組成されるかだが、取りざたされているのは1~2兆円とされる。
以上が転換国債の仕組みだが、要するに国債とはいっても、金融機関が持ち合い解消のために売却を予定している株式の値下がりリスクを、国の財政が肩代わりするというスキームに過ぎない。買う側の投資家から見れば、値上がりによるキャピタルゲインを期待しつつ、国が投資元本を保証しているという格好。スキームが失敗に終われば、ツケは国民が税金で負担することになるのである。
●ルーツは5年前
このスキーム、一見新しいもののように見えるが、最初に浮上したのは、実はNTT(9432)株の人気低迷で市中売却が難しかった1995年まで遡る。NTTの株価が転換価格より値上がりすれば、投資家は利益を得ることができるというセールスポイントが強調され、一時実現の可能性を探る動きがあった。
フランスが国営企業の民営化を進める際に、国営銀行やルノーなどの株式を順調に市中消化するための手段として活用した国債がモデルになったとされているが、最大の問題点は、フランスの国営企業株が人気を集めていたのに対し、当時のNTT株は極めて人気薄だったこと。
NTT株への転換ができるからといって、わざわざこの転換国債に投資する物好きはいないとまで酷評され、さらには「通常の国債の信用まで傷つけかねず、長期金利の上昇を招く恐れもある」との警戒感が広がったため、結局実現しなかった。
今回のスキームは、5年前のものに比べると、まだましとされているが、株価が期待通りに上昇しない限り発行をロールオーバーしなくてはならない。そもそも、持ち合い解消のため優先的に売られている企業の株価は、そう簡単には上がらないと考えた方が無難。ゼネコン株をはじめ、キャピタルが毀損している上場企業が依然として多いことから、最近の株価は将来の減資のリスクを織り込んでいるともいわれる。転換国債を原資にして、株価を表面上買い支えても、「企業の根本的なリストラが進まない限り意味はない」とみるのが一般的だろう。
●スジ悪PKOの“指南役”は?
さらに今回のスキームも、通常の国債の信認を傷つけかねないと言う意味では、NTT株への転換国債と同じリスクを抱えている。格付け機関による国債の格下げが実施され、市中消化への懸念も高まっている現状では、長期金利の上昇懸念は、むしろ5年前よりも高くなっている。
また、政府が公的資金を使って余剰株式を吸収すると言う形式は、「換言すれば、公的資金を使って、株式投信の元本保証をするに等しい」(市場筋)ため、海外の市場からも一種の株価操作として非難を浴びる恐れが強い。機関投資家が株式や債券から転換国債に乗り換えることによって、資金の流れが歪むとの懸念も広がった。
市場に伝わったとたん、証券業界などから「あまりにも筋が悪い」と酷評されたことは前述した通り。こうした株価対策を自民党幹部に入れ知恵しているのは「外資系証券会社では」「いや、生半可な知識を持っている自民党代議士だ」といった憶測が流れている。
■URL
・クロス取引の規制緩和でPKO?~自民の株価対策に失笑再び
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/12/01/doc1233.htm
(舩橋桂馬・小倉豊)
2000/12/07
09:59
|