内外の証券会社間で、企業の財務内容や株価動向を分析するアナリスト、投資戦略を練るストラテジストなど、いわゆるリサーチ畑の人材獲得競争が激化している。優秀な人物を確保し、他社に先駆けて投資家の目を引くリポートを発行。これを呼び水に売買注文を増やしたいという証券会社の思惑に従来から変化はない。が、国内銀行系証券の業容拡大やインターネットを通じた個人投資家の参入急拡大を受け、リサーチ・リポートへの需要はうなぎ上りだ。急速な需要増の裏側では、拙速な獲得競争が加速している。
●幻の大型移籍
11月上旬、エレクトロニクス担当のある米系証券アナリストを巡り、「リサーチ部門強化を狙う国内銀行系証券が獲得に成功した」(欧州系証券アナリスト)との観測が広がる一幕があった。獲得に動いたとされるこの銀行系証券の関係者によれば「親銀行から出向した素人ばかりで、証券会社としての体裁が整っていない」のは周知の事実。うわさの俎上に上ったアナリストが常に人気ランキング上位に顔を出す“大物”で、欧州系証券から昨年引き抜かれたばかりだったことに加え、現在在籍する米系証券が近く合併を控えていることで「“大物”が再度移籍したがっている」との尾ひれも付いた。
うわさはこれにとどまらず、同氏とともに移籍してきた他のアナリスト、営業部隊の合計20人程度もセットで引き抜かれるとの憶測まで出る始末。結局、当該のアナリストが「根も葉もないうわさ」と否定し沈静化したが、同氏の元には機関投資家から問い合わせが殺到した。
●「手っ取り早く引き抜け」
欧米市場ではアナリストの引き抜きは日常茶飯事。東京市場でこうした観測が出てくること自体「欧米に近づいている証拠」(米系証券)とも言えるが、実態は「リサーチ人材の育成に余裕がなく、手っ取り早く引き抜いてしまえ」(銀行系証券幹部)との思惑が働いているのが実態だ。10年前、アナリスト資格を持つ関係者は1,000人前後だった。現在はこれが1万人程度に増えたとはいえ、「欧米に比べ、第一線で活躍できる能力を持つアナリストが極端に少なく、3分の1程度しかいない」(米系運用会社)ことが引き抜き合戦に拍車をかけている。
獲得競争に巻き込まれている当事者達も戦々恐々だ。貴重な人材を引き抜かれ、草刈場と化している国内証券系シンクタンクや外資系証券からは、「以前は移籍組が退社に向けた根回しを済ませるなど一定の約束事があったが、最近は部下を引き連れて突然退職するケースが目立つ」(シンクタンク幹部)、「家業を継ぐとうそをついてまで移籍した人物がいる」(米系証券幹部)などと恨み節が聞こえてくる。結局、引き抜きを受けた側は、即戦力の人材を他社に求めざるを得ないため、「仁義なき戦い」(同)が繰り広げられている訳だ。
●置き去りにされた「人材育成」
人材の獲得競争劇化とともに、機関投資家の間からは「アナリストの定着率が悪い証券会社への注文を減らしたい」との声が漏れ始めている。人の入れ替わりとともに、リポートの一貫性がなくなったといった物理的な問題が生じているほか、「有名な人物を獲得すれば、それだけで注文が増えると思っている証券会社の思惑がみえみえ」(別の米系運用会社)だからだ。ヘッドハンティングの活発化だけは欧米並みになったが、若手の人材を中長期的に育成、著名アナリストを育てるという企業が持つ社員教育という重要な要素は、日本市場では置き去りにされた格好だ。
直近の12月1日、米系証券の食品担当人気アナリストが他の外資に引き抜かれたほか、メディア上で活発に発言していた著名ストラテジスト2人もそれぞれ他社に移った。人材育成というテーマを置き去りにしたまま、今も水面下で複数の移籍・引き抜き話が進行している。
■URL
・ネットバブル扇動の反省どこに?
http://www.watch.impress.co.jp/finance/report/articles/economy/note/001113-1.htm
(相場英雄)
2000/12/06
10:34
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