文具知新

ゼブラ「サラサクリップ3C」は多色でゲルインクなのになぜ細い?

私たちが巨大なペンケースにジャラジャラと色とりどりのペンを詰め込んで、どこに行くにも持ち運ぶ女子高生だった時代も今は昔。社会人になり、仕事もパソコンが中心になると、なんだかんだいって筆記用具はボールペンが1本あれば事足りる、という場面がほとんどです。

とはいえ、資料をチェックしたり、手帳に書き込んだりする際に、黒インク以外のペンが欲しいなぁと思うこともあります。でも、そのために何本ものボールペンとペンケースを持ち運ぶほどではない……。そんな社会人にとって頼もしい味方が、黒・赤・青のインクが1本にまとまった3色ボールペンです。

しかしここで、ひとつ気になる問題が。「1本なら手帳やノートのペンホルダーに挿して持ち運べるね! ペンケースもいらないから便利だな〜」と思ったら……あれ? 太すぎて入らない!? なんてことも。そう、芯が3本も内蔵されている3色ボールペンは、どうしても全体的に太くなってしまう傾向があるのです。

便利な3色ボールペンだが、太くなりがちなのが難点

従来品と比較し8%のスリム化を実現した3色ボールペン

3色ボールペンを使いたい。でも、なるべく細いものがいい。そんな3色ボールペンユーザーの望みを叶えてくれるのが今回紹介するゼブラの「サラサクリップ3C」(440円)です。多色ペンというジャンルの中では珍しい、ゲルインク(ジェルインク)のボールペンとなっています。

「サラサクリップ3C」(440円)

サラサクリップ3Cは、同社の従来品と比べて8%のスリム化と7%の軽量化を実現しています。しかも油性ではなくジェルのインクで、というところが本当にものすごくすごいのです。一体、どういうことなのか? それを説明する前に、そもそもなぜボールペンはノックして芯が出たり引っ込んだりするのか? についておさらいしなければなりません。

ノック式には欠かせないスプリングが構造のネック

ボールペンを分解したことがある人はお気づきだと思いますが、ノック式のペンには必ずスプリング(バネ)が入っています。このスプリングの力は、インクの入った芯を内側(ペン先が出ていない状態)に向かって押し込む方向に常に働いています。ペン先の反対側には、押し込まれてくる芯を受け止めるパーツがあります。ノックをすることで、このパーツの位置がペン先の「出ている状態」と「出ていない状態」の間で交互に切り替わる仕組みです。

ノック式ボールペンの仕組み(単色の場合)

このように、スプリングはノック式のペンに欠かせないパーツですが、通常は芯の周りをスプリングが囲むような構造になっています。そのため多色ボールペンでは、ペン全体を細くしようと芯を中心に寄せすぎると、スプリング同士が絡まってしまいます。それを避けるには、芯と芯の間に一定のスペースを確保しなければなりません。

スプリングが絡まってしまうので芯を中心に寄せられない

それでも細くするためにはどうすれば良いか? 従来の解決策のひとつは、芯そのものを細くすることです。でも芯を細くするということは、中に入っているインクの量とのトレードオフでもあります。

油性ボールペンの場合は、筆記時に消費するインクの量が少ないので、減らしてもある程度は書き続けられます。しかし、インクの消費量が多いゲルインクで同じことをすると、あっという間にインクがなくなってしまいます。インクがすぐになくなるペンは実用的ではありませんから、ゲルインクでは芯を細くするのにも限界があったのです。

スプリングを芯から分離するという発想の転換!

この課題への解決策として、サラサクリップ3Cでゼブラが採用したのが「サイドスプリング機構」です。従来、芯の周りを囲っていたスプリングを横に分離させることで、芯を中央に寄せられるようになり、スリム化が実現したというわけです。初めてこれを見た時には、「そんなやり方があったのか」と思わずうなりました。まさに、発想の勝利と言えるでしょう。

スプリングを分離したことでスリム化が可能に!

しかし、画期的なアイデアであるだけに、着想を得てから実際の商品として落とし込むまでには大変な苦労もあったようです。そもそも「芯の横にスプリングを配置する」という前例がないため、その機構もゼロから作らなければなりません。また、スプリングも従来のものよりかなり細くなるため、ちょうどいい強度に調整するのにも時間がかかったのだとか。商品化までには、なんと約4年もの開発期間が必要でした。

みんな大好き「サラサクリップ」のインクを搭載

芯の中のインクは、老若男女に大人気のゲルインクボールペン「サラサクリップ」(110円)と同じものが使用されています。さらさらとした軽い書き心地と、鮮やかな発色が持ち味です。先に書いた理由から、多色ボールペンといえば油性インクが主流ですので、「書き心地はゲルインクの方が好きだけれど、多色ボールペンを使う必要があるからあきらめていた」という人にとっては、貴重な選択肢となるはずです。

ゲルインクボールペンの定番「サラサクリップ」(110円)と同じインクを搭載

また、サラサクリップの流れをくむ可動式バインダークリップも気が利いています。バネが入っていてしっかりと開くことができるので、胸ポケットに挿したり、ノートの表紙にはさんだりと、持ち運びしやすいのが嬉しいポイントです。

あると便利な可動式バインダークリップ

「3色ボールペンを使いたいけれど、ペンが太くなるのはイヤ。それでいて、ゲルインクの書き心地もあきらめたくない。あ、でもインクがすぐなくなるのもイヤだからね!」そんなワガママとも言えるユーザーの要望(横暴?)にも応えてくれるなんて、ゼブラには一生足を向けて寝られないなと、感謝の念を新たにした私なのでした。

ヨシムラマリ

ライター/イラストレーター。神奈川県横浜市出身。文房具マニア。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。元大手文具メーカー社員。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。