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スターリンクを設置した。速度は実用的も予想外の課題が……
2023年3月3日 08:20
通信衛星を使うインターネット接続サービス「STARLINK」(スターリンク)のアンテナ代金やサービス料金が、2023年に入って大きく値下げされました(アンテナ値下げは期間限定)。スターリンクは“もしもの時のバックアップ回線”として使えるのではないかと思っていたので、値下げを期に思い切って購入してみました。果たして本当に想定しているような使い方ができるのでしょうか。今回は設置・稼働編として、実際に設置して稼働させるところを見ていきたいと思います。
アンテナをフェンスマストで設置
まずはハードウェアの設置です。前回の準備編では、アンテナ、Wi-Fiルーター、ケーブルからなるスターリンクのキット一式に加えて、フェンスに取り付けるマスプロ製の「アンテナ用フェンスマスト BM60」と、こうしたマストの先端にアンテナを設置するためのスターリンク製「パイプ アダプター」を用意したことを紹介しました。
箱から出したアンテナは「収納モード」と呼ばれる、人の顔でいうアゴを引いたような状態になっています。この状態で、アンテナの正面が北を向くように設置します。ただし、アンテナには方向の自動調整機能が搭載されているので、BSアンテナのように厳密に向きを調整する必要はありません。
フェンスマストを設置、その先端にパイプアダプターを装着したら、いよいよアンテナの接続です。とはいっても、この段階ではアダプターの穴に差し込むだけ。アンテナの支柱部分には抜け落ちないように簡易的なロック機構があり、アダプターに差し込むとカチっと音がして固定されます。アンテナを差し込んだ際にアンテナが北を向くよう、アダプターはあらかじめ向きを調整してフェンスマストに固定しておきます。外す時はアンテナの支柱のボタンを押し込みながら引き抜きます。
スターリンクのアンテナとベースやパイプアダプターを接続する部分は、ケーブルをパイプの外に出すか、パイプの中を通すかを選べるようになっています。私の環境では、アンテナをいつでも自由にアクセスできる場所に設置することもあり、設置・撤去は簡単に行なえます。使わない期間はアンテナを外しておいたり、別の場所に持ち出して使ったりしてみたいと考えていたので、ケーブルはいつでも取り外して仕舞えるよう、手の込んだ敷設はせずパイプやアダプターの外側に出す形にしました。
アンテナに接続するケーブル(スターリンクケーブル)は1本だけで、標準付属のものでも約23m(75フィート)と、十分な長さがあります。別売オプションで倍の45.7m(150フィート)のケーブルもあります。全天候型のためそれなりに太くがっしりとしていて、ヤワな感じはありません。このスターリンクケーブルの反対側をWi-Fiルーターに接続すれば、アンテナの準備はほぼ完了です。
Wi-Fiルーターを設置
Wi-Fiルーターには電源ケーブル(1.8m)を接続します。この電源ケーブルのプラグは業務用機材のようなアース付き3ピンタイプなので、一般的な2ピンの家庭用コンセントで使う場合は変換アダプターが別途必要です。
ケーブルの経路を電源側からみると、「コンセント→アース付き3ピン電源ケーブル(1.8m)→Wi-Fiルーター→スターリンクケーブル(23m)→アンテナ」と、シンプルです。
仮に、アンテナを常設とする運用で、家の壁に穴を開けてケーブルを通す場合は、ケーブルのプラグパーツの直径も気になるところですが、スターリンクケーブルはアンテナ接続側のプラグが比較的細く、直径16mmとなっています。ちなみにこうした詳細なサイズや端子のピンアサインなどは製品仕様書が公開されているので、誰でも確認できます。私の場合は、災害時のバックアップ用と割り切ったコンセプトでの運用なので、ひとまず壁の穴を通すことはしていません。
なお、Wi-Fiの5GHz帯を屋外で使うのは(特別な仕様を満たしていない限り)問題になるので、5GHz帯をオフにする設定がない現在は、屋外で使わないように注意が必要です。
【記事修正】
屋外利用についての記述を削除、追記しました(4月10日)
電源投入、アンテナが自動でグルグル回る
アンテナにもWi-Fiルーターにもボタンの類は一切ありません。すべてのケーブルがつながり、電源ケーブルをコンセントに差し込むと電源がオンになり、システムの稼働が始まります。Wi-Fiルーターには底面に小さな白いインジケーターLEDが搭載されているものの、設置すると隠れてしまいます。それ以外にランプやスイッチはありません。必要な操作はすべてスマートフォンのスターリンクアプリで行ないます。
システムに電源が入ると、収納モードになっていたアンテナが、スーッと天頂方向(真上)を向き、グルグルと回転をはじめました。回転が停止してしばらく経った後、北を向くように回転し、空を見上げるアングルに角度が調整され、そこで動作が止まりました。このセットアップ動作はだいたい5分程度で完了するようです。アプリでは任意のタイミングで(通信できなくなる)収納モードにできますが、収納モードから復帰させた場合も、同じルーチンのようです。アンテナが起動してから15分程度で通信が安定するとされていますが、通信自体は起動ルーチンが終わる前からできるようです。
アプリでWi-Fiルーターを設定
Wi-Fiルーターに電源が入ると、スターリンクのアプリからWi-Fiネットワークのセットアップを行なえるようになります。アクセスポイントとして表示される名前(SSID)とパスワードを新たに設定すれば完了です。スマートフォンなどのWi-Fiデバイスから設定したSSIDに接続すれば、スターリンクのアンテナや衛星網を介してインターネットにつながることになります。
安定性はそこそこのようで、たまに切れていたりするので、スマートフォンなどのデバイス側で自動接続などのオプションをチェックしておくのがよさそうです。アプリには宅内のWi-Fiの電波受信状況をチェックできる機能もあり、Wi-Fiルーターの設置場所を改善するのに役立てることもできます。
アプリでアンテナの動作をチェック
スターリンクのアプリではアンテナについても状態を確認したり設定を変更したりできます。「障害物」の項目を選ぶと、アンテナの視界が半球状のドームで表示され、障害物の有無を確認できます。この障害物の表示はアンテナが実際に検知したもので、表示できるまで6時間かかります。私が設置した環境では、遮蔽物がほぼない理想的な視界が得られていることが分かりました。これは事前にアプリでスマートフォンのカメラを使って計測していた内容とほぼ同じだったので、アプリもかなり高い精度で下調べできていたことが確認できました。
アプリの「統計」の項目では、直近の通信状況が確認できます。アップタイム、遅延時間(ping)、スループットなどがリアルタイムに表示されています。アップタイムを見ると時々落ち込んでいますが、これは何らかの理由で発生した瞬断を表していて、「停止」というボタンから、過去のログと程度・理由を参照できます。
数秒の瞬断は、私の環境では1~2時間に1回ぐらいの頻度で発生することが多く(まったくない時間帯もあります)、衛星を切り替える際の検索など、理由はいくつか表示されています。
瞬断が軽微なものなら、Webサイトの閲覧やSNSの利用は常時通信しているわけではないので、あまり影響はありません。通話やオンラインゲームは瞬断の程度によっては影響が出ます。あまり神経質になる必要はなさそうですが、アンテナの視界に障害物が多いと、定期的に衛星を探しているという状態になり数分の通信断とかになるようです。
ログの表示はそうした通信品質の理由を知る手がかりになります。固定回線と違い、多数の低軌道衛星を次々に切り替えていくスターリンクシステムの挙動を垣間見れる部分です。
このほかにもアプリには、速度計測、積もった雪を熱で溶かす融雪機能のオン・オフ・自動設定や、電力を消費しないスリープ時間帯の設定、収納モードへの移行、などの機能が用意されています。
余談ですが、スターリンクのWi-Fiルーターに接続した後は、同一ネットワーク内のデバイスのWebブラウザに、ルーターのローカルアドレス「192.168.100.1」を入力することで、アプリとほぼ同じ機能の画面(英語版)にアクセスできます。アプリでなくてもWebブラウザなら管理は一応可能になっています。
アンテナの設定についてはアプリ上に一通り揃っていますが、Wi-Fiルーターのルーティング部分の機能については、設定できることはあまりなく、かなりシンプルです。ルーターの高度な機能が必要な場合は、別売オプションで用意されている有線LANケーブルのアダプターを追加して、別途自前で用意するルーターを接続して使うという形です。
通信速度は? MVNOの4G回線より優秀
通信速度は、障害物がない理想的な環境を前提としても、いくつかの条件が影響し速度に幅が出ます。私は、通信速度の面である程度優先される「レジデンシャル」プランで契約していたので、まずはこの状態で計測しています。
スターリンクのアプリ内にある速度計測機能を使うと、経路を分けて通信速度を計測できます。インターネットからアンテナ、Wi-Fiルーターまでの「スターリンクの速度」で、おおむね200Mbps以上、上りが10Mbps前後という速度でした。これは“上流”にあたるアンテナ側のパフォーマンスで、ローカルのWi-Fiの速度などは影響していない数値です。
Wi-Fiルーターからスマートフォンまでの経路の速度は、例えばWi-Fiの5GHz帯なら下りで500~600Mbps以上、上りも500Mbps以上が出ていますので、全体の通信速度を決定するボトルネックはスターリンク側ということになると思います。
低軌道とはいえ衛星と通信する関係上、雨雲など気象条件の影響は受けるようです。雨雲に覆われ、雨がしとしとと降り続いている時間にスターリンクのアプリで計測してみましたが、スターリンク側は下り160Mbpsなど、200Mbpsを切ることがほとんどでした。固定回線の代わりとして常用している場合は少し頼りなさを感じる速度ですが、スマートフォンでライブ動画を見る程度なら十分ですし、サブ回線やバックアップ回線としてなら十分といえそうです。
なお、上空のスターリンクの衛星が使う周波数帯により、天候耐性は変わります。現在投入されているスターリンクの衛星は比較的天候の影響を受ける周波数帯のようです。スターリンクは将来的に高度を変えた3層で展開される計画で、より天候(雨雲)の影響を受けにくい周波数帯の利用も計画されているとのことです。
上記はスターリンクのアプリで計測している速度ですが、広範に使われているスマートフォンの通信速度計測アプリ「Speedtest」でも複数回計測してみました。この場合、スターリンクは下り80~229Mbpsなど、上りは8~17Mbps、遅延は100ms前後といった速度でした。おしなべて、状況が良ければSpeedtestアプリでも下りは200Mbps前後、上りは安定して10Mbps前後が出ていました。
同じタイミングでMVNOの4G回線を使って計測すると、深夜では下り65Mbps前後、上り6Mbps前後、遅延は300ms前後などとなっていました。
一般に携帯電話のMVNO回線は混雑時に大きく速度が落ち、昼食の12時台、帰宅の17時~18時台などは、Speedtestアプリで計測すると下り5Mbps前後まで落ち込むことも珍しくありません。そうしたモバイル回線のピークタイムを避け条件の良い時間帯で比べても、スターリンクのほうが良い数値でした。
スターリンクの上りの速度は安定して10Mbps前後が出ています。試しにノートPCをスターリンクのWi-Fiルーターに接続し、Google Meetでビデオ会議をしてみました。
カメラはノートPC内蔵で特に高画質なものではなく、有線のイヤホンマイクを接続してのミニマル構成です。私を含め合計4人が参加しましたが、ノートPC内蔵のカメラが比較的低画素なためか、アップロードは1Mbpsを切るぐらいで済んでおり、問題なく会議ができました。
総合的にみて、私の環境では、スターリンクの下りの通信速度はMVNOの4G回線より優秀という結果でした。固定の光回線には及ばないとしても、スマートフォンのMVNO回線より快適という塩梅です。遅延が比較的少ないので、MVNO回線よりもキビキビと使える印象です。サブ回線やバックアップ回線として考えているので、普段のモバイル回線より快適なのは心強い結果といえそうです。
速度より問題? 「海外からのアクセスです」
スターリンクを稼働させてからしばらくの間、スマートフォンのWi-Fiは常にスターリンクを使うようにしていましたが、通信速度とは関係がない、いくつかの問題に出くわしました。
スターリンクの回線は“海外のプロバイダー”(ISP)という扱いになっているらしく、日本国内向けのコンテンツを見るアプリが使えないというものです。
例えば漫画の「ジャンプ+」やアニメの「dアニメストア」をはじめ、「ABEMA」「DAZN」「WOWOWオンデマンド」など、オンデマンドで閲覧するタイプのコンテンツはアプリの起動が完了しないか、起動してもコンテンツの閲覧はできない旨のエラー画面が出ます。dアニメストアはご丁寧に「海外からのアクセスです」と表示されました。エンタメ以外でも、モバイルSuicaやルンバ、マクドナルドのアプリも起動できませんでした。
逆に同種のアプリで使えたのは、YouTubeのアプリや、BOOK☆WALKERアプリの購入済みコンテンツの閲覧などです。ちなみにジャンプ+はWebブラウザでWebサイト版にアクセスすれば漫画を閲覧できました。
すべてのコンテンツアプリを試したわけではありませんが、これらの問題は、スターリンクの回線が海外のプロバイダーという判定になっていることからくる問題のようです。サービス事業者がコンテンツを利用できる国・地域を管理するのは基本的なことなので仕方がないといえます。
とはいえ、日本でスターリンクの回線を使うと日本国内に設置されている地上局につながりますし、日本からの利用を示すと思われるリモートホスト名も使われているので、サービス事業者側で対応することはできそうですが……。
【追記:2023年4月6日】
上記でコンテンツが正しく表示できなかった問題は、一部を除き解消されました。
データ通信量 今後ポリシーが変更される可能性も?
スターリンクは世界中で展開されているサービスで、利用の多い北米は先行してサービス内容の変更が行なわれています。Webサイトの説明はグローバルの最新の内容を元に日本語化されており、日本のユーザーに適用される内容なのか、分かりづらい部分が多いです。
例えば利用が増加している北米では「公正利用ポリシー」の適用が開始されています。これはモバイル回線のように月間で使用できるデータ通信量が「優先アクセス」として設定され、超過すると混雑時には速度が制限される場合があるというものです。7~23時をピークタイムとして、この時間帯に使った通信量が優先アクセスの消費量として計算される、という説明もあります。
スターリンクのアプリやWebサイトのマイページでも、ユーザーが使ったデータ通信量が日毎にカウントされ表示されています。7~23時のピークタイムとそれ以外を分けた表示もなされています。
しかし一方、2月末時点では、レジデンシャルプランについて、サポートページにて「この公正使用ポリシーは、現時点では、あなたの国での住宅サービスには適用されません。」と説明されています。日本で使うレジデンシャルプランは、こうした通信量のカウントは影響がないようです。ただ、今後ユーザーや通信量が増えれば導入されることは有り得そうです。
仕様としての通信速度・品質は?
そもそも、スターリンクの各サービスで想定している通信速度は、どのくらいなのでしょうか。これは仕様書として公開されています。
それによると、“期待される”速度は、「レジデンシャル」では下り20~100Mbps、上り5~15Mbps、「RV」では下り5~50Mbps、上り2~10Mbpsと案内されています。現時点の個人向けのレジデンシャルが、上位プランにあたる「ビジネス」と同じレベルの速度(40~220Mbps)が出ていることを考えると、混雑していないなどシステムに余裕があれば速度は上限近くまで出るということなのかもしれません。
また、RVについては「ベストエフォートサービス」であると説明されています。これはほかのスターリンクのユーザーよりも常に優先度が低く、混雑時には速度が低下する可能性が高いというものです。スターリンクのユーザーが多い地域、混雑する時間帯は不利といえますが、アンテナの設置場所は1カ所に限らず自由という特徴があります。
次回の掲載内容は応用編で、災害対策用バックアップ回線としての運用について試してみたいと思います。