トピック
保育園は入りやすくなったのか 2023年「保活」動向
2022年11月30日 08:20
子供を保育園に入れるために保護者が行なう「保活」。年々子供の人口減少や保育園の増加とともに待機児童は減ってきていますが、まだまだ厳しい保活を強いられる自治体も多くあります。
例年、4月の一斉入園のタイミングが、子供が最も保育園に入りやすい時期となります。申し込みは前年の11~12月に始まる自治体が多く、申し込む園を決めるために情報収集したり実際に園に見学に行ったりと、まさに今が保活のピーク。
入園申し込みは方法や書類の書き方が複雑なため、毎年制度などが細かく改善されています。また、保育園の増加などでその都度状況が変わるので、毎年少しずつ傾向が変わっているようです。
最新の保育園状況について、さまざまな自治体で保活講座を開催している保活ライターの飯田陽子さんに解説してもらいました(編集部)。
2023年度保活のトピック
保活ライターの飯田陽子です。何度読んでも頭に入ってこない保育園の入園案内を分かりやすく読み解き、保活の仕組みやポイントを楽しく学ぶ「保活講座」を、2015年からやっています。
2022年度は東京23区だけでなく、さいたま市や柏市、流山市、つくば市やつくばみらい市など「激戦区」といわれる地域でも多くの保活セミナーを開催しました。
今回は、きたる2023年度(令和5年度)4月入園の保活の傾向をご紹介したいと思います。保育園の入園制度は、時代に合わせて毎年少しずつ変化しています。2023年4月入園に向けて、今年も各地で変化がありました。2022~2023年の大きなトピックは以下の4つ。
- 電子申請への移行はじまる
- 在宅勤務・フルリモートに対応した制度変更が続々
- 激戦区が都心→近郊へ移行
- 人気園とそうでない園が二極化する傾向に
電子申請はスタンダードになるか
最新トピックとしてまず挙げられるのが、保育園の申込みで電子申請に対応する自治体がでてきたこと。コロナ禍以降、保育園の申込みの方法は年々変化していますが、基本的には以下の3つに分けられます。
1.原則窓口での提出で、一部郵送も可
2.原則郵送、窓口提出の場合は要予約
3.原則電子申請、どうしてもできない場合は郵送や窓口も可
2022年度に「3.」を実施したのが、茨城県つくば市。
つくば市は、最先端技術の実証実験を街全体で行なう国の特区「スーパーシティ」に指定されている街。あらゆる行政手続き・申請の電子化を目指していることもあり、2022年11月には選挙のスマホ投票の模擬実験も行なわれたばかりです。
保育園の申し込みも、令和5年4月入園分からついに電子申請がマストに。あのしち面倒くさい手書きの書類が、一切不要になっています。ほかにも千代田区や渋谷区、足立区も保育園入園オンライン申請に対応しています。
ちなみにつくば市では、保育園入園後も毎年提出しなければいけない「継続利用申請」までも原則、オンライン申請に。アカウント登録に最初だけ戸惑う人もいるようですが、その後は毎年の提出がグッとラクになっていくようです。
継続利用のオンライン申請をできる自治体は増えており、次年度以降も追随する自治体があらわれるはず。注目です。
コロナ禍が影響? 入園制度の変化
申込み以外に、選考基準も変化しています。コロナ禍を機に、テレワークOKの企業が増え、働き方が多様になってきました。令和3年11月の内閣府の調査によると、全国のテレワーク率は32.2%。ただし、東京23区は55.2%と、過半数を超えています。
家賃が高い都心から地方へ移転する会社や、そもそも出勤すべき事業所自体がなくなってフルリモートとする会社が増えてきたことなどを背景に、保育園の制度も変化がみられています。
保育園の入園制度は、「指数」と「優先順」が高い世帯から、行きたい園に入園できる仕組みになっています。骨組みは、こんな感じ。
例えば千葉市。千葉市はかつて、父母の勤務地が遠い人(市外勤務地)に+2の調整指数の加点があったのですが、令和5年4月入園の申し込みから廃止になりました(同点で並んだ場合のみ、勤務地との距離で選考)。
市はこの制度変更の理由を「通勤にかかる負担を勤務先の市区町村のみで判断することについて、見直しを行ない、削除しました」としています。千葉市の独特の通勤事情に添った変更であると同時に、働き方が多様になったことも制度変更の一因となったのではと飯田は考えています。
また、世田谷区では、かつて「保護者が自宅で保育している場合」は-6の調整指数の減点があったのですが、令和5年4月入園の申し込みから廃止になりました。
自宅で子どもを見ながら働くのは、保育園に預けて働くより100倍大変だ、ということを、令和2年の緊急事態宣言下に痛感した人も多いはず。むしろ加点されてもいいくらいなのに、6点も減点されるなんておかしい! という当時の肌感が、制度変更に反映されたのだなと感じます。
保育園は入りやすくなったのか
保育園への入りやすさは、年々改善されていますが、地域差がまだまだあるのが正直なところ。
コロナ禍による出産控えもあって、2021年(令和3年)の出生数は過去最少の84万人余。前年比で約3万人も減り、6年連続で過去最少を更新するなど、少子化に歯止めがかかりません。
一方、少子化対策の一環として保育園は増え続けています。2021年の保育所等利用定員は約302万人。前年比で約5万人の「枠増加」です。
子どもは減り、保育園は増えているのですから、大きな傾向としては保育園には入りやすくなっています。
ですが、先述したように地域差があるので、必ずしも入れるとは言えません。保活というのは非常に狭い範囲、自宅からせいぜい2km圏内で起こる出来事です。近隣に大きなマンションや大規模分譲地が一つでもできれば、その地域は数年間、競争率が上がります。
こうして、市や区としての待機児童はゼロなのに、なぜか保育園全落ち……という「激戦区」が誕生してしまうのです。
「激戦区」は都心から近郊へ
では「激戦区」とはどこか。ひと頃までは大都市圏、つまり関東なら23区、中部なら名古屋市の中心部、関西なら大阪市や神戸市の中心部、九州なら福岡市、といったところが、保活激戦区のボリュームゾーンを占めていました。
これらの自治体は行政規模も大きいところが多いので、待機児童対策として保育園の増設を一気に進めることができました。現在では、数字上は「待機児童ゼロ」を達成しているところが目立ちます。
ところが昨今、コロナ禍や住宅価格の高騰から、都心を離れ郊外へ移り住む子育て世帯が増えています。
国土交通省の不動産価格指数をみても、2010年に比べて戸建ては10~15%、マンションは70~80%値上がりしています(2021年統計)。その影響から、家を買いやすい近郊エリアで、転入者が転出者を上回る「転入超過」が目立つようになりました。
住民基本台帳人口移動報告(2021年結果)によると、年少者(0~14歳)の転入が多い地域は、以下の通り。関東圏なら、埼玉県さいたま市がダントツに多く、次いでつくばエクスプレス沿線のつくば市、流山市、柏市など。
関西圏なら、箕面市、吹田市、枚方市、明石市、川西市といった、いわゆるベッドタウンの地域が目立ちます。
こうした年少人口の流入が多い自治体では、保活に苦労する傾向が顕著です。
なんか最近マンション増えたな、しかもでっかいのが何棟も……という地域は、間違いなく激戦区といって差し支えないでしょう。
「行きたい園」に入園できるのか
では、どれくらいの人が希望の園に入園できているのでしょうか。
千葉県船橋市を例にとってみましょう。船橋市は新規入園率や希望園に入園できた人の割合を市が公表していますので、ソースが明らかで事例としても適切かと思います。
過去、待機児童数がメチャクチャに多く阿鼻叫喚の様相を呈していた船橋市ですが、ここ数年で一気に待機児童数が減り、令和4年4月は28人になりました。(ただし、国の基準の待機児童数なので、小規模園や認可外園など「どこかしら」に入れて空きを待っている人は含まれていません)
すごく大変! というフェーズは抜け出したけれど、まだまだ楽観はしていられない、激戦区の一つといっていい地域です。
おおむね希望通りに入園できるが、そうでない人も一定数は存在する。これが令和4年における「激戦区の保活」のイメージです。
「4月入園」でなければいけないのか?
こうした「激戦区」で入園確実性を上げるためには、一般的に1年といわれる育休を早めに切り上げるか、あるいは育休を延長するかして、入園時期を4月に調整する必要があります。
保育園も小学校などと同じように4月で一斉に進級します。つまり、4月に一気に枠が空きます。近年は年度途中でも欠員がある園がチラホラ増えてきましたが、一斉進級の4月を逃すと空きが出るかどうかはまだまだ運次第なので、4月を狙って入園申し込みをするわけです。
なぜ、4月を逃すと空きがでるかわからないのか。それは、保育園の運営制度が「満定員である」ことを前提に設計されているからです。
保育士は満定員になることを前提に確保しておかねばならないが、実際の子どもの数に対してしか運営の補助金を得られないのです。
定員の空きは即、経営を直撃します。なので基本的に保育園は、空きを出さないよう、あるいは年度中の早い時期に定員が埋まるであろうギリギリのところを攻めながら定員数を設定しています。少子化なのに保育園の枠が空かないカラクリは、ここにあります。
というわけで、自治体によって違いはありますが、入園選考において、以下のように選考順(選考指数)が低くなりやすい家庭は、一斉に枠が空く4月入園を狙わないと入園可能性がグッと下がってしまうのが現状です。
- 勤務日数・時間が少ない
- 第一子(きょうだい加点がない)
- 世帯収入(課税所得割額)が高い
- 在住年数が少ない
本当ならば生まれ月に関係なく、誰もが入園したいタイミングで入園できるのが理想なのですが…。令和4年においては、まだまだそうもいかない状況となっています。
人気園とそうでない園が二極化
ここ数年、都市部を中心に、極端に入園申し込み者が多い人気園と、定員割れが続く園が二極化する傾向にあります。
保育園に「よい園」「悪い園」といった“正解”は明確にはなく、保護者や子どもとその園のスタイルがマッチしているかが最も重要。
人気があまりない園でも、以下2点がクリアできてさえいれば、あとは「好み」という非常にあいまいな世界でもあります。
- 園児の命の安全が守られているか(管理・運営体制がずさんでないか)
- 園児の心の安全が守られているか(子どもの人権を傷つける保育や声掛けが行なわれていないか)
保育園は「近い(通いやすい)」ことも非常に重要なのですが、昨今はリモートワークが増えてきたこともあり、「少しくらい遠くても気に入った園にしたい、保育園の送迎くらいしか外出の機会がないから…」という声も聞かれるようになりました。よりいっそう「決め手」がなくなり、保育園選びで悩む局面が増えています。
そもそも、保育園に通わせたことのない保護者が、ほんの数十分の見学で保育園の「質」を見抜くのは至難の業。
ですが、確かなこととして言えるのは「定員割れがずっと続いている園は、経営が不安定である」ということです。
令和4年、定員割れした保育園は、東京23区では0歳児クラスで50%以上というデータも。認可外園では「ある日突然保育園がなくなる」ということも起きています。
経営が不安定な保育園は人件費や運営管理費を削減せざるを得ず、それが保育の質に直結することは想像に難くありません。質を見極める一つの指標として、年間を通じたその園の定員割れの状況もチェックすることをおすすめします。
条件だけでなく感覚的な相性も大切に!
最近の保活講座でお伝えしているのは、条件だけで選ばず「この園……なんか好き!」というエモーショナルな部分も大事にしてほしい、ということです。
園庭がある/ない、連絡帳の記入がある/ない、習い事を園内でする/しない、などなど、条件だけで園を選ぼうとすると、サービスがたくさんある園が勝ってしまいます。
でも、園に入った瞬間の居心地のよさ、言葉にできないけどここだ! と感じたひらめき、逆に、コレというマイナス点はないけどなんとなくしっくりこない……といった「肌感」は、過去の保活講座の受講者の声を振り返ってみても、多くの場合、当たっていることが多いです。
保育園は長い場合で1日10時間以上も子どもが過ごす場所。その子や親に合った環境に出会えれば、親子ともに充実した幼児期が待っています。
五感を働かせて、「これだ」と思える保育園を見つけていきましょう。