中小店舗のキャッシュレス対応
第18回
コード決済一強のPayPay。Suicaなど交通電子マネーに迫る
2021年8月25日 08:30
先日、PayPayがこれまで無料としてきた決済手数料を10月1日から有料化すると発表したことが大きな話題となりましたが、それは国内でコード決済が大きく注目されている証しでしょう。そこで今回は、筆者の家族が経営する店、紀の善でのコード決済の状況がどのように推移しているのか、紹介します。
PayPayの決済手数料有料化は紀の善には無関係
PayPayは8月19日に、サービス開始以降一部を除いて無料としていた決済手数料を、今年の10月1日より有料化すると発表しました。
これによって、「決済手数料が無料だったからPayPayを使っていたお店の多くがPayPayをやめちゃうんじゃないか」。そう思った人もいることでしょう。また中には、紀の善はどうするんだろう、と思っている人もいるかもしれません。
そこでまず、PayPayの決済手数料有料化に対する紀の善の考えからお伝えしようと思います。
結論から言いますと、紀の善は今回のPayPayの決済手数料有料化によってPayPayの取り扱いをやめることはありません。
このニュースでは、PayPayの決済手数料が有料化されるというところが大きくクローズアップされています。確かに、これまで無料だった決済手数料が有料になるというのは、無料というところに惹かれてPayPayを契約していたお店にとってかなりインパクトのある話題なのは間違いないでしょう。
しかし、紀の善にとっては、この決済手数料有料化は全く関係ないのです。なぜなら紀の善では、これまでもPayPayの決済に対して決済手数料がかかっていたからです。
PayPayで決済手数料が無料だったのは、店が決済用のQRコードを店頭に掲示し、そのQRコードをお客様がスマートフォンで読み取って決済を行なう、いわゆる「MPM方式」で契約している加盟店だけでした。
それに対して紀の善は、リクルートライフスタイルが提供している決済代行サービス「AirペイQR」経由でPayPayを利用しています。なぜAirペイQR経由で契約しているかについては、過去連載でも紹介しているように、Airレジとの連携と、店側がお客様がスマートフォンに表示されるバーコードを読み取って決済する「CPM方式」で決済が行なえることによる利便性の高さを優先したからです。
ただ、決済代行業者経由でPayPayを利用する場合には、当初から決済手数料は無料ではありませんでした。AirペイQRの場合は、PayPayだけでなく、d払い、LINE Pay、au PAY、J-Coin Pay、WeChat Pay、Alipayなど複数のコード決済がまとめて利用できますが、決済手数料は一律3.24%となっています。
そのため紀の善では、これまでもPayPayの決済に対して3.24%の決済手数料がかかっていたのです。
もちろん決済手数料が無料の方がありがたいのは事実です。しかし、コード決済はそこまで多く使われないだろうと予想していたこともあって、決済手数料がかかっても利便性を優先したのでした。
そういった経緯もあって、今回のPayPayの加盟店手数料有料化は紀の善にとって全くの無関係ですし、これによって扱いをやめるという判断にもならない、というわけです。
とはいえ、残念な部分もあります。それは、紀の善では「PayPayマイストア」で提供される機能を利用できない、という点です。
PayPayマイストアに用意される機能では、PayPayアプリの地図上に表示される加盟店情報を編集したり写真を掲載できますし、有料オプションで独自クーポンを提供できるようになっています。また、新たに用意される「PayPayマイストアライトプラン」を契約すれば、MPM契約加盟店の決済手数料が税抜1.6%に下がるとともに、PayPayマイストアで独自クーポン提供などが可能になります。そして、鈴木淳也氏のこちらの記事で紹介されているPayPay取締役副社長執行役員COOの馬場一氏へのインタビュー(このインタビューには筆者も参加しました)で、PayPayマイストアは全加盟店で利用可能と言及されたため、紀の善でもいろいろ試してみたいな、と思ったのです。
しかし、PayPayマイストアの機能を利用するには「PayPay for Business」が利用できなくてはなりません。つまり、インタビューで馬場氏が語ったのは、正確には「PayPay for Businessが利用できる全加盟店」という意味だったのです。
ところが、決済代行業者経由でPayPayを利用している加盟店には、PayPay for Businessを利用する術が用意されていません。PayPay for Businessを利用するにはPayPayの加盟店番号と登録メールアドレスが必要となるのですが、紀の善のように決済代行業者経由での加盟店には加盟店番号が通知されていませんし、直契約ではないのでメールアドレスも登録されていないからです。
そればかりか、PayPay for BusinessやPayPayマイストアに関する情報も一切知らされていませんでした。そのため、筆者は馬場氏にインタビューするまでPayPay for Businessの存在すら知りませんでした。確認してみると、PayPayアプリの地図上には紀の善の情報も存在していますが、そちらは決済代行業者経由でPayPayに伝わった情報をもとにPayPay側が作ったものだそうです。ただ、そういったページができていたことも知らされていませんでしたし、情報の修正や写真の追加もできません。
この点、PayPayに問い合わせてみたところ、現時点では決済代行業者経由のPayPay加盟店がPayPay for Businessを利用する方法はないため、PayPayマイストアの機能は利用できない、との回答を得ました。この回答は、かなり残念に感じました。
PayPayと直接契約した加盟店が様々な点で優先されるのは、ある意味当然かもしれません。しかし、紀の善のように、AirペイQRのような決済代行業者経由での加盟店も少なくないと思いますし、決済代行業者経由とはいえ加盟店には変わらないと考えます。ですので、決済代行業者経由での加盟店でもPayPay for BusinessやPayPayマイストアの機能が利用できるようにしてもらいたいです。
国内コード決済はPayPay一極集中が鮮明になりつつある
このように、紀の善にとってPayPayの加盟店手数料有料化は基本的に無関係ですが、当初の考えからかなり異なる方向に進んでいるのも事実です。
それは、当初の想定以上にコード決済が利用されているという点です。正確には、PayPayの利用率の高さと言ってもいいでしょう。
そこで、紀の善でコード決済を導入してからのコード決済利用状況を改めてチェックしてみることにしました。ちなみに、紀の善でコード決済の利用を始めたのは2019年6月でしたが、月頭からではありませんでしたので、2019年7月以降の状況をチェックします。
まずはじめに、2019年7月以降の紀の善でのキャッシュレス比率の推移を紹介します。下に示したグラフ1がキャッシュレス比率の推移ですが、2019年7月では19.8%だったキャッシュレス比率は、その後順調に伸びていることがわかります。特に大きく伸びている10月は、キャッシュレス・消費者還元事業が始まったのが大きな理由ですが、それ以降も多少上下はありつつもほぼ右肩上がりに伸びていて、直近の2021年7月には44.7%と、45%に肉薄するまでになっています。
最新の国内のキャッシュレス比率は30%を超えたぐらいと言われていますが、それと比べて紀の善のキャッシュレス比率はかなり高くなっています。その理由ははっきりとは分かりませんが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、なるべく接触を減らそうと考えたお客様が積極的にキャッシュレス決済を利用されるようになったという側面に加えて、甘味処ということでお客様の年齢層がやや高いということも理由のひとつではないかと考えています。
続いて以下のグラフ2は、2019年7月以降のキャッシュレス決済におけるコード決済の占める割合です。これを見ると、2020年1月まではキャッシュレス決済の中でも5%前後しか占めていませんでしたが、2020年2月以降一気に割合が増えていることがわかります。これは、紀の善で2020年2月からPayPayが利用できるようになったからです。当時からPayPayは国内の他のコード決済よりも利用割合が高かったこともあって、対応直後から利用されるお客様が一気に増えた形でした。
しかし、それ以降は思ったほど伸びておらず、2021年1月まではわずかに増えつつもほぼ横ばいといった感じでした。ところが、2021年2月、そして3月とグッと伸びています。特に3月の伸びはかなり大きく、コード決済の割合が21.3%に達しました。この要因は、2021年3月に実施されたPayPayの大型キャンペーン「超PayPay祭」と、その事前告知などに伴うものでしょう。
ただ4月以降は割合が下がっています。こういったことから、キャンペーンの有無がコード決済の利用を大きく左右していることがよく分かります。
では、コード決済の国内ブランドごとの推移はどうだったのでしょうか。下のグラフ3は、キャッシュレス決済の中で、PayPay、d払い、LINE Pay、au PAY、そして交通系電子マネーが占める割合の推移です。
これを見ると、PayPayは対応した直後から他のコード決済を大きく引き離して利用されていることがよく分かります。ただ、利用開始から1年ほどは、多少の上下はあっても大きく伸びることはなく、どちらかと言うと右肩下がりでした。また、交通系電子マネーにもかなり大きな差を付けられていました。
しかし、先ほども紹介したように、2021年2月以降は大型キャンペーンによってPayPayの利用率が大きく跳ね上がっています。
そして、もうひとつ興味深いのは、PayPayの推移を見ると4月以降もそれほど大きく割合が下がっていないという点です。3月以降はPayPayは大型キャンペーンを行なっていないことを考えると、4月以降は1月ぐらいの水準にまで落ち込んでもおかしくないはずですが、そこまで落ちていません。もちろん4月は3月より下がっていますが、思ったほどの大きな落ち込みではなく、それ以降もわずかな上下を伴いつつも13%台を維持しています。
また、先ほどのグラフ2では、4月以降にコード決済の割合が大きく落ち込んでいますが、PayPayはそこまで大きく落ち込んでいないように見えます。
ではなぜコード決済全体では割合が下がったのか。それはどうやら、d払いの落ち込みが大きく影響したようです。d払いは、4月には4.6%の割合だったのが、7月には2.8%となっていますので、実に4割減となっています。この急減が、コード決済の割合を一段と押し下げた要因になっていると言っていいでしょう。
そういったこともあって、PayPayは2月以降、他のコード決済を一気に引き離し、直近の2021年7月では、コード決済のうち75%ほどをPayPayが占めるまでになっています。しかも、PayPay単独で交通系電子マネーに肉薄しているという点も見逃せない部分でしょう。紀の善は東京の店ということもあって、もともと交通系電子マネーは利用率が高く、当初からクレジットカードに次いで使われていましたが、今ではPayPayがほぼ変わらないレベルにまで追い上げています。
このデータは紀の善のものですから、他のお店ではまた違う姿を見せている場合もあるでしょう。とはいえ、この推移を見る限り、キャンペーンに関係なくPayPayを日常的に利用するお客様が増えて、国内のコード決済はPayPayに一極集中しつつあると言っていいかもしれません。
コード決済の伸びは想定以上。だからこそCPM方式で正解
実は、紀の善でコード決済を導入した時点では、ここまでコード決済が伸びるとは想定していませんでした。使われたとしても、売上に対して1~2%程度にしかならないだろう、と考えていたのです。しかし直近の2021年7月ではコード決済だけで売上の7.9%に達しています。しかも、そのうちの75%ほどをPayPayだけで占めているのですから、PayPayの躍進ぶりには驚かされます。
そして、PayPay含めコード決済がここまで増えると、レジ打ちや決済時の手間が増え、お客様がスマートフォンで操作する必要があるため決済時間が長くなるなど、MPM方式の課題が大きく浮上していたはずです。ですから、トータルで考えると決済手数料がかかってもCPM方式の現在の形で導入して正解だったと言えます。