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メタバース温泉の衝撃! シフトール「Pebble Feel」の斬新な体験
2023年3月22日 08:20
Shiftall(シフトール)が2月末に出荷を開始した新製品「Pebble Feel(ペブル フィール)」は、デジタルの仮想空間=メタバースの中で「温度」を感じるために開発された画期的なデバイスです。
メタバースの中だけでなく、リアルの世界でもパーソナル・エアコンとしてPebble Feelを存分に活用する方法を、シフトールの代表取締役CEOである岩佐琢磨氏に聞きました。
パナが開発し、シフトールが商品に
Pebble Feelはポケットサイズのウェアラブルデバイスです。パソコン用のマウスほどの小さな本体の中に、シフトールの協業開発のパートナーであるパナソニックが開発した高効率ペルチェ素子を内蔵しています。
ペルチェ素子に電圧をかけると吸熱(冷却)・発熱する効果を活かして、素子を組み込んだ本体背面のパネル部分をユーザーの首もとの肌に直接あてて冷感・温感をつくり出します。接触面の温度はデバイスを使用する環境によって変わりますが、室温25℃の場所であれば最低9℃/最大42℃が目安としています。
パナソニックが元もと持っていたペルチェ式冷却ユニットとその制御技術に、シフトールがソリューションを与えたことによりPebble Feelの商品化が実現しました。
「パーソナル・エアコンとしての使い道だけでなく、メタバースでの活用など新しい市場を開拓することに力を入れたい」と、岩佐氏はPebble Feelの展開に向けた意気込みを語っています。
専用ネックバンドも新たに開発
Pebble Feelは2022年の1月にシフトールの新商品として発表されていますが、その後発売までに約1年間を要しました。背景にある理由は、発表直後から2022年の夏にはパーソナル・エアコンとして発売するために準備を進めてきたものの、生産・設計上の理由によりスケジュールを見直す必要に迫られたからとのこと。
ならばということで、当時からPebble Feelの“もうひとつのソリューション”として予告されていた「メタバース/VR」の用途をしっかりと準備してから出そうということになり、シフトールはPebble Feelのソフトウェア開発に注力しました。
Pebble Feelを身に着けるための専用ネックバンドも新たに開発、同梱したうえで、23年春に満を持して発売を迎えた格好です。シフトールのオンラインストアの販売価格は本体とネックバンドがセットで19,900円です。
VRChatのメタバースプラットフォームから連携を開始
Pebble Feelはとてもシンプルなデバイスです。メタバースで使う際は主にWindows 10以降のパソコンにBluetooth Low Energyで接続して使います。
さらにゲーミングプラットフォームのSteamからデスクトップ用のPebble Feelアプリケーションをダウンロード、PCにインストールします。メタバースの中に没入して、ビジュアルも含むリアルな温度体験を満喫するのであればSteamVR対応のVRヘッドセットもあると良いです。
Pebble Feelが発売当初から連携するメタバースプラットフォームは「VRChat」です。SteamVRからVRChatを起動して、Pebble Feelに対応するワールドを訪問します。
パーソナル・エアコンとして活用する場合はBluetoothで接続したモバイルデバイスで温度調整などを操作します。Pebble Feelの専用アプリはiOS 14以降/iPadOS 14以降/Android 10以降の端末に対応します。
バッテリーを内蔵しなかった理由
Pebble Feelはバッテリーを内蔵していません。PCやVRヘッドセットからUSBで給電するか、またはモバイルバッテリーなどが電源として別途必要です。このような仕様にした理由は主に3つあるのだと岩佐氏が説いています。
「VRヘッドセットに、当社のワイヤレス・モーション・トラッキングデバイスのHaritoraX 1.1などを使ってメタバースを楽しんでいただくユーザーは、プレイの合間にいくつものデバイスを充電しなければなりません。充電が必要なデバイスがひとつでも減る方がユーザーにとってメリットが大きいと考えました。」(岩佐氏)
ほかにもPebble Feelをバッテリー非搭載のデバイスとした背景には、身に着ける際の負担を軽減するために「本体を軽くすること」と、不意のバッテリー切れにより温度が体感できなくなり、没入感が損なわれることを未然に回避する狙いもあったそうです。
なお、容量10,000mAhのモバイルバッテリーを電源とした場合、冷却モードのレベルを「中」に設定すると約14.1時間の連続稼働が可能です。加熱モードのレベル「中」では約21.1時間が目安です。
メタバース温泉を体験! 思わず汗をかいた
筆者もシフトールのオフィスでPebble Feelを体験しました。クリエイター・そうにゃん氏が制作したワールド「川床-night-」で冬の温泉に浸かって温まったり、川に飛び込んだりしながらメタバースの中で温度の変化が楽しめるワールドです。
「川床-night-」のワールド内にはPebble Feelが作動する「目に見えない温度タグ」が各所に配置されています。プレイヤーが温泉に入るとPebble Feelにより体が温まり、川に入るとひんやりとします。
メタバースの中での温度体験は想像よりもずっとリアルで楽しいものでした。「川床-night-」のワールド内のビジュアルが美しく作り込まれており、さらにVRヘッドセットのMeganeXの有機ELに映し出される映像は黒がビシッと引き締まり、見上げると満天の星空メタバース。
まるで本当に温泉に浸かっているような心地よさに筆者の脳が満たされてしまったのか、首もとや額にはうっすらと汗がにじむほど生々しい温度体験を楽しみました。
温泉と川を交互に移動してみました。川にダイブすると、Pebble Feelが即座にモードシフトして、首もとがひんやりとします。目に見える映像とのズレがほぼないので、ストレスなくメタバースの中に入り込めました。
本体に内蔵するファンは加熱モードの際にはほぼ回らないので、心穏やかにメタバース温泉が満喫できます。冷却モードの際にはファンの動作音がやや大きくなりますが、そもそも音声のモニタリング用に密閉型のイヤホンやヘッドホンを装着してしまえば気にならないレベルだと思います。
現在はゲーム開発エンジンのUnityによりメタバースのワールドをつくるクリエイターのため、シフトールが独自に開発したシェーダー(ソフトウェアによるプログラム)を組み込むことで温度体験が実現されます。Pebble Feelの仕様に準じて冷却モードは4段階、加熱モードは3段階から選べます。
岩佐氏は、現在シフトールが提供する開発ツールも、将来メタバースの中での温度体験が一般に広く受け入れられれば、あるいはVRChatなどのプラットフォームが温度設定のAPIをクリエイターに公開する方向で、よりシンプルに実装できるようになる可能性も示唆しています。
そうなれば、クリエイターはよりシンプルにパラメータ調整も含む温度体験を埋め込めるようになり、対応するワールドがさらに増える期待が増してきます。メタバース内での温度体験はエンターテインメントに限らず、ヒーリング効果を引き出すことにもつながりそうです。
ワークマンとのコラボが実現した「冷暖房服」
ポケットクーラーとしてのPebble Feelは用意されている機能がとてもシンプル。迷わない使い勝手には好感が持てます。
反面、静かな部屋でオフィスワークに集中したい場面では、やはり冷却モードのファンノイズが少し気になります。特に暑い日には一定時間を超えると、デバイスの温度に肌が慣れてしまい、冷たさを感じにくくなる場合もあります。そのような使用ケースを想定して、Pebble Feelには一定間隔で運転のONとOFFを切り替えて、持続的に冷たさを感じやすくする機能も搭載されています。
今年の2月下旬に、ワークウェアの人気ブランドであるワークマンが、シフトールと共同開発した新商品として、ペルチェ素子を装着する「冷暖房服」を発表しました。5月から1万台に限定したテスト販売が行なわれます。
Pebble Feelの開発によって培った技術を、初めてアパレルメーカーとのコラボレーションにより応用した商品は、今回のワークマンからの依頼を受けて開発されたそうです。
「パナソニックが開発した大型のペルチェ素子を搭載しています。シフトールがワークマンの要望に合わせて、本体のサイズや冷却効果などを調整しながら商品として完成させました。」(岩佐氏)
素子のサイズに合わせて大型でゆっくりと回るファンを搭載しているため、動作音はPebble Feelよりも静か。ただユニットのサイズが大きめなので、スーツやジャケットの下に着る使い方には向いていないかもしれません。
Pebble Feelと同じく、ユーザーの首もとにあてて冷感・温感を提供する使い方を想定していますが、現場作業に携わる方々がコンプレッションウェアのような作業着を着た上に装着することを想定して、レベル設定は設けず、リモコンボタンからCOOL/HOTをシンプルに切り換える仕様としています。電源にはウェアと一緒に販売される専用のモバイルバッテリーを使います。
メタバースの中の「新たな感覚」を探求する
シフトールが展開するメタバース系プロダクトのラインナップはPebble Feelが加わったことにより、ますます充実しました。
「VRヘッドセットのMeganeXや、モーショントラッキングデバイスのHaritoraXは比較的用途が明快です。既にあるマーケットを視野に入れて、競合となるメーカーとクオリティや価格の面などでシェア争いを繰り広げながら展開する商品です。マニアやクリエイターの方々を中心に、一定数の引き合いをいただける期待もあります。ところがメタバースの中で温度を感じるという、Pebble Feelの用途はとても実験的なので、どれぐらいの方々に受け入れてもらえるかが私たちにも未知数です。今後の反響が楽しみです」(岩佐氏)
Pebble Feelの発売後のスタートダッシュは好調とのこと。シフトールでは'23年の夏に向けて、Pebble Feelを本格展開するために様々な展開を用意しているそうです。夏に向けて勢いよく成長を遂げることができるのか、今後に注目したい新製品です。