トピック
海外渡航のいま(帰国編)。時間も費用負担もきつくて公共交通NG
2021年11月11日 08:20
前回、無事米国入国を果たして取材や現地の人々とのミーティングが終わったわけだが、次はいよいよ帰国準備となる。帰国前に必要なものは、日本入国時に必要になるPCR検査などでの陰性証明書で、これを入手しなければならない。
また、帰国後の標準的な隔離期間は帰国翌日から14日間となっているが、ワクチン接種証明書があれば最短10日間に短縮できる。
筆者は出発時に失念していたのだが、ワクチン接種証明書は日本での検疫の際に「コピーを提出」する必要があり、あらかじめ準備しておかなければいけない。米国滞在中にライターの中山智氏(@yenma )に指摘されたので、滞在中のホテルスタッフに依頼して海外渡航用のワクチン接種証明書のコピーを取らせてもらった。
米国で日本帰国のためのPCR検査で4万円……
さて、問題は現地でどうやって陰性証明書を入手するかという点だが、基本的には日本政府が指定する書式に沿って、必要なテスト結果が記されていれば問題ないという。ただ、過去に記述不備やテスト方法の差異などで入国拒否されて強制送還されたという事例が多数報告されていたこともあり、ここでわざわざ冒険したくない。なので、すでに日本への渡航者で実績のある医院を検査機関として選ぶことにした。
ここでも前回同様に、検査機関の選定は筆者がフライトで利用する日本航空のサイトを参考にした。
出発72時間前までの検査ということで、最後の滞在都市であるサンフランシスコの医院を選ぶことになるが、現地出発は月曜日の夕方。つまり一般的な営業時間内に安全に検査を行なうためには週末の土日を使うしかない。
例えばサンフランシスコでは3つの検査機関が紹介されているが、そのうちのDowntown Medicalは週末は稼働していない。なので、ここは365日無休で稼働しているMy Doctor Medical Groupを選択することにした。同医療機関のサイトの説明を読むと、PCR検査と日本向けの陰性証明書発行で375ドル。通常であれば検査の翌日夕方の証明書発行となるが、これを翌日9時までのエクスプレス発行にするとプラスで35ドルの追加料金が請求される。
土日両方が使え、かつ急ぐわけでもないので、土曜日の昼に検査して、翌日夕方の検査証明書発行のコースを選んだ。先ほどのDowntown Medicalは100ドルほど安価だが、希望日には検査ができない。とはいえ、日本帰国のためだけに4万円近い出費は非常に痛い。今回はフライト料金やホテル代もろもろを合わせてすでに70万円以上の出費となっており、通常の海外出張旅費の2.5倍から3倍近い。正直、これが続くと財布が全然持たないため、早く渡航が正常化してほしいところだ。
検査機関が決まったので、次に予約を入れる。1週間前の時点で予約を入れたが、診察時間はほぼ選びたい放題だった。一方で、検査当日は書類受け取りに訪問した際には複数の検査希望者が入れ替わり立ち替わりやってきていたため、皆割と直前にアポイントを取っているのかもしれない。
実際、待合所で会話した女性は「ドバイ出張が急遽決まったのでここにきた」と言っており、陰性証明書入手のタイミングについて係員と交渉を繰り広げていた。このように駆け込みでやってくる人がそれなりにいるということなのだろう。
予約時には非常に事細かに個人情報や症状、病歴などを入力する必要があり、オンラインで問診票の入力とカルテの作成を行なっているイメージだ。逆に必要情報さえ入力が終わっていれば当日の検査はスムーズで、滞在5分ほどで解放された。
検査後、書類の受け渡しは「検査翌日の夕方となっているが、実際には昼の12時から午後2時の間までには用意できる。準備ができしだいメールで通知するのですぐに取りに来てほしい」といわれた。翌朝起きてみると、朝6時台なのにメール着信があり、すでに準備ができているという。さすがに早朝に行っても医院は開いていないと思われるので、11時くらいに訪問して書類一式を受け取った。これで帰国前の書類入手は完了だ。
帰国便搭乗前に準備を進める
いよいよ帰国となるが、やはり通常より少しだけ早めに空港に到着することにした。日本の空港とは異なり、国際線の共用ターミナルでは時間で航空会社のカウンターが入れ替わるため、あまり早く到着してもカウンター開いておらず何もできない。なので3時間前到着ということで空港へ落ち着いて移動する。
サンフランシスコ空港の国際線ターミナルでは、中央付近のブロックを潰して抗原検査(Rapid Test)用のサイトを構築していた。空港の医療センターではワクチン接種のためのサービスも用意しており、次回以降、もしここでのテスト結果と陰性証明書が日本入国に問題なく使えるのであれば、有効活用したいと思う。
帰国便のチェックインを済ませると、2つの書類を渡された。1つは質問票の入力に関するもの、もう1つは帰国後の隔離と行動追跡に利用するスマートフォンアプリについてのもの。一応機内Wi-Fiはあるものの、どちらの対応もある程度安定したインターネット接続が必要だと思われるため、フライト前に済ませてしまうことにした。
質問票は一通り入力が終わると、かなり巨大なQRコードが表示される。スマートフォン上で入力を済ませれば、このQRコードは画面キャプチャで保存しておけるほか、日本到着後もわざわざPC等を開く必要もないため、スマートフォン上で入力しておいた方がいいだろう。
スマートフォンに入れるべきアプリは2つで、1つはお馴染みの「COCOA」、もう1つは「MySOS」と呼ばれるもの。後者は日本リージョンのアプリストアでなくても制限なく導入が可能なようで、そのままインストールして必要情報をあらかじめ入力しておいた。このアプリでは定期的に検疫のセンター側から通信要求が行なわれるとのことで、隔離期間中にメインで利用するスマートフォンに入れてしまうと、途中で作業が中断されたり、レコーダーの機能が停止する可能性がある。そのため、“日本でのメイン回線”とは異なる“米国でのメイン回線”の方の端末に導入しておくことにした。
前述の作業も含め、到着からほとんどの時間はラウンジで過ごしていたが、結局当日の利用者は5名しかいなかった。時間がきたのでゲートに向かうと、待機エリアの人数は往路便での成田空港のそれよりはるかに少ない。
スタッフによれば、同日の乗客は往路と同じボーイング787-9の機材で定員は200名弱だが、乗客数は22名。説明では、成田便の方がアジア方面からの接続便が多いため、日本人利用者が中心の羽田便はどうしても乗客数が少なくなる傾向があるという。以前までであれば日本航空の羽田発着のサンフランシスコ便(JL1、JL2)は人気路線で空きがないことも多く、ある意味で高嶺の花だった存在だ。それがいまでは機材も小型化し、ほぼ空気を運んでいるというのだから悲しいものがある。
往路同様、空港カウンターで書類チェック等はすでに済んでいるため、飛行機に乗れてしまえば特にやることはない。筆者はドアクローズ直後に寝落ちしてそのまま最初の食事まで逃してしまったが、フライト中にはいつもの税関申告書と、今回の入国に際しての誓約書を含む関連情報をまとめた冊子が配られた。基本的に到着前にすべて記載を済ませておけば、到着後の検疫でも待ち時間なくスムーズに通過できるのだろう。
到着後の検疫フロー。公共交通機関はダメ
復路便で羽田空港に無事到着すると、米国到着時とは異なり、ボーディングブリッジ接続後もしばらく待機するようにいわれる。まずは検疫官の到着を待って、次に乗り継ぎ客を優先で降ろし、最後にクラス別で降機が行なわれる。降機後もボーディングブリッジ上に列を作って待機するよういわれ、トータルでそれぞれ10分ずつの計20分ほど待機時間があった。
乗客のうち7名は乗り継ぎで先に降りたため、残り15名が揃った後、地上係員の誘導で検疫所へと歩いて行くことになる。羽田空港の国際線ターミナル(第3ターミナル)はメインのビルの北側に拡張エリアとしてゲートが複数並んでいるが、その通路をフルに使って検疫のチェックを順番に行なうようになっている。最奥のサテライトまで移動すると、そこが検疫所のスタートであり、全部で8-9カ所あるチェックポイントを順番に一筆書きのように移動していく。
書類のチェックが終わり、唾液による検体の提出やアプリインストールの確認とレクチャーが一通り終わると待機所へと案内される。ここまで到着から1時間ほどで、事前に準備を済ませていろいろ情報を得ていたこともあり、ほぼ最速で通過できたと考えている。
待機所では複数のディスプレイがあり、検体の検査が終わると渡されていた番号が順番に表示され、入国時に検疫官に提出するための最後の書類を受け取りにカウンターへと移動する。ここでの待機時間は30分弱で、最終的に制限エリアを抜けて到着ロビーに出るまでトータルで1時間半ちょっとという感じだった。
最初期のころは4時間以上かかった話なども聞いていたため、かなりスムーズに処理できるようになっていると考える。
出口付近では公共交通機関の利用禁止を何度も重ねて警告しているほか、ターミナル間を移動するシャトルバスについても公共交通機関扱いで禁止の旨を告知している。つまり、国際線のターミナル3から自前の移動手段がない限り脱出することはできないため、ここからの移動手段を個人的に事前に確保していなければならない。
筆者の場合、今回は近所に住む親戚に車での自宅への移送をお願いした。到着ロビーに出るまでは安心できないため、ロビーに出た時点で呼び出して40分ほど、そこから自宅まで45分ほどなので、フライト到着から3時間半ほどで帰宅することができた。渡航に際していろいろアドバイスいただいたり、実際に手伝ってくれた方々には感謝しかない。
隔離期間中に利用するMySOSアプリ
帰宅すると、翌日から14日間の隔離期間がスタートすることになる。筆者の場合、ワクチン接種証明書があるので10日間への短縮が可能だが、このあたりの話は次回に持ち込みたいと思う。今回は隔離期間中に最もお世話……というかお邪魔虫になるMySOSアプリを紹介しつつ、「14日間隔離期間の実際」について少し触れたいと思う。
MySOSはシンプルなアプリで、検疫と追跡を司る入国者健康確認センターとの連絡窓口の役割を果たす。隔離終了期間がホーム画面に表示されるほか、前述の期間短縮にまつわる部分など、各種通知はこのアプリを通じて行なわれる。
一方で、利用者側は毎日アプリを通じての「位置情報報告」「健康状態報告」「ビデオ通話への応答」が義務付けられている。位置情報報告は1日に1-3回ほどランダムで通知が表示され、その後すぐにホーム画面の「位置情報報告」ボタンを押して現在位置を通知しなければいけない。健康状態報告は自分や周囲の体温やかぜ症状の設問に答えるもので、1日1回報告していれば問題ない。また1日1回ランダムでビデオ通話を受信するようになっており、30秒間ほど自身の顔と背景を含んだ位置情報付き動画を撮影しなければいけない。
ビデオ通話は多くの場合自動化されており動画を撮影するだけだが(個人的にAI対応と呼んでいる)、ごくまれにリアルで係官が登場してのビデオ通話になるケースがあるという。筆者はいまだ経験していないが、そういう報告もあるので、あくまでランダムということなのだろう。これを14日間毎日繰り返すのだが、通知が出るのが昼の忙しい時間帯に集中していることもあり、インタビュー等でのWeb会議中に対応を求められて非常に困ることがある。
筆者がMySOSだけインストールする端末を分けたのは日常作業に支障をきたさないためだが、隔離期間も折り返しにのタイミングになっていまでも慣れない。
3日間短縮は不可能?
14日間隔離はこのような感じで進んでいくが、米国での自由度の高さと比べると窮屈さを感じるのは確かだ。現在は10日間短縮という道こそあるものの、最短での解放を目指すには国が指定した検査機関まで直接出向いて陰性証明を得る必要があり、やはり公共交通機関を使えないのがネックだ。
一応筆者の自宅の徒歩圏にも検査機関はあるが、結果が出るまでに時間がかかったり、陰性証明書付きの検査費用が高額だったりする。このあたりはもう少し自由度を上げて欧米並みとはいかずとも、それに近い水準に近付けないと、とてもビジネス往来の活発化で経済復興にはたどり着かないだろう。
これを解消すべく、外務省などから「入国時の待機期間、最短3日に短縮」が発表された。入国者を受け入れる企業が監督省庁に事前申請を行なうことで、隔離期間を最短3日間に短縮できるというものだが、例えば経済産業省に問い合わせたケースでは「申請受理まで最短3週間、場合によっては1カ月半」といった返答を得ている話も聞いており、帰国後の行動予定を事細かに事前申請する必要があることから、とても実用的な仕組みとはなっていない。
“一般的”な公共交通機関が使えないというルールもそのままで、会議などは個室利用が推奨、会食では参加者全員の健康状態追跡を求められる。また通常の14日間隔離では求められない、「企業の受け入れ担当者が直接空港に出向いて隔離期間終了まで監督を行なう」という制限もつきまとい、申請することでかえって作業負荷が増えると想定される状況もみられる。なぜこうした逆進性の制度が発表されるのだろうか。
このあたりを外務省に確認したところ、「3日間短縮」は制度の建て付けとして14日間隔離の延長線上にあり、あくまで「監督省庁の許可の下に申請企業が当該帰国者の行動をすべて面倒みることを条件に3日間のみの隔離で留める」という位置付けになっている。つまり、現在の14日間隔離の枠内に「省庁ぐるみで企業が責任を持つことで特例で3日間隔離短縮がある」というアドオンを用意しただけで、14日間隔離の方針は何ら変わっていないというのが実情だ。
10日間の隔離短縮が存在するのは、その制度が検疫と隔離に責任を持つ厚生労働省の下で実施されているからで、厚労省が規定する14日間ルールが絶対的な存在として君臨している。つまり、これ以上の隔離短縮や制度変更は厚労省が動かない限りは何も変わらないというわけで、この制度に疑問を持つのであればこの部分から変えていかないといけないことになる。
次回は、実際に10日間の隔離短縮にトライしてみたい。
第1回:海外渡航のいま(出国編)。事前準備は入念に。ワクチン前提の行動規制
第2回:海外渡航のいま(帰国準備・入国編)。時間も費用負担もキツイ
第3回:海外渡航のいま(隔離編) 11月第3週頃掲載予定