トピック
ソニーホンダ新EV「アフィーラ」は成長する“スマホっぽい”クルマ
2023年1月6日 19:43
ソニー・ホンダモビリティは、新電気自動車(EV)の「AFEELA(アフィーラ)」のプロトタイプをCES2023において披露した。'25年中の発売に向けて開発を進めるAFFELAだが、ソニー・ホンダモビリティの川西泉社長兼COOへの単独インタビューでその狙いを紐解いていこう。
アフィーラのプロトタイプは、どのような考えで作られたのだろうか? また、今後ソニー・ホンダが目指す車はどのような世界になるのだろうか? 適宜解説を挟みつつ、彼らの考えを探ってみた。
なお、川西社長には、2022年11月にもインタビューしている。そちらと併せてお読みいただくと、さらに理解が深まるだろう。
アフィーラのデザインとは「スマホ」である
最初に気になったのは、アフィーラのデザイン決定にまつわる話だ。自動車としては相当に「シンプルな線」で構成されている印象を受けた。SNSなどでの反応を見ても、戸惑いを覚えている人もいるようだ。
デザイン決定の過程には、アフィーラやソニー・ホンダの存在意義にまつわるコンセプチュアルな考え方も影響したようだ。
川西社長(以下敬称略):デザインは結構悩んだんですよ。
プロトタイプなので、あれが最終的にそのままなのか、というのは決まってはいないです。ただまあ、あのタイプでいくとは思います。
2020年の段階で「Mobile to Mobility」というコンセプトを言わせていただいていますが、テクノロジー的な意味合いで、どういう方向性のスタイリングが求められているのかを考えていくと、やっぱり「スマートフォン」になるんです。
モバイルで考えると、過去のフィーチャーフォンのデザインって、ボタンがいっぱいついていて、テンキーがあって折りたたみで。いろんな造形があって、複雑だったじゃないですか。
でも、スマートフォンが出た時に、ものすごいシンプルになった。結局、SoCとディスプレイとバッテリー、この3つを基本とした構成になってくると、シンプルにならざるを得ない。
モバイルで起きたことがモビリティでも起きると考えると、キーのテクノロジーを主体として構成されるシンプルな形「シンプル&クリーン」というデザイン的な方向性に行くんじゃないかと。
そうなると、構成要素として差別化要因になるのはハイテクな部分の出来、すなわち「中身」です。
中身での差異化が重要になってきて、デザイン的にはやっぱりシンプルな方向にいくのかなと思うんです。エクステリア的に複雑な造形を追求するっていうことよりは、まあ極力シンプルな方向性に振りました。
これって普通の自動車メーカーではできないことなんです。
勇気がいるはずなんですよ。みんなデコレーティブですよね。ものすごく複雑な造形にし、難しいデザイン性の中で細かい差異化を狙っている。そういう方向性の中に自分たちが入ってくのではなくて、作業として「どこまでシンプルにできるのか」というデザインにしていく方が、まあ、自分たちの方向性からすると、マッチするんじゃないかな……という発想が、最終的な決めどころになっています。
ただ、エクステリアデザインとしてはシンプルにするけれど、自分たちのユニーク性はきちんとまあ出していきたい。
そこで「メディアバー」のようなディスプレイなどを搭載しています。
だからあれは、エクステリア・デザインの表現方法を変えている、ということなんです。
ボディーのスタイリングよりは、表現する方向を「ディスプレイ」にして、ディスプレイから発信する情報っていうのをみんなに見てもらいたい。そういう発想です。
メディアバーで車の外とインタラクション
「メディアバー」は、アフィーラを特徴付ける機能だ。いわゆるインジケーターだが、LEDを使った「ディスプレイ」であり、ロゴや天気、果てはスパイダーマンの映画告知まで、さまざまなものを表示できる。自動車としての「顔」の一部をディスプレイにしてしまったようなものだ。
自動車の一部をディスプレイにする、という発想は珍しいものではない。「未来を見据えたコンセプトカー」だと、多くの事例で採用されている。
とはいえ実際には、車全体やボンネット全体をディスプレイにしたような車種は世の中に出ていない。ライトが複雑にアニメーションする車もない。安全法規上の問題が解決しづらいこと、そこに表示するものは何がいいのか、答えがまだないことなどが理由だ。
だが川西社長は、「難しさはあれど、この形で製品を出したい。チャレンジしていきたい」と意気込む。
川西:例えば中国系のメーカーとかは、ディスプレイをつけるだけであればコンセプトモデルで過去にもやっているんですよね。でも、みんなコンセプトで終わって、現実にやっている人はいない。
僕らはそこをほんとに、現実的にやる(販売する車両に搭載する)チャレンジをしたいなと思っていいます。まだ課題はたくさんあるんですけど。僕らはニューカマーですから、チャレンジする価値があるんじゃないかなと思うんですよ。
問題は、そこに何を表示するかだ。そこではパートナーの力も活用する。ソニー・ホンダでは、コンテンツやサービスの部分で他社との協業を推進する。この辺も、スマホやPC、ゲーム機に近い感覚だと思うとわかりやすい。
川西:いろんな情報は出せると思うんですよね。「これがなきゃいけない」という決まりはない。ただ少なくとも、安全に寄与するための情報を出すことはできると思うんです。また、例えばサイネージみたいなこともできます。いろいろやりようはあると思うんですが、あんまりやりすぎると、弊害も出そうではあります。
そこについては自分たちのアイデアだけじゃなくて、他の人たち、いわゆるサービスプロバイダーみたいな人たちのアイデアを持ち寄りながらやってくと、新しい価値が出てくるんじゃないか、と期待しているんです。
今回のプロトタイプに搭載したのも、あのモデルを起点に、外部の人たちが色々考えてくれると嬉しいな、という狙いも込めています。
メディアバーは一種のディスプレイだが、アフィーラに搭載された多数のセンサーと連動させることもできる。
写真などでは確認しづらいが、「時々四角い白いものがふわっと動く要素がある」と川西社長は説明する。実はこれは、アフィーラのセンサーが周囲の人の動きを検知して、そのフィードバックとして表示しているものだという。
すなわち、メディアバーというディスプレイを介して、「車の外にいる人と、車自身やドライバーがインタラクションする」ことを想定しているわけだ。この辺が、冒頭に出てきた「エクステリアはシンプルだが、ディスプレイなどで表現をする」という部分の1つと言える。
川西:周囲に人がいて、その動き、例えば後ろを横断しているのがわかるとか、そういうのは全部できるのは最低限の話としてあります。今回のプロトタイプに入れている機能も「周りをこう検知しています」という意味合い。いろんな可能性を提示して、皆さんにも使い方を考えてもらいたいな、というところです。
現在のアフィーラには45個のカメラ/センサーが内蔵されている。センサーは「外部」に向いているものだけでなく、車内を検知するためにも使われている。
川西:センサーの数は現状で決定、というわけではないです。いわゆるADAS(先進運転支援システム)のためのセンシングと、インキャビンのモニタリング、両系統あります。
例えば、ドライバーと外側にいる人とのコミュニケーションっていうのも可能です。あまりいい例えではないですが、緊急な対応が必要な状況を外に伝えたり。
インキャビンのモニタリングは、ドライバーの不注意防止など、安全面での使い方もありますが、他にも用途は多いと思うんです。本来は、席に座っている人それぞれを別々にモニタリングすべきだと思いますし。表情読み取りなどで、いろいろなことができますよね。あとは、後部座席に残してきてしまったペットを検知したりとか。
「運転しなくてもいい世界」に必要な車内エンタメとは
アフィーラの発表で強調されたのは、「自動車の中でのエンターテインメントのあり方」の変革だ。
では、どう変革していくのか? 変わるとはどういうことなのだろうか?
川西:音楽聞いたりとか動画を見たりとかっていうのは、ある程度「お約束」として必須の機能です。そこにソニーが持っている技術を入れていくことは、当然やります。
ですが最終的に目指すのは「新しいエンターテイメントの可能性」「モビリティの中でのエンターテイメントの可能性」っていうのを考えていかなきゃいけないと思っているんですね。
つまり「運転しなくてもいい世界」が来た時に、どうやって時間を使うのかっていうのは、多分、今回自分たちに課せられたテーマなんです。
モビリティの中でのエンターテインメント性ってなんなんだろう……ということについては、まだ誰も正確な答えを持ってないと思うんですが、それを、ある程度自分たちがプラットホーム化する中で、色々な方々にご協力いただきながら考え、想像できるような形にしていければいいなと思っています。
そこでポイントになるのがEpic Gamesの存在だ。
川西:Epic Gamesとは一緒に、新しいことをいろいろ考えていきたいと思います。
実は公開した動画にもちょっとヒントが入っているんです。例えば、インキャビンでのARの活用だとか。その辺にも注目していただければ。
なお今回、ソニーグループ・代表執行役会長兼社長CEOの吉田憲一郎氏、ソニー株式会社・新規事業担当副社長の松本義典氏にも単独インタビューを行ない、AV Watchに記事掲載している。
両者へのEpic Gamesと自動車の関係、そして自動車とエンターテインメントとの関係については、別の角度から非常に関連性の高いコメントを得ているので、こちらも併読してほしい。
車載でも最新の「UE5」を!
ただ、川西社長はこうもいう。
川西:今は車の中のUIに3Dを使うことも増えたので、Unreal Engine・Epic Gamesが車の中に……というだけなら珍しくはないんですよね。
ではどう違うのか?
川西:ネットで向こうから降ってくる映像・音楽を楽しむだけでなく、その場の状況を含めて、要はリアルタイムに生成するエンターテインメントが主流になってきています。ならば、それを表現できるだけのリッチな表現力が必要。それだけの3Dを出せるような機能性は用意しておきたいので、Epicと協業しているわけですよね。
そこまで話して、川西社長は笑いながら次のように話す(編注:川西氏はPlayStaiton 3の開発を手掛けるなどゲーム事業に長く携わってきた)。
川西:でもですよ、今自動車で使えるグラフィックス性能は低すぎます。そもそも、Unreal Engineを使えると言ったって「4」(2020年までの主力バージョン)ですよ。そんなの僕らは我慢できないですよ。
「UEなら5だろ、今は」って(笑)
これには筆者も思わず「ですよね」と一緒に笑ってしまった。
ゲーム技術に詳しくない方向けに説明すると、Unreal Engineは2020年に大きく進化し、現在は「Unreal Engine 5」世代の採用が進み始めている。PlayStation 5世代で使われているのがこれで、グラフィックの表現力では大幅な違いがある。詳しくは以下の記事をご参照いただきたいが、ちょうど1年前に公開されたリアルタイムデモ「The Matrix Awakens」の動画を見るだけでも、その可能性の一端がお分かりいただけるかと思う。
川西:でも、今のスペックだとやっぱ車載用だと難しい。だからそういうところは、我々がもっと「加速」したいんです。
そこでは、既存のSoCを使う可能性もあるし、自分たちで多少のカスタムをする可能性も「否定はしない」(川西社長)という。ただし、「技術やニーズ的なトレンドが読みきれず、まだ判断が難しい」と話す。
Qualcommとの提携の意味は
今回、EV向けのプラットフォームパートナーとして、ソニー・ホンダはQualcommを選んだことが発表された。会見にはQualcommのクリスティアーノ・アモンCEOも登壇し、ソニーグループの吉田CEOとともにアピールを行なった。
Qualcommは自動車向けのアプローチを積極的に進めており、CES 2023の会場でも、自動車向けとして「Qualcomm」の名があちこちで見かけられた。
今回の提携について、川西社長は次のように説明する。
川西:基本的にはQualcommの考えている自動車向けプラットフォームであり、車載を構成する電気系統を彼らがある程度サポートしていく、というスタンスです。
ただ、Qualcommと色々話していくと、我々と考え方が近いところはあるな、と思います。
それに、モバイルからの長い付き合いでもありますしね。
さらに言えば、SoCは単なるパフォーマンスの追求だけではなくて、消費電力の問題がずっと付きまといます。EVはさらにです。
消費電力に対する考え方を1番今持っているSoCベンダーは、Qualcommだと思うんですよ。あれだけモバイル向けのSoCを設計してきたわけですから。
我々の車もそうですが、ディスプレイもSoCも含め、どんどん消費電力が馬鹿にならなくなってきています。そこを見るだけでも、モバイルと同じじゃないですか。そう考えれば、彼らの優意性はあると思います。
「ITの速度とズレる」ジレンマをどうするのか
ここで重要な点は2つある。
一つ目は、自動車を作る上での構造・コストの考え方だ。まず自動車は「走る」ことが優先。そこを保守的に考えた上で、コストから逆算すると車内エンターテインメントなどに割ける部分はどうしても「付加価値」的になり、プライオリティが下がる。
しかし、ソニー・ホンダが作ろうとしている世界はそうではない。走る・止まるといった基本と、ユーザー体験の部分が同じように重視される世界になる。
二つ目は、自動車の開発・製品寿命と、IT関連デバイスのサイクルのミスマッチだ。これは家電を含め、多くの部分で必ず問題になる。長いスパンの部分と、回転の速いITの部分とで価値のミスマッチが広がっていく。先進的と言われるテスラですら、ここは例外ではない。十分にEVとして価値がある初期のテスラであっても、世代によっては内部のIT系が古くなり、全てをアップデートしきれないものも出てきている。
このジレンマを保守的に見ると、「ならば、ソフトで変わるIT的な部分は控えめに……」という発想につながるのもわからない話ではない。
だが、ソニー・ホンダが「IT的な価値観」を最大化するなら、このジレンマには正面から立ち向かわなければいけない。この点について、川西氏は順に次のように考えを示した。
川西:ミドルレンジでいくらやっていても、イノベーションは起きません。進化はやっぱり、ハイエンド・フラッグシップの部分で起きるものなので。だから僕らは「ハイエンド」から始めるんです。
スマートフォンでもそうですけれど、ハイエンドに必要な要件の開発は、SoCベンダーと我々が一緒になってやっています。その辺はEVでも同じかと思いますね。
自動車とITの開発スピードの違いについては、「過去の自動車での基準がどこまで正しいのか」を見直す時期には来ているのかな、と思います。
これまでの習慣的なプロセスもあって、そこに乗って評価期間などを決めてきたところがあります。そうすると半導体はどうしても出てくるまで5年かかる。
でも、スマホは毎年作っているわけですよね。モバイルと同じにするとは言いませんけれど、プラスある一定の評価期間を足せば、もう少し加速できるはずなんです。
ただどちらにしろ、車載用半導体の品質のレベルをどこに持っていくのがいいのか、ということは、これからの大きな課題ですし、ある程度収斂されていくと、もっと速く作れるようになると思います。
中国メーカーはそうしていますからね。
ただ問題は、「そのやり方で大丈夫か」ということを誰も断言できないことです。ここがジレンマなんですけれど。
ですから、既存の自動車を長年やってきた人たちの知見は絶対必要です。つまり、ITのノリでやりすぎちゃうと、やっぱ危険な車になると思うんですよ。
そこをある程度担保できるような安全性を持っている人たちと組みながら、アクセルも踏み、同時にブレーキも踏み……。そのプロセスをどうするかが難しいところで、まだ過渡期ではあります。
この部分がまさに、ソニーとホンダが組んだ理由そのものとも言える。
川西:ホンダから感じるのは「量産の重み」ですね。
自動車を数台作るだけなら、そんなに大した話じゃないんです。VISION-Sを作れたわけですし。ですが、何万台というオーダーになった時の工場の設備やインフラのこと考えると、やっぱり量産はすごくハードルが高い。
特に車の場合には、長い期間、ずっと継続しなきゃいけない。そこについて、これまでホンダが積み上げてきた知見は素晴らしく、本当にリスペクトしています。やはり経験が浅いと、いろいろなところでトラブルを起こしてしまうものですから。
徹底的に「ソフトでカスタマイズできる、スマホっぽい車」へ
車内エンターテインメントやIT機器としての価値を重視するアフィーラだが、どういう人々をターゲットにしようとしているのだろうか。
「ユーザー層を限定するつもりはあまりない」としつつも、ある共通項はある、と川西社長は指摘する。
川西:「モビリティに対して積極的に関与したい」と思っている人に乗ってもらいたいです。
要は、なにかいじってもらいたい、というか。「パーソナライズ可能」という言い方をしていますけど、それって「自分でなにかしたい」ということですよね。もちろん、「自動運転で連れて行ってほしい」というのも1つの利便性としてあった方がいいと思うんですけども。
スマホって、みんな使い方は違いますし、入れているアプリも人それぞれですよね。
車もそうあるべきです。運転の仕方もみんな違うし、自分の空間の作り方も違う。
そういう「マイモビリティ」みたいなものを作れるような環境にしたい。ユーザーにもそういう関係を解放するようなことができるといいなと思います。
そこで思いつくのは、速度計などのコントロールパネルのカスタマイズだ。それは動画などでも実装例が提示されていて「当然のようにやる」(川西社長)という。
川西:単にデザインを変えるだけじゃなく、表示のモジュールを入れ替えるとかもやりたいですよね。
ただ、それを「安全性を担保しながら」やらなきゃいけないので、ハードルは高いんですよ。でもそういうところに、自分たちのユニーク性を出していきたいと思います。
買ってからクルーズのスタイルだとかも変えられるようにしたいんですよね。
極論すると、自分でソフトを書いてそれを車の中で動かす……というところまで。まあ、それは本当に極論すぎて、今「やります」「できます」という段階じゃないですから、間違わないでいただきたいですが。
でも、スマホだって、自分でアプリを作りたい人は作れるわけじゃないですか。
ここは本当に極論、というか冗談混じりの部分なので、「ソフトを自分で書けるEV」だと思ってほしくはない。きっとそうはならないだろう。
だが、カスタマイズの究極は、たしかにそこまで行ってしまう。そこまで行かずとも、安全性を重視した上で「自分だけのアフィーラ」を作っていくことが1つの狙いになる。
その中で当然のように出てくるのが、「乗り味」「走り味」の変化だ。ソフトウエアで車がコントロールされているならば、ソフト側のチューニングで、別の車のような「乗り味」へとカスタマイズすることは十分に可能になる。
川西:ドライビングの楽しみを増やすアプリケーション的なものは、結構用意できるんじゃないかなと思います。サーキットに来たらならそこに合わせて……ということはできるでしょうし、「もっとエコな走り方を」とか、ロングドライブ向けに、というニーズもあるかと思います。細かく自分が設定を変えられるようにしてもいい。
本当に「ソフトで変わる車」を作るには
自動車のカスタムは1つの楽しみだ。だが、アフィーラはそれとは全く違った意味で、「ソフトウエアで規定される(ソフトウエア・ディファインド)車」として、カスタマイズ性の高いものを目指すことになる。
では、それをどこまでやるのか?
川西社長は「ここでパッと思いつくレベルではないところまでいきたい」と話す。
別の言い方をすれば、「アフィーラが発売された時には全体の可能性が見えていない」「成長の可能性がかなりある」ものにしたい、ということなのだろう。
それは別の言い方をすれば、PlayStationが発売後、システムソフトウエアとその上で動くゲーム、両方の進化によって数年でさらに価値を高めたのと同じことでもあり、今のスマホで当たり前に起きている「ソフトとサービスでの進化」そのものでもある。まさに「ソフトウエア・ディファインド」の世界である。
ただ、そのためには困難もつきまとう。前述のように、自動車の開発・商品寿命サイクルと、ITのサイクルは大きく異なるからだ。
川西:重要なのは成長の可能性をどれだけ残しておけるかです。従来の自動車は、未知な部分を「わからないからやらない」と決めて作ってきたと思うんです。
でも、そこで「わからないなりの可能性」をどれだけ自分たちが提供できるのか、ということがチャレンジでありプレッシャーでもあります。
この点については以前川西社長にインタビューした時に、「PlayStationではまさにそれをずっとやってきた」と説明されたことがある。
ゲーム機であろうがなんであろうが、どんな製品でも「能力が踊り場を迎える」時が来る。それが早く訪れないように、できる限り踊り場になるまでの期間を長くできるよう、アーキテクチャを定義しておくことが重要になってくる。
川西:ソフトウエア・ディファインドとはいうものの、やはり「ハードをどう使っていくのか」が大事です。ハードウェアの能力はいつかサチって(使いこなしの限界が)きます。PlayStationもそうでしたが、サチるポイントと切り替えるポイントがいつ交差するのかを予測するのが結構重要です。
できるだけサチるまでの時間を遅くしたいわけですけど、そこではやっぱり、メモリの容量とサイズとか、そういうとこまで含めているハードウェアの構成なんです。ハードの構成までちゃんと考えてやんなきゃダメだってのはそういうことです。
でも、やっぱり限界ありますよ。
ではその時にどうするのか?
これは「そうしますよ」という話じゃないので、ちょっと刺激が強いかもですが……。
やっぱり車内でブレードサーバーみたいな構成にして、ハードを追加できるとか、交換できるとかっていう方向性に持っていくのがいいのかなあ、とも思います。
それが可能だったら、ユーザーに入れ替えを自分でやってもらったっていいですしね。サブスクで提供、とかもありうる話なので。
強調しておきますけど、「ブレードで交換にします」「交換ができます」という話ではないですよ?
そうするための課題をクリアーできるかは、断言できません。
しかし、そうやって、タイミングであるとか、ユーザーへのベネフィットであるとか、そういう部分を「今までの自動車とは違う考え方でやっていく可能性」もある、ということなんです。
「ソフトで変わる自動車」を作るということは、非常に難しいことだ。テスラのような先行例であっても、現行の自動車メーカーであっても苦労している部分だ。
少なくともソニー・ホンダは、その課題に「本気で取り組む」つもりでいて、それを今後出てくる「アフィーラ」というブランドで体現していきたい……と考えているのだ。