中小店舗のキャッシュレス対応

第6回

不安と緊張の軽減税率初日。予想外のキャッシュレス増!

消費増税と軽減税率制度が開始となる、2019年10月1日が到来しました。

筆者の家族が経営する店、紀の善では、これまでの連載でも紹介しているように、消費増税以降は店内のイートインが10%の標準税率、お土産のテイクアウトは8%の軽減税率での提供となります。今回は、それに向けた事前準備と、10月1日を迎えた当日の様子を紹介します。

Airレジの事前準備は簡単。ただ、事前チェックができない!

店では、今回の消費増税と軽減税率制度に対応するため、レジをリクルートライフスタイルが提供しているモバイルPOSシステム「Airレジ」へと刷新しました。Airレジでは、2019年4月に軽減税率に対応するための準備機能が追加されています。つまり、かなり早い段階でアプリ側の準備は整っていたわけです。

そのため、店舗側でやることは、その軽減税率の準備機能を利用して、10月1日以前に扱っている商品について個別に標準税率または軽減税率のいずれかを適用するとともに、それぞれに新価格を登録するだけで良くなっています。そして、それらを登録しておくと、10月1日に自動的に商品ごとに税率と価格が切り替わるという仕組みです。

Airレジでは、2019年4月の段階で軽減税率の準備機能が用意された
10月1日以前に商品ごとに税率と価格を設定しておくと、10月1日に自動的に切り替わる仕組みになっている

そこでまず、商品ごとの税率と新価格を登録しました。税率については、イートインの商品が全て10%の標準税率、テイクアウトの商品が全て軽減税率となりますので、それを商品ごとに設定しました。

ただし、テイクアウト用に用意している保冷袋については標準税率となります。この点、実は最初間違えそうになりました。

保冷袋もテイクアウトの括りで考えていたので軽減税率と思い込んでいたのですが、よくよく調べると、食品を提供するために欠かせない容器については食品と合わせて軽減税率でいいのですが、梱包材料などとして別途対価を定めているものについては標準税率になるとのことです。まったくややこしい制度ですが、事前にチェックしてよかったです。

続いて新価格です。軽減税率となるテイクアウトの商品については、消費税は増税前と同じ8%ですので、金額の変更はありません。金額の変更が発生するのは標準税率の商品のみとなります。店では、標準税率となる商品については、増税分をそのまま加えた金額を設定することにしました。商品は全て税込み価格を表示していましたので、消費税分を8%から10%に計算し直して登録しました。

お土産の商品は、税率を軽減税率に設定して、新価格は消費増税前と同じに設定
店内のイートインの商品は、税率を標準税率に設定。新価格は消費増税分だけ上乗せして設定
間違えそうだったのは保冷袋の扱い。こちらは標準税率を設定して価格は据え置いた

以上の作業で難しいことと言えば、細かい数字の計算ぐらいで、作業は1時間もかからずに終了しました。おそらく、通常のレジではかなり面倒な作業が伴っていたように思いますので、かなり手軽に消費増税と軽減税率への対応ができたという点は、Airレジにしておいて良かったと痛感しました。

ただ、残念に思った部分もあります。それは、Airレジでは10月1日以前に、消費増税後の操作やレシートの印字などを事前に確認するすべが用意されていなかったという点です。

消費増税と軽減税率制度が開始されたら、レシートには商品ごとに標準税率なのか、軽減税率なのか確認できるように印字する必要があるのですが、それがどのように印字されるのか全く確認できないのです。また、日々の会計処理についても、標準税率の商品と軽減税率の商品を分けて処理する必要があるのですが、日々の会計データがどのように発行されるのかも確認できません。

これらは、10月1日になって、実際に営業を始めてみない限り、どうなるかわからないのです。まさに、「ぶっつけ本番」でやるしかないのは非常に不安です。

Airレジのホームページには、消費増税と軽減税率制度がスタートしたら、レシートや会計データはこうなります、といった紹介はありますし、実際にそうなるのでしょう。しかし店側としては、実際に試して確認しないと安心できないのも事実です。ですので、やはり事前に動作を確認する機能はほしかったです。

Airレジでは、軽減税率などの設定を事前に試す機能が用意されなかった。ホームページでどうなるか説明されてはいたが、実際に試せないのは非常に不安だった

キャッシュレス・ポイント還元への登録も完了

10月1日の消費増税に合わせて、もうひとつ開始となるのが、キャッシュレス・ポイント還元事業(キャッシュレス・消費者還元事業)です。前回紹介したように、店では5月中旬にAirペイを通して申し込みを行ないました。その後、連絡がなかったのですが、9月上旬に経済産業省が公開した審査通過加盟店一覧の中に登録されていることを確認しました。また、地図を利用した登録加盟店検索機能からも、登録されていることが確認できました。

そして、ポイント還元の開始日時についても、9月下旬にAirペイの管理画面において、10月1日より5%の消費者還元が行なわれることを確認。ギリギリまで連絡がなく、非常に気を揉んだのですが、無事に開始当日から対応可能となったことには、ほっとしました。

キャッシュレス・消費者還元事業にはAirペイを通じて2019年5月に申請
9月上旬に経済産業省が公開した審査通過加盟店一覧や、地図からの検索機能などで加盟店登録を確認
Airペイの管理画面から、10月1日より還元が行なわれることを確認し、一安心(LINE PAYとd払いも10月1日より5%相当還元で対応)

そうこうしていると、9月下旬に、キャッシュレス・ポイント還元の登録加盟店舗向けのポスターやステッカー、チラシなどが店に送付されました。それらも店頭に張り出すなどして、準備を整えました。

店に、キャッシュレス・ポイント還元のポスターやステッカーなどが届いた
店頭にポスターやステッカーを貼りだして準備完了

店で対象となるキャッシュレス・ポイント還元のブランドですが、クレジットカードおよびデビットカードがVisa、Mastercard、JCB、アメリカン・エキスプレス、ダイナースクラブカード、電子マネーがiDとQUICPay、交通系電子マネーがSuica、PASMO、manaca、ICOCA、SUGOCA、mimoca、コード決済がLINE PAYとd払い、となります。

なお、リクルートライフスタイルは5月下旬でAirペイQRでPayPayに対応すると発表しました。そのため、本来であれば、10月1日までにPayPayにも対応したいと考えていました。しかし、実際にはAirペイQRでは未だにPayPayが利用できません。

過去にAirペイQRのサポートに問い合わせたときには、PayPayの申し込みが始まったら連絡すると言われたのですが、現時点まで全く連絡がありません。お客様からも、PayPayは使えないのかと聞かれることが結構増えていますので、いち早く対応してもらいたいと思います。

ところで、ポイントの還元方法は利用するカードや電子マネーによって変わってきます。SuicaやPASMOのように事前に登録が必要なものもありますので、お客様にとっては非常にわかりづらいでしょう。それは店にとっても同様で、お客様からどのようにポイントが還元されるのか聞かれても、正確に答えるのは難しいと思われます。開始直後は手探りな部分が残りますが、そのあたりは大目に見ていただければと思います。

レジの消費増税と軽減税率対応は問題なし

以上のように、Airレジの対応や、キャッシュレス・ポイント還元事業への対応は、9月中にほぼ完了しました。残る、店のメニューの入れ替えや、商品ケースの金額表示の入れ替えも9月30日までに終え、10月1日を迎えました。

10月1日を前に、店内メニューを新価格記載のものに切り替えた
ショーケースのイートイン商品の金額も新価格のものに変更し、消費増税の準備完了

当日は、まず開店前にレジのチェックを行ないました。設定した税率や新しい金額がきちんと反映されているか、そして懸案だったレシートの印字様式のチェックです。実際に試すまではかなり不安ではありましたが、実際に確認してみると、設定した税率と新しい金額が正しく反映されていました。まずはひと安心です。

次に、店内のイートイン商品とお土産のテイクアウト商品を同時に選んで試しに会計を行なってみました。出てきたレシートを見ると、イートイン商品は標準税率、テイクアウト商品は軽減税率が明示されていて、それぞれの消費税額もしっかりと印字されていました。同時に領収書も印字してみましたが、そちらにも標準税率と軽減税率の項目が印字されています。

合わせて、売上げのデータをチェックしてみると、標準税率の商品と軽減税率の商品が個別に集計されるようになっていることも確認できました。これなら、今後の会計処理についても問題ありません。

このように、気になっていた部分は全て問題なく設定されていましたので、店の開店を控えてとても安心できました。とはいえ、実際に試すまではかなり不安でしたが……。

イートイン商品は標準税率と新価格が、テイクアウト商品には軽減税率が正しく設定されていることを確認
レシートを印字してみると、どの商品が軽減税率対象かわかるとともに、税率ごとの対象金額と税額も確認できるように印字されていることがわかる
領収書にも、税率ごとの対象金額と税額が印字されている
売上げデータも標準税率の商品と軽減税率の商品が個別に集計されているので、会計処理も問題なし

開店後も、特に問題は発生しませんでした。レジの操作自体は増税前と全く変わらず、これまでと同じように操作すればいいので、レジ担当の店員も全く戸惑うことがなかったようです。

あえて問題を挙げるとしたら、イートイン商品の料金が変わっているのに、増税前の金額を伝えてしまうことがあったことぐらいで、基本的には増税前と全く変わらずレジ対応ができました。事前に試せなかった点は少々残念でしたが、全体的にはAirレジを選択して正解だったと感じます。

10月1日当日のキャッシュレス比率は30%超!

では、10月1日のキャッシュレス決済の割合はどの程度だったでしょうか。

10月1日は火曜日です。普段の火曜日は観光客のお客様が少なく、キャッシュレスの割合もどちらかというと低めで20%に届かない日が多い状況です。しかし、レジ担当の店員に聞いてみると、普段よりも明らかに多かったとのことでした。

実際に売上げを確認してみると、約33.5%に達していました。普段の火曜日と比べると、10ポイント以上の増加です。また、2019年9月の総売上げに対するキャッシュレス比率は約22.5%でしたので、そちらと比較しても10ポイント以上増えています。まさに驚異的な伸びと言っていいでしょう。

これは、キャッシュレス・ポイント還元の開始が要因となっていることは間違いないはずです。キャッシュレス決済が伸びるとは想像していましたが、ここまでとは思っていませんでしたので、少々びっくりしました。

とはいえ、1日で判断できるものでもないでしょう。10月1日は消費増税とキャッシュレス・ポイント還元の開始初日で、連日ニュースなどで報道されていたこともありますので、大きく伸びたとも考えられます。キャッシュレス決済比率については、継続的にチェックしつつ、今後の連載でも取り上げようと思います。

軽減税率制度もポイント還元事業も、事業者泣かせ

今回、比較的早めに対応を開始していたこともあって、消費増税や軽減税率制度への対応、キャッシュレス・ポイント還元事業への対応もなんとか問題なく行なえました。しかし、はっきり言って店側からしたらこんなややこしい制度は全く歓迎できません。

まず軽減税率制度ですが、仕入れから売上げ管理まで、標準税率と軽減税率の商品を個別に管理しなければいけませんので、大きく手間が増えてしまいます。しかも、レジも軽減税率対応のものに入れ替える必要があるなど、コストもかかります。増税についてはある程度不可欠なものと感じますし、景気へのインパクトが大きいとしても、これだけいろいろな手間やコストを店側に強いるぐらいなら、軽減税率など用意せず一律に増税すれば良かったんじゃないかと切に思います。

また、キャッシュレス・ポイント還元事業についても思うことが多くあります。特に感じているのが、なぜもっと簡便な方法にしなかったのか、ということです。利用するキャッシュレス手段によってポイント還元の方法が違うなど、本来あってはならないことだと考えます。合わせて、準備期間の短さもあり得ないところです。ニュースを見ると、10月1日に間に合わなかったお店も多くあるようですし、もう少しゆとりを持って実施すべきだったと言えます。

そうはいっても、これら制度は始まってしまいましたし、キャッシュレス・ポイント還元事業については、お客様にとって大きな魅力となるのは間違いないでしょう。今回、筆者の家族の店はスタートに間に合いましたし、他のお店についてもお客様には間違いなくおトクになりますので、積極的にキャッシュレス決済を活用していただければと思います。

平澤 寿康