中小店舗のキャッシュレス対応

第8回

激動のキャッシュレス導入1年を振り返る。PayPay導入すると〇〇が減る

筆者の家族が経営する店、紀の善で、mPOSシステムとキャッシュレス決済を導入して約1年が経過しました。前回からやや間が開いてしまいましたが、2020年3月でキャッシュレス決済導入からちょうど1年を経過しましたので、今回は過去1年を振り返りながら、現在の状況を紹介したいと思います。

消費増税、軽減税率制度、ポイント還元事業対応のため、キャッシュレス導入

mPOSシステムとキャッシュレス決済導入に関する経緯や導入過程については、過去の連載で詳しく紹介していますので、ここでは簡単にふり返りたいと思います。

もともと紀の善でmPOSとキャッシュレス決済を導入するきっかけとなったのは、2019年10月1日に施行された消費税の増税と軽減税率制度への対応、そしてキャッシュレス・消費者還元事業(ポイント還元事業)に対応するためでした。

もともと店で利用していたレジを軽減税率対応のものへと変更する必要がありました。そこで、そのタイミングでキャッシュレス・消費者還元事業への対応を見据えて、以前より懸案だったキャッシュレス決済への対応も同時に行ない、なおかつ、レジ担当従業員になるべく手間をかけたくないということで、新しいレジにmPOSを利用。そのmPOSと連携できるキャッシュレス決済サービスを同時に導入することにしたのです。

選定したmPOSは、リクルートライフスタイルの「Airレジ」です。基本無料で利用できることと、キャッシュレス決済サービス「Airペイ」および「AirペイQR」と連携して利用できることが、Airレジ導入を決めた最大の理由でした。

AirレジとAirペイ、AirペイQRの導入を決めたのは2018年末で、実際にAirレジを店で使い始めたのは2019年2月頭から。またクレジットカードや交通系電子マネー、iD、QUICPayなどの電子マネーに対応するAirペイは3月頭、各種コード決済に対応するAirペイQRは6月下旬からそれぞれ利用を開始しました。

2019年2月にAirレジ、3月にAirペイ、6月にAirペイQRの利用を開始

AirレジやAirペイ導入後には、Airペイの決済端末が正常に動作しなかったり、iOSのアップデートに起因するレシートプリンターの動作不良、レジに利用しているiPadでタッチ操作がきかなくなる、といった比較的大きなトラブルが発生していましたが、6月頃になるとそれらトラブルもほぼ解消されました。また、AirペイQRについては、利用開始当初は決済時に決済ブランドを指定する必要がありましたが、2020年1月30日からコード決済の自動判別機能が実装されたことで、決済ブランドを指定せず決済が可能となったことで、大きく使い勝手が向上しています。

従来は、AirペイQR利用時に決済ブランドをいちいち選択する必要がありました
2020年1月30日にコード決済の自動判別機能が実装され、いきなりコードを読み取って決済可能に。これでコード決済の利便性が大きく高まった

現在でもちょっとしたマイナートラブルが発生することはありますが、2019年夏以降は大きなトラブルなく安定して運用できています。また、レジ担当の従業員からも、おおむね扱いやすいと好評となっています。

ポイント還元事業開始後はキャッシュレス比率が増大

Airレジ運用開始後に最も大きな変化となったのが、2019年10月1日からの消費増税と軽減税率制度の施行です。店で扱っている製品は食料品ですので、店内でのイートイン商品とテイクアウト商品がありますから、イートイン商品は新税率となる10%、テイクアウト商品は軽減税率の8%に、それぞれ消費税を設定しなくてはなりません。

Airレジ導入は、この消費増税と軽減税率制度への対応を見越してのものでしたが、Airレジ側の対応も万全で、新価格の設定作業は非常に簡単で、1日かからず事前に設定が完了。そして、10月1日になると自動的に登録商品の価格が新価格へと切り替わって、トラブルなく移行できました。

また、キャッシュレス・消費者還元事業(ポイント還元事業)についても、2019年5月にAirレジ経由で登録を行なっていましたので、開始日となった2019年10月1日より対応できました。こちらは、登録さえ完了していれば、店側の対応は告知ポスターなどを店頭に張り出すぐらいで、特別面倒な作業は行なう必要はありません。

ただ、利用客から、これはポイント還元に対応しているのか、とか、レシートにポイント還元額が書かれていないけどどうなってるの、など質問されることが多くなって、接客に手間がかかる場面が出てきたようです。事実、ポイント還元方法は利用するキャッシュレス手段によって変わってきますので、わかりづらい制度なのは間違いないでしょう。ただ、そういった声も制度開始から1カ月ほどすればあまり聞かれなくなったようで、現在では困ることもほとんどないようです。

この、消費増税とポイント還元事業開始後の店でのキャッシュレス比率は、過去にも取り上げたように、開始前までの20%前後から、30%超へと大きく跳ね上がりました。その後もキャッシュレス比率は30%超で推移していて、以下のグラフで示しているように、2020年2月には36%にまで高まっています。ポイント還元事業は、現時点では2020年6月末で終了することになっていますが、それ以降キャッシュレス比率がどう推移するかは、店側としても興味のあるところです。

表1:2019年2月以降のキャッシュレス比率の推移

2月にPayPay、3月にau PAY対応でキャッシュレス対応は一段落

2019年11月以降の動向ですが、大きく変わったことといえば、コード決済のブランドが増えた点でしょう。

AirペイQRでコード決済への対応を果たして以降の懸案だったのが、PayPayへの対応でした。やはりコード決済に対応するなら、最も多く利用されているPayPayへの対応が不可欠です。ただ、AirペイQR経由でPayPayを利用するには、AirペイQR経由で申し込みを行なう必要があります。

2019年5月末に、AirペイQRでPayPayに対応すると発表されましたが、実はそれ以降全く動きがありませんでした。早々に問い合わせは行なっていたのですが、夏が過ぎ、還元事業の実施目前となった9月末になっても、全く連絡がありません。結局、AirペイQR経由でPayPayへの申し込みが可能になったと連絡が来たのは10月末でした。

その直後に申し込みは済ませたのですが、そこからまた全く連絡がありません。その後も時間だけが過ぎていき、結局2019年内にPayPayの導入は果たせませんでした。

ようやく連絡があったのが、2020年1月中旬で、しかもその時点ではじめて申し込みを受け付けた、というものでした。つまり申し込みから3カ月近く経過してようやく受け付けられたのです。その後は比較的短時間で作業が行なわれたようで、PayPayへの登録が完了して利用可能になったと2月頭に連絡があり、さっそく店でもPayPayを使い始めました。

ちなみに、PayPayのポイント還元事業への登録はさらに1カ月ほどかかり、3月上旬にやっと登録が完了したのでした。

au PAYについては、2月上旬に登録を申し込み、3月下旬より利用可能となっています。3月末現在では、au PAYはポイント還元事業への登録が完了していません。後発のコード決済ブランドということもあって利用率は低いですが、KDDIが力を入れていることもあって、利用動向については今後継続してチェックしたいと思っています。

2020年2月頭にPayPay、3月下旬にau PAYが利用可能となった

PayPayは、利用を始めてすぐに利用客が現れました。そして、その後もコード決済の中で抜きん出て多い利用者数となっています。

以下に示したグラフは、2019年10月から2020年2月までの、クレジットカード、交通系電子マネー、iD、QUICPay、コード決済の利用割合を示したものです。これを見るとわかるように、PayPay導入前の2020年1月まではいずれの決済手段もほぼ横ばいでしたが、PayPay導入後の2020年2月には、コード決済の利用割合が一気に伸びています。2月のコード決済の利用割合は11.2%と、前月の5.6%に対してほぼ倍増したのです。これは、さすがPayPayと言ったところでしょう。

では、PayPayの反動で減ったのは何だったのでしょうか。グラフを見ればすぐにわかると思いますが、交通系電子マネー、iD、QUICPayが落ち込んでおり、特に交通系電子マネーの落ち込みが大きかったのです。クレジットカードは2月もほぼ横ばいでしたので、PayPay導入によって割を食ったのは、クレジットカードではなく電子マネーだったのです。

表2:2019年10月以降の決済比率の推移

筆者自身は、PayPay導入によって他の手段全てが一様に割合が低下すると思っていたので、この結果にはやや驚きました。これは、おそらくPayPay利用者層と電子マネー利用者層が被っていて、電子マネーの利用からPayPay利用へと切り替えた人が多かったということでしょう。

今後はNFC PAY対応に期待

3月末にau PAYの利用が可能になったことで、現時点でAirペイとAirペイQRがサポートする全ブランドへの対応が終了した形ですので、これで店でのキャッシュレスブランドの対応はひとまず一段落しました。まだau PAYのキャッシュレス・消費者還元事業への登録が残ってはいますが、これも4月中には完了するでしょう。

ただ、まだひとつ、大きなものが残されています。それはクレジットカードのタッチ決済(NFC PAY)への対応です。

現在、国内発行のクレジットカードでは、VISAブランドのカードでNFC搭載カードへの切り替えが始まっています。また、iPhoneのApple PayやAndroidのGoogle PayでもNFC PAYへの対応が進んでいます。店舗側の対応も、マクドナルドや大手コンビニエンスストアをはじめ、大手チェーン店舗でのNFC PAY対応が進んでいます。今後は、国内でNFC PAYへの対応が大きく進んでいくことになると考えていいでしょう。

Airペイが利用しているキャッシュレス決済端末は、ハードウェアとしてはFeliCaだけでなくNFCにも対応しています。つまり、あとはAirペイ側がNFC PAYへの対応を実現するだけとなっているのです。

おそらく、国内で発行されているNFC搭載クレジットカードのブランドや枚数がまだまだ少ないため、導入を見合わせているのではないかと思っています。ただ、競合キャッシュレスサービスのSquareは、すでにNFC PAYへの対応を実現しています。おそらく、他の競合サービスも、今後続々NFC PAYへの対応を実現していくはずです。ですので、Airペイにも競合に負けず、いち早くNFC PAYへの対応を実現してもらいたいところです。

平澤 寿康