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7月から変わる電動キックボードの景色 LUUPは1万ポートを目指す

開発中のLUUP電動キックボード

2023年7月1日、改正道路交通法の改正により「電動キックボード」が新たな専用区分となる。これにより、「免許不要」で利用可能になるほか、一定の条件を満たせば歩道を走行できるようになるなど、大幅な変更が見込まれている。

電動キックボードと電動アシスト自転車のシェアサービス「LUUP」を運営するLuupは25日、7月の改正に向けて約45億円の資金調達を行なったことを明らかにした。約38億円の第三者割当増資と、約7億円の銀行借入・リースによるもので、この調達によりLuupの累計調達額は約91億円となる。既存投資家のほか、新規投資家として三井不動産のCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)である31venturesや三菱UFJ信託銀行なども参加している。

調達した資金は、改正道交法の施⾏に向けた安全対策の強化のほか、電動キックボードなどの機材の供給、将来への投資に活用していく。

法改正まで3カ月を切った今、資金調達の狙いや今後の事業展開をLuup代表取締役兼CEOの岡井大輝氏と、取締役CFOの向山哲史氏に聞いた。

7月から変わる「電動キックボード」

まず、7月1日の法改正により電動キックボードにおいて何が変わるのだろうか?

詳細は2月の記事を参照して欲しいが、これまで販売されていた電動キックボードは、「原付」扱いで、運転免許やヘルメットの着用、ナンバープレートなどが必要だった。

そしてLUUPなどのシェアリングサービスの事業者は、電動キックボードをレンタル提供するサービスを「実証実験」として提供し、原付とは異なる「小型特殊自転車」という独自の区分で電動キックボードを運用してきた。

同じ電動キックボードでも2つの異なる区分があり、交通ルールも異なっていた。また、シェアリングサービスはあくまで「実証実験」という扱いだった。7月から、電動キックボードが新たな「特定小型原動機付自転車」という区分に統一され、新たな法律のもとで“わかりにくさ”の解消が期待される。

新ルールでは、例えば、16歳以上であれば免許不要で利用できるようになる。さらに、シェアサービスでは特例制度で15km/hに制限されていた速度が20km/hまで高速化され、時速6km以下であれば歩道も走行できるようになる。ヘルメットの着用は“努力義務”だ。

Luup岡井氏によれば、「これまでは実証実験のため、『勤務中は乗れない』や『交通ルールが複雑すぎる』という声があった。また、速度も自転車より遅い15km/hで『自転車に抜かれる』という意見も多かった。今回の法律内に位置づけられたことで、自転車と同じような社会的地位を得る」という。

法改正により自転車にルールが近づきわかりやすくなるため、電動キックボードが身近なものになっていくはずだ。本格的なビジネス展開もスタートするため、「利用は急速に増えるだろう」と予測する。

Luup岡井大輝CEO

今回の資金調達は、新たなビジネス環境におけるLuup側の対応のため。その用途は主に「安全性の啓蒙」「機体などの供給」「将来投資」だ。

最も力を入れていくのは安全性の啓蒙だ。道交法の改正にあわせて、LUUPでは利用者の急増を見込んでいる。新たに電動キックボードやLUUPのサービスに触れる人が増えるだけでなく、交通ルールも変更されるため、そのルールをしっかり伝える事が重要となる。

LUUPアプリでは、テストに全問正解しないと乗車できないが、このテスト内容を法改正に合わせたものに刷新する。さらに、外国人もLUUPのサービスを使えるようになることから、多言語対応しながらもわかりやすいサービスにしていく必要がある。

こうした利用者周知に加え、車のドライバーや歩行者など、“使わない”町中の人にも、LUUPのサービスや新たなルールを知ってもらうための取り組みにも力を入れていくという。

そしてビジネスが本格化する上で重要になるのが「供給」だ。現在は東京や横浜など6エリアで3,000ポートを展開しているが、7月以降ユーザー数が急増すると、既存のポートでは賄えなくなる可能性がある。そのため、利用者増にあわせた供給体制を作りながら、ポートとエリアの拡大を図っていく。

現在、東京・大阪・京都・横浜・神戸・宇都宮でサービス展開中で、これらのエリアではポートの密度を上げていく方針。「全国的にはコンビニ3社の店舗数(5万強)よりも多く設置していきたい。実際渋谷区ではコンビニよりLUUPのポート数の方が多くなっている。この状況を日本中で再現していきたい」(岡井氏)とする。

現在のLUUP提供エリア

新たなエリアとしては、地方都市、観光地を含めて展開を予定しているという。こうした既存のエリアの拡充とエリア拡大に関わる機体のコストや人件費に資金を投じていく。

また、「中長期」的な取り組みとして、高齢者が乗りやすい新しい安全なモビリティや、より精度の高い位置情報取得のための研究開発や安全対策などにも力を入れていくという。

ポート数は'25年に1万に 展開エリアはどう変わる?

具体的な“次”のエリア展開は、現時点では未発表だが、LUUPの特徴として、町を「面でカバー」していく。ポート数を増やすだけでなく、特に都市圏では“密度”にこだわったエリア展開を行なっていくという。

現在、LUUPのポート数は6エリアで合計約3,000だが、「2025年には1万を超えていくようなイメージ(向山CFO)」という。

ポート数は3倍強だが、ライド数(乗車回数)や売上はそれ以上に大きく伸びると予想している。

現在のLUUPのサービスでも、同じ面積でポート数が100と300のエリアでは、300のほうがライド数は大きく上回るという。「すぐにポートが見つかるので、気軽に乗れる」という体験を生み出すことで、結果としてLUUPが選ばれる。密度が上がれば上がるほどLUUP以外を選ぶ動機が減り、LUUPユーザーの利便性も上がる環境を作っていく。

LUUPの強みとして、岡井氏が強調するのも、このポートの「密度」だ。

シェアサイクルでは、ドコモ・バイクシェアやOpenStreetなどの競合もあるが、LUUPとそれらの事業者と“使われ方”がかなり異なっているという。

LUUPの平均移動距離は1~2km、時間にすると7分程度だ。一方、他のシェアサイクル事業者の例では、平均4~5km、約37分と、利用実態が大きく違う。自転車はより長距離で利用される傾向があり、LUUPにおいても、電動アシスト自転車のほうがキックボードより移動距離が長く、長時間利用される傾向があるという。

シェアサイクル(自転車)のように、5km移動が前提となると、自転車のポートまで数分・数百メートルは移動してくれる。一方、LUUPが短い距離・時間で使われている要因がポートの密度で、そこにこだわった事業戦略を立てている。

「1km、7分の移動のために人々が使ってくれる時間は1分、半径で約80m」(岡井氏)。つまり、「乗りたい」と思った時に乗れる環境を作らないと、短距離では使ってもらえない。「短距離・短時間でも使われるサービス」を目指し、実現しているのがLUUPの強みという。

岡井氏は「超高密度、超短距離を狙いにいっている企業は他にはない。その点で棲み分けはできる」と語り、こうした高密度なポートのエリアを日本中に広げていくのが、LUUPの今後の戦略となる。

今回の資金調達では、街づくりに関わる事業者も新規に参加している。例えば、三井不動産(31ventures)は当初は京都を中心とした協業となるが、商業施設やマンション、オフィス、駐車場など、あらゆる街づくりに関わっていく。こうした連携により、LUUPのサービスを公共交通に近づけていく狙いだ。

第三者割当増資への参画投資家
既存投資家

ANRI
SMBCベンチャーキャピタル
Spiral Capital
ゼンリンフューチャーパートナーズ
千葉道場ファンド
三菱UFJキャピタル
森トラスト

新規投資家

31VENTURES Global Innovation Fund 2号
GMOインターネットグループ
i-nest capital
SMBC日興証券
グリーンコインベスト
千島⼟地
三菱UFJ信託銀⾏
他1社

また実証実験が終わる7月以降はエリア展開の考え方も変わってくるという。

これまでは、「実証実験」であったため、安全性や実用性の把握で「最速で大量のデータが取れる」ことを優先していた。都市エリアでの展開が多くなっているのは、こうした事情を考慮してのことだった。

今後は、ビジネスとしてのニーズが合えば、地域にあわせた展開が見込める。

例えば、地方の観光地でバスや鉄道がカバーできていない場所を補間するようなサービスとしてLUUPを展開するといった形。

また、観光地などで冬・春など季節に応じて需要が大きく変わるような場所にも、需要にあわせて「オーダーメイドでサービス展開できる」という。現時点でも、地方の自治体や観光協会からの問い合わせが非常に多く、「日本中あまねくやっていきたい」(岡井氏)。

また、訪日観光客の利用は難しかったが、今後は16歳以上であれば免許がなくてもテストにさえ通過すればLUUPを利用可能になる。そのためにアプリの多言語化なども進める。

今回の法改正では、シェアリングサービスだけでなく、「販売」される電動キックボードも「小型特殊自転車」区分となる。自転車でもない新たなモビリティとして、シェアサービス以外の市場が立ち上がることになる。こうした動きもLuupとしてはポジティブにとらえているという。

業界団体の「マイクロモビリティ推進協議会」においては、電動キックボードの販売業者も入っており、周知の面では協力していく。現時点では、新しいモビリティとしての電動キックボードの認知を高めていくことが最も重要という。

ただし販売型の場合、例えば「町中に電動キックボードを置けるスペースがない」「盗難されやすい」など、LUUPなどのシェアサービスとは異なる課題も生まれてくる。そうした点では、「LUUPのほうが良くない? となるのでは」(岡井氏)とする。LUUPとしての機体販売については「可能性としてはある」が、まずは安全向上や啓発、機材の供給を優先する方針だ。

一方で、利用者が増えることで事故の増加なども懸念され、電動キックボードシェアのトップ企業であるLUUPに対する目線も厳しくなると思われる。岡井氏は「最大限、あらゆる安全対策をがんばっていくしかない。自治体や警察と協力して、PR活動や安全啓発を行なうことで、世論全体に新しい交通ルールを理解していただけるように取り組む。その理解が進むと、社会として違反行為をしづらくなる。LUUPを利用していない人にも、自治体や警察と連携して、理解を得られるよう取り組みたい」とする。

まずは利用者増に対応。料金プランの刷新も

本格的なビジネス展開ということで、料金プランなども順次変更していく計画。また、外部サービスとの連携や、サブスクリプション、観光向けパックなどの導入も検討しているという。

現在のLUUPは、基本料金50円、時間料金1分15円というシンプルな料金プランのみ。5分利用時の料金は、50円+75円(15円×5分)で125円だ。これでも「ビジネスとしては成り立つ水準」としているが、「より多く使われるには『定期券』的な仕組みが必要ではないか」とも語る。ポートに機材さえあれば、より気軽に使えるようになるからだ。

また、空きが目立つエリアにキックボードを返却する場合は、利用料金を安くするなどの「ダイナミックプライシング」的な取り組みも検討しているという。

ただし、7月の法改正のタイミングでは、大きなプラン変更は行なわない予定。需要がどれだけ変化するか読めない部分があり、「まずは、安全性と供給をしっかりやっていく」方針だ。

臼田勤哉