野村証券(8604)の氏家純一社長が自らの経営手腕に自信を深めている。総会屋への利益供与事件で酒巻英雄社長が引責辞任した後、国際畑の氏家氏が“急造社長”として登板してから3年半。2000年9月中間連結決算の経常利益は2,191億円に達し、バブル崩壊後の最高を記録した。
金融機関などの持ち合い解消や、日経平均株価の銘柄入れ替えなどが絶好の商機となり、野村の株式トレーディング部門は1,746億円を稼ぎ出して他を圧倒した。「日本の証券界では頭ひとつ、いやふたつ抜きん出ている」(トヨタ自動車幹部)など、産業界の寄せる信頼は絶大だ。
●公職復帰も
不祥事の続発に伴い、野村は「創業的出直し」(氏家社長)を迫られたが、底力を発揮して蘇った。今年7月に氏家社長が東証理事会議長に就任、“公職復帰”を果たすなど、「顔の見えないガリバー」の汚名返上にも力を入れ始めた。
東証が悲願とする夜間取引市場の開設に対し、野村は多数派工作を展開して事実上の“廃案”に追い込んだ。株式会社化を検討する東証の特別委員会では、氏家社長自らが委員長を務めながら、野村としては慎重姿勢を示すなど、「どうなっているんだ」(大蔵省関係者)と霞が関を慌てさせる。「大理事長」の異名を取った山口光秀・前東証理事長でさえ退任間際に、「最近の野村は本気で噛み付いてくる」と嘆いていたという。
果たして、ガリバーに死角はないのか。松井証券などオンライン証券各社は、野村にとっても無視できないほどのシェアを奪取した。一方、野村内部からは「国際畑や東大卒幹部を重用」「国内リテールの士気低下に歯止めが掛からない」などの批判が聞こえてくる。
●自信の投資銀が弱点?
死角があるとすれば、案外、氏家社長が最も自信のある投資銀行業務かもしれない。国内の新規公開引き受けでは圧倒的な強さを誇るが、海外では所詮2軍扱いだ。ネット取引がもたらした「価格革命」に伴い、ブローカー業務は収益の柱から消え、21世紀は投資銀行部門が証券会社の死命を制する。
チェース・マンハッタンが332億ドル(約3兆6,500億円)の巨費を投じてJPモルガンを買収するのは、証券界が抱く危機感の象徴だろう。一方、野村は今年9月、米ワッサースタイン・ペレラとの資本提携の解消を発表した。氏家社長の自信の表れなのか、それともガリバーは隘路に入ってしまうのだろうか。
■URL
・野村証券
http://www.nomura.co.jp/
・夜間市場開設を断念~東証、“守旧派”に敗れる
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/11/20/doc1086.htm
(兜太郎)
2000/11/27
10:22
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