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MagSafeってなに? 「Qi2」業界標準化とワイヤレス充電のススメ

スマートフォンなどで使われている非接触充電規格「Qi(チー)」の次期バージョン、「Qi2(チーツー)」がアップルの「MagSafe」をベースとすることが発表されました。対応製品は2023年の後半以降に登場する見込みです。

iPhoneユーザーにはおなじみのMagSafe……と言いたいところですが、MagSafe充電器を使っていないiPhoneユーザーも少なくないでしょう。そこで今回はMagSafe製品のヘビーユーザーである筆者が、Qi2のベースとなるMagSafeがどんなものなのかを解説します。

MagSafeって何?

「Qi」は業界団体のワイヤレスパワーコンソーシアムが策定しているワイヤレス充電の国際標準規格です。ちなみに「Qi」は中国語の「気」のピンイン表記で、「チー」と発音します。いまでは多くのスマホが非接触充電機能としてQiを採用します。

アップル純正のMagSafe充電器。内蔵コイルの位置合わせが不要なので、普通のQi充電器に比べてもコンパクト

一方の「MagSafe」は、アップル製デバイスに搭載される、磁石で貼り付く充電コネクタのブランド名称です。最初はMacBookの接触充電コネクタの名称として使われていましたが、iPhone 12以降のiPhoneが搭載する非接触充電機能の名称としても使われています。Qi2のベースとなるのは、この「iPhoneに採用されているMagSafe」です。

簡単に説明すると、iPhoneのMagSafeはQiの非接触充電機能と磁石を組み合わせたものです。ちなみにMagSafe対応iPhoneはQi充電器も使えるし、MagSafe充電器で普通のQi対応スマホが充電することも可能です。ただ磁石による貼り付き機能だけは、MagSafe対応機器同士でしか使えません。

Qiの非接触充電は、置くだけで充電されますが、充電する側とされる側が内蔵するコイルの軸線がピタリとそろわないと効率が落ちます。コイルの位置を合わせるために、充電器側に可動機構を搭載したり、複数のコイルを搭載することもあります。

MagSafeの場合、iPhoneをMagSafe充電器の上に置くと、磁石でピタっと貼り付きます。このとき、内蔵コイルがぴったりそろうので、非接触充電の効率も最大化できます。アイディアとしてはシンプルですが、非常に効率的で効果的な仕組みです。

iPhone側と充電器側の両方に磁石が入っていて、対応ジャケットケースにも磁石が入っています。そのため、貼り付く強さはけっこう強く、静止状態であればiPhoneの重量を支えることもできます。

ちなみにiPhoneだけでなく、AirPodsも最新モデルはMagSafeで充電できるようになっています。逆に昨年発売のiPhone SEは、Qiには対応するもののMagSafeには対応していません。Apple Watchも磁石と非接触充電を組み合わせていますが、独自規格でMagSafeとは互換性はありません。

MagSafe対応アクセサリ製品は、アップル自身も作っていますが、「サードパーティによって勝手に作られた製品」も多数存在しています。これらは、アップルの互換性認証を取得していないのですが、このおかげで対応製品の種類や用途は、けっこうバラエティに富んでいます。

MagSafeアクセサリにはどんな製品があるの?

MagSafeアクセサリ製品は、普通の充電器以外にもさまざまなものがあります。

アップル純正品のMagSafe充電器は、シンプルな平置きタイプで、普通のQi充電器に比べるとかなりコンパクトです。このほかにもアップル純正品ではMagSafe対応モバイルバッテリなども販売されています。

純正MagSafe充電器は「充電器の上に置く」というより「iPhoneの背面に貼り付ける」といったイメージ


モバイルバッテリ製品は、アップル純正だけでなくサードパーティも販売しています。たとえばAnkerはMagSafe対応モバイルバッテリをMagGoとしてシリーズ化していて、グリップ付きやスタンド付き、大容量版などをラインナップしています。

Anker 633 Magnetic Wireless Charger (MagGo)

車載用のMagSafe充電器もいろいろなメーカーが製品化しています。MagSafeはわりとガッシリiPhoneを固定するので、揺れる車内での利用には最適です。

サードパーティ製MagSafe充電器の場合、アップルの認証を受けてない製品が混在しています。そうした製品だと互換性の保証はないのですが、たいていの製品は普通に使えます。しかしアップルの認証を受け、「Made for MagSafe」の表示のある製品だけが、最大15Wで充電できます(それ以外は7.5Wまで)。

アップル純正のMagSafe充電器は装着すると設定画面からファームウェアバージョンなどを確認できる

充電機能のないMagSafe製品もあります。

MagSafeの磁石をiPhoneの固定のために使う製品です。フレキシブル三脚の「ゴリラポッド」はMagSafe対応製品をラインナップしてますし、Amazonで検索するとよく知らない中華ブランドのMagSafe三脚アダプタも多数販売されています。挟み込むタイプのスマホ三脚に比べると脱着しやすく便利です。

ゴリラポッドブランドの製品(左)とAmazonでよく見かけるUlanziブランドの製品(右)。いずれも充電機能を持たないMagSafe三脚アダプタだ

最新のmacOSでは近くにあるiPhoneのカメラをWebカメラ代わりにするという機能がありますが、それを使いやすくするためにiPhoneをMacBookやディスプレイ上面に固定するためのアダプタなんかも製品化されています。

あとはMagSafeで貼り付くスマホリングも製品化されています。これをつけたままだとMagSafe充電器が使えないので、いちいち外す必要がありますが、使いたいときだけ付けられるというのは、それはそれで便利だったりします。

AnkerのMagSafeスマホリング。ちなみにこのケースもMagSafe対応のもの(非対応ケースだと磁力が弱まる)

壁面などにiPhoneを固定するためのMagSafeステッカーというものもあります。たとえばキッチンの高い位置にこういったものを貼っておくと、料理中にiPhoneで動画を見たりスマホゲームの周回ができたりして地味に便利です。ちなみにAmazonで「MagSafe ステッカー」で検索すると、iPhoneを壁面などに固定するためのステッカーとiPhone以外のスマホをMagSafe対応にするステッカーの両方が検索されるので注意が必要でです。

エレコムのMagSafeステッカー。1,000円しないので買いそろえやすい

複合的な製品も登場しつつあります。ShiftCamというメーカーの「SnapGrip」という製品は、MagSafeでiPhoneに貼り付くカメラグリップですが、3,200mAhのバッテリを内蔵し、充電機能もあります。こうした小規模メーカーによるアイディア勝負の製品も面白い。

SnapGrip

MagSafeの実際の使い勝手は?

筆者はiPhoneユーザーで、以前からMagSafeをかなり使い込んでいて、市販のMagSafe充電器を改造して使っていたりします。そこまでしないでも、普通のMagSafe充電器を揃えるだけでも、ケーブル充電よりも便利で、ケーブルで充電する機会も、充電関連の失敗も激減します。

筆者は車載MagSafe充電スタンドをデスク上に吊っている。邪魔にならず操作しやすくすこぶる便利

たとえば自宅でのiPhoneの定位置にMagSafe充電スタンドを設置すれば、iPhoneを使っていないとき、定位置に置くだけで充電されるので、充電忘れもなく、外出時はバッテリ100%で家を出られます。

ただのQiスタンドだとコイルの位置が合わずに充電できないことがあったり、ケーブル充電だとスマホを使ったあとに充電すること自体を忘れがちですが、MagSafeならそういった失敗がありません。

筆者が愛用してるAnkerのモバイルバッテリ。出力は弱いが常時充電してるのであんまり問題ない

外出中の充電も、MagSafe対応のモバイルバッテリが便利です。ケーブル充電に比べると、ケーブルを挿す手間もケーブルを持ち運ぶ手間もなく、断線の心配もありません。MagSafeも移動中の衝撃で外れることがありますが、ただのQiに比べると格段に移動中でも使いやすいと思います。

最近の筆者はMagSafe対応のモバイルバッテリの裏にクリップを貼り付け、これをカバンのベルトなどに吊るして使っています。移動中はiPhoneをそこに貼り付けて常に充電するので、iPhoneの充電残量で困ることはほとんどなく、それでいてiPhoneを取り出しやすい。ただし走ったりすると落ちてしまうのでストラップは必須です。

iPhoneユーザーは「いまだにLightningなの? いつまで使うの?」と煽られがちですが、筆者に言わせると「いまだにケーブル充電なの? いつまで使うの?」となります。MagSafe、使いこなせばそれだけ便利なのです。そうした便利さが評価されてQi2として標準規格に採用されたのでしょう。

Qi2の標準規格化でどうなる?

MagSafeがQi2として標準規格化されると、iPhone以外でも、同様の仕組みを採用できるようになります。早ければ2023年後半から対応スマホが登場する予定です。

しかしあらゆるスマホがQi2を採用する、というような状況には、少なくともしばらくはならないでしょう。Qi2の実装にはコストもかかるし、スマホ内の貴重なスペースも使います。Qi2を積極的に採用するかどうかは、メーカーごとに判断が分かれそうで、最初の1年あたりだと、対応スマホは一部にとどまるでしょう。

一方でサードパーティは対応アクセサリを作りやすくなります。これまでのMagSafeだと、正式な対応製品を作るにはアップルの互換性認証を取得する必要がありましたが、Qi2の互換性確認だけならば、コストや手間は減るはずです。また、対応スマホが少しでも増えて市場が大きくなれば、サードパーティも参入しやすくなり、製品バリエーションは広がるでしょう。

こうしてQi2/MagSafe対応のアクセサリ製品が増えていけば、スマホメーカーにとってQi2を採用する意義が高まる。そうしてQi2/MagSafe対応スマホが増えれば、さらに対応アクセサリ製品が増える。今後は数年かけて、こうした正のフィードバックループが回ってQi2の普及が進んでいくでしょう。

Qi2が普及していけば、スマホ以外の機器でも充電手段として広まる可能性があります。デジカメやワイヤレスマイクなどのプロ向け機材はもちろん、歯ブラシやシェーバーなどの家庭用機器でも使われるかもしれません。筆者個人的にはテレビやゲーム機のコントローラー、玄関やクルマのスマートキーなんかも、微妙に置き場所に困るのでQi2対応して欲しいと思ったりします。

Qi2充電器がいろいろなところに設置されることも期待できます。たとえば最近のクルマはセンターコンソールのトレイなどにQi充電器を内蔵する車種も増えていますが、これがQi2になると、充電器の配置や使い勝手を改善できます。飛行機や新幹線の座席にQi2充電器が配置されることも考えられます。レストランにQiを設置する動きは、流行らずに収束しましたが、Qi2でまたそうした動きがあるかもしれません。

わざわざQi2だけを目当てにスマホやほかの機器を買い換える必要はないとは思いますが、来年以降はスマホの買い換えを検討するとき、候補にQi2対応スマホが入ることもあるでしょう。Qi2の普及度合いなどを見つつ、スマホ選びの材料の一つとなるかもしれません。

白根 雅彦