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今注目? 電気自動車から家に電力を供給できる「V2H」の実際

日産「サクラ」

軽自動車の電気自動車が注目され、日産「サクラ」、三菱「eKクロスEV」の2車が売れています。電気自動車と電力の関係はさまざまな話がありますが、そのなかのひとつ、電気自動車から家庭に電力を供給するという「V2H(ビークル・トゥー・ホーム)」というシステムがあります。停電時に電気自動車から電気を供給することもできて便利そうですが、実際の導入方法やコスト、メリットはどうなのでしょうか。

現時点でコスパは悪いが、将来には必要な技術

まず言えることは、V2Hは注目こそされていますが、実際の導入は多くなく製品もそれほど多くありません。V2Hといいながらも実際はHのホームではなく事業所や工場向けの製品も多く、一般家庭へ導入できる製品はニチコンの「EVパワー・ステーション」とそのOEM製品がほとんどという状況になっています。少し前までは家庭向けに三菱電機も製品を出していましたが残念ながら撤退してしまいました。

ニチコンの「EVパワー・ステーション」(出典:ニチコン)

V2Hの導入が進まない原因は費用面にあり、しかも導入費用総額が明記されたものはあまり見ません。ニチコンの「EVパワー・ステーション」の最廉価なスタンダードモデル、ケーブル3m(VCG-663CN3)は機器代で49万8,000円(税別)という価格が出ていますが、この類の機器の特徴として実売価格が定価と離れている場合もあり、買ってすぐ使えないため、いくら払えば導入できるのかが分かりづらくなっています。

使うためには電気工事だけでなく設置のための土台の工事も必要で、現場によって費用は上下します。太い電線を長く引き回すため材料代もばかにならず、最後には補助金でマイナスされるとなると、設置場所を実際に確認したうえで個別に詳細を検討しないと概算すら出せないということがあるからです。

とはいえ、安くても数十万単位のお金がかかるのは確実なため、V2Hで金銭的メリットを得るのは難しく、かかるコストの数十万円で「どれだけ生活にメリットをもたらしてくれるか」で導入を検討することになります。

それでもV2Hの普及は世の中には必要な面があります。例えば太陽光発電を導入している人なら、発電量は不安定で電力系統と連係しなければまともに使えないことを体感していると思います。そこで、不安定さを吸収する方法は蓄電です。

そこで、EVはほかの電気機器とは違い、蓄電をして持ち歩くことが必須という特性があり、無駄なく、太陽光発電で余った電気をEVに収めるという方法をとることができます。同じく不安定な再生可能エネルギーの風力発電との組み合わせにも有効です。

また、昨今は電力不足が言われています。電気は作った瞬間に消費することが必要なエネルギーですが、発電と消費の時間帯をEVの充電池を使ってシフトができれば余力が生み出せます。

つまり、EVへ充電という蓄電行為は、電気の生産と消費時間帯のシフトと、不安定な再生可能電力の変動の吸収の両面に効果がありそうです。撤退してしまった会社もある家庭用のV2Hですが、現在、太陽光発電では大手のシャープが太陽光発電システムのV2H対応を進めており、組み合わせるV2H機器の投入ももうすぐです。将来、V2Hシステムの導入数が上向く可能性も高いです。

V2Hと言いながらも、EVへの充電機能が充実している

V2Hという名のとおり、ビークル(クルマ)からホームに電力を供給するシステムということになりますが、実態は、家庭の電力消費に応じてクルマの充電と放電をしてくれるシステムということになります。

導入して大きなメリットを感じられることは、まさにV2Hとは反対の充電機能の充実です。通常、家庭での「普通充電」は一部の高機能タイプを除けば決められた電力で家の電力消費が大小にかかわらず充電され、同時に大電力機器を使えばブレーカーが落ちることもあります。ところが、V2Hシステムでは家の電力消費に合わせて充電量を調整し、ブレーカーを落とさずにそのとき使える最大電力で充電ができることが一般的です。

そして、家庭用V2Hシステムでは「急速充電」のコネクターを使い、一般的な普通充電の3kWに対して倍の最大6kW程度で充電できます。現在では「普通充電」でも6kW対応車が増えてるのと同時に電力制御ができる普通充電の充電器もありますが、6kW普通充電に対応しないクルマでも6kWで充電できるなど充電性能の高さでもV2Hシステムは優れています。

充電を柔軟に制御できることは、特に「卒FIT」と呼ばれる太陽光発電の買電価格上乗せ期間が終わってしまっている人にも有利です。安い単価で電気を売るのではなく、あまった太陽光発電だけをクルマに蓄えられるほか、必要に応じてクルマから放電して家の電力として使えば、トータルで安く電力を使うことが可能になります。

また、クルマからの家への給電の機能は、V2Hシステムの機能に依存します。たとえばニチコンのV2Hシステム「EVパワー・ステーション」ではプレミアムモデルとスタンダードモデルで違いがあります。

プレミアムモデルでは単相3線で200V供給ができるため、IHクッキングヒーターや大きめのエアコンまで動作させることでき、通常とほぼ同じ生活ができますが、スタンダードモデルでは100V供給しかできないため使用できる機器が限られます。

「日産リーフ」と太陽光パネル、V2Hを活用した災害時の電力供給イメージ図(出典:日産)

ほかにも、できることや細かい挙動は機種ごとに異なっています。一般的にV2Hは停電時の電力供給が期待されますが、EVパワー・ステーションなど家庭用の機器は、電力網が停電した場合は一度電力供給がストップし、停電起動の指示をしないと電力が供給されない仕様になっています。

停電に気づかすに大電力機器をそのまま使い続けてしまわないための配慮でもありますが、ニチコンではEVパワー・ステーションはUPS(無停電電源装置)の機能はないとしており、導入前にはできること、できないことをよく確認して誤った期待を持たないことが必要です。

実際にV2Hを導入するのはどうしたらいいか

では、実際にV2Hを導入するにはどうしたらよいでしょうか。まず条件として、V2Hシステムの置き場所と、駐車場と電気配線の位置関係、電気工事と電気代の計算の問題などから、戸建て住宅へ導入がしやすいということになります。

次に、V2Hをどこに設置依頼をするかですが、基本は電気工事店です。ただし導入数も多くないV2HシステムですからV2Hに不慣れな電気工事店に当ってしまうかもしれません。

V2Hのシステムは太陽光発電と組み合わせることが想定され、太陽光発電の設置業者も、最近は蓄電池との組み合わせにも注力しており、その延長でもあるV2Hシステムの導入も多く手掛けているところもあります。まずは太陽光発電に強いところに相談していくのも方法です。

また、設置方法によっては太い配線を通すために家に穴を開けなければならない場合もあります。長期保証期間内の住宅や、家の構造上の問題を起こさないためにも、家を建てた建築業者と相談したほうがよいこともあります。

細かい仕様やオプションの検討は、設置業者にすべて丸投げしてしまうのもありですが、まずは自分でメリットとデメリットをよく把握し、機種や構成は事前に念入りに調べておき、できれば、導入した後のシミュレーションもしておくと、見積もりを出されたあとの検討が進むはずです。

設置費用のウエイトも大きいので、見積もりはよく確認する

V2Hの導入を決めたら、次には見積もりを見て、どこに頼むか決めていくことになりますが、費用の差が大きく出る部分が工事費です。業者間の費用差もありますが、既存の家の状態によって、提案内容に違いが出れば大きく変わります。

たとえば設置場所です。V2Hシステムは、ニチコンのEVパワー・ステーションの場合で約90kgと重量があり、転倒しないための土台が必要です。コンクリート基台を置いて済ますことが多いですが、軟弱な地盤に設置するとなるとコンクリートで土台を作ることになり、費用が大きく変わる部分です。

次に既存の電気配線との接続です。古い家に残る単相2線の100Vの家ですと家そのものの大掛かりな配線交換が必要なほか、単相3線であっても細いケーブルで引き込んである場合も配線交換が必要です。古い分電盤ならこの機会に交換したほうが全体が簡略化され安全面でも大幅向上します。後から工事するよりも安くできるので、工事業者は電気設備の刷新を強くすすめてくるかもしれません。ここでも、場合によっては10万円単位で差が出てくる部分です。

分電盤からV2H機器まで引き回すケーブルの長さによって費用も変わります。電線は数年前に比べて2倍に高騰しているものもあり、分電盤とV2Hの間の電力ケーブルでよく使われるCVケーブル(3芯 5.5mm2)で1mあたり600円以上します。家にもよりますが、20m使えば1万2,000円です。ほかに制御用ケーブルや配管まで含めると材料費は1mあたり1,000円は軽く超えてしまうでしょう。この金額はあくまで材料費ですので工事の手間も含めて実際の請求額は大きく変わってくることになります。

ちなみに、V2Hシステムからクルマまでの接続ケーブルの長さでも値段が変わってきます。ニチコンの場合、最も安いスタンダードモデルには3mと7mの仕様があり、その差は定価で5万円(税別)もあります。

現在、クルマによって充電ソケットの場所は異なり、最も多い日産「リーフ」は車両の先端です。バックで止める駐車場で車両後方にV2Hシステムを置く場合、6m以上ないと先端に差し込めません。今後、先端に充電の口を設けるクルマはあまりない見込みですが、使う車種によってもケーブルの長さを考えておく必要があります。

日産「リーフ」

V2H機器は補助金も。しかし今年度は事実上締め切り

電気自動車には購入時に補助金があるように、V2Hシステムにも補助金の制度があります。NeV(一般社団法人次世代自動車振興センター)の今年度の補助金を受けるには2023年1月31日までに稼働させて所定の報告をすることが条件です。

ところがV2H機器の納期長期化の注意というお知らせがNeVのWebサイトに掲示してあり、実際、ニチコンの製品の納期も新規受注は2023年2月以降とされ、工事完了後の「実績報告」の提出期限である2023年1月31日に間に合わせることが絶望的になってきました。

そして、補助金を受けるには最初に交付申請をして交付決定後の発注となりますが、申請から決定まで1~2カ月後とされています。つまり、9月に申請しても決定は11月となり、発注はそれからとなり納期はもっと厳しくなります。販売店等で在庫があったり、直前キャンセル分があったりする場合もあるようですが、普通に納期の列に並んだ場合はまず間に合わないと思ったほうがよさそうです。なお、申請期限も10月31日と迫っています。

肝心の補助金額ですが機器代の2分の1(上限75万円)と工事費は個人宅で最大40万円までです。ニチコンのスタンダードモデルの3mケーブル仕様(VCG-663CN3)で本体価格の半額となる最大24万9,000円です。できれば機能の面でプレミアムモデル(VCG-666CN7)を選びたいところですが、その場合は定価79万8,000円に対して補助金額は39万9,000円です。

また、工事費の補助金は個人向けは合計最大40万円です。細かい工事項目ごとに上限が決められていますが、内訳をみると工事次第でほぼ補助金内に納めることもできそうです。この時点でニチコンのスタンダードモデルでは最低24万9,000円から導入が可能で、プレミアムモデルでも最低39万9,000円から導入できることになります。

さらに、地方自治体によってはNeVに加えて補助金があるところもあります。NeVの補助金の4分の1というところが多いほか、埼玉県のように1件10万円と低価格機器に有利な補助金もあります。自治体によっては地元業者への発注が条件ということもありますので、最初に条件をよく確認することが必要です。

V2H対応のクルマが“ほぼ日本車だけ”問題

続いて、対応するクルマの話です。現時点で販売される日本プランドの電気自動車なら問題はありません。

三菱自動車の「アウトランダーPHEV」

問題は海外ブランドのクルマです。

現在、クルマの充電コネクターは普通充電のコネクターと急速充電コネクターの2つが備わっています。充電容量以外に仕組みが全く違っており、普通充電コネクターは交流の電気を入れてクルマ側で充電を制御することに対して、急速充電コネクターは高電圧の直流で、外部の充電器が内蔵充電池に直接アクセスすることに近いイメージになります。

電気自動車には充電コネクターが2つある。日産リーフの場合、右が普通充電、左が急速充電のCHAdeMOのコネクターとなり、V2HシステムはCHAdeMOのほうにつなぐ

日本の急速充電のコネクターは「CHAdeMO」方式で、規格の上では双方向に電気をやりとり可能で、V2Hに対応する給電規格が備わっています。しかし、CHAdeMOのコネクターを備えていても、すべてが給電できるわけではありません。現在、CHAdeMOが備わっていて給電できるのは日本ブランドの電気自動車と、日本で買える海外ブランドでは韓国のヒョンデ「IONIQ 5」、ドイツのメルセデス・ベンツ「EQS」、中国BYD「e6」くらいです。

それはなぜかというと、急速充電コネクターの規格である、欧米のCCSやテスラの充電コネクターには外部給電機能がないことにあります。それでも海外メーカーはCHAdeMOでの急速充電だけは対応はしてくれていて、ポルシェ「タイカン」や、テスラ(要アダプター)の各車はCHAdeMOの急速充電器で急速充電はできますが、V2H機器には対応しません。

V2Hをするには日本プランド車を買っておけば安心ということになりますが、実際には、V2Hの普及に、外国ブランド車が対応しないことはマイナスになってくる可能性があります。

現在、国内で売られる外国ブランド車のほうが電気自動車の種類は多いという状況です。しかも、その多くが高級車で、電池容量も巨大なものが多くなっています。

それらのクルマを充電するために、自宅充電で簡単なコンセント設置の場合では3kW充電になるため、もし、カラに近い状態から充電する場合、一晩では充電できないということになります。普通充電では倍の6kWのタイプもあり、大幅な充電時間の短縮ができそうですが問題は価格です。

6kWの普通充電をするための充電器は工事費まで含めれば20万円は超えてしまうことも多く、補助金が使えるなら同じ6kW充電の機能があるV2Hのニチコンのスタンダードモデルを導入してもほぼ同額か、地方自治体の補助金まで足せば逆転してしまいます。

もし、超高額の電気自動車を購入する人たちがV2Hシステムを導入してくれれば、V2Hシステムの普及が進み、種類が多くなる、価格が安くなるなどの効果も期待できたのですが、そうはなっていません。富裕層だけにV2Hシステムの同時購入することも考えられましたが、V2Hの普及のチャンスを逃していることが本当に残念です。

今すぐ普及は難しいが、いずれ必要になる技術

V2Hシステムの数十万円という導入費用は手軽に買えるものではありません。万一の際のメリットや仕組みとしての面白さもありますが、クルマが出かけていては役に立たず、実際には6kWの充電ができるなど一般的な3kWの普通充電よりも高機能な充電器としてしか役立たないかもしれません。

それでも、電力網にとっては電力消費のタイムシフトや、不安定な再生可能エネルギーのバッファとして大きく役立つ可能性を秘めています。双方向の充電規格が普及していない欧州でもV2G(ビークル・トゥー・グリッド=電力網)の研究が進められています。

いますぐV2Hシステムの導入は難しいと考える人もあるかと思いますが、今後は普及が進んで価格面などでも導入しやすくなっていくと予想されます。そのときにすぐ導入できるよう、注目しておいたほうがいいかもしれません。