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結局「モバイルSuica」アプリは快適に使えるようになったのか

インターフェースが改善されたAndroid版「モバイルSuica」アプリ

2021年3月、ついに、ようやく、「モバイルSuica」アプリがリニューアルを果たした。電子マネーサービスとしてはAndroidスマートフォン向けにいち早く提供を開始したSuicaではあるけれど、出足が早かった分、それまでのフィーチャーフォン版サービスのレガシーな面影が色濃く残るインターフェースのままだった。それがリニューアルによって一気に「スマートフォンアプリらしく」なったのだ。

iPhoneアプリの方はサービスインが遅かったこともあって、最初から「現代的」なインターフェースになっている。なので、今回はAndroidアプリの変化が特に注目されることになった。ユーザーとしてはまさに待望と言えるアップデートだが、果たしてどれだけ快適に使えるようになったのだろうか。改めて、新しくなったAndroid版モバイルSuicaアプリの中身を見てみたい。

最初は移行から。Androidユーザーは「おサイフケータイアプリ」が必須

と言いつつ、実は筆者のメインAndroid端末「arrows 5G F-51A」で使っているのはモバイルPASMOだったりする。モバイルSuicaとモバイルPASMOという2種類の交通系ICを共存させられる端末も増えてきてはいるが、あいにく筆者が所有するarrows 5Gはどちらか一方しか使用できない。モバイルSuicaを使うには既存のモバイルPASMOを削除しなければならないのだ。

なので、いったんモバイルPASMOはサブ端末のiPhoneの方へ移して、反対にiPhoneの方に設定していたモバイルSuicaをAndroid端末の方に移行することにした。かつては通勤にPASMO定期券を利用していたためメインAndroid端末にモバイルPASMOをインストールしていたのだが、そもそもコロナ禍で通勤しなくなった今となってはSuicaでもPASMOでもどちらでもかまわないだろう。

それはさておき、今回のリニューアルを機に、この移行(機種変更)の手順も変化している。従来は旧機種のモバイルSuicaアプリ上で「機種変更」手続きを行ない、新機種のモバイルSuicaアプリ上で新たにログインすることで残高などを引き継ぐようになっていた。

が、リニューアル後はモバイルSuicaアプリとは別の「おサイフケータイアプリ」を介して引き継ぐ形となる(iPhone→iPhoneの機種変更の場合は除く)。

arrows 5GのモバイルPASMOを「おサイフケータイアプリ」でセンターに預ける
iPhone側で預けていたモバイルSuicaを、今度はarrows 5Gの方で受け取る
モバイルSuicaを移行したarrows 5G(左)と、モバイルPASMOを移行したiPhone SE(右)

機種変更するしないに関わらず、Android端末でモバイルSuicaを利用するには、今回からおサイフケータイアプリが必要になることにも注意しておきたい。モバイルSuicaとモバイルPASMOを共存できる(もしくは複数のモバイルSuicaなどを設定できる)端末だと、どれを優先的に使うかを決める「メインカード」の設定もおサイフケータイアプリで行なうことになるので、機種によっては意外と出番は多いのではないだろうか。

2階層目移行のレイアウト、操作性が大幅に変化

新しいモバイルSuicaアプリを起動すると、残高が大きく表示されるトップ画面が現れる。ここでかつての古いモバイルSuicaアプリのトップ画面と見比べてみると、実際のところ画面レイアウトや要素はそう大きく変わってはいない。けれども、トップ画面以降の階層になると、以前のアプリはフィーチャーフォン時代のウェブページ的な雰囲気だったのが、新しいアプリでは実にスマートフォンアプリらしい見た目、操作性になった。

旧モバイルSuicaアプリのトップ画面(左)と新モバイルSuicaアプリのトップ画面

おそらく最も利用頻度が高い「チャージ」時は、チャージ金額の選択肢がポップアップする形になった。以前と比べると画面遷移がなくなっただけの変化ではある。けれど、そうした違いだけでもやはりスマートフォンっぽさが出るし、指の届きやすい範囲に金額指定ボタンが配置されていることもあって、使いやすさが格段に向上したと感じる。

チャージはトップ画面内でポップアップするため、画面遷移が発生しない

モバイルSuicaの各種情報や利用履歴、アカウント関連の設定などは「会員メニュー」にきれいにまとめられ、アクセスしやすくなった。定期券・Suicaグリーン券の購入機能についても、遠出しにくいご時世もあって今のところ利用する機会はないのだが、こちらも当然ながらスマートフォンでの操作をきちんと考慮したインターフェースになっている。

会員メニュー。旧モバイルSuica(左)と新モバイルSuica(右)

1点気になるところがあるとすれば、定期券・Suicaグリーン券を購入する際の区間指定の方法が、駅名の直接入力しかないことだろうか。路線選択や「現在地に近いところ」から検索するような機能もあっても良かったのではないかと思う。これについてはユーザーが利用する区間がそう変わるものでもないために検索性は重視していない、ということなのかもしれないが……。

定期券やSuicaグリーン券購入時の区間指定では、インクリメンタルサーチが可能とはいえ、駅名の直接入力のみ

同じくモバイルSuicaを扱えるGoogle Payとの違いは?

ところで、Androidスマートフォンの場合、公式のモバイルSuicaアプリだけでなく、Google Pay上でもモバイルSuicaを扱うことが可能だ。複数枚のモバイルSuicaを発行できる端末は別として、1枚のみ利用可能な(筆者の)Androidスマートフォンの場合は、モバイルSuicaアプリとGoogle Payのどちらを使っても、同じモバイルSuica(ICカード)を操作することになる。

Google PayでもモバイルSuicaを扱える

Google Payでは残高確認とチャージ、履歴の表示のみに機能が限定されているため、定期券やSuicaグリーン券の購入、その他アカウント設定などが必要なときはモバイルSuicaアプリを利用する必要がある。が、電子マネーとしての利用だけに絞れば、だいたいGoogle Payでまかなえる、ということになるかもしれない。

できることは残高確認、チャージ、履歴の表示のみ

以前のモバイルSuicaアプリは、チャージまでの手順の多さ、見た目のレガシーさといった点がネックで、やや少ない操作手順でチャージできるGoogle Payの方が圧倒的に好都合だった。が、リニューアル後の今はどうだろうか。実際に各アプリの起動から残高確認、チャージ完了までを動画にして比較してみた。

モバイルSuicaアプリとGoogle Payの起動~チャージの動作比較

際立つのはGoogle Payの起動の早さ。たった1秒でトップ画面が表示され、残高を確認できる。モバイルSuicaアプリは起動処理そのものに時間がかかるうえに、ログイン処理も発生するため、残高表示までに13秒もかかった。その頃、すでにGoogle Payの方ではチャージ処理が進行中というような状況だ。最終的に、チャージ完了時点では10秒ほどの差がついた。

チャージ処理単体だけ見ればどちらも15秒前後と変わらないので、単純に起動の遅さがモバイルSuicaアプリの弱点になっている。ただ、残高表示だけであれば、モバイルSuicaにはウィジェットもあるので、アプリを起動することなくおよそ2~3秒程度で確認することは可能だ。

ホーム画面に置いたウィジェットをタップすると、2~3秒ほどで残高を確認できる

また、1,000/2,000/3,000/5,000円というきりのいいチャージ金額の場合は、モバイルSuicaアプリだと数字入力せずボタンタッチだけでチャージ処理に進める。Google Payだと金額をデフォルト(前回チャージ金額)から変更しようとしたときにキーボードから数字入力しなければならないため、モバイルSuicaアプリの方が操作手順が少なく済むシチュエーションもありうる。とはいえ、起動からチャージまでの時間だけ見れば、やはりGoogle Payを使った方が手っ取り早い、というのが結論だ。

ちなみに、アプリ起動を高速化するarrows 5G独自の機能として「FAST App ドライブ」というものがある。これを使った場合のモバイルSuicaアプリの起動時間は、ログイン処理が入る場合は約10秒、ない場合は一瞬だった。チャージ完了までにかかる時間も、Google Payと同等か、より早くなる。これなら積極的にモバイルSuicaアプリを使いたくなる感じだ(ただし、一定時間モバイルSuicaアプリの操作がないと、再びログイン処理が必要になり、起動に10秒ほどかかる)。

アプリ起動高速化機能は他の端末にも同様のものがあるかもしれないので、モバイルSuicaアプリを頻繁に活用するならぜひ確認してみてほしい。

arrows 5G独自の「FAST App ドライブ」機能
「FAST App ドライブ」有効時(ログイン処理なし)のモバイルSuicaアプリと、Google Payの起動~チャージの動作比較

他にもメリットが多いモバイルSuicaアプリ。用途に応じた使い分けもおすすめ

モバイルSuicaアプリは、アプリ起動時のログイン処理に指紋などの生体認証を用いることができる。端末を盗難されてしまったときなど、他人に勝手にチャージされることを防げるというセキュリティ面でのメリットは見逃せない。また、特定のブランドのクレジットカード(ビューカード)を使用する場合に限られるとはいえ、「オートチャージ機能」も用意され、チャージし忘れて改札やレジであたふたすることがなくなるのもありがたいところだ。

起動時のログイン処理を指紋などの生体認証に変えることが可能
ビューカードのみの対応となるが、オートチャージがあれば残高不足で慌てることがなくなる

以前はGoogle Payアプリに、残高が指定金額を下回った場合に通知する「リマインダー機能」があったはずだが、現在はモバイルSuicaについては利用できないようなので、そういう意味でもオートチャージ機能が使えるモバイルSuicaの利便性は高いと言えるだろう。

使い方によっては「Google Payでいい」と思える部分もまだあるとはいえ、インターフェースが大幅に改善され、モバイルSuicaアプリは明らかにとっつきやすさや使い勝手が向上した。チャージはGoogle Payで、残高確認はモバイルSuicaアプリのウィジェットで、それ以外の操作はモバイルSuicaアプリで……というように、上手に使い分けることが快適なモバイルSuica生活を手に入れる方法の1つかもしれない。