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新著「生成AIの革新」はどのように生まれたのか 西田宗千佳
2023年9月8日 12:17
9月11日に新著を発売する。
タイトルなどの情報は以下の通りだ。
- タイトル:生成AIの革新 「新しい知」といかに向き合うか
- 出版元:NHK出版
- 形態:新書(紙版と同価格で同日に各電子書籍ストアより発売)
- 価格:本体930円+税(税込1023円)
- 発売日:9月11日
タイトルでお分かりのように生成AIに関する本だ。書店には同じようなタイトルの本がたくさんあり、「どう違うのか」知りたい人もいるだろう。
正直なところ、類書はごく一部を除き読んでない。他の本に影響されたくないからだ。だから「どう違うのか」を私からコメントすることはできない。
しかし、自分がどんなことを考えながら書いたのかは説明できる。
そこで今回は、どんな経緯でこの本が生まれることになり、なにを考えながら、どんな狙いで書いたのかを解説したい。これをお読みになった上で、できれば購入をご検討いただきたいが、仮にそうでなかったとしても、「今の生成AIにまつわる課題や考え方」は見えてくるのではないかと思っている。
自分らしく「取材して書いた本」を目指して
今回の書籍はNHK出版からの依頼によって執筆が決まった。いつ作業を始めたかを正確にお教えするのは避けるが、正直、そんなに前の話ではない。市場に「生成AIに関する本」の第一陣が出始めた頃……とイメージしていただければいいだろうか。
すなわち、そんなに執筆時間をかけられた訳ではない。そして(読んでいただければわかるが)ギリギリまで追記や修正を重ねたので、8月に入って判明した話も反映することができた。
書籍はもう少し落ち着いて書くものだと思っているのだが、どうも筆者のところに持ち込まれる企画は「ギリギリまで急ぐ」ことを求められるものが多い。それはいいことなのか悪いことなのか、ちょっと考えてしまうこともある。
まあとにかく
- 巷に出てくるであろう生成AIの本とどう違うものを書くか
- 筆者らしい内容を作るにはどうしたらいいか
- それをできるだけ効率的に書くにはどうしたらいいか
を考える必要があった、ということだ。
個人的なポリシーとして、内容に影響されないように「他の本」を読まないのは決めていた。「じゃあどう違いを出すんだ」というあたりはもう「よそはよそ、うちはうち」で行こうというところだろうか。要は「筆者らしい内容」を作れば差別化はできるだろう、と考えたわけだ。
では、筆者らしいところとはどこか?
それはおそらく「取材に基づく」というところかと思う。
筆者は海外のビッグテックを含め、多くのAI関連企業に直接取材している。世にあるすべての関係者を取材できているわけではないが、可能な範囲で話を聞けていると自負している。
現状でている生成AI関連本は、AIの専門家が書いたものと、ライター/ジャーナリストが書いたものに分けられる。後者については、(少々恐縮ながら)取材現場でお目にかかる機会があまりない方々の手によるものが多いように思う。
別に現場に行かないと本が書けないわけではない。ニュースや事実を分析して書かれる本にも、もちろん大きな価値はある。
だが、できるだけ多くの「コメント」から考察を積み重ねるのとは内容が変わってくるだろう。そこには価値があるはず、と筆者は考えている。だから可能な限り取材に行くのだ。
また、これはネットに流れる空気感から感じることだが、生成AIは急速に進化しているために「直近の変化」に偏った話題が多いようにも思う。テレビや新聞、一般的なネットニュースから生成AIに触れている人々がついてこられず、格差が大きくなっているのではないか。
もちろん、各社・各研究機関の大規模言語モデル(LLM)の進化と違いもとても重要だが、AIそのもの、生成AIの登場でなにが起きているのかを、多くの人が理解できるよう「真ん中」を説明し、より多くの人が「自分で考えられる」ようになることを目指した本が必要ではないか、と考えたわけだ。
というわけで、企画を持ち込まれてから考えたのは「生成AIの技術と現象を、リアルなコメントで大掴みにできる本」ということになった。
生成AIで「一部を書かせた」理由と「一部しか書かせなかった」理由
とはいえ、時間もない。自分もできるだけ楽はしたいと思っていた。
そこで考えたのは「生成AIと一緒に作る」ということだ。生成AIが書いてくれれば、私の作業がだいぶ楽になるはずだし、その制作過程をそのまま公開することで、「生成AIはどのように人々の作業を助けるのか」も示せると思ったのだ。
実際、本書の第三章の前半は、生成AIに書かせた内容を手直しした形で収録している。その経過は第三章後半で説明しているし、「付録」として、作業過程でOpenAI/マイクロソフト/Googleの生成AIに尋ねた返答やそこからの「更問い」など、制作過程の情報もすべて公開している。(紙版はウェブで、電子書籍版は書籍内での公開になる)
ただ、全部を生成AIで書くことはしなかった。
というか、筆者の狙い通りには書けなかったのだ。
理由は単純。筆者は「取材したことをベースに」本を書こうとしていた。だが生成AIの多くは、過去2年間に起きた新しい話を全部知っているわけでもない。出てきたと思ったら、その根拠は筆者の記事だったりもした。
おそらく、自分の考えをぶつけて考察するなら、生成AIでも書けるだろう。だが、自分が見たことを自分がまとめるなら、生成AIではなく「自分で」書かなければいけない。
本書の制作過程では、いろいろな形で生成AIを使っている。第三章のように実際に生成AIに草稿を書いてもらった部分もあるが、アイデアの「壁打ち」や調べ物には当然のように活用している。生成AIを当たり前の道具として書かれた本の1つにしたかった……という意図もあったからだ。
生成AIと人間の関係の本質は、「結局責任をとるのは人間だ」ということに尽きる。生成AIで作ろうが作るまいが、自分の名前で世に出すものの責任を取るのは「自分」だ。
拙著で述べたいのはそこに尽きる。
「生成AIなら簡単に」ではなく、「生成AIを責任ある形で使うには」ということを意識しながら(できれば購入の上)お読みいただければ……と考えている。