トピック
「フリーランス新法」開始 発注企業が守るべき義務とは?
2024年11月1日 08:00
近年、働き方の多様化にともない、フリーランスで働く人が増えてきました。同時に、フリーランスで働く人と事業者の間でトラブルも増えています。こうしたことから、政府は、フリーランスの保護を目的とした「フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス法)」を制定し、11月1日から施行することになりました。主に事業者側が守らなければならないルールが定められていますので、詳しく見ていきましょう。
これまで、フリーランスを保護する法律としては、「下請法」が存在しましたが、資本金1,000万円以下の法人は対象外であることから、小規模ビジネスを行なう事業者にとっては遵守する義務がありませんでした。また、フリーランスを守るための特別なルールも存在しませんでした。
このため、資本金1,000万円以下の法人からのフリーランスへの発注や、フリーランス同士での発注においては、報酬の未払いや減額、一方的な契約解除など、受注するフリーランス側が不利な状況にありました。
新たに施行されるフリーランス法は、資本金額ではなく、従業員の有無や業務委託期間などによって守るべき義務が明確になるため、発注側が小規模事業者だからといって無視することができなくなりました。これにより、企業に比べて弱い立場に置かれやすい、フリーランスを保護することが目的となっています。
フリーランスの定義は?
フリーランス法の目的は大きくわけて2つ。「フリーランスと発注事業者間の取引の適正化」と、「フリーランスの就業環境の整備」です。これにより、フリーランスが安心して働ける環境を整備することが目的になっています。
まず、この法律の対象となるフリーランスとはどういった人でしょうか。具体的には、「業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しないもの」と定められています。一般的な定義としては、従業員を使用している人でもフリーランスと呼ばれることはありますが、この法律では除外されています。
例えば、企業が宣伝用の写真撮影をフリーランスカメラマンに依頼した場合、このカメラマンが従業員を持たない人である場合は、フリーランス法の対象となります。従業員を使用しないという条件ですので、個人事業主だけでなく、一人社長の法人など、実質的にフリーランスとして活動しているという人も対象です。
なお、一般の人がフリーランスのカメラマンに仕事を依頼したり、カメラマンが自分で写真をネットで消費者や企業に販売した場合などは対象外となります。
事業者に課せられる7つの義務
フリーランス法では、主に7つの義務が定められています。これらはいずれもフリーランスを保護する目的で定められたものですが、事業者や業務委託期間などによって、適用される項目が異なってきます。まずは、7つの義務とはどのようなものかを確認しましょう。
(1) 書面などによる取引条件の明示
フリーランスに対して業務委託をした場合、直ちに書面またはメールやSNS等で取引条件を明示する義務です。これまでは口頭での報酬の約束などによりトラブルが起こることもありましたが、今後は口頭での約束はNGとなります。書面や電子メールなど証拠が残るもので行なう必要があり、どちらの方法を採用するかは事業者側が選ぶことができます。
記載する取引条件は下記の9つです。
- 給付の内容
- 報酬の額
- 支払期日
- 業務委託事業者・フリーランスの名称
- 業務委託をした日
- 給付を受領する日/役務の提供を受ける日
- 給付を受領する場所/役務の提供を受ける場所
- (検査をする場合)検査完了日
- (現金以外の方法で報酬を支払う場合)報酬の支払方法に関して必要な事項
(2) 報酬支払期日の設定・期日内の支払い
報酬の支払期日は発注した物品等を受け取った日から数えて60日以内のできる限り短い期間内で定め、一度決めた期日までに支払う必要があります。
ただし、元委託者から受けた業務を発注事業者がフリーランスに再委託をした場合、条件を満たせば、元委託業務の支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定めることができる【再委託の例外】もあります。
(3) 7つの禁止行為
フリーランスに対して1カ月以上の業務を委託した場合には、7つの行為が禁止されています。注文した成果物の受取拒否や返品、正統な理由のない報酬の減額などの行為が禁止されます。
一度決めた約束を理由も無く撤回する行為や、受け取った成果物の返品、不当な注文内容の変更・やり直しや、契約した業務以外の仕事を無償で行なわせる行為などは禁止です。
- 受領拒否(注文した物品または情報成果物の受領を拒むこと)
- 報酬の減額(あらかじめ定めた報酬を減額すること)
- 返品(受け取った物品を返品すること)
- 買いたたき(類似品等の価格または市価に比べて、著しく低い報酬を不当に定めること)
- 購入・利用強制(指定する物・役務を強制的に購入・利用させること)
- 不当な経済上の利益の提供要請(金銭、労務の提供等をさせること)
- 不当な給付内容の変更・やり直し(費用を負担せずに注文内容を変更し、または受領後にやり直しをさせること)
(4) 募集情報の的確表示
広告などによりフリーランスの募集を行なう場合、虚偽の表示や誤解を招く表示をすることが禁止されます。また、募集情報は正確かつ最新の内容に保つ必要があります。
(5) 育児介護等と業務の両立に対する配慮
フリーランスに対して6カ月以上の業務を委託している場合、フリーランスからの申出に応じて、フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるよう、必要な配慮を求められます。また、6カ月未満の業務を委託している場合も配慮するよう努めなければなりません。
配慮の例としては、「妊婦健診がある日について、打ち合わせの時間を調整したり、就業時間を短縮したりする」場合や、「育児や介護などのため、オンラインで業務を行なうことができるようにする」などです。
(6) ハラスメント対策に関する体制整備
ハラスメントによりフリーランスの就業環境が害されることがないよう、相談対応のための体制整備など、必要な措置を求められます。
体制整備などの必要な措置の例としては、「従業員に対してハラスメント防止のための研修を行なう」ことや、「ハラスメントに関する相談の担当者や相談対応制度を設けたり、外部の機関に相談への対応を委託する」「ハラスメントが発生した場合には、迅速かつ正確に事実関係を把握する」などの対応があげられます。
(7) 中途解除等の事前予告・理由開示
フリーランスに対して6カ月以上の業務を委託している場合で、その業務委託に関する契約を解除する場合や更新しない場合、少なくとも30日前までに、書面、FAX、電子メール等による方法でその予告をしなければなりません。
また、予告がされた日から契約が満了するまでの間に、フリーランスが解除の理由を請求した場合、同様の方法により速やかに開示する必要があります。
フリーランスとの契約期間などで適用項目が変わる
7つの義務については、フリーランスとの契約期間などにより、適用される項目が変わってきます。例えば、従業員を雇用していないフリーランス事業者が、他のフリーランスに仕事を依頼する場合は、義務項目(1)の内容のみで他の義務は免除になります。
しかし、従業員を使用している事業者で、フリーランスへの業務委託期間が1カ月未満の場合は、(1)(2)(4)(6)、1カ月以上、6カ月未満の場合は、(1)(2)(3)(4)(6)、6カ月以上の場合は、すべての義務項目が適用されます。長期の契約になるほど、遵守すべき義務が増えて行きます。資本金の額ではなく、従業員の有無で事業者を区別しているところが、従来の下請法と異なるところです。
これらに違反した発注事業者は、行政が調査を行ない、指導・助言や、必要な措置をとるための勧告が行なわれます。勧告に従わない場合には、命令・企業名公表が行なわれ、さらに命令に従わない場合は罰金が科されることになります。
また、トラブルに遭遇したフリーランスのための相談窓口「フリーランス・トラブル110番 ホームページ」も運営されており、仕事上のトラブルなどについて弁護士に無料で相談できます。