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日本に浸透するVisaデビットカード。ゆうちょデビットは「大成功」

ビザ・ワールドワイド・ジャパン(Visa)は21日、デビットカードの日本展開についての説明会を開催した。日本はデビットカードの普及が進んでいないとされてきたが、近年Visaなどブランドデビットの採用が進んでおり、Visaではパートナーとなる銀行とともに日本のデビットカード利用を拡大していく。

Visaは、ここ数年日本のキャッシュレス化を推進してきた。「タッチ決済」も海外との比較で普及が遅れていると言われていたが、最近は急速な広がりを見せている。そのタッチ決済と並び、Visaが日本のキャッシュレス推進のために強力に推進しているのが「デビットカード」。日本のキャッシュレスを進める歯車の一つとして、「Visaとして最大の力を注ぎ、パートナーの銀行と推進していく」という。

デビットカードは「銀行口座の新しい使い方」

Visaでは、デビットカードの「口座からそのまま買い物できる」という体験を前面に出して推進する。ATMから現金をおろし、現金を支払うのではなく、口座から直接支払えるデビットカードは、「銀行口座の新しい使い方」と説明。日本全国の銀行口座を持つ人にこの体験を訴求することで、「最終的に脱現金化、デジタル化、データ化が図れる。消費者だけでなく銀行のビジネスにも貢献するものになる」(Visa コンシューマーソリューションズ部長 寺尾林人氏)という。

デビットカードはクレジットカードのように信用枠を使わず、銀行口座の残高からすぐに支払う。そのため、「使った金額がわかりやすい」「使いすぎない」という点で安心感があり、現金を中心に使っている人が“次に使う”キャッシュレスとしてのわかりやすさが強みといえる。

Visaによればデビットカードは、グローバルでも高い伸びを示しており、2019年からの約3年で、取扱金額は1.5倍、取引件数で1.4倍に拡大。金額ベースでは5兆8,000億ドルと(日本円で)600兆円を超えている。

この最大の要因は「世界でキャッシュレス化が進んだ」こと。英国では現金を置き換える形でデビットカードが普及した。クレジットカードが普及している米国においては、特に若年層を中心にデビットカードが増加した。コロナ禍でクレジットカードの信用取引を減らすという例もあるが、全体的なキャッシュレスシフトの中でデビットカードが選ばれているという。

日本においては、Visaデビットカードの発行枚数が1,890万枚(6月末時点)に到達した。2019年に1,000万枚と発表したが、約2年で倍近くに拡大。銀行の参加が増えており、37行がVisaデビットカードに対応している。

高校生でもカードが作れる。銀行にもメリット

Visaによれば、デビットカードが支持される理由は、「口座からそのまま買い物できる」「お金の流れが見えやすい」「使いすぎの心配がない」「チャージする必要がない」といった点で、鉄道、EC、レストラン、ゲームなど、対面/非対面を問わずに利用が拡大している。

デビットカードユーザー全体では「口座からすぐ引き落とされる」という「わかりやすさ」が支持される最大の理由。ただし、高校生においては「クレジットカードは作れないから」という理由でも、デビットカードが注目を集めているという。一般的なクレジットカードは18歳から、対してデビットカードは多くの銀行では15歳から取得できる。

高校生の意識調査でも、カードを持てることや、残高の範囲で安心して使える点が評価を得ている。また、口座残高の範囲で使える点は、高校生の親・教師からも支持を得ているという。そのため高校生・大学生など若年層にデビットカードの良さを訴求していく方針。

「今後の日本のキャッシュレス化においては、若い人のキャッシュレス利用が重要になる。銀行にとっても、高校生や大学生に銀行口座を使ってもらうことが重要。Visaデビットカードは『銀行口座の新しい使い方。口座からそのままお買い物。』というキャッチフレーズで展開しているが、このメリットを伝えながら、Visaとして最大限の力を注ぎ、銀行のパートナーの皆様と推進していきたい」(Visa寺尾氏)とした。

想定を超える大成功の「ゆうちょデビット」

7,000万もの口座を持ち、日本のほとんどの人と接点を持つゆうちょ銀行もデジタル化を進めており、中でも、「ゆうちょ通帳アプリ」は、481万口座('22年3月時点)が対応している。同行のキャッシュレス戦略の軸ひとつとなるのが、デビットカードの「ゆうちょデビット」だ。

全銀協のデータ(2021年1-12月)によれば、個人の給与受取口座からの出金(111兆円)のうち、キャッシュレスの払い出し比率は、口座振替・振込の54.9%となっている。ただし、ゆうちょ銀行はこの水準より低く、「現金志向が強いお客様が多い。だからこそ、キャッシュレス推進の余地は大きい」(ゆうちょ銀行 営業部門 カードペイメント事業部 執行役部長 當麻維也氏)という。

ゆうちょ銀行では、クレジットカード「JP BANKカード」、デビットカード「ゆうちょデビット」、コード決済「ゆうちょPay」の各キャッシュレスサービスを展開している。このうち「ゆうちょデビット」は、かつて展開していた「mijica」の不正利用問題をきっかけにリニューアルし、2022年5月にスタートしたばかり。券面情報を背面に記載したり、キャッシュカード一体型にするなど、安心・安全を重視している。

この「ゆうちょデビット」の反響だが、「想定を超える大成功で、mijicaの数倍の申込みがある。なんとか調達のめどがたったが、カード原板の在庫が厳しくなるほどの申込み」という。

ゆうちょデビット

ゆうちょデビット成功の理由はなにか? コロナ禍などの背景もあるが、「銀行口座の基本性能の一つとしてデビットカードのニーズが高まっていると考えている」(當麻氏)という。mijicaの場合は、カードがキャッシュカードと別になっていたが、ゆうちょデビットはキャッシュカード一体型となり、カードの管理しやすさが向上。常に持ち歩くカードとなったことから、利用もしやすくなっている。

ゆうちょ銀行では、当初はmijica会員の移行ニーズが中心と想定していたが、新規の申込みが予想以上に多く「計画の数倍」となった。郵便局/店頭の申込みより、Webからの申込みが多いことも「予想外」とする。また、10-20代の若年層で4割と、ゆうちょ銀行のなかで、“若い”年齢構成となっている。さらに、申込みの約半数が「最初のキャッシュレス」として、ゆうちょデビットを選んでいるという。

新規かつ若年層の利用者のキャッシュレス化を促しているゆうちょデビットだが、クレジットカード利用者からも申し込まれており、「クレジットカードを持てない、使えない人だけでなく、『使い分ける』ニーズも取り込んでいる」という。ゆうちょ銀行は、現金志向が強い堅実な顧客が多いが、ゆうちょデビットはそうした人々に支持されており、「銀行ならではのサービス、口座の基盤として育てていきたい」とした。

Visaでは、クレジットカード、デビットカード、プリペイドカードを展開しているが、3つの選択肢から「生活スタイルや好みにあった手段を選べる状況を作ることが大事」という。その上で「日本で最も進んで“いない”キャッシュレスの部分が、銀行口座のお金をそのままキャッシュレスで使うデビットの部分だと思っている。口座支出の半分がまだ現金。この部分をデビットで直接買い物できる状況を作ることこそ、消費者にも銀行にとってもメリットになると考えている」(Visa寺田氏)。