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セイコー 5スポーツ GMTモデル、人気の理由を紐解く

セイコー 5スポーツ「SKX Sports Style GMT モデル」(SBSC001、SBSC003)

セイコーウオッチが6月に発表、7月に発売した「セイコー 5スポーツ」の新作「SKX Sports Style GMT モデル」。レギュラーモデルとしてブラックのSBSC001、ブルーのSBSC003の2つがラインナップされている。機械式の腕時計で、価格は52,800円だ。

時計に詳しくない人が見ても「なんか格好いい」と評判で、普遍的な魅力を備えている一方、時計ファンや時計マニアは「そうきたか」と唸った、この夏話題の注目作だ。

また実際に発売されると、初回出荷分は予約だけでほぼ完売する人気ぶりとなっている。店頭に並ぶこと無く売り切れたため、まだ実物を見たことがないという人も多いのではないだろうか。そこで本誌では、セイコーウオッチの担当者に取材を敢行。製品の写真も交えながら、人気の理由を紐解いてみたい。

5スポーツとSKXの変遷

まずは「セイコー 5スポーツ」とは? という点から。5スポーツは、若い世代に向けた機械式腕時計のブランドだ。2019年にリローンチ、リブランディングされ、若い世代向けというコンセプトを明確にした上で、グローバル展開とも足並みを揃えた、世界中で展開するラインナップになっている。

5スポーツというブランド自体の歴史はかなり長く、きっかけとなったモデルとなると1968年にまで遡る。この1960年代当時も、若者向けとして前衛的なデザインを採用するなどしており、現在の5スポーツと共有しているコンセプトは多い。その後、日本国内の5スポーツはクオーツ式ウォッチの台頭により一時姿を消していたが、2019年のリブランディングで復活した形となる。海外での展開は継続していたため、1990年代以降も並行輸入の形で製品が日本に入ってくることがあったほか、手を出しやすい価格帯やその信頼性の高さから海外での知名度は高く、ファンも多い。

2019年のリブランディングの後、現在の5スポーツには「SKX 〇〇○ Style」「Field 〇〇○ Style」という大別して2つのラインが用意されている。中心になっているSKXスタイルはダイバーズウォッチのデザインがベースで、Fieldスタイルはミリタリーテイストのフィールドウォッチのデザインがベースになっている。

2019年のリブランディングで発表されたセイコー 5スポーツ

このSKXというのは、セイコーが海外で長く販売していたダイバーズウォッチである「SKX007」「SKX009」といったモデルの型番に由来する。カラーに合わせてブラックボーイ、ネイビーボーイ、オレンジボーイという通称のペットネームでも親しまれていた。

この従来の、ダイバーズウォッチとして販売されていたSKXシリーズは、海外で1990年代に発売され、20年以上に渡って販売されたロングセラーモデル。市場価格は日本円にして1~2万円と安価であることが多く、信頼性の高いムーブメントであったことなどから広く親しまれ、ダイバーズウォッチの永遠の定番と思われていたが、惜しまれつつも2019年に生産を終了。入れ替わる形で、5スポーツの「SKXスタイル」シリーズに、そのデザインが継承される形となった。

2019年で生産が終了したダイバーズウォッチのSKXシリーズ。写真はネイビーボーイと呼ばれたSKX009

5スポーツのリブランディングで実現した“SKXのGMT”

今回取り上げる「SKX Sports Style GMT モデル」は、海外など時差のある場所の時刻を簡単に確認できる「GMT機能」を搭載している。価格は5万円台で、他社を含めて、GMT機能を搭載した機械式の腕時計としては最も低価格な部類だ。ムーブメントを自社で開発・製造するセイコーだからこそ実現できたモデルといえる。

セイコーウオッチ 商品企画二部の三浦良平氏は、企画段階から人気モデルになることを予測していたようだ。「私自身、SKXシリーズを購入して使っていたSKXのファンですし、海外で人気が高いことも知っていました。“SKXのGMT”が出れば確実に人気になるだろうと予測していました。グローバルで展開するブランドとしても、ぜひラインナップに加えたいと思っていた機能です。以前は、この価格帯に対応するムーブメントがなかったものの、リブランディング構想の際にGMTのムーブメントを開発できそうという話が出てきて、ぜひやりましょうと、開発を進めました。2019年のリブランディングの際から計画を進め、コロナ禍で少し遅れたものの、開発が追いついて今般の発売に至っています」(三浦氏)

またGMTを選んだコンセプトについて、セイコーウオッチ デザイン部の松榮純平氏は、ターゲットとしている若い世代に、外に出かけてほしいという想いを込めたという。「このモデルは、外出や海外旅行の機会も限られていたコロナ禍の中でデザインを進めていた事もあり、いずれコロナ禍が落ちついた際には、このモデルを腕に着けて外へ出かけてほしいという想いでデザインを進めていた事を覚えています」(松榮氏)

手頃な4R系をベースにしたGMT

搭載されるGMTムーブメントはキャリバー「4R34」。5スポーツに搭載されている4R系を基に開発したことで、5スポーツの価格帯で投入できる、4R系で初めてのGMTムーブメントが実現した。GMT針は独立して動かせるようになっており、日付とGMT針の動きが連動する一般的なGMT機構より、初心者が感覚的に扱いやすい内容になっているという。

新開発のムーブメント「4R34」。また後述するように、ラグの端にピンホールを設け、バンドを留めるバネ棒を付け外ししやすくしている

質感、装着感を格段に高めたブレスレット

今回のGMTモデルのデザインは、SKXシリーズがベース。流線型のケースサイドや、回転ベゼル外周の独特なローレット、インデックスや針のデザインなど、随所にダイバーズウォッチの流れをくむ“SKXスタイル”が取り入れられている。

一方で、付加機能であるGMT機能を搭載する“上位モデル”であることを明確にするため、「従来のSKXからどうステップアップするか、どう魅力的に見せるかがポイントになりました」(松榮氏)と言うように、細部には従来モデルにはないこだわりも盛り込まれた。

5スポーツの上位モデルとして質感の高さも追求されている

そのひとつが、写真では分かりにくいものの、GMTモデルに採用されているメタルブレスレットのデザインおよび機構だ。

5列リンクのメタルブレスレットで、1990年代から販売していたダイバーズウォッチのSKXシリーズにも用意されていたデザイン。ただSKXシリーズの5列ブレスレットは、外側が無垢パーツ、中央の3列が板状のリングを巻き付けた仕様だった。「駒の遊びも大きく、あまりよい質感には感じられませんでした」(松榮氏)という。

そこで今回のGMTモデルは、SKXの駒形状の良さを残しつつデザインは踏襲しながら、コマはすべてステンレスの無垢材に変更。さらに両端の列が裏側でつながる構造とすることで、余分な遊びや歪みの少なさを実現。コマのピッチ(縦の幅)は従来どおり短いため腕に吸い付くようにフィットし、装着感や質感は「従来から格段にステップアップしています」(松榮氏)としている。

GMTモデルに設定された5列リンクのステンレスブレスレット。カラーにより中央3列のコマの仕上げが異なる
パーツをすべて無垢材にし、両端の列を裏側でつなげる構造を採用することで余分な遊びや歪みを減らした
バックル部分

蒸着処理のガラスベゼルで高級感アップ

ふたつめは、外観の特徴にもなっている回転ベゼルの表示板(数字などが描かれているベゼル表面のパーツ)だ。従来はアルミ製だったが、GMTモデルは風防と同じガラス(ハードレックス)を採用し、透明感や奥行き感のある、高い質感を実現している。裏側から蒸着処理を施すことで、光の当たる角度で見え方が大きく変わるほか、ブルーのモデルはメタリックな輝きも印象的になるよう仕上げられた。

5スポーツではアクリルを使用したベゼルは存在するものの、ガラスベゼルは極めて珍しい。蒸着処理はアクリル材質では相性が悪くガラスだからできる処理で、「GMTモデルならではの特徴的な仕様として採用しました」(松榮氏)。

ガラスベゼルと裏側からの蒸着処理で、表示板は光の角度によってキラリと反射して光る。ほかの5スポーツのラインナップや従来のダイバーズウォッチのSKXシリーズと比較して珍しい仕様だ

このベゼル表示板には24時間を示す数字が記されているが、実はこの数字も、一部は“新たに作られた”文字になっている。SKXシリーズは、ベゼルのアラビア数字フォントをかなり古い時代のダイバーズウォッチから継承して使用しているが、これは当時のデザイナーが手書きで作ったフォント。デザインされた数字には、0、1、2、3、4、5しか存在しないため「従来の数字を参考にしながら、6や8など、足りない数字のフォントを新たに作成しました」(松榮氏)。

なお、回転ベゼルは24時間表示の調整をしやすくするため両方向に回転でき、クリック感のない、無段階に動かせる仕様だ。

GMT針のデザインはアワーマーカーから

ややマニアックな点としては、GMT針のデザインもポイントだ。GMT針は、モデルによっては細くしたりやや目立たない色にしたりと、デザインはコンセプトによりさまざま。SKXのダイバーズウォッチのデザインは、ある意味では完成の域にあるといってもよく、この盤面に加わる新しい針のデザインがどういうコンセプトなのかは、時計マニアには気になる部分。

今回の5スポーツのGMTモデルは、ムーブメントの仕様もあって、かなり太いGMT針を搭載できた。先端も大きく、さらに色も目立つ赤になっている。「伝統的なSKXのデザインを踏襲していても、ひと目でGMTモデルだと分かるようにしました。ほかとは異なる特徴的な針が付いている、といった点を入口に注目してもらい手に取っていただけるように意識してデザインしました」(松榮氏)。

そのGMT針の先端の形状は、三角形ではなく、“5”スポーツにちなんだ五角形だとか。凝視しないと分かりづらいが……実はダイヤルの12時位置のインデックス(アワーマーカー)も、昔から逆三角形ではなく角をカットした五角形。この12時位置のアワーマーカーの形をGMT針の先端にも用いており、SKXのデザインに馴染む形状を目指したという。

セイコー 5スポーツ「SKX Sports Style GMT モデル」SBSC001。GMT針は太くて赤く、よく目立つデザイン

日付拡大レンズ、カラーラインナップ

ほかに外観で目を引くのは、風防に取り付けられた、日付を拡大表示するレンズ「マグニファイドガラス」だ。これも5スポーツの中ではGMTモデルに追加されている仕様で、特別感の演出に一役買っている。

GMTモデルのカラーラインナップは、ブラック、ブルー、オレンジ(販路は一部に限定)と、ダイバーズウォッチのSKXシリーズで親しまれた3つのカラーを揃えた。「正式な呼称ではないですが、ファンの間ではブラックボーイ、ネイビーボーイ、オレンジボーイと呼ばれていた3色を基に、オリジナルに敬意を払い、最初の投入モデルで採用しています」(松榮氏)。

なお、ネイビーボーイと呼ばれたモデル(SKX009)はベゼル表示板に青と赤を使った鮮やかな配色も特徴だったが、GMTモデルではブルーやガンメタリックといった、綺麗で映える色が選ばれている。

このほか、GMT針が追加されたことでダイヤルの上の針の重なり(高さ)は増加しているものの、風防を従来より薄くすることで、製品全体の厚さは約0.2mmの増加に抑えている。「SKXはダイバーズウォッチでしたが、リブランディングした5スポーツはダイバーズウォッチではないので、風防の厚みも追い込んで設計しました」(松榮氏)。

セイコー 5スポーツ「SKX Sports Style GMT モデル」SBSC003。ガラスベゼル、マグニファイドガラス、新しい構造のブレスレットで質感や装着感を高めている

使い勝手や質感も向上している5スポーツ

5スポーツのラインナップ全体で共通する特徴として、ケースのラグ部分に、外からピンを挿すためのピンホールが設けられている。これはベルトを留めるバネ棒を特別な工具なしに外せるよう設けられている。ユーザー自ら簡単にバンドを交換して楽しんでほしいというメッセージも込められている。

ダイヤルのインデックスはマーカーの周囲にキラリと光るメッキが施されており、これは5スポーツのリブランディングの際、SKXスタイルのモデルに加わった仕様。別体パーツ(アプライドインデックス)ではなく、立体的に見える部分は、ダイヤルにエンボス加工を施した上でポリッシュ仕上げにしたものという。

また裏蓋をガラスにしたシースルーバックも共通の特徴。若い世代に向けて、電池式やスマートウォッチではないということや、機械式の機構の楽しさをアピールするという意味で採用されている仕様だ。

余談になるが、SKXシリーズでは伝統的に、秒針の反対側に夜光塗料が付いたマーカーを備えている。これはダイビング向けの機能のひとつで、秒を読むためではなく、腕時計が“止まらずにちゃんと動いている”ことを確認するための機能とのこと。秒針の反対側がブラックに塗装されているのも、このマーカーの動きを見立たせる工夫だ。

5スポーツのGMTモデル、今後の展開にも期待

初回出荷分が予約だけでほぼ完売となるなど熱狂的な人気で迎えられた5スポーツのGMTモデル。このシリーズにカラーバリエーションの追加などはあるのだろうか。三浦氏は「今後の展開も前向きに検討しています」と力強く答えている。

「この先も活躍してほしいシリーズ、と位置づけています。なんらかの形で、展開は続けていきたいと考えています」(三浦氏)。

5スポーツのGMTモデルは、世界中でロングセラーモデルとして愛されたダイバーズウォッチであるSKXシリーズのデザインを、色濃く引き継いだモデルだ。ただ、5スポーツのラインナップがダイバーズウォッチの規格を満たさなくなったことでSKXは“スタイル”になり、“ツールウォッチ”“実用性一辺倒”といったイメージは薄れており、そのことを残念に思うSKXファンはいるかもしれない。

しかし一方で、ダイバーズウォッチのSKXのままでは恐らく実現しなかったであろう、GMT機能の搭載という“機能を追加する展開”が、グローバルでリブランディングされた5スポーツによって実現した。そのデザインや仕様も、5スポーツとして少しでも快適で質感が高く見えるようにと、随所にセイコーならではの工夫が凝らされている。

SKXという美しいヘリテージデザインへのノスタルジーと安心感、GMTという付加機能の高揚感、歴史的背景のあるムーブメントへの信頼感、5万円台という価格を優に超える高い質感への満足感は、このモデルの非常に大きな魅力になっている。あせらずに次回出荷を待って入手したい、2022年下半期の注目モデルだ。