トピック
最後の難関“騒音”。二重サッシと新しい生活：四十男 築50年の家を買う(3)
2020年9月8日 08:30
汚部屋から脱出し、新居への移転を完了した。しかし、駅前築50年物件の“騒音”問題は未解決だ。防音対策とともに、リセットされた新たな生活が始まる(ハズ)。
・第1回：汚部屋からのエクソダス
・第2回：さらば捨てない生活。汚部屋消滅とルンバの革命
・第3回：最後の難関“騒音”。二重サッシと新しい生活
二重サッシ化を決断
新居として決めた物件は、駅前で幹線道路沿いという騒音の大きい環境に加えて、築50年以上のマンションで、古いすき間だらけのサッシがそのまま使われている。そこで入居前から計画していたのが、サッシに防音対策を施すことだ。
一般に、マンションのサッシや窓ガラスは、外壁や階段と同じマンションの「共用部」にあたる。交換などのリフォームをしようとすると、管理組合の合意が必要になり(細則による)、全戸改修するのかどうか、その費用はどうするのかといった話に発展してしまい、かなりハードルが高い。この物件も、フルリフォームして販売されていたにもかかわらず、サッシだけは古いままだった。一方、サッシの内側にある木枠からは「専有部」(所有者が購入した部分)であるということは事前に確認しておいた。
そこで騒音対策として、5つある窓をすべて二重サッシ(二重窓、内窓)にすることに決め、内見が終わった段階で、二重サッシ化することを前提に準備を進めた。
5つすべてとしたのは、防音目的では音が侵入する「すき間」、つまり弱点をつくらないことがポイントで、古いすき間だらけのサッシが1つでも残っていると、そこから騒音が入り、トータルでの「静かな空間」の実現が大きく損なわれるからだ。
5つの窓のうち1つは寝室で、仕事部屋やダイニングとは隣接していない独立した部屋だ。しかしこちらも、安眠という意味では防音対策を施さないわけにはいかない。残りの4つの窓は、仕事部屋に2つ、ダイニングに1つ、洗面室の洗面台の隣に1つ。この3つの部屋は、引き戸を開けるとすべてひとつの空間としてつながる間取りのため、前述のように1つでも二重サッシ化を省くと、そこが防音上の弱点になってしまう懸念があった。
二重サッシは共用部に手を加えることなく施工できるほか、遮音性能だけでなく遮熱性能も高く、エアコンの省エネにつながるなどメリットは多い。掃除が面倒という指摘もあるようだが、外窓と違って風雨にさらされないため室外側は汚れにくく、掃除の機会は比較的少ない。筆者の物件は外窓がすべて不透明なガラスのため、汚れがそもそも目立ちにくいということもある。
また、二重サッシは部屋の中から外に漏れる音も大きく低減する。楽器を演奏できるといった防音マンションで二重サッシが採用されている場合もある。これまでの木造のアパートでは、スピーカーから出す音はかなり絞り、しっかり聴きたい場合はヘッドホンを使うという環境だったが、ようやくスピーカーで普通に音が出せる環境になりそうだ(最上階の角部屋という点も大きいが)。
二重サッシを発注、その方法は?
二重サッシのリフォームを頼む場合、ネットで探して安く発注する場合と、地元のリフォーム会社に頼む場合が考えられた。試しに地元のリフォーム会社に赴いて相談してみたが、簡単な見積もりでも部材の割引率は低く、ネットで事前に調べていた価格よりかなり高くなりそうだった。そこで、ネットで調べた窓専門のリフォーム会社に依頼することにした。
ネットで販売されている二重サッシ(二重サッシ用の内窓)は、採寸や取り付けを自分で行なうことで、トータルの費用をさらに抑えているものもある。筆者も当初はそれでいいと考えていたが、築50年以上の建物にリフォームを重ねている物件のせいか、窓枠の寸法を厳密に計測していくと、微妙にゆがんでいる窓枠や、窓の開け閉めには影響はないものの、変な角度がついている窓枠があることが分かった。
また、内窓を取り付ける場所にはガラス戸の重量を支えるために相応の幅が必要になり、足りない場合は「ふかし」と呼ばれる窓枠を追加する必要があるのだが、自分で計測しただけでも、5つのうち2つの窓でふかし枠が必要なことが分かった。ふかし枠の追加は専門的な作業のため業者が施工するしかない。つまり、少なくともすべての窓を自分で取り付けることは難しいと、事前に分かってしまった。
筆者が利用した販売サイトでは、採寸・取り付けをすべてユーザーが行なうタイプのほか、採寸のみ業者が担当し、取り付けはユーザーが行なうタイプと、採寸と取り付けのどちらも業者が行なうタイプの3種類が用意されていた。上記のように、窓枠のゆがみへの対応や、ふかし枠の追加が必要なこと、また防音目的ではすき間をつくらないこと、つまりしっかりとした施工が第一と考えていたことから、採寸と取り付けのどちらもプロに任せることにした。
Webサイトで申し込み、見積もりを確認した後、出張採寸の日程を調整。概ね最短の日程で進めたが、申し込みから9日後に採寸が行なわれた。採寸した2日後に最終的な見積書兼請求書をメールで受け取り、代金を振り込んで正式な注文となった。注文した内窓に使う「防音合わせガラス」は製作に1カ月程度かかると案内され、最短で調整した施工日は、正式注文から3週間後に決まった。
二重サッシの内窓として使うサッシは、LIXILの内窓専用商品「インプラス」で、防音合わせガラスは銘柄が事前に分からなかったものの、納品されたのはAGCの「ラミシャット」(ラミシャット30)だった。
二重サッシは遮熱効果が高いことも大きな特徴だが、さらに外の暑さや寒さを室内に伝えにくい素材として、インプラスの表面パーツは樹脂製になっている。施工されたサッシをみると、気密性を高める工夫としてパッキンやブラシなどもしっかり装備しており、簡易的なサッシではなく、現代的な仕様の立派なサッシだった。
防音合わせガラスとは、1枚のガラスではなく、透明な防音特殊フィルムを2枚のガラスで挟み込んだ防音用のガラスだ。合計のガラスの厚さは約6mm。ガラス単体でもT-2等級相当という遮音性能を実現しており、広い帯域で遮音効果を発揮する。また紫外線カットの性能のほか、その構造から防犯ガラスとしても機能する。遮音効果を発揮するにはサッシの気密性も重要になってくるが、前述のようにインプラスは現代的な造りで、気密性の高さも確保されている。
マンションの外窓が現代的なサッシだったなら、防音合わせガラスではなく普通のガラスで二重サッシにするだけでもよかったかもしれないが、筆者の物件のサッシは前述のようにすき間だらけで遮音効果が著しく劣っており、二重サッシにするとはいえ遮音効果はまったく期待できない状況だったので、内窓に遮音性能をできるだけ盛り込んだ形だ。
二重サッシの施工、運命の日
入居からちょうど1カ月後の施工日に、3名の作業員が訪れた。朝の9時から作業を開始し、1時間の昼休憩を挟んで14時半頃に作業が完了した。作業時間は5つの窓でおよそ4時間半といったところだ。3名のうち2名は採寸時に来た人と同じだったため、情報の引き継ぎに齟齬などはなく、安心して任せられた。
ふかし枠の追加がある窓は、施工が始まってから、アルミ製の部材の一部をカットするなど微調整があったほか、樹脂製のカバーも一部のサイズを調整していた。また、室内に突き出たふかし枠の樹脂製カバーと壁の間をコーキング材で埋めるなど、気密性を重視した丁寧な作業をしてもらえた。ふかし枠の必要がない窓も、木枠の裏の壁の内部が一部でコンクリートになっており、ビスの種類を変える必要があるなど、臨機応変に対応してもらった点がいくつかあった。パッと見では分からない、イレギュラーな点もある古い物件ということで、施工までプロに任せたのは正解だった。サッシを装着した後も、スムーズに動いたり鍵がちゃんと開閉できたりするよう建付け調整が入念に行われ、サッシやガラスがピカピカに磨かれて、施工が完了した。
冷静に振り返ってはいるものの、物件を決め住み始めてから、この日の二重サッシの施工が終わるまで、「静かにならなかったらどうしよう……」という不安は拭えず、気が気でなかった。思ったように静かにならなかったら、「うるさくて住居向きでない物件を買って、我慢して住んでいるヤツ」という、気が重くなる状況が今後10年、20年という単位で続くことになるのだ。その意味では、人生最大級の買い物に対して、けっこうなギャンブルだったと言えるかもしれない。
しかしそうした不安は、最初に施工が完了した寝室に入って、消え去った。明らかにそれまでより静かで、シンとしていたのだ。ひどいマイナスから、プラスマイナスゼロの環境になったというだけのことではあるが……。
寝室は窓が1つだけで、ほかの部屋と隣り合っていないほか、エアコン以外に音を出す装置がなく、音を吸収しやすいベッドや服が多いこともあるが、常に街の喧騒が聞こえていたそれまでと比べて、至極まっとうな、普通の住宅街にある部屋のようになっていたのだ。
ちなみに、防音合わせガラスを入れた内窓5点で約40万円。搬入・荷揚げ・工事・ふかし枠工事など諸費用などを入れると合計で約55万円(税込)だった。防音合わせガラスは、内窓として選べるガラスの中では最も高い部類だが、最初からマンション購入費用の一部と捉えていたので、高いとは思ってない。
二重サッシの効果、数値と感覚
二重サッシの導入にあたっては、予め騒音計を用意し、居住環境がどのようなレベルの騒音なのか計っておいた。騒音計は安価な製品なので絶対値としてどこまで信頼できるのか分からないが、相対的な変化は確認できる。
そもそも静かな環境やうるさい環境がどのような数値になるのかだが、ざっくりと、平均的な騒音が40dBを下回ると「明らかに静か」と感じ、静かであること自体が意識される。
40dB前後が「静か」で、40dB台の前半も、一般的には図書館レベルとされ、作業に集中できる環境といえる。50dB台に入ると、騒音があることを意識するものの、「騒がしいが作業はできる」といった塩梅。60dBを超えると「明らかにうるさくて不快」となる。閉め切った住宅の中で測定して騒音が60dBを超える場合、爆音で走る車やバイク、緊急車両のサイレンなど、一時的な騒音の場合がほとんどだ。しかし瞬間的とはいえ60dBを超えるような音は、集中が途切れて意識がその音に持っていかれ、明確に不快と感じ、イライラするレベルだ。
二重サッシを施工する前、PCデスクの前に座って実際に騒音を測定すると、日中の平均的な騒音は40dB台後半～50dB台前半だった。騒音の多くは、マンションから20m程度しか離れていない大型幹線道路を走る車・バイクによるもので、交通量が多い日中は平均で50dB台、信号などで流れが止まると40dB台後半に落ちるという具合だった。深夜になると平均は40dB台前半にまで落ちていた。緊急車両のサイレンや爆音のバイクなど突発的な騒音は60dBを超えていた。
測定値だけでなく聴感上も、古いサッシだけの環境では「外が騒がしい」ことが明確に分かり、道路の交通量が多い・少ないことが自然に把握できるレベルだった。集中を削がれるレベルでなくても、意識のどこかで「車が多いな」「今は車が少ないな。信号が赤なのかな」と感じているのだ。
二重サッシの施工が完了し、PCデスクの前で測定してみると、日中でも安定して40dB前後になり、夜間には39dB前後になった。これまであまり音がしないと感じていたPCの動作音は、実は外からの騒音で紛れていただけで、二重サッシの環境では相対的にPCの動作音が気になるようになったほど。閑静な住宅街とまではいかないが、常識的なレベルの静かな環境になったと感じた。外の音を意識することが少なくなり、作業により集中できるようになった。寝室は夜間には安定して36dB前後にまで下がり、「かなり静か」と感じられるようになった。
もちろん、大きな騒音が消えて無くなるわけではない。平常時との差が大きい、爆音で走る車・バイクや、緊急車両のサイレン、緊急車両が赤信号の交差点に進入する際の拡声器でのアナウンス、わけのわからない団体の街宣車による演説などが、相対的に「大きい音」として感じられることには変わりがない。
すぐそばの幹線道路では、これらが1日に10～20回は通過する。ただし、この突発的な騒音も、二重サッシ施工後はおおむね50dB台に収まっているため、それまでより「遠くの音」のように聞こえるようになった。感覚的にも「通過するのを意識はするが、イライラするほどでもない」というレベルだ。
ざっくりと測定値をならべると、二重サッシ施工前は平均が50dB、突発的な騒音が60dBといったところ。施工後は平均が40dB、突発的な騒音が50dBになった。二重サッシにより、それぞれ10dB下がった格好だ。
騒音計の測定値からは見えてこないものの、ほかに大きな効果だと感じたのは、防音合わせガラス「ラミシャット」(ラミシャット30)の特性のおかげか、人の声の帯域を効果的に低減している(ボカしている)点だ。防音ガラスとして一般的なようだが、ラミシャットは低音域より中音域、中音域より高音域をより低減させる特性で、人の声なども通りにくくなっていると感じる。
前述の緊急車両や街宣車の拡声器によるアナウンスも、以前は何を言っているのか聞き取れたのだが、二重サッシの施工後は、何と言っているのか、モコモコして内容をほぼ聞き取れなくなった。大きな音であることは変わらないが、内容が分からない雑音になることで、意識の外に追い出しやすくなった。
今のところ例外は、拡声器で音声アナウンスを出しながらゆっくり走行する「廃品回収車」だ。おそらくどのご家庭でも「うるさいな」と感じていると思われるが、二重サッシ施工後の環境でも、音は小さくなっているものの、アナウンス内容が聞き取れる程度に音が貫通してくる。
実際のところ、室内に入ってくる音で最も意識を持っていかれるのは、こうした人の声だ。向かいのパチンコ屋の出入口が開いた時に漏れ出てくる店内アナウンスも、以前は「ぇ本日はご来店、ぇまことに、ありがとうございます。ぇ当店では現在……」などと内容がすべて把握できてしまっていた。しかし二重サッシと防音合わせガラスの環境では、中高音域の遮音効果のおかげか、パチンコ屋の出入口が開いたかどうかはほぼ分からなくなり、店内アナウンスが漏れ出た場合も、何と言っているのか分からなくなった。
週末の、階下に連なる飲み屋の酔っぱらい客の深夜の常軌を逸した叫び声・奇声には、正直なところイライラさせられていたが(物件の内見時に予想していたことでもあるが)、こうした大声も「何か大声で喋っているな」という程度になり、モコモコして内容は聞き取れなくなった。
高い遮音効果、見た目も現代的に
結論として、二重サッシの施工は思っていたような遮音効果が得られ、大成功だった。
のだが、引っ越しの一連の流れの中では、嬉しいというより「ホッとしている」というのが正直な感想だ。今後10年や20年といったレベルの期間、穏やかな暮らしができるかどうかを左右する部分だっただけに、常識的なレベルの静かな環境が得られて一安心だ。また室内から出る音の遮音効果もあるため、映画や音楽なども、窮屈な思いをすることなく楽しめそうだ。
防音以外の面では、遮熱効果と見た目が挙げられる。窓は南側と西側に集中しているため、夏は部屋の温度が上がるのを防ぐ効果を期待できそうだ。もっとも、物件の階上は平坦な屋上で、コンクリートが温められることによる天井や壁から室内への熱放射がそれなりにあるため、部屋が温まりやすい環境であることには変わりはないのだが。冬の断熱効果、保温効果にも期待したいところだ。
あまり想定していなかったのは、見た目がスッキリしたこと。通常、二重サッシは分厚くて窓周辺がごちゃっとしてしまうイメージだが、フルリフォームが済んでいるこの物件において、年代物で傷だらけの銀色のアルミサッシは、そこだけ時間が巻き戻ったかのように周囲から浮いている存在だった。しかしスッキリとしたデザインの樹脂製のサッシで覆ったことで、少なくともサッシの浮いている感じは後退した。古いサッシが見えなくなったわけではないが、パッと見の印象はクリーンで少し現代的になった。
汚部屋の歴史を繰り返さない決意。生活スタイルを一新
二重サッシの施工で想像していたような効果が得られ、新居の「騒音の面では我慢が必要で、それほど住居向きではない」という、割と深刻な逆境を好転させることができた。
あとは、汚部屋の歴史を繰り返さないよう、収納や、こまめな廃棄を心がけていく生活が重要になる。引っ越し作業や新たな買い物で、たくさんの空の段ボールが発生したが、今のところ、「いつか使えるかも」などと考え、畳んで取っておくことはせず、すべて捨てることに成功している。
風呂やトイレもピカピカの新品なので、それを維持できるよう頑張って掃除している。これまでの汚部屋は友人を招くことすらはばかられ、まれに面白がって来る友人には「恐らく想像を超えており、精神的に何かしらのダメージを負う」と入念に警告する必要があったが、今なら普通に来てもらえる(世間の状況的には難しいところだが)。
結局のところ、20年以上にわたる一人暮らしでひどいマイナスに傾いた生活スタイルを、強引にゼロに戻したということに過ぎない。
また、自宅にいる時間が今まで以上に増えた昨今は、生活スタイルと仕事が融合してしまう状況ともいえる。いや、単純に汚部屋の中では仕事ができないという切実な理由もあったのだが……このタイミングで諸々のリセットを図れたのは、ギリギリ間に合ったというところだろうか。
ひとまずは新生活を楽しみつつ、普通を上回る、自分なりの生活スタイルを模索していきたい。