FINANCE Watch
米でヘッジファンド危機再来?~市場でうわさ駆ける

  週末の日本の債券市場では国債が買い上げられ、長期金利が急低下したが、市場の一部に「米国の有力ヘッジファンドが経営危機に陥っている」とのうわさが駆け巡った。これは憶測に過ぎなかったようだが、それとは別に、米国で信頼性が高いとされている投資家向け政策リポートが、このうわさと足並みをそろえたように「12月の米公開市場委員会(FOMC)で緊急利下げが協議される」との情報を流している。日本の株・債券安だけでなく、南米、東欧、中東、アジアの資本市場が軒並み下げを演じる中、マネー経済の暴走が経済秩序を混乱させた1998年の危機を想起させる不気味な状況だ。

  ●震源地は、あのLTCM創設者
  経営危機のうわさの対象は、ジョン・メリウェザー氏のファンド。氏は、98年のロシア危機で破綻に瀕し、パニックを恐れた米連邦準備制度理事会(FRB)の異例の調停で救済されたロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の創設者だ。敗軍の将であるにもかかわらず、今夏、新たなファンド設立を宣言して世界を驚かせた、いわくつきの人物だけに、市場参加者は神経を尖らせた。

  結局、同ファンドが損失を被ったという確証は得られず、せいぜい、一部投資家からの契約解除要求で資金が必要になり、換金のために投資資産の一部をまとめて売却したというあたりが、真相に近いらしい。ただ、11月30日の日本のスワップ市場では、ドイツ銀行が大量の「固定金利受け・変動金利払い」取り引きを行った。

  これは、同行の顧客が、「先行き金利が下がると儲けが出る」という方向に投資ポジションをこぞって変更したことを意味している。中間決算で好業績が相次いだ「緩やかな景気回復」(政府、日銀)状況とは、逆の投資スタンスだ。このため、スワップ・レートは、1日で0.07%も低下し、それに引きずられて国債が買われ、新発10年物国債の利回りは0.05%低下して、8月のゼロ金利解除前の水準に逆戻りしている。

  ●安全資産へ乗換えの動き
  こうした「極端な先行き悲観相場」の震源は、国内には見当たらない。ただ、米市場では国債と、トリプルBクラスの低格付け債券の利回り格差(クレジット・スプレッド)は2.7%まで拡大。つまり、人々がリスクを嫌って安全資産に乗り換える方向に動いている。このレベルは、既にロシア危機当時と同水準。都銀筋によれば、「米国では通常、クレジット・スプレッドが1.7%を超えると、信用収縮の懸念が出るため利下げが検討課題になる」という。

  ただ、冒頭の政策リポートが流れるまで、市場にはFRBの早期利下げを予想する声はほとんどなかった。ナスダック総合指数が連日の年初来安値を更新していても、ダウ工業株30種平均は底堅く、「金融政策上の対策が必要とは考えられない」(都銀筋)からだ。さらには、欧州の主要株価指標も安定している。

  ●米の緊急利下げも?
  一方で、米欧の外を見渡すと、新興工業国の資本市場からは軒並み資金が逃避している。ある投資銀行関係者は、「近年は、高水準のナスダック株を裏付けに米国が日本などから余剰資金を集め、それを新興国市場に再投資することで世界の景気が支えられてきた。この動きが変調を来たし始めており、ハイリスクのマネーゲームの先端を走っていたヘッジファンドの運用に歪みが集中している可能性は否定できない」と語る。表向きのマクロ経済指標や企業ディスクロージャーからはうかがい知れないような、危機的状況がもしあるのなら、米国の利下げなど緊急措置の検討もありうることを示唆しているようだ。

■URL
・日銀
http://www.boj.or.jp/

(小倉豊)
2000/12/04 10:04