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「マイナンバーカード」とはなにか。作るべき? 必要性を考える

行政・税金に関する事務の効率化などを目的に「マイナンバー」制度がスタートしたのは2016年1月のこと。年が明ければ4周年となりますが、まだまだ「どんなものか、よくわからない」「なんか郵便で届いたけど、ほったらかし」なんて方が多いのではないでしょうか?

そんな中、いま政府が猛プッシュしているのが、本稿でメインテーマとして取り上げる「マイナンバーカード」です。このカードの取得は、あくまで国民1人1人の任意。必要が無ければ、無理に作る必要はありません。

ただそれでも政府は、さまざまな案を講じて、マイナンバーカードの取得を奨励しています。この波に乗ったほうがいいのか、それとも……? 具体的なメリット・デメリットを上げながら、探っていきます。

マイナンバーカードは身分証明書。発行無料、未成年&免許返納者にピッタリ

マイナンバー“カード”は、マイナンバーやマイナンバー通知カードと違い、公的な身分証明書として、広く一般的に通用します。この事実こそが、マイナンバーカード要・不要論を語る上での軸になるといって、差し支えありません。

マイナンバーカードは、プラスチック製のカードで、サイズはクレジットカード大。表面には申請者の名前、住所、生年月日、性別に加え、顔写真のほか、発行者名(おもに市町村首長)、有効期限が印刷されてます。また臓器提供意思表示欄も設けられています。

そして裏面は12桁のマイナンバーと、そのマイナンバー12桁を変換したQRコードが同じく印刷されています。また、カードの機能として、ICチップおよび磁気ストライプによるデータ読み込みも可能です。

実物に触ってみるとわかりますが、マイナンバーカードは運転免許証とかなり似ています。また「公的な身分証明書として使える」とのお達しが内閣府から出ており、店などで身分証明書としての利用を拒否されたなら、それは店側の不勉強です。

マイナンバーカードの表面(モザイクばっかりですみません)。カードのサイズ感がおわかりいただけるかと。またプラスチック製でしっかりとした造り
裏面。ちなみに左下のQRコードはマイナンバーそのものなので、気軽に他人に見せないように

ここでよく出るのが「運転免許証あるから、いらないんじゃない?」論。

まさにその通り。運転免許証をお持ちの方は、作らなくて大丈夫。あくまで取得は「任意」で、「義務」ではありません。

その一方で、免許証をお持ちでない方も沢山います。若年層ではあえて運転免許証をとらなかったり、免許を持てないといった方もいらっしゃいます。また高齢者を中心に免許を返納してしまった場合は、身分証明書類がなくなって地味に困るという声をよく聞きます。

ですので「身分証明で困っている」という方は、今すぐマイナンバーカードを取得すべきです。なんといっても発行は無料。原付免許は試験やら発行手数料やらで数千円かかり、更新もしていかねばなりません。その点、マイナンバーカードは一応タダですから!

なお、マイナンバーカードの取得は15歳以上になれば自分自身で可能になります。15歳未満でも保護者を代理人とすることで、やはり取得可能です。

そしてマイナンバーカードの有効期限は通常、「カードの発行から10回目の誕生日まで」ですが、発行時に20歳未満の場合は、これが「5回目の誕生日まで」となります(ICカード内電子証明書の有効期限はいずれも、発行の日から5回目の誕生日まで)。

オンラインサービス利用でも本人確認は必要~覚えておこう「eKYC」

最近は、ありとあらゆるサービスがネット対応になってきています。通販やコンテンツの購入などは代表格。あまりにも当たり前になったため、ネット未対応のサービスは「なんで、これがネットで済ませられないの?」と思うこともしばしばです。

ただ、そこで難点だったのが「本人確認」です。特に銀行口座や証券口座の開設、保険の契約、携帯電話の新規申し込みは、「犯罪収益移転防止法」「携帯電話不正利用防止法」などの法律に基づいた厳密な本人確認が求められています。

身近なところでは、PayPayやLINE PayなどのQRコード決済サービスにおいて、送金の受取、チャージ分の払い出し(現金化)といった付帯機能を利用する場合に、やはり犯罪抑止の観点から本人確認が求められるケースが多いです。

もともと金融機関などでは、本人確認に関わる事務一般を「KYC(Know Your Customer)」と呼んでいたようですが、Impress WatchのようなIT関連メディアでも、KYCという言葉を見かける機会が増えました。

こちらは三井住友銀行の「口座開設」アプリ(Android版)の画面。免許証と並んで、マイナンバーカードでの本人確認に対応している

では、実際のところ、スマホやPCでどうやってKYCをするのか? 身分証明書を写真撮影して送信し、さらに書類を郵送して届いたかどうかをチェックする2段構えの方法が一般的です。

ただ最近は、スマホでの“自撮り”を組み合わせ、書類の到着を待つことなく即座に手続きを完結させられるケースが増えてきました。こちらの手法は「eKYC」とも呼ばれます。

また、マイナンバーカードのICチップには、電子証明書などを格納することができ、政府以外の民間機関がそのデータを利用することも可能です。マイナンバーカードが普及すれば、このICチップをスマホのICカードリーダー機能で読み取るというアプローチでのeKYCが、民間にも広がるかも知れません(政府ではすでに行なわれています)。

今後、金融サービスがより発展し、身近になっていく中では、KYCが求められるシーンはますます増えるはず。例えば中古車取引、不動産契約なども、すべてデジタルで完結させたいというニーズも、潜在的にあるでしょう。そうなった時、マイナンバーカードの出番もまた、連動する形で多くなりそうです。

「マイナンバー」と「マイナンバー通知カード」と「マイナンバーカード」

ここまで「マイナンバーカード」の話をしてきましたが、実際のところ「マイナンバー」「マイナンバー通知カード」とは、似ているようで概念がやや違うことにはお気付きでしょうか? 下表をご覧ください。

マイナンバー

住民票を有するすべての人に付与される「番号」単なる番号のため、実態はない

マイナンバー通知カード

マイナンバー所持者全員に郵送される紙製カード。顔写真、身分証明機能なし

マイナンバーカード

マイナンバー所持者が任意に手続きを行ない、取得するプラスチック製カード。顔写真・身分証明機能あり

好き嫌いはいくらあろうとも、マイナンバーはすでに日本の住民票を持っているすべての人々に付番されています。「いらない」「使いたくない」と思っても、短期的には覆りません。

12桁の数字からなり、生涯を通じて1つの番号を使い続けるのが原則。そして、国の行政のうち「社会保障」「税」「災害対策」の3分野に限って、その利用が認められています。逆にいうと、この対象以外で(数列としての)マイナンバーを使ってはいけません。

国であっても、前述の3分野以外ではマイナンバーは使えません。法務局での不動産登記においては、住民票の写しを提出する必要がありますが、その際には「マイナンバーの記載されていない住民票」が必要なほどです(将来的に使える領域が増えていくと予想されますが)。

そして通知カードは、このマイナンバーを本人に知らせるための手段です。保管や携帯を考慮してカード型になっていますが、基本的にはそれだけ。ただ、確定申告の際に税務署に通知カードを見せたり、あるいはコピーを提出するといったケースは一部あります。

通知カードの見本画像(総務省のウェブサイトより引用)。紙製で、健康保険証とほぼ同じ質感

対してマイナンバーカードは、「マイナンバーの数列が記載されたカード」という意味では通知カードと似た存在感ですが、国が認める身分証明書機能(顔写真あり)が付与されている点において、用途が根本的に異なります。ですから「通知カードがあるからマイナンバーカードは要らない」というのは、ややヘンな発想です。

具体的な例を見ていきましょう。レンタルビデオ店に新規入会するにあたって、マイナンバーカードを店に見せて、本人確認を行なうのはOK。しかし店側が確認していいのは氏名、住所、カードの有効期限などに限定され、数列としてのマイナンバーを見たり、控えたりするのはダメ。ここがちょっと難しいところです。

民間企業にお勤めの方が、人事部にマイナンバーを伝えたのは、あくまで国の「税」事業の一環。見かけ上は会社にマイナンバーを見せたことになりますが、それは法律で認められていることから……という訳です。

個人的には、「マイナンバーカードは身分証明書である」と考えるのが、最もシンプルかと思います。ただ、その上で、マイナンバーが“一緒に”確認できたり、将来的な機能拡張を期待できるというのが、免許証と比べた場合のメリットであり、同時にデメリット(機能が増えて分かりづらい等)と言えましょう。

マイナンバー(12桁の数字)誕生の歴史と、その発行の狙い

マイナンバーとは略称で、正式名称「個人番号」。国民1人1人に異なる番号を割り当てて、行政の効率化、利便性の向上を図るための方策として、2009年に導入の検討がスタートしました。

番号による行政・税制の効率化は海外で先行しており、特に北欧などではその効果を発揮しているとされます。一方の日本では「国民総背番号制」などと揶揄され、導入は根強い抵抗感がありました。この遅れを取り戻し、より先進的なシステムを作ろうという発想が、マイナンバー制度導入の一因でしょう。

2013年5月にはマイナンバーの関連法4つが公布。以後、導入に向けた動きが本格化していきました。そして2015年10月頃からマイナンバー通知カードの送付が段階的に行なわれ、翌2016年1月には、マイナンバーカードの発行がはじまるなど、制度の本格運用がスタート。確定申告書へのマイナンバー記載が行なわれるようになったのは、2017年2月以降のことです。

現状のマイナンバーカードでできること

さて、ここからは、マイナンバーカードを取得することによって何ができるかを、もう少し具体的に見ていきます。

身分証明書として使える

最重要事項ですが、ここまですでに文章を割いているので省略。

オンラインでの確定申告に使える

身分証明書以外でのマイナンバーカード活用法ナンバー1は、現状では間違いなく「オンラインでの確定申告」です。

毎年2~3月は、その前年の収入や支払い保険料、医療費などを計算し、所得税・市県民税額などを算出する確定申告のシーズンです。会社員の方にはなじみが薄いかも知れませんが、フリーランスで働く個人事業者、自営業者にとっては一大行事。

もともとは専用の書類に金額を書き込み、郵送する方法が一般的でしたが、近年はオンラインでの申告が可能になっています。そのオンライン申告にマイナンバーカード(より正確には、マイナンバーカードのICチップ内電子証明書を用いての本人確認)が欠かせません。

ただし2020年2月の確定申告からは、ICカード読み取り機能を備えたスマートフォン(iPhoneの一部モデルを含む!)とマイナンバーカードを組み合わせて、電子手続きができるようになります。従来と比べて飛躍的な機能進化です。マイナンバーカード普及事業における“キラーコンテンツ”になり得ます。

一応、マイナンバーカードを使わずにID・パスワードで行なう方法もあるにはあるのですが、あくまで暫定的な処置とされ、税務署に足を運んで対面で、本人確認も必要になります。マイナンバーカードによる電子申告であれば、税務署に一度も足を運ぶことなく、完了させられます。

住民票・印鑑証明類がコンビニで発行できる
マイナンバーカードがあれば、コンビニで住民票がとれます。通知カードでは無理

マイナンバーカードがあれば、コンビニエンスストアに設置されたマルチコピー機を使って、役所の窓口に足を運ぶことなく、住民票・印鑑証明といった公的証明書類を入手できます。

発行は原則リアルタイム。申請だけして後から郵送されるという意味ではなく、マルチコピー機で直に証明書類を印刷できます。ただし利用は基本的に6時30分~23時00分だけ、入手できる書類の種類は発行元市町村によって多少異なります。

また実施時自体はそれほど多くないものの、窓口交付より100円値引きする等の対応が行なわれているケースがあります。

利用者は、マイナンバーカードと暗証番号(同カード発行時に自分で決められる)、あとは手数料さえ準備すればOK。

「マイナポータル」が利用できる

2017年11月、政府によるオンラインサービスをとりまとめたウェブサイトとして、「マイナポータル」の本格運用がスタートしました。自分自身の情報について、行政側がどのようなデータを保有し、どのようにやりとりされているか、確認できます。ちょっと指定が面倒ですが、確定申告の結果なども、ここに保存されています。

「マイナポータル」

また、地域や興味ジャンルを指定すると、いま行なうべき申請・届出をリストアップしてくれる「ぴったりサービス」もあります。例えば「妊娠の届出」であれば、ブラウザーから氏名などを入力し、プリンターで申請書類が印刷できるので、窓口手続きが簡単になります。

「児童手当等の現況届」など一部手続きは、このぴったりサービスから直接、電子申請ができます。実際にはマイナンバーカードだけでなく、書類原本の提出が別途必要であったり、PCからの利用にはICカードリーダーを用意しなければならない等の条件もありますが、それもスマホの登場によってだいぶ変わってきています。

子育て、介護などでお忙しい方は、電子申請のメリットは特に大きいはず。また政府方針として、行政の電子化は今後間違いなく進むとみられますから、やはりマイナンバーカードの利便性は今後高まるでしょう。

マイナポータルへのログインには、マイナンバーカードが必須。NFC対応スマホの場合、マイナンバーカードをタッチしてログインします

もう動き出している「マイナポイント」 2020年度スタート?

「免許証があればマイナンバーカードは要らない」──これはある意味、正しい認識です。繰り返しになりますが、手軽かつ有効に身分証明できる手段がある方は、特に取得しなくても問題ありません。ただし「2019年の時点では」ですが。

というのも、政府はマイナンバーカードの普及を目指して様々な施策を展開しており、その際のキーワードが「身分証明書以外での活用」だと言えます。

直近で取り沙汰されているのが、マイナンバーカード所有者向けのポイント還元施策。2020年度の実施に向けて、総務省はすでに予告サイトもオープンさせています(マイナポイントWebサイト)。実施はほぼ確定的でしょう。

2020年度実施予定のポイント制度について、すでに予告サイトが立ち上がっています

この「マイナポイント」利用にあたっては、まずマイナンバーカードと決済サービスを紐付けし、その上で口座にチャージしたり、あるいは店頭で決済を行なうことで、プレミアムが付与される仕組みとのこと。新聞報道によれば、実施期間は2020年9月から2021年3月まで、ポイント還元率は25%、上限額が5,000円とされています(出典:朝日新聞)。○○ペイの還元祭を彷彿とさせますね。

具体的な制度運用にはまだ未定の部分が多いですが、少なくとも「マイナンバーカードを持ち歩いて店で見せる」という事にはならなさそう。あくまでマイナンバーカードと、マイナンバーカード取得者のみ発行できる「マイキーID」、各社の決済サービスを紐付けるだけ。あとは特に意識せず普段通り決済すればよい仕組みとなりそうです。

2021年3月からは健康保険証代わりに 引越し・死亡の手続きもワンストップ化

そして、さらに大きいのが、マイナンバーカードを健康保険証として利用する制度です。2021年3月から本格運用をスタートするとの方針が各省庁の資料でも示されており、こちらもやはり待ったなしという状況。「2022年度中に概ね全ての医療機関での導入を目指す」とされています。

これについては、やや情報が錯綜していますが、既存の保険証が使えなくなる心配は無いようです。マイナンバーカードも保険証として使えるようにしつつ、無資格受診抑止に繋がる「オンライン資格確認」を導入するのが、直接的な波及効果になっていくのでしょう。

また、前述のマイナポータルでは2019年度以降に「引越しワンストップサービス」「死亡・相続ワンストップサービス」を順次導入することが、ロードマップで明らかになっています(マイナンバー制度導入後のロードマップ(案))。

こちらはマイナンバーカード関連のロードマップ。ちゃくちゃくと新機能・新制度が盛り込まれていくようです

引越しの場合、転出届をとり、さらに水道・電気・ガスなど各種公共サービスの手続きを同時に行なうことになりますが、これらを一括オンライン処理したり、全ては無理でも必要な案内を適宜送る等の対応が想定されています。

また、死亡者の手続きについても極めて煩雑なことが知られていますから、部分的でもワンストップ化されれば、大きな効果が出そうです。

マイナンバーカード作るのはお好みで。政府は本気っぽい

財布にマイナンバーカードを入れておく機会が、今後は増えるかも

筆者の場合、運転免許証を持っているので、マイナンバーカードの必要性は決して高くありませんでした。しかし、オンライン確定申告には、マイナンバーカードがあったほうがいいのは事実。よって、それまで使っていた住基カードの期限切れを待って、マイナンバーカードに切り替えました。

人それぞれ事情があるため、「マイナンバーカードを作った方がいいか?」と聞かれれば、それは「人による」と答えます。ただ冒頭からの繰り返しになってしまいますが、運転免許証を持たず、健康保険証やパスポートで身分証明をしているくらいなら、それはもう絶対的にマイナンバーカードを作った方がいいでしょう。これは断言します。

日本政府は「世界最先端デジタル国家創造宣言」をとりまとめており、行政サービスの100%デジタル化などが具体目標に掲げられています。この実現にむけて、KYCとマイナンバー確認が一度にできるマイナンバーカードは、一定の効果を発揮すると思われます。

また、政府の普及推進策は、かなり本気のようにみえます。保険証としての使い道以外に、公務員・民間企業における「職員証」活用が一部ではじまりました。持っておけば、なにかと便利な時代がくるのは間違いなさそうです。