FINANCE Watch
「日本の政治を読む」~内閣不信任、20日過ぎに当面最大のヤマ場

  【今週の主な政治日程】
  ▼14日(火)衆参両院で財政演説に対する各党代表質問
  ▼15日(水)森首相がアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合
         に出席
         日ロ、日韓両首脳会談(ブルネイ)

  【今週の焦点・先週のポイント】
  ●不発なら加藤氏に政治生命の危機
  加藤紘一元幹事長の森首相に対する退陣要求は政界を震撼させた。しかし、同氏の発言があまりに唐突で、根回しも不足していたため、自民党内外に支持は広がっていない。20日過ぎとみられる野党の内閣不信任案提出が当面最大のヤマ場となる。しかし、加藤氏は今のところ、自民党離党の考えはないとしており、このまま支持が広がらない状況が続くようなら、同氏は政治生命の危機を迎える可能性がある。

  ●内閣改造、「私がやる」と断言
  加藤氏の発言は9日夜、政治部記者OBの評論家らの前で述べられたものだ。ホテルオークラで行われた当夜の出席者は、渡辺恒雄読売新聞社長のほか、早坂茂三(東京タイムス)、屋山太郎(時事)、三宅久之(毎日)、中村慶一郎(読売)の各氏。加藤氏は森政権が継続すれば日本が危機に陥ると訴えたうえで、内閣改造などの人事について聞かれ、「私がやる。幹事長は橋本派から」などと、首相就任に強い意欲を示した。さらに外交、科学技術、年金問題などの各分野にわたって「施政方針演説」ともいうべき自らの所信も明らかにしたという。

  ●中村慶一郎氏が首相に通報
  加藤氏の発言内容は、内閣参与を務める中村慶一郎氏から直ちに森首相らに通報された。YKKトリオの仲間でもある森派会長の小泉純一郎氏が10日朝、加藤氏に電話で発言の真意を質した結果、同氏は「本気だ。腹は固まっている」ことを確認。この話が瞬く間に政界を駆け巡り、大騒ぎとなった。

  ●盟友の山崎氏も事前に知らず
  これに対し、橋本派などの主流派はもちろんのこと、盟友の山崎拓氏や加藤氏側近の川崎二郎氏ら加藤派幹部らも事前に知らされていなかった。このため当惑した山崎氏は当初テレビインタビューで困惑した表情をみせながら慎重な意見を述べる一方、10日に福岡で会談した際、山崎氏は加藤氏に事前連絡なしなどの「突出」を強くなじったといわれる。また加藤派名誉会長の宮沢蔵相も12日、加藤氏に対し、「自重してもらいたい」と、不快感をあらわにした。

  ●加藤、山崎両派内にも戸惑い
  加藤派の中でも中堅・若手を中心に加藤氏の決断を高く評価し、行動を共にする意見がある一方、ベテラングループからは慎重な行動を求める声が上がっている。また同派若手や山崎派の中には、不信任案に同調した場合、党除名処分や選挙の際の公認をはずされることを恐れる意見も出ている。加藤氏は「同志には今後よく説明したい」としているが、事前の相談が全くなかっただけに、同派内が全く落ちこぼれなく一致結束して行動できるのかどうか不透明だ。

  また他派からは、「自民党の明日を創る会」のメンバーに同調する動きがあるものの、ごく一部にとどまっている。

  ●見通しを読み違えた加藤氏
  ではなぜ、内閣不信任案が実際に出されるまで、まだかなりの時間を要するこの時点で、加藤氏が“決起”したのか。まず第1に考えれるのは、日本の危機を強調したにもかかわらず、主流派がこれを無視しようとし、業を煮やした派内若手の主戦論に乗ったこと。第2に、加藤氏が自分の主張が直ちに党内や国民世論(特にマスコミ)の大きな支持を受けられると思い込んだことなどが挙げられる。同氏のいう「構造改革論」や「日本危機論」が正論ではあったとしても、時機を選ばないあまりに唐突な行動だったがゆえに多くの賛同を得られなかった。その意味では、政治家としての読みが甘かったと言わざるを得ない。

  ●ナベツネ氏が決断を絶賛
  ただ、世論調査にみられるように、森政権に対する支持が急速に下落していることも事実。9日夜の会合で政界に強い影響力を持つ渡辺恒雄氏が加藤氏の考えを絶賛したことや、政局のカギを握る創価学会の最高首脳が最近、加藤氏を高く評価していたことも、同氏の決断を促す一因となったようだ。しかし、各マスコミは今のところ加藤氏の行動を特に評価する動きはなく、当惑ないしは冷たい反応が多いようだ。

  ●「第3の候補」浮上か
  注目の今後については、なお加藤氏の発言や内閣支持率に関する世論調査結果などを待たなければならないが、このまま同氏への支持が広がらないようだと、派閥領袖としてというより、政治生命そのものが断たれかねないところまで追い込まれる可能性がある。また仮に森首相が近い将来退陣したとしても、主流派の中に加藤氏に対するこれだけ強いアレルギーができると、同氏が「ポスト森」の座を射止めることはかなり難しく、同氏以外の河野洋平外相や高村正彦元外相などの「第3の候補」が浮上してくる可能性が大きい。

 ●衆院解散、政界再編の可能性も
  また、民主党には仮に内閣不信任が可決した場合、加藤氏を首班候補に推す意見も出始めているが、他の野党は今のところ模様眺めの状況。加藤氏が離党してまで戦う覚悟を決めていない現状ではこれ以上の展開は読みにくいが、もし不信任が可決し、衆院解散・総選挙に突入する事態となれば、政界再編へと発展する可能性が出てくる。

  [政治アナリスト 北 光一]


2000/11/13 09:49