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電動キックボードは"駐輪場"に駐められる? 特定小型原付の駐車場問題
2023年11月9日 08:20
7月から登場した新しいモビリティーのカテゴリ「特定小型原動機付自転車」(特定小型原付)。自走可能な電動車両でありながら、16歳以上なら免許不要で乗ることができるモビリティーだが、自転車でもなく一般原付でもない特定小型原付は、いったいどこに駐車すればよいのだろうか。特定小型原付等の開発も行なうglafitにモビリティショーの会場で聞いてみた。
まずは、特定小型原付とはどのようなものか、おさらいしてみる。ここでは特定小型原付に対して、従来の原付は「一般原付」と呼称している。
特定小型原付は、電動で自走し、最高速度が時速20kmと一般原付よりも速度が抑えられたかわりに、16歳以上であれば運転免許不要で乗ることができる。主に電動キックボードが有名だが、車両の形状としては電動キックボードにかぎらず、長さ190cm以下、幅60cm以下であれば、自転車のような2輪や4輪の車両も可能だ。そのため、若い世代が通勤・通学に利用するだけでなく、高齢者が免許返納後に利用するモビリティとしても注目されている。
歩道走行を合法的に可能にする、歩道走行モードも搭載。歩道を走る際は歩道走行モードに切り替えることで、最高時速が6kmに自動的に制限される。これは電動車いすと同じ最高速度だ。また、歩道走行モード中は緑色のライトが点滅し、周囲に歩道走行モードであることを知らせる機能が搭載されている。
一般原付に準ずる装備としては、ウィンカー、ナンバープレートは必須で自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)への加入も必要。もちろん、任意保険にも入っておいたほうがいい。フロントのライトも原動機(モーター)の電源を入れると自動的に点灯する仕様(消灯できない)で、一般原付やバイクと同等になる。
一般原付と異なる点もある。サイドミラーは必須ではなく、ヘルメットが努力義務なのも一般原付ではなく自転車寄りのルールが適用されている。そもそも190×60cmというサイズは普通自転車のサイズでもある。
以上のことから、特定小型原付は、自転車と一般原付の両方の仕様が取り込まれたモビリティーであることがわかる。
ではどこに駐車する?
そこで疑問になるのが、駐車可能な駐車場の種類だ。一般原付は50cc以下であれば法的には自転車と同じ扱いで、自転車の駐輪場に駐めることができる。ただし、現実的には施設の駐車場管理者の判断に委ねられており、バイク用駐車場に駐めなければならないケースも多々あり、ケースバイケースとなる。
一般原付は免許が必要で自走もすることから、バイク扱いというケースも自然といえば自然といえるかもしれない。しかし、特定小型原付は、自走するものの免許が不要でバイクよりも自転車に近いサイズ感、その仕様も一般原付と自転車の中間にあるような存在だ。
実は、特定小型原付は法的には50cc以下の原付と同じ扱いになる。となると、駐輪場に駐めることができるのか、と思ってしまうが、そうではない。glafitによると、「現状では原則としてバイク用の駐車場に駐めることになります」とのことで、基本的に駐輪場は利用出来ないと考えたほうがいい。
法的には50cc以下の原付と同じ扱いだが、現状の道交法には特定小型原付が駐めることのできる駐車場について明言がされておらず、法的にグレーな状況にある。
ただし、glafitによれば、「法的には禁止ともされていません。そのため、50cc以下の一般原付と同様に施設管理者の判断次第で駐輪場に駐められるケースもでてくると思います」とのこと。とはいえ、場所によって駐輪の可否が変わるので、見知らぬ土地で気軽にコンビニ等に寄り道するのは難しいかもしれない。自治体によっても判断が異なり、電動キックボード等を公共の駐輪場に駐車することを許可している地域もあり、対応は地域でまちまちだ。
電動キックボードをシェアリングサービスで利用する場合は、貸し出しポートから返却ポートまでの移動に使うものだと考えれば、駐車場に困ることはあまりないかもしれない。ポートもコンビニなどに設置されている場合が多く、買い物もできる。しかし、途中で寄り道をしたい場合は少し不便だ。都市部では特にバイク用の駐車場は少なく、駐められない可能性も高い。また、路上に放置した場合は違法駐車として取り締まられるのは一般原付と同様だ。
電動キックボードの駐車は特に厳しい
モビリティショーでglafitは、シェアモビリティプラットフォーム「HELLO CYCLING」を運営するOpenStreetと共同開発した、特定小型原付仕様の電動サイクルを出展していた。自転車と同等のサイズ感で開発されたモビリティーで、2024年以降にHELLO CYCLINGでのシェアリングサービスが開始される。
この電動サイクルは、glafitは個人向けに市販車両としても販売する予定もあるという。個人が日常的に使う目的で購入するとなると、スーパーやコンビニなどへ気軽に駐車できなければ、使い勝手が悪い。そうしたことから、glafitも、販売開始時にはユーザーへの周知を徹底する必要があるという認識だ。
ただし、電動サイクルの場合は外観やサイズ感が自転車に近いというのがメリットになる可能性もある。
「今回展示した電動サイクルは、見た目もサイズ感も自転車に似ていることから、施設管理者が駐輪場への駐車を許可してもらえる可能性は高いのではないかと考えています」と、あくまで仮定の話だが、電動サイクルは社会受容性が比較的高いのではないかという見解だ。
しかし、電動キックボードは自転車と全く異なる構造で、電動サイクルほど受容性が高くなく、現状では駐車可能な場所を見つけるのが難しいという。そのため、同社としてはまず電動サイクルで特定小型原付の認知度を広めた上で、電動キックボードも受けれて貰えるような雰囲気を作っていく考えだ。
駐車インフラの進化で課題解決も
特定小型原付を自転車用駐輪場に駐車するには、物理的な課題もある。それは、スーパーマーケットの駐輪場などに設置されている「自転車ラック」だ。自転車のタイヤをレールに挟んで固定して駐輪する設備だが、特定小型原付はこれを利用することが難しい。
現状、そうした設備のない平地の駐輪スペースなら物理的には特定小型原付でも駐めることはできるが、自転車ラックに電動キックボードは固定できない。電動サイクルの場合も、「ディスクブレーキ」がレールに干渉してしまう場合があるため、同様に乗せることが難しい状況だ。自走が前提の電動モビリティでは、ブレーキに制動力の高いディスクブレーキを採用する例がほとんどで、今後も問題になる可能性が高い。施設側が特定小型原付の駐輪を許可したくても設備的に難しい。
ただし、特定小型原付の駐車場事情は、今後、抜本的に変化する可能性はあるという。
「自転車ラックを開発する駐輪場のインフラメーカーは、これまで特定小型原付のようなモビリティーの普及を想定していませんでした。これが昨年あたりから変わってきていて、電動キックボード等も想定したインフラを開発するメーカーが現われてきています。徐々に対応するインフラが普及していけば、今の状況は変わっていく可能性があります」とのこと。
将来的に、しっかりと電動キックボードを固定できるようなラックや、ディスクブレーキが着いた特定小型原付でも問題無く固定できる設備が増えてくれば、駐輪可能な場所も増え、問題が解決に向かうかもしれないという。
glafitは電動サイクルとは別に、1両で自転車と一般原付の切り替えが可能な「モビチェン」を搭載した電動モビリティ「GFR-02」を販売している。モビチェンは、ナンバープレートを表示しているときは、自走する「原付」、ナンバープレートを隠すと電源がオフになり、ペダルで漕ぐ「自転車」として乗れる車両だ。特定小型原付ではなく、「原付」か「自転車」に変化できる車両となるが、原付免許も必要になる。
モペットと異なるのは、モビチェンによって自転車モード時は法的にも自転車として扱われる点。このため、車道を原付として走行しながら、駐車時は自転車モードにすることで、自転車の駐輪場に合法的に駐車でき、自転車走行が可能な歩道の走行もできる、日本初の車両だ。
特定小型原付は、最高速度やモーターの出力など必要要件を満たせば、電動モペットでも登録は可能になる。モビチェンを搭載することで、電動モペットも原付・自転車両用にはできないのだろうか。
「こうした状況を想定してモビチェンを作ったわけではないのですが、結果として、特定小型原付に存在している課題をモビチェンはクリアできます。ただ、残念ながら特定小型原付にモビチェンを装備することは現状では認められていません」(glafit)
電動サイクルなど特定小型原付が市販されるようになると、駐車場問題は市場拡大の妨げになりかねない。特定小型原付に関する法律は施行されたばかりで、まだまだ必要な法整備が追いついていない状況だ。glafitは、インフラ側の対応による駐車スペースの普及状況もみながら、行政への働きかけも続けていく方針という。
現時点で特定小型原付の駐車場事情は芳しくないが、来年以降、状況が改善されることを期待したい。