トピック

写真が下手だけどいい感じに”物撮り”したい。スマホ編

記者という職業柄、自分で写真を撮ることが多いのですが、恥ずかしながらあまり得意ではありません。記者になるまでカメラに興味を持ったことがなく、文章を教わる機会はありましたが、カメラは手つかずのままこれまでやってきてしまいました。

筆者の場合、家電や食品などの商品を撮影する機会が多いのですが、こうした商品撮影は「物撮り(ぶつどり)」と呼ばれています。

しかし先日、レビュー用に撮った物撮り写真が全然格好良くならず、さすがにこのままではいかん、と思い直すことがありました。そこで、写真家・ライターの武石修さんに「写真をいい感じに撮るコツを教えてください……」と相談。自分が撮った写真のどこがダメなのかを指摘してもらいながら、写真のコツを教えてもらいました。

今回対象としたのは静物のみ。目標は、ガジェットや小物を「いい感じに撮れるようになる」ことです。

また作例撮影用のカメラは、自前のカメラで教わりたいことも沢山あるのですが、複雑に設定できるカメラを使う前に、まずは被写体の置き方や光の使い方など基本的なところから学ぶために、より操作が簡単なスマホを使うことにしました。

写真家・ライターの武石修さんに、スマホで静物を撮るときのコツを教わりました。使用したスマホはGalaxy NOTE 20 Ultra
1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。

課題1.カメラ

はじめに武石先生からお題として出してもらった被写体が「カメラ」。何も教わらず、自分なりに格好良く撮ってみました。それがこちら。

お題のカメラを自分なりに撮ってみました

なかなか良い感じに撮れたと思い武石先生に見せたところ、複数のご指摘が。どうやら全然ダメなようです。

指摘ポイント
・被写体が歪んでおり、前が大きく後ろがすぼまっている
・色味が正しくない
改善案
・被写体から離れ、ズームを望遠側にして撮ると正しい形になる
・ホワイトバランスを調整して正しい黒色に近づける
・カメラは機種名のロゴも見えて、全体の形がわかるように撮る
・存在感が出やすいグリップが奥になるように、反対のアングルから撮る。高さももう少し上にする

被写体の歪み……! 確かに、言われてみれば私が撮った写真はレンズが大きく写っていて正しい形になっていません。武石先生によると、スマホのカメラはもともと広角に作られていて、被写体に寄って撮ると歪んでしまうとのこと。被写体から離れ、ズームを望遠側にして撮ることで正しい形で撮れるそうです。

色味に関しては、ホワイトバランスが合っていないので、もしスマホにそういったモードがあるなら、ホワイトバランスを調節してみましょう、とのことでした。筆者のスマホカメラには、ホワイトバランスやISO感度などを調節できるプロモードがあったので、今回はそれを利用。

オートモードだと、ホワイトバランスは周囲の色に影響されやすいので、カメラの下に白い紙を敷いて、ホワイトバランスの数値を動かします。色味は好みもありますが、今回は物撮りなので肉眼で見た被写体の黒色と同じになるように調節しました。

スマホカメラは広角に作られているので、被写体に寄って撮ると歪んでしまいます
被写体から離れ、ズームして撮ると正しい形を捉えられます
色味を整えるために、オートではなくプロモードに切り替え。被写体の下に白い紙を敷いて、ホワイトバランスを調整

Before→After

これらの改善点を踏まえて撮影した、Before→Afterがこちら。見比べてみると違いは明らかで、私が最初に撮った写真は被写体のバランスが悪いのがはっきりわかります。

ズームは5倍にして撮りましたが、スマホでズームしすぎると画質が落ちるという難点も。今回は被写体を正しい形で撮ることを優先しましたが、画質を落としたくない場合は、やはりデジタルカメラや一眼レフカメラを使う方が良いそうです。

Before。前が大きく、後ろがすぼまっている
After。被写体が歪んでいなく、黒色もはっきりしています

課題2.プロジェクター

次に被写体として選んだのがプロジェクター。以前、レビュー用に撮影する必要があったのですが、どんな角度から撮ってもキマらなかったという苦い思い出があります。

今回は、当時の状況を再現するために、先程習った「離れてズーム」を使わずに、まずBefore写真を撮りました。それがこちら。

何も教わらずに撮ったBefore写真
指摘ポイント
・歪みあり。上が大きくて下がすぼまっている
・ホワイトバランスはOKなので今回はズームとアングルのみ工夫する
改善案
・課題1のカメラと同じように、離れてズームで撮る
・被写体とレンズの高さを同じにするため真横から撮る
・スマホ画面にグリッドラインを表示させると真っ直ぐ撮りやすい
・右側から自然光が入っているので、プロジェクターのレンズを右側にすると細部まで写しやすい

こちらもズームを使わず、寄って撮ったので歪んでいました。今回はズームに加えて、スマホカメラにグリッドラインを表示させることでより整った形で撮れるように工夫します。

スマホによりますが、筆者の機種ではカメラの設定画面からグリッドラインを表示できました。被写体の縦のラインとグリッドラインが平行になるように調節し撮影します。

また筆者は撮影するときにスマホ本体を前に傾けがちだったので、被写体とレンズが平行になるようにスマホを真っ直ぐ持つように意識しました。

被写体とレンズの高さを同じにして、真横から撮影
スマホカメラの設定でグリッドラインを表示。被写体の縦のラインと平行になるように合わせます
NG。スマホが傾いている
OK。スマホを真っ直ぐ持つ

Before→After

Before→Afterがこちら。Before写真は中途半端な高さから撮ってるので、なんとなくぼんやりとした印象。

一方、真横から撮ったAfter写真はしっかりアングルが決まっています。形もしっかり円筒状になっていて歪んでいません。今回の目的である「いい感じに撮る」が果たせて何よりです。

Before。上が大きく下がすぼまり歪んでいる
After。しっかり円筒状になっています

被写体に使った、円筒状のプロジェクターを撮るコツをもう1つ教えてもらいました。先の例では真横から撮りましたが、上部を写したいときも被写体から離れてズームが有効とのこと。

Beforeの被写体に寄って撮った写真は、上部は写っていますが下部がかなりすぼまって形がかなり歪んでいます。

Afterは離れてズームで撮ったので、上部も写しながら下部はすぼまっておらず正しい形になりました。なお課題1同様、Afterでも手前に少し影が写っています。影を消す方法まで進んでしまうと複雑になってしまうので、こちらについては後ほど触れます。

Before。上部は写っていますが下部がすぼまっています
After。上部を写しながら下部がすぼまらず、正しい形に
Before撮影時。被写体に寄って撮っています
After撮影時。離れてズーム。高さがある被写体なので、椅子などに乗ってかなり高さを出したほうが良いとのことでした

課題3.マスクケース

3つめの被写体は「マスクケース」。雑貨屋で可愛い! と思って購入し、スマホで撮ってみたものの、可愛さが全然伝わらない写真が撮れました。自分が撮ったときと同じ状況を再現し、撮影したBefore写真がこちらです。

マスクケースBefore写真
指摘ポイント
・左右の余白が気になる
・照明の光が写り込んでいる
改善案
・被写体を斜めに置いて余白を少なくする
・下に消しゴムなどを置いて角度をつけると光が写り込みにくくなる

武石先生によると、平べったい被写体を撮るときに便利なのが消しゴム。下に敷くだけで角度がついて、照明の光が映り込みにくくなるそうです。

消しゴムは小・中・大、サイズの違うものを3つくらい用意しておくと、適宜使い分けられます。

平べったい被写体を撮るときは消しゴムを用意
被写体の下に置いて角度をつけます

Before→After

Afterの写真を見てみると、左右に余白がないので被写体が大きくはっきりとしており、光の写り込みもありません。

今回はマスクケースでしたが、本や雑誌を撮るときにも、消しゴムを使うのは有効なテクニックのようです。今まで平べったいものを撮るときに、影や光が映り込むのをどうしたらいいものかと悩んでいましたが、消しゴムで解決できることを知りかなり勉強になりました。

Before。左右の余白があり、のぺっとしています
After。余白が少なく、角度をつけているので光も写り込んでいません

課題4.ワイヤレスイヤホン&ケース

最後の課題はワイヤレスイヤホンとケースです。課題1と2で学んだので、被写体から離れてズームで撮りました。形は歪まずに撮れたと思いますが、暗くて色味もイマイチな気がします。もうちょっと自力でなんとかできそうな気がしますが、一旦ここで武石先生に見てもらいました。

ワイヤレスイヤホンとケース。離れてズームで撮りましたがまだイマイチ……
指摘ポイント
・左右の余白が気になる
・色味が正しくない&暗い
・手前の影が濃い
改善案
・被写体を斜めに置く
・ホワイトバランスを調整。露出(明るさ)を上げる
・レフ板で影を軽減する

左右の余白は、マスクケースで学んだように斜めに配置して軽減します。また、Before写真はオートモードで撮っていたので、ホワイトバランスと露出を調整するためにプロモードに切り替えました。

ホワイトバランスは、課題1のカメラと同様に、被写体の下に白い紙を敷いて数値を調整。露出は、カメラの設定画面にある「EV」をプラスにすると明るく、マイナスにすると暗くなります。

筆者のスマホカメラでは、EVに関連する「シャッタースピード」や「ISO」といった項目も個別に調整できますが、これらを操作するとなるとさらにややこしくなるのでここでは割愛します。

さらに、手前の影を軽減するためにレフ板も作成しました。レフ板は市販の製品も沢山ありますが、ダンボールとコピー用紙があれば自作できます。今回はダンボール2枚を使い、自立&折りたためるレフ板を作成。

暗いときは「露出(EV)」という項目をプラスにすることで明るくなります
レフ板を作成。白いコピー用紙を貼った2枚のダンボールを、ガムテープでくっつけます。少しすき間を作ってくっつけると自立し、折りたたみやすくなります
完成。すき間を作ってくっつけたので、中央にコピー用紙を追加で貼っています
レフ板を置いて撮影。光を反射させるように置き、カメラ画面を見ながら光の入り方を確認して調節します

Before→After

改善ポイントを踏まえて撮影した写真がこちら。Before→After(レフ板なし)→After(レフ板あり)の順番です。

レフ板なしでも明るく鮮明に撮れていますが、レフ板があると手前の影が薄くなり、ケースのフタ部分の黒いくぼみも明るくなっているのがわかります。

「いい感じの写真を撮る」のに、レフ板を1つ作っておくとさまざまな場面で役立ちそうです。

Before。左右の余白が大きく、暗さが気になる
After(レフ板なし)。被写体を斜めに配置。ホワイトバランスと露出(EV)を調整
After(レフ板あり)。さらに明るくなり、ケースのフタ部分の黒いくぼみや手前の影が薄くなっています

被写体の雰囲気に合う敷物を活用する

今回はオフィスのラウンジで撮影したので、背景に困ることはあまりありませんでしたが、自宅などで被写体の雰囲気に合う背景が見つからないときは、敷物を活用するのもオススメとのこと。

敷物は、100円ショップで売っている布やランチョンマットなどでもOK。最近はダイソーやセリアなどの100円ショップで、「フォトジェニックシート」という背景シートも売っているようです。複数持っておけば、被写体の雰囲気に合わせて変えられるので良さそうですね、

筆者の場合、レビュー写真用に教わりましたが、それ以外にも物撮りをする場面はあると思います。使わなくなったものをフリマアプリで売るときや、ランダムで引き当てた推しキャラ以外のグッズをSNSで取引するとき、新しく買ったコスメのパッケージが可愛いときなど、さまざまな場面で「ちょっといい感じの写真を撮りたい」ときにぜひ活用してみてください。

先程のワイヤレスイヤホンを被写体に、敷物を使って撮影。雰囲気が少し変わります
100円ショップで調達した敷物。ランチョンマットなどでOK
武石先生私物の敷物。ジュートという麻素材もオススメとのことです