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「自分の走り」を知る。カシオとアシックスがランニングで組む理由
2020年2月13日 08:15
カシオとアシックスは、ランナー向けサービスを共同で開発する。腰に装着した「モーショントラッカー」でランナーのフォームや動きを検出・解析し、アプリで詳細なデータやフォーム改善のための助言を行なうなど、「ランナーの成長」を支援するサービスを目指す。
カシオは、腰に装着するモーショントラッカーを開発。アシックスは、シューズ開発で培ったスポーツ工学のノウハウやデータを提供し、カシオのセンシング技術や運動解析技術と組み合わせて、ランナーに役立つサービスを目指すという。
その新サービスが、2月12日から14日まで東京ビッグサイトで開催される「第6回ウェアラブルEXPO」で初披露された。そのサービスの狙いや目標をカシオの山本氏とアシックススポーツ工学研究所の平川氏に聞いた。
「腰」がランニングで重要なわけ。靴はアシックス以外でも……
新ランニングサービスは、モーショントラッカーとアプリを組み合わせ、ランニングデータを検出・蓄積し、ランナーのフォーム改善やタイムの向上を図る。また、継続的にランニングを促し、ランニングの「楽しさ」を広げることも目的という。
ハードウェアの開発はカシオが。モーショントラッカーの重量は40g。外形寸法は40×62×18mmで、クリップで簡単に腰に装着できる。9軸センサー(加速度・ジャイロ・磁気)、気圧、GPS、GLONASS、みちびきなどのセンサーを搭載し、ランナーの動きを検知する。バッテリは15時間駆動で防水(IPX7)仕様。Bluetoothでスマートフォンやスマートウォッチとも連携する。
「使用しているセンサーは特別なものではない」とカシオ山本氏。ただし、腰に装着しながら、正確なランニングデータを取るためには実装などにもノウハウが必要で、カシオ独自で実業団や大学の陸上部などと連携し、ノウハウやデータを蓄積してきたという。
もっとも、カシオだけでランニングデータを取得するのは限界がある。そこでアシックスに相談したことが、今回の協業のきっかけだという。
気になるのはモーショントラッカーの装着場所が「腰」ということ。ランニングの場合、地面に近い足のほうが精度が高そうだし、アシックスがno new folk studioと協業して、CES 2020で発表したシューズも「シューズの中」にセンサーを内蔵していた。
カシオの山本氏によれば、「腰への装着でも、(足の)接地位置や時間はかなりの精度で取れ、正確性は確認できている」とのこと。加えて。アシックス平川氏は「ランナーの指導」を考えると、腰に設置するメリットは大きいという。
平川:ランナーの指導のためには、体全体のデータが取れるということが重要です。ランニングで重要なのは、「身体重心をいかにブレなく前に効率よく進むか」ですが、腰では効率的にデータが取れます。また、腕振りと足の運びは逆の動きをしますが、そのハブになるのが腰と骨盤です。単純な偏心や力だけでなく、ジャイロで回転や傾きを採ることで、その人の特徴が腰の動きに現れます。これまでは腰(への装着)で(足の)設地位置を採るのが難しかったのですが、今回のカシオの技術はこの点が優れていました。これも協業のきっかけになりました。
山本:我々の開発でも、足や腕、沢山センサーをつけて試しましたが、実際にはユーザーさんにそんなに沢山着けてもらうわけにはいかない。全体のデータを取れるとなると「腰」。そこからスタートしてアシックスさんとも合意できました。
ただし、腰にモーショントラッカーを装着するとなると、実はシューズはアシックス製でなくても使えてしまう。その点は、アシックスとしてどう考えているのだろうか?
平川:ビジネス的な話を一旦置いておくと、目標は「ユーザーのよりよい走りのため、自分を見つめて成長するという体験」です。そのゴールのためには腰が良く、その提供価値はブレないようにしたい。シューズの販売はもちろん重要ですが、一方で「コト」を事業にしていくアプローチも必要だと考えています。
ビジネス展開の詳細は決まっていないが、ハードウェア販売だけでなく、サービス契約での収益化を目指していく方向という。
カシオ山本氏は、「ハードの売り切りだけではなく、サービスが主体でやっていきたい。最初はモノありきかもしれませんが、将来的にはサービスを真ん中に据えていきたい、という話をしています」と語る。
ランナーのための評価手法。自分の走りが「わかる」
アプリでは、速度やピッチなどの基本情報のほか、「負担の少ない接地」「安定した姿勢」「巧みな動き」「動きの力強さ」「スムーズな重心移動」などの特徴をレーダーチャートで評価。さらに、走りの特徴から分析した「コーチング」も行なう。アシックスがこの協業で重視しているのも、「評価とコーチングの部分」という。
平川:どういった情報をランナーに見せると、行動を起こし、変えやすくなるか。ランナーに網羅的な情報を伝えるにはどう提案したらいいか、といった部分を提供しています。アシックスでは『ランニングラボ』というコーチングサービスで、何千のフィードバックを集めています。そのデータやパーソナライズの手法をアプリでも展開していきます。
カシオ山本氏も、「カシオだけでは、ランナーの皆さんへの『伝え方』がわかりません。ランナーに伝えたい『価値観』を、アシックスさんに定義していただいています」と、アシックスのノウハウが重要と語る。また、ランナーのデータが集まることでさらなるパーソナライズや、走りの特徴にあわせた提案が行なえるようになるなど、「進化」も見込めるという。
フォームの改善提案だけでなく「総合スコア」として、利用者の走りを評価。アシックスのエキスパートを100点とし、フォームの完成度や安定度などを評価。「70はフルマラソンを何度も完走している人というイメージ」(平川氏)とのこと。走りの改善をスコアで示すことで、ランナーに継続的にランニングに取り組めるよう促していく。
また、一定の距離ごとにスコア化するため、「坂道に弱い」、「20kmを超えると疲れてフォームが崩れる」といったことがわかるという。
G-SHOCKやApple Watchとも連携。ランナーのためのサービスに
開発を進めてカシオが気づいたのは、「人によってフォームが全然違う」ということ。当初カシオが集めたのは、大学の陸上部や実業団のデータだったが、アシックスの幅広い利用層のデータをみて、モーショントラッカーの検出アルゴリズムの調整なども必要となったという。
すでにサービスの基本的な部分はできているが、現状できないこともある。例えば、「ランニングの定義は、『足が両方とも空中に浮いている時間がある』です。なので、片方着いているとウォーキング。ウォーキングの場合は検出できません(山本氏)」。
価格や販売ルートなどは、まだ検討中。今後ランナー向けのイベントなどに出展し、ニーズを把握することで、販路や価格、サービスのあり方など、ビジネスの詳細を詰めていく。
カシオとしては、G-SHOCKやアウトドアウオッチ「PRO TREK」などとの連携も想定。アプリを予定。G-SHOCKやPRO TREKでスタート/停止のほか、距離や速度などの基本的なランニングデータ、さらにコーチングの意識付けなどを提供し、同社製品・サービスとの連携を強化。また、Apple Watch向けのアプリ提供も予定としている。
また、使い続けることでサービスがより良くなることを活かし、長く使ってもらえるサービスを目指す。「使い続けるとデータが貯まっていき、さらにパーソナライズされたものになります。ランナーに寄り添うものにしていきたい(アシックス 平川氏)」。