中小店舗のキャッシュレス対応
第17回
キャッシュレスが当たり前になってきた。カードのタッチ決済も急増
2021年6月3日 08:20
日本での新型コロナウイルス感染拡大から1年以上が経過しました。その間、感染者数の増減に合わせて緊急事態宣言の発出が繰り返されたり、合間にGo ToトラベルやGo To Eatといった経済対策が行なわれるなど、目まぐるしい1年になったという印象です。
そういった中、接触を減らすという観点から、以前にも増してキャッシュレスへの注目度が高まっているように思います。そこで今回は、筆者の家族が経営する店「紀の善」で、過去1年間にキャッシュレス決済がどのように推移したのか、紹介しようと思います。
キャッシュレス決済比率は緩やかに増加
政府は、「2025年までにキャッシュレス決済比率40%」を達成するという目標を掲げて、キャッシュレス決済の普及を目指しています。日本では長らく現金への信頼度が非常に高いこともあって、数年前まではキャッシュレス比率が20%に満たない状況でした。ただ、ここ数年の政府の取り組みや、キャッシュレス決済事業者の積極的な活動などによって徐々に比率が高まっていて、昨年(2020年)は、新型コロナウイルスの感染拡大というイレギュラーな要素があったこともありますが、ついに30%に到達したといわれています。
このように、順調に伸びている日本でのキャッシュレス決済ですが、紀の善では過去にも紹介したように、キャッシュレス決済を導入してかなり早い段階から30%を超える比率で推移し、昨年6月には政府の目標より5年ほど早く40%越えとなりました。
では、昨年夏以降はどう推移したのでしょうか。下のグラフは、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化した2020年3月から、2021年4月までのキャッシュレス比率の推移です。
これを見るとおわかりのように、2020年6月に1度40%を超えましたが、その後9月にかけてかなり大きく比率が低下しました。これは、2020年6月末にキャッシュレス・消費者還元事業が終了したことの反動がかなり大きかったのではないかと思います。とはいえ、その時期はGo To トラベルキャンペーンが実施されるなど、人の移動も増えていて、紀の善にも観光客と思われるお客様が多く来店されていましたので、そういった中でキャッシュレス比率が大きく低下したのはかなり予想外だったという印象です。
ただ、2020年9月で底を打ち、それ以降は右肩上がりで比率が高まっていることがわかります。そして、2021年1月に40%の大台を回復し、それ以降も増加が続いています。
このキャッシュレス比率の増加は、やはり新型コロナウイルスの感染拡大を受けて接触機会を極力減らしたいと考えるお客様が増えたためと考えていいのではないでしょうか。
それでも、紀の善ではこの1年間でキャッシュレス比率が大きく伸びたという印象は、正直なところありません。以前から国内の平均を大きく上回るキャッシュレス比率で推移してきたからです。
なぜ紀の善でこれだけキャッシュレス比率が高いのか、その理由はよくわかりません。もともと利用者の年齢層がやや高めですが、やや特異な例なのかもしれません。
キャッシュレスの内訳は、クレジットカード、交通系電子マネー、PayPay
次に、キャッシュレス決済の内訳を紹介します。
下のグラフは、紀の善で対応しているキャッシュレス決済の、ブランドごとの利用割合を示しています。これを見ると一目瞭然ですが、キャッシュレス決済の中で最も多く利用されているのはクレジットカードで、半数以上を占めています。次いで、17%前後で推移する交通系電子マネー、10%前後で推移するPayPayで全体の80%以上となります。
ところで、PayPayは2021年3月以降大きく割合が増えていますが、これは3月に大規模キャンペーン「超PayPay祭」が実施されたことによるものと考えられます。ただ、全体的には、ブランドごとの割合はここ1年の間でそれほど大きく変化することなく続いています。
確かに、PayPayの増加によって2021年2月以降はコード決済全ブランドの決済割合が交通系電子マネーの割合を上回っていますが、それまではiDやQUICPayも含めて割合はほぼ横ばいとなっています。
このことから、おそらく普段からキャッシュレス決済を利用しているお客様の多くは、利用するキャッシュレスブランドを決めているものと考えられます。割合が上下するのは、PayPayなどのキャンペーンを目当てにその時だけキャッシュレス決済を利用する人が増える、といった要素が大きいでしょう。
そういった意味で、今後PayPayの利用割合がどう推移するかによって、PayPayの浸透具合と利用者のモチベーションの変化が見えてくることになるでしょう。このあたりは今後も注目したいと思います。
クレジットカード決済に占めるNFCタッチ決済は急拡大
連載のこちらの記事で紹介しているように、紀の善で利用しているキャッシュレス決済サービス「Airペイ」は、2020年9月28日よりクレジットカードのNFCタッチ決済に対応しました。実際の、NFCタッチ決済への対応についての顛末はそちらの記事を見ていただければと思いますが、基本的にはソフトウェアのアップデートのみで対応となりましたので、対応に際して店側の手間はほとんどかかりませんでした。
合わせて、NFCタッチ決済時のオペレーション時間は、ほぼサインレスで運用できている(決済金額が10,000円までならPIN/サインレスで決済可能)こともあって、PINを入力したりサインをしてもらうといった一般的なクレジットカード決済に比べて圧倒的に短くなりました。NFCタッチ決済であれば、クレジットカード決済であっても電子マネーとほぼ同等の短時間対応ができるようになりましたので、レジ効率も向上したと言えます。
ところで、いくら決済システムがNFCタッチ決済に対応したと言っても、お客様が使われるクレジットカードがNFCに対応していなければ意味がありません。そこで、実際にどの程度のお客様がNFCに対応したクレジットカードを使っているのか、チェックしてみました。
下に示したグラフは、AirペイがNFCタッチ決済に対応した2020年9月から、2021年4月までの、紀の善での全クレジットカード決済に占めるNFCタッチ決済の割合です。これを見るとよくわかるように、少しずつではありますがNFCタッチ決済の利用割合が増えています。開始当初の9月、10月頃は14%程度だったのが、年末にかけて16%ほどとなり、2月には23.9%と4回に1回はNFCタッチ決済となっています。
クレジットカードのNFCタッチ決済対応は、国内では2020年頃から本格的に普及が開始しましたが、クレジットカードの有効期限は多くが3~5年ほどですから、NFC非搭載クレジットカードでも有効期限切れになっていないカードがまだ多く使われています。そのため、この数字を多いと感じるか少ないと感じるかは、見る角度によって変わってくると思います。
昨年からの新型コロナウイルスの影響によって、非接触での決済手段に注目が集まっていることを考えると、個人的にはまだ少ないと感じました。とはいえ、そういった中でもすでに25%に近い比率となっていますから、順調にNFC搭載カードへに切り替わっていると言っていいのではないでしょうか。
ただ、お客様から「クレジットカードのタッチで」といように指定されることはほとんどないようです。紀の善では、基本的にクレジットカードをお客様から受け取って決済処理を行なっていて、店員がNFC対応を示すリップルマークを確認すればお客様からの申し出がなくてもタッチで決済を行なうようにしています。そのため、グラフはNFC対応クレジットカードのほぼ正確な割合を示していると思います。しかし、お客様がNFCタッチ決済を指定して利用している数字ではありません。そういった意味では、NFCタッチ決済について各クレジットカードブランドなどがもっと啓蒙していく必要があるでしょう。
ちなみに、5月11日から、iPhoneのApple PayでVisaのタッチ決済対応が始まりましたが、現在のところ、iPhoneやApple WatchでVisaのタッチ決済を利用する人はまだ1~2名のお客様がいらっしゃった程度のようです。
NFCタッチ決済対応カードはVisaが圧倒
最後に、実際に使われたNFCタッチ決済の、カードブランドごとの割合もチェックしてみました。なお、Airペイではクレジットカードの種類は国際ブランドごとでの確認しかできませんので、国際ブランドごとの割合を紹介します。
結果は下のグラフのとおりです。これを見ると一目瞭然ですが、Visaが70%を超える割合で他を圧倒しています。それに続くのがAMEXで、次がMasterCard。そしてJCBについては4月まで1件もありませんでした。
この結果は、各ブランドの国内での普及率が大きく影響しているのは間違いないでしょう。しかし、それと合わせて、NFCタッチ決済対応への意気込みの違いも影響していると考えられます。それは、国内シェア2位のJCBでNFCタッチ決済が1件もなく、シェア4位のAMEXが2番目に多くタッチ決済で使われていることからも明らかでしょう。
クレジットカードのNFCタッチ決済は、1万円以下の決済であればサインレスで利用できますし、接触機会も減らせる有効な手段です。そのため、各クレジットカードブランドには、より一層の普及加速をお願いしたいと思います。