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キャッシュレス決済の基本(3)。電子マネーと国内外の非接触決済事情
2018年12月29日 09:20
キャッシュレスの歴史や経緯、現状などをまとめた連載の第3回。今回は、電子マネーやスマートフォンにおける非接触決済などの最新の決済手段について解説したい。
【第1回】決済の手段
【第2回】クレジット/デビット/プリペイドカード
【第3回】電子マネーと国内外の非接触決済事情
【第4回】なにかと話題の「QR決済」
タッチで簡単に支払える電子マネー
クレジットカードのようにカードを使った支払い方法の1つであるプリペイドカード。これは事前に現金を入金(チャージ)して、その範囲内で代金を支払う手法だ。このプリペイドカードと同様の使い方をするのが「電子マネー」だ。
電子マネーという表現は対象範囲が広いが、日本の決済周辺で使われている狭義の電子マネーの定義として、発行会社の専用マネーを購入して、発行会社の店舗などで現金の代わりとして使用できるサービスで、主に非接触IC決済を利用した支払いを指す。
どちらかというと、そうした定義よりもサービスをベースに説明した方が分かりやすい。JR東日本のSuica、イオンのWAON、セブン&アイ・ホールディングスのnanacoといったサービスだ。
プリペイドカードは、大雑把にクレジットカードの代わりとしても使えるように国際ブランド加盟店であれば利用できるものと、発行店舗でしか使えないハウスカードの2種類に分けられるが、電子マネーは後者に近い。
専用マネーなので、例えばJR東日本のSuicaはJR東日本の電車賃や駅キオスクといった場所でしか使えない。しかし、発行しているのが鉄道会社や大手小売なので、もともと多くの加盟店を抱えているのが大きい。
使える店舗が多くなって利用者が増えれば、その決済手段に対応する店舗が新たに増えるのも自然な流れだ。クレジットカードで言えば、発行されたカードがSuicaやnanaco、WAONであり、それを発行するイシュアはJR東日本などになる。そして、アクワイアラが加盟店開拓を行なうわけで、日本ではクレジットカードのアクワイアラが電子マネーもカバーする例も多い。その結果、さまざまな店で使えるようになっているわけだ。
SuicaはJR東日本のサービスだが、JR東日本以外の鉄道事業者もSuicaと互換性のある電子マネーを提供しており、全国で使えるようになっている。大手コンビニエンスストアをはじめとして使える場所も多い。
ただ、こうした電子マネーは非接触IC(Felica)を使っているため、特別なリーダーを導入する必要がある。このコストに加えて、クレジットカードなどと同じように決済手数料が必要になる。FeliCa自体は国際標準ながら、世界的にはほとんど広がっておらず、国内でしか使えないのはデメリットだろう。
こうした非接触IC(FeliCa)を使った電子マネーのもうひとつの形態として、「ポストペイ型電子マネー」がある。通常、電子マネーはあらかじめ購入したマネーから決済を行なうプリペイド型が主流だが、これをクレジットカードのように使えるようにしたのがポストペイ型だ。
仕組みとしては、決済時にその都度、支払金額のみを自動でチャージして、そのマネーで支払うというのがポストペイ型。事前購入の手間がないという点で、使い方としてはクレジットカードと同様になる。
日本ではiDとQUICPayという2種類のサービスがあり、それぞれNTTドコモ、JCBが開発した。基本的にクレジットカードと紐付けてチャージを行なうが、実質的にはその紐付いたクレジットカードで決済をするという位置づけのため、クレジットカードのポイントが貯められる、クレジットカードの請求をひとまとめにできるといったメリットがある。
通常、クレジットカードには国際ブランドが付与され、国際ブランドの加盟店であればどこでも使えるが、ポストペイ型電子マネーの場合、iDやQUICPayへの対応が必要となる。カードの国際ブランドとは異なる加盟店となってしまうほか、海外では一部を除いて利用できないのもデメリットだろう。
電子マネーをスマートフォンに
日本の電子マネーは物理的なカードを使い、非接触ICによるタッチ決済に対応していた。これを携帯電話に導入しようとしたのが「おサイフケータイ」だ。NTTドコモが提供した仕組みだが、ほかの携帯事業者でも対応端末を提供し、日本独自の仕組みとして一般化した。
携帯電話と融合させることで、通信を使ってサービスを強化できるのが特徴だ。残高の確認や履歴のチェック、そしてチャージをその場でできるというのは利便性が高く、チャージが必要というプリペイド式の電子マネーの課題を解決できる仕組みだ。
機能としては電子マネーであり、決済手段としては変わらない。レジのリーダーにタッチするだけで支払いができるし、加盟店もカード型と同じ。当初は携帯電話(フィーチャーフォン)向けのサービスだったが、スマートフォン時代になってスマホにも対応。日本でのスマホ決済の先駆けとなった。
ただ、利用者は伸び悩んでいる。その理由のひとつに登録などの手間があるとみられる。現金と同様に使えるおサイフケータイは、セキュリティを担保したい事業者側がさまざまな制限を加えて使い勝手を犠牲にしてしまった。
即時登録ができずに書面のやりとりが必要だったり、機種変更する際の手続きが面倒だったり、分かりにくい。そのため、カード型の電子マネーの発行枚数が伸びても、スマートフォンでの利用者が伸びないという状況に陥っていた。
そうした中で登場したのがApple Payだ。簡単な作業でiPhoneから即時にカードが発行でき、すぐに使い始められる。クレジットカードの登録もカメラでカードを読み込むだけ。決済時にTouch IDやFace IDといった生体認証を使うため、他人に使われにくいというセキュリティも確保し、機種変更も簡単に行なえる。
もともと、おサイフケータイに対応できなかったiPhoneが、Apple Payとして非接触ICによるスマートフォン決済に対応し、おサイフケータイ以上の使い勝手を示したことで、利用率は実際に向上しているようだ。
Androidに関してはもともとおサイフケータイサービスが搭載されていたが、Googleが提供するGoogle Payが、日本でもFeliCaの非接触ICサービスへの対応を始めている。現状では機能が不十分とも言えるが、使い勝手の良さは向上しており、今後の拡張が期待されている。
海外の非接触事情
さて、日本ではFeliCaを使った電子マネーが非接触決済(タッチ決済)の主流となっているが、海外ではまた事情が異なっている。
海外の非接触ICの規格はNFCだ。正確に言うと、NFCの規格としてNFC Type-A、NFC Type-B、NFC Type-Fの3種類が国際的に定義されており、このうち、Type-FはFeliCaのことだ。残るNFC Type-A/Bは、FeliCaとの対比で単にNFCと呼ばれることが多い。
このNFCを使って非接触決済を提供しているのが、日本ではNFC Pay、海外ではコンタクトレス、などと呼ばれる決済手段だ。
海外ではクレジットカードにNFCを搭載して、クレジットカードでの支払いのほとんどがNFC Payという国もある。そうした国では、クレジットカードの決済端末がそのままNFCにも対応しているので、迷うことなくタッチして非接触で支払える。クレジットカード対応店がそのまま非接触決済の対応店でもあるわけだ。
これは、国際ブランド(VISA、MasterCardなど)が直接非接触決済の仕組みを作っているからで、iDやQUICPayとは異なり、直接クレジットカードで支払っていることになる。国際ブランドは非接触決済への対応に注力しており、発行するクレジットカードをNFC対応するように求めているため、実際に新規発行カードはNFC対応という国も多いようだ。
スマートフォン決済に関しても、ほとんどのスマートフォンがNFCを搭載しているため、多くの機種でApple PayやGoogle Payのようなサービスが利用できる。
海外では加盟店が多い反面、日本ではNFCに対応したレジのリーダーが多くなかった。ただ、最近は外国人旅行客への対応を睨んでマクドナルドのような大手チェーンが対応を開始している。
また、国際ブランドの対応は日本も無縁ではなく、今後日本で発行されるクレジットカードでも今後NFC対応が増えていく。Apple Payも、当初はグローバル版ではNFC Pay、日本版ではFeliCaといった具合に対応を分けていたが、最近のモデルではFeliCaとNFCの両方に対応するようになっており、日本でもNFC Payのユーザーが増えることが予想される。
日本では、無理にNFC Payを使う必要はあまりないが、海外に行った場合に手持ちのクレジットカードやiPhoneでそのままタッチして決済ができるのは利便性が高まる。AndroidのGoogle Payが特に遅れているのはこの点だが、今後の対応が期待される。
最終回となる第4回では、最近注目を集めているQR決済について紹介する。