中小店舗のキャッシュレス対応
第16回
2度目の緊急事態宣言。夏以降戻りつつあった売上が再び……
2021年2月9日 08:20
前回紹介したように、筆者の家族が経営する店、紀の善では、2020年11月20日よりGo Toトラベルの地域共通クーポンとGo To Eat食事券への対応を開始しました。しかしその直後にGo To Eat食事券の販売が中止となり、Go Toトラベルも全国的に適用が一時停止となってしまいました。そこで今回は、その間にこれらクーポンの利用がどのように変化したのか、ご紹介したいと思います。
外出自粛やGo Toトラベル運用停止に合わせてクーポン利用額は減少
紀の善でGo To Eat食事券の対応を開始したのは、前回紹介したように11月20日からでした。一方、Go Toトラベルの地域共通クーポンについては、実は11月20日からではなく、11月16日より先行して対応していました。ただ、お客様の本格的な利用が始まったのは、対応初の週末となった11月21日以降だったため、11月20日スタートとして紹介しました。
ところで、その後の状況は皆さんもご存じの通りで、東京都での新型コロナウイルス感染が拡大したことによって、11月27日よりGo To Eat食事券の販売が一時停止となり、12月に入ると不要不急の外出自粛が呼びかけられるとともに、12月28日からはGo Toトラベルも全国的に適用が一時停止となってしまいました。
せっかく対応したのに、直後にそういった事態となってしまって、かなり残念ではありました。
では、店で地域共通クーポンとGo To Eat食事券の対応を開始して以降、それらクーポンの利用状況がどう変化したのでしょうか。下のグラフは、店で使われた地域共通クーポンとGo To Eat食事券の総額を週ごとにまとめたものです。
対応開始となった11月第3週は、実質最後の週末のみでしたので、それほど多くはありませんでしたが、その翌週は6万円弱と、多くのお客様が使われました。
しかし、12月に入ると、一気に利用額が減少しています。12月上旬は、もともと旅行客が減る時期ですし、実際に地域共通クーポンの利用者が大幅に減少しました。
ただ、不要不急の外出自粛が呼びかけられていたものの、12月後半にかけては地域共通クーポン、Go To Eat食事券ともに利用者が増えていき、Go Toトラベルの運用一時停止直前の第4週には12月のピークとなる利用額となりました。それでも11月第4週の利用額の半分程度ですから、ある程度は外出を自粛したり、Go Toトラベルを利用した旅行を取りやめた方が多かったのではないかと思われます。
そして、Go Toトラベルの運用が一時停止となった12月第5週以降は、クーポンの利用額がさらに下がりました。それ以降は地域共通クーポンが発行されていませんので、Go To Eat食事券のみの利用となったわけですから、この落ち込みも当然でしょう。また、Go To Eat食事券も販売停止が続いていますので、販売が再開されるまでは利用額は減っていくものと考えられます。
おそらく、他の飲食店などでも同様の動きになっているものと考えます。Go ToトラベルやGo To Eatが新型コロナウイルス感染拡大の一因とも言われていますが、店にとってはこれら施策が売上を伸ばす要因になっていたことも事実です。今の段階で軽々に再開してほしいとは言えませんが、今後タイミングを見つつ、良きところで再開してもらえればと思います。
夏以降は客足が前年比90%弱まで戻り、年末までほぼ横ばいに
クーポンの利用額は開始以降減少していますが、その傾向からはお客様の動向はなかなかわかりづらい部分もあるでしょう。そこで、過去1年間の売上の変化から、そのあたりも考察してみたいと思います。
下のグラフは、2020年2月から2021年1月までの売上の、1年前の同月比を示したものです。昨年2月は、新型コロナウイルスの影響が出始めた時期ですが、それでもまだ前年同月比97%と、ほぼ同等の売上となっていました。
しかし、その後は大きく売上が減少して、1度目の緊急事態宣言が発出された4月には34.8%にまで減少してしまいました。実際にその頃は、街から人の姿が消えてしまったかのように閑散としていましたし、それに合わせて店も2階のイートインを閉じたり営業日を減らすなどの対策を行なっていましたので、この売上減も当然の結果と言えます。
ただ、緊急事態宣言が解除され、6月には69.1%、7月には77.8%と客足が徐々に戻ってきました。その後、夏から秋にかけては80%を超える売上となっています。この時期になると、街にも多くの人の姿が見られるようになっていましたし、店も前年同様の賑わいを見せていましたので、この数字も納得です。
ところで、10月の売上が前年比107.4%と前年を上回っています。これは、2019年の10月は、記録的な大雨をもたらした台風19号が上陸するなど天候が非常に悪かったことが影響して、売上が非常に悪かったためです。それ以外の年と比べると、売上は90%を切る程度でした。
そして、11月、12月と新型コロナウイルスの影響が大きくなっていったわけですが、売上を見る限りでは8月頃から大きく変わらず、前年同月比90%弱で推移していました。このことからも、11月から12月にかけて、不要不急の外出自粛が呼びかけられていたものの、お客様の出足にはそれほど大きな変化はなかったことがわかります。
そして2021年1月ですが、さすがに2度目の緊急事態宣言が発出された影響から、売上が大きく減少しました。とはいえ、1度目の緊急事態宣言の時まで大きく売上が減少していないのも事実です。報道では、2度目の緊急事態宣言発出後も、人の出足はそれほど大きく減少していないという論調も見られました。
売上の推移を見る限りでは、人の出足は間違いなく減少していますが、昨春ほどの大きな減少には至っていないことも読み取れます。
店からしたら、せっかく戻ってきた売上がまた減少に転じたわけですから、非常に痛いのは間違いありません。とはいえ、今は新型コロナウイルスの影響を抑えることが先決ですので、これも致し方ないでしょう。緊急事態宣言は3月7日まで延長されましたので、この傾向は2月も続くと思われます。そのため、まだしばらくは厳しい状況が続くことになりそうです。
国には、もっと公平な補助をお願いしたい
外出自粛が呼びかけられ、緊急事態宣言が出されるたびに、飲食店がやり玉に挙がっています。
今回の緊急事態宣言でも時短営業が求められましたので、夜の営業が中心で、酒類を提供する飲食店の被害は、とても甚大なものとなっています。そのため、2度目の緊急事態宣言を出すにあたって、営業の自粛や時短に協力した飲食店には協力金が支給されています。
しかし実際には、緊急事態宣言や外出自粛で影響を受けている飲食店は、そういった店だけではありません。
紀の善のように、昼の営業が中心で、酒類を提供しない店にとっても、大きな影響が出ています。しかし、そういった店は協力金支給の対象外となっています。
紀の善の場合は、もともと夜8時までに閉店しますから、もし時短営業にしたとしても協力金は支給されません。つまり、売上が減っても自力でどうにかするしかないわけです。そのため、2度目の緊急事態宣言以降も通常通りの営業を続けていますが、売上の減少が大きく、かなり厳しい状況となっています。
確かに、夜の営業や酒類を提供する店の影響は甚大でしょう。しかし、それに当てはまらない店にとっても影響は大きいのです。そして、影響が出ているのは飲食店だけではありません。ですので、政府にはもっと公平な補助をお願いしたいと思います。