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「日本の政治を読む」~森政権はレイムダック状態

  【今週の予定】
  ▼28日(火)セルゲーエフ・ロシア国防相来日(30日まで)
  ▼29日(水)議会開設110年記念式典
  ▼1日 (金)臨時国会会期末

  【政局の焦点】
  ●支持率10%割れで依然危機的状況
  政局は、内閣不信任案が否決されたにもかかわらず、自民党の野中広務幹事長が「不信任案否決は森喜朗首相の信任にあらず」を再三繰り返し、公明党の神崎武法代表も同様の警告をするという異常な状態が続いている。そんな中、26日発表されたフジテレビ世論調査によると、森内閣の支持率は7.8%(不支持率90%)と各種調査で初めて10%を割り込み、同政権が依然危機的状況にあることが明らかになった。東証平均株価の1万4000円台割れもささやかれており、森首相が果たしていつまで現職に止まれるのか極めて厳しい政権運営を迫られそうだ。

  ●完全なレイムダック状態
  内閣不信任案の否決で自民党森派では来年夏の参院選も、森首相で戦う準備を進めている。しかし、党内の大勢は「森首相では戦えない」で、3月の党大会に総裁選を前倒しし、新総裁を選ぶとの流れが強まっている。しかし、野中氏らの発言は、森首相に新たに失言やスキャンダルが起きればその時点で政権を見放すとの意味であり、仮にそういう事態が発生すれば3月を待たず、直ちに内閣総辞職の可能性もある。いずれにしても森政権は完全なレイムダック状態に陥ったと言える。

  ●ついに誕生した“野中首相”
  今回の加藤紘一元幹事長の“反乱”を鎮圧した最大の功労者は、何と言っても野中幹事長。森政権発足当初、「森・野中政権」と呼ばれたが、形勢は完全に逆転、現状では“野中首相”ともいうべき状態にある。森首相は今後、内閣改造・党人事を含め絶えず野中氏の顔色をうかがわざるを得なくなる。野中氏はかねてから故金丸信自民党副総裁的存在になることを目指していると言われてきたが、ついにこの野望を達成したと言えよう。

  ●痛かった古賀誠氏の離反
  加藤氏の反乱失敗の原因はいくつかあげられるが、最大のものは仲間への根回し不足。9日夜に政治評論家らに「決意」を漏らしたが、その時点で盟友の山崎拓元政調会長や加藤氏の側近議員には一切相談なし。さらに宮沢蔵相ら加藤派ベテラングループに事前の説明がなかったことが致命傷となった。特に同派で唯一、経世会(橋本派)と戦える古賀誠国対委員長を味方につけられなかった失敗は大きい。

  ●17日採決なら不信任可決も
  加藤氏がついに最後まで自民党を離党する気がなかったことも、戦いを中途半端にしてしまった。仮に、不信任案採決が17日に前倒しされ、加藤氏が自民党を離脱する気構えをみせていれば、党執行部による説得工作が間に合わなかっただけではなく、菅直人幹事長ら民主党グループが呼応した可能性が高い。

  ●首の皮一枚つながった加藤氏
  加藤氏が自らのホームページに約11万のアクセスがあったことなどを単純に「世論」と勘違いし、「我に勝機あり」と過信してしまったことも間違いだった。テレビ出演やインターネットによる露出で国民の支持を受けたと思い込んでしまった。

  ただ、新聞やテレビが口を極めて罵るほど加藤氏がダメになったかと言えばそうではなく、「首の皮一枚つながった」状態。自らの危険を顧みず何とか現在の閉塞感を打破しようとした心意気は評価されており、党から何の処分もされなかったことは、野中氏が“加藤カード”を温存した証拠だろう。参院選後、自民党が大敗し、政局が混乱に陥るようなことがあれば、加藤氏が何らかの形でもう一度浮上する可能性は否定できない。

  ●今後のキーマン小泉氏
  今回のクーデター劇で名を挙げたのは、野中氏を別とすれば、小泉純一郎氏だろう。森派会長として森首相を守ることに体を張り、全くぶれなかった。仮に、小泉氏が森派会長でなかったら、全く別の展開になっていたかも知れない。今後、同氏が河野洋平外相に代わって“ポスト森”の最有力候補となる可能性もある。その一方で、小泉氏が元々仲が悪い野中幹事長の「専横」に噛み付き、森、橋本両派の間で軋轢を生むことも考えれられる。いずれにしても、小泉氏が今後のキーマンの1人であることは間違いない。

  ●首相が外交で冒険する危険性
  不信任案を否決したにもかかわらず苦境が続く森首相が、一発大逆転を狙って日ロ、日朝両交渉など外交で勝負をかけてくる危険性がある。両交渉とも既に、日本政権の弱体化を見透かして本格交渉する姿勢を見せていないが、そういう時に無理して功を焦ると、国益を大きく損なう恐れがある。

  ●参院選狙いの共産党人事
  共産党は第22回党大会で、委員長に志位書記局長の昇格などの一連の人事を決定した。ソフトイメージ路線に転換、他の野党との連係を促進し、来夏の参院選、特に無党派層取込みを狙ったことは間違いない。志位氏の下で、懸案の党綱領改正や党名変更まで本当に踏み込むことができるのかどうかで、同党が大きく飛躍できるかどうかのターニングポイントになる。

  [政治アナリスト 北 光一]


2000/11/27 09:25