中小店舗のキャッシュレス対応
第3回
キャッシュレス“紀の善”誕生。謎のエラーはあれど、予想以上の利用率に
2019年7月11日 08:15
前回は、筆者の家族が経営している店「紀の善」のレジを「Airレジ」のシステムに変更し、まず現金決済のみで運用を開始したところまでを紹介しました。今回は、現金決済に次いで導入したキャッシュレス決済について取り上げたいと思います。
キャッシュレス決済開始に備えてネットワーク環境を強化
前回紹介したように、筆者の家族が経営している店では、2月頭よりモバイルPOS「Airレジ」の運用を開始しました。キャッシュレス決済サービスとしては、Airレジと連携でき決済時のオペレーションを軽減できるため、同じリクルートライフスタイルが提供している「Airペイ」を選択済みです。
Airペイの契約は、Airレジの契約とほぼ同時に行なっていて、Airレジの運用を開始した直後の2月上旬に、全ての決済ブランドの審査をパス。ですので、Airレジの運用を開始した直後に、Airペイ導入の準備は整っていました。
ただ、2月中は店員がAirレジの操作に慣れるための期間として、あえて現金決済のみで運用しました。店員のAirレジ操作の習熟度は、1~2週間ほどで問題なくレジ対応ができるまでに高まりました。そして、その間お客様からキャッシュレス決済についての問い合わせが多く寄せられるようになったことで、3月からキャッシュレス決済の導入を決定。ここまでは前回紹介したとおりです。
キャッシュレス決済の導入時期を決定して、まず最初に取りかかったのがネットワーク環境の改善でした。
Airレジは、会計情報などを全てクラウドで管理する仕組みのため、Airレジを運用するiPadがインターネットに接続している必要があります。しかし、もともと店ではネットワークに接続する機器を利用していなかったため、ネットワーク環境を構築していませんでした。それでも、店舗の建物3階の自宅兼事務所に設置してある無線LANルーターの電波が1階まで届いていました。Airレジを運用しているiPadもその無線LANルーターの電波を受けて、インターネットにアクセスできたため、ひとまずそれで運用していました。
ただ、鉄筋コンクリートの建物で3階にある無線LANルーターに無線LAN接続するわけですから、当然ながら接続状況は良くありません。「悪い」と言った方がいいぐらいでした。
それでも、Airレジを利用するだけであれば高速なインターネットクセス速度は必要ありませんし、もし接続が切れたとしても、その後接続が回復すればクラウドにそれまでの会計情報が一括転送されるため、レジ運用が止まることはありません。実際、運用時にネットワーク接続が切れることもしばしばありましたが、運用上の大きな問題が発生することはありませんでした。
しかし、キャッシュレス決済を導入するとなると、そうはいきません。
キャッシュレス決済時には、その都度インターネット経由で決済サーバーとの通信が発生することになります。ネットワーク環境が悪いと、うまく決済処理が行えなくなる懸念があります。当然そういう事態は避ける必要がありますので、キャッシュレス決済導入に合わせてネットワーク環境を改善することにしました。
ネットワーク環境を改善するために計画したのが、インターネット回線が来ている3階からレジのある1階までの有線LANケーブルの敷設と、1階への無線LANアクセスポイントの設置です。ただ、LANケーブルの敷設は比較的大がかりな工事が伴う関係もあってすぐには取りかかれず、6月下旬時点ではまだ完了していません。そこで、LANケーブルの敷設が完了するまでの間は、別の手段でしのぐことにしました。それは、メッシュWi-Fiルーターを利用するというものです。
メッシュWi-Fiとは、数台のアクセスポイントを設置し、より広いWi-Fiエリアを構築できる仕組みです。
もともと3階の事務所で使っている無線LANルーターは、Synology製の「RT2600ac」という製品でした。RT2600acは発売後にファームウェアのアップデートでメッシュWi-Fiに対応するとともに、2018年末に発売されたSynology製のメッシュWi-Fiルーター新モデル「MR2200ac」と組み合わせてメッシュWi-Fiを構築できるようになりました。そこで、1階にMR2200acを設置し、RT2600acと組み合わせることで、ひとまずネットワーク環境を改善しようと考えたわけです。
実際に1階のレジ付近にMR2200acを設置してみたところ、かなりネットワーク環境が改善できました。iPadからインターネットへのアクセス速度が大きく向上したのはもちろん、接続が切れるという現象も一切なくなりました。
ただ、ルーターの設定画面を確認すると、3階と1階のルーター間の電波感度はそれほど良くないようで、たまに接続状況が「不良」と表示されることもあります。やはり、3階と1階を無線LANでつなぐのはかなり厳しいと言えます。とはいえ、有線LANの敷設を待っている時間もありませんでしたので、まずはこの状態でしのぐことにしました。そして、有線LANケーブルの敷設完了後は、1階に設置したMR2200acを有線LAN接続して利用する計画です。
ちなみに、3階から1階までの有線LANケーブル敷設には工事費などのコストが発生します。そして、このLANケーブル敷設費用についてははAirレジ導入に関わる必要な費用として、軽減税率対策補助金の申請が可能となります。軽減税率対策補助金では、mPOS導入に必要となる様々なコストが補助されますので、軽減税率対象商品を扱う店舗でmPOSやキャッシュレス決済の導入を考えているなら、このタイミングを逃す手はないでしょう。
Airレジ+Airペイの決済オペレーションは予想通りとても便利
店で利用することにしたキャッシュレス決済サービスのAirペイは、クレジットカードと電子マネーの決済に対応しています。対応ブランドは、クレジットカードはビザ、マスターカード、JCB、アメリカン・エキスプレス、ダイナースクラブ、Discoverの6ブランド、電子マネーは交通系電子マネー9種類(Kitaca、Suica、PASMO、toica、manaca、ICOCA、SUGOCA、mimoca、はやかけん)とiD、QUICPay+の11ブランドです。
店では、この全ブランドへの対応を申請して、2月上旬に全てのブランドの認可が下りました。認可までにかかる時間はブランドごとに異なりますが、早いところは1週間ほど、遅いところでは3週間ほどかかりました。
これらクレジットカードや電子マネーを利用した決済は、専用端末で行なうことになります。専用端末は、クレジットカードの磁気ストライプリーダーとICカードリーダー、NFC/FeliCaのリーダー・ライターが一体となった小型の端末です。この端末は、イギリスの決済端末メーカーのMiura Systemsが開発したもので、Airペイだけでなく、楽天ペイやコイニーをはじめ、国内のモバイル決済サービスで広く利用されています。読者のみなさんの中にも、この端末を使うお店でキャッシュレス決済を体験したことがある方がいらっしゃると思います。
この決済端末は、iPadとBluetoothで接続して利用します。また、iPad側にはAirペイ用の専用アプリ「Airペイアプリ」をインストールする必要があります。そして、Airペイアプリと決済端末が連携してキャッシュレス決済を行ないます。
Airペイでの基本的な決済手順は、Airペイアプリを起動して決済金額を入力して決済手段を選択した後に、決済端末でカードを読み込み、クレジットカード利用時には決済端末での暗証番号の入力またはiPad側でサイン入力を行なう、という流れになります。
ただ、AirペイはAirレジと連携して利用できるようになっています。その場合には、操作する店員からはAirレジだけを操作している感覚でキャッシュレス決済が行なえます。
具体的には、Airレジでの決済時に決済手段としてクレジットカードや電子マネーなどの手段を選択すると、キャッスレス決済の画面に切り替わり、決済が終了するとAirレジの画面に切り替わって取引完了となります。表からはそういった動きとなりますが、実際には操作者から見えないところでAirレジで選択した決済手段と決済金額がAirペイアプリに渡され決済処理が実行され、決済処理終了後にその結果がAirレジに渡され取引完了となります。この時、キャッシュレス決済による取引ということもAirレジ側で記録されますので、あとからAirレジとAirペイの取引結果を照合する手間もかかりません。
キャッシュレス決済の導入においてAirレジとAirペイを選択した最大の理由は、レジを操作する店員の、キャッシュレス決済時にかかる負担を軽減できると考えたからでした。そして、導入に向けて2月下旬からテストを繰り返しましたが、その過程で当初の判断は間違っていなかったと確信できました。
キャッシュレス決済時には決済端末を取り出す手間はありますが、実際に決済操作を行なった印象でも、複数のアプリを使い分けることなく、Airレジの操作だけでクレジットカード、電子マネーといった決済手段の選択から実際の決済まで行なえるという点は、レジを操作する店員に必要以上の負担をかけることがないと感じます。
あわせて、会計処理の手間についても、Airレジのみ側で現金決済とキャッシュレス決済の区別なく処理ができるので、この点でも手間が軽減できると確認できました。
もちろんこれは、AirレジとAirペイにしか実現できないことではありません。今回筆者は、AirレジとAirペイの組み合わせを選択しましたが、Airレジ以外のmPOSでも同様の仕組みが用意されています。もし、消費増税や軽減税率制度の実施に向けて、レジをmPOSに変更しキャッシュレス対応も行ないたいと考えているなら、オペレーション負荷の軽減に繋がるという意味でも、選択したmPOSと連携できるキャッシュレス決済サービスとの併用を強くお勧めしたいと思います。
キャッシュレス決済の運用開始当日から問題が頻発
さて、開始までに何度もテストを繰り返して、ICクレジットカード、磁気ストライプクレジットカード、交通系電子マネー、iD、QUICPay+のいずれも問題なく決済できることを確認。そして、3月の第1火曜日となる3月5日よりキャッシュレス決済の運用を開始したのでした。
ただ、万全の体制でスタートしたつもりだったのですが、実際には運用開始の初日から予想外のトラブルが頻発する事態となりました。そのトラブルとは、ICクレジットカードの読み取りエラーが頻発する、というものでした。
ICクレジットカードは、決済端末下部に用意されているICカードリーダー部に差し込んで利用するのですが、決済時にICクレジットカードを差し込むと、読み取りエラーが表示されて、正常に利用できないのです。それも、カードを差し直してもエラーが表示される、ということが繰り返されました。しかも厄介なのが、常にエラーが発生するとは限らないという点でした。一発で読み取れる場合もあれば、2~3回の差し直しで読み取れたり、5~6回差し直しても全くエラーが解消しない場合もありました。さらに、同じカードでもエラーが出る場合もあれば、エラーなく読み取れる場合があるというように、どこに問題があるのか場合分けができないのです。
カードのIC端子の汚れやリーダー側の接点の汚れが影響しているのかと考えて、ICカードリーダー用の接点クリーナーを購入して掃除してみても状況は改善しませんでした。また、周囲のノイズが原因かと考えて、レジ横カウンターに内蔵されている冷蔵庫の電源を落として試してみても改善しませんでした。結局、あまりにもエラーが頻発して業務にならないと考えて、早々にキャッシュレス決済の運用を中止する事態となってしまいました。
その後、Airペイのサポートに連絡して状況を伝えると、決済端末を交換するということになりました。サポートの対応は素早く、即日新端末の配送が手配されて、翌日朝には新しい決済端末が届きました。届いた新端末を接続して翌日の営業に臨んだのですが、交換した端末でも同様にICクレジットカードの読み取りエラーが頻発したのです。そのため、またもや開店早々にキャッシュレス決済の運用を中止せざるを得ませんでした。
改めてAirペイのサポートに連絡すると、「こういった(読み取りエラーが頻発する)状況はこれまで報告がない」と言われました。しかし、実際に目の前で起こっていることです。報告がないなら実際に状況を見てもらいたいと考えて、「技術の人に見に来てもらってもいいです」と伝えても、そういった対応はやっていないとの返答。じゃあどうすればいいんだ、とも思ったのですが、サポートから「新品の決済端末ではなく、動作確認済みの決済端末を送る」と言われて、まずはそちらを試してみることにしました。
そして、翌々日に交換用の決済端末が届きました。そちらに交換して試してみたところ確かにエラーの頻度は大幅に減りました。ただ、完全な解消とはいかず、5回に1回ほどの頻度で、まだエラーが発生します。それでも、1~2回差し直せばカードを認識するようになっていたので、とりあえずはそのまま使いつつ様子をみることとなりました。
すると、徐々にエラーの発生頻度が減っていき、数日後には、1日に数回しかエラーが発生しないようになりました。ただ、なぜエラーの頻度が低下したのか、明確な理由はわかりません。それでも、お客様に多大なご迷惑をおかけするような事態ではなくなってきたと判断して、そのまま運用することにしました。合わせて、エラーが発生する状況をサポートに細かく説明して、詳しく調査してもらうようにも伝えました。
それから2週間ほど経過したところでサポートから連絡があり、決済端末のファームウェアに不具合があることが判明して、アップデートを実施するといった旨の連絡がありました。そして、そのアップデートを施した決済端末を送るので、そちらを使ってほしいとのこと。そして、交換用として送られてきた決済端末を使ってみると、確かにエラーの発生が劇的に減りました。ここまでに4度の機器交換と1カ月ほどの時間がかかりましたが、ようやく本格的なキャッシュレス運用が始まったと言っていいでしょう。
店員からは電子マネーが特に好評も、決済にかかる時間には不満も
最終的な決済端末の交換後は、現在に至るまでほぼ安定してキャッシュレス決済が行なえています。
問題となっていたICクレジットカードの読み取りエラーは、完全になくなったわけではありません。現在でも、1日に1~2回ほど発生しています。ただ、その場合でも1回差し直せば正常に読み取れています。未だにエラーが発生する原因は不明ですが、運用上大きな問題とはなっていませんので、問題はほぼ解消したと判断しています。ちなみに、磁気ストライプクレジットカードと、交通系電子マネー、iD、QUICPay+の電子マネーでは、当初から一切トラブルなく決済できていました。
実際の運用ですが、開始当初はエラー頻発問題もあったことで、かなり混乱しました。また、エラー問題がほぼ解消して以降は、クレジットカードがICに対応しているかどうかを判断して、ICカードリーダー側に差し込むか、磁気ストライプリーダーで読み取るかを見分けたり、お客様にiPadの画面にサインしてもらう場面での操作に店員が戸惑う場面が多々ありました。ただ、2週間ほど経過したところでそれら操作に店員も慣れてきて、1カ月ほど経過した頃には、ほぼ問題なく決済対応が行なえるようになりました。
キャッシュレス決済を導入して以降の全売上げに占めるキャッシュレス決済の比率は、運用開始直後からまずまずの比率で推移しています。日によって上下はありますが、平均すると17%ほどとなっています。店の客層から考えると、当初の見込みよりもやや多いかなという印象もありますが、現在の日本国内でのキャッシュレス比率とほぼ同じぐらいで、標準的な利用率と言えそうです。
決済手段の比率については、クレジットカードが圧倒していて、全体の75%ほどを占めています。次いで交通系電子マネーが15%ほど、iDとQUICPay+が5%ずつ、といった感じです。店は東京都内にありますので、もう少し交通系電子マネーの利用が多くてもいいような気もしますが、比率としては標準的かもしれません。
キャッシュレス決済の操作性についてレジ担当の店員に話を聞くと、当初はエラーが頻発していたこともあってあまりいい印象はなかったようですが、エラーが解消してからは、思ったほど面倒ではないと概ね好評でした。中でも、電子マネーでの決済については、お客様がカードやスマートフォンなどをタッチするだけで決済が完了するという手軽さが便利と、かなり高く評価されています。
ただ、現金決済に比べて待ち時間が多いのがもどかしいという意見がありました。特に気になるのが、決済端末がカードを読み取れるようになるまでの時間と、暗証番号入力後の決済完了までの時間、レシートがプリントされるまでの時間が長いとのこと。
実際にICクレジットカードの決済で時間を計測してみましたが、決済手段選択から決済端末が読み取り可能になるまでに2~3秒、ICカードを挿入して暗証番号入力待機に移行するまでに3~5秒、暗証番号入力後の決済処理から控えプリントまでに5~8秒かかるようでした。
数字だけ見るとそれほどでもないと感じますが、現金決済時にはこういった待ち時間がありませんし、コンビニやスーパーなどでのキャッシュレス決済時の処理時間と比べても長く感じるのは事実です。そして、その時間お客様をお待たせしていることになりますので、気になると感じるのも当然でしょう。
現金やお釣りのやりとりがなくなりスピーディに対応できるという点もキャッシュレス決済のメリットのひとつですから、そのメリットをより強く感じられるように、決済処理にかかる時間の短縮を実現してもらいたいと思います。
売上げの変化は長い目で見ていく予定
現時点では売上げの変化についての検証は、まだ行なっていません。多くの決済事業者は、キャッシュレスを導入すると売上げが伸びるとしていますので、どうしても売上げの上昇を期待してしまいますし、そうでなければ決済手数料の分だけ利益が減るわけですから切実です。それでも、レジ担当の店員によると、お客様から「カードが使えるならこれも買っていこう」という声が聞かれることもあるそうで、期待は持てそうです。ただ、この点は導入から数カ月という短い期間で検証できるものではないと考えています。今後継続して注視しながら、売上げの推移をチェックしたいと思います。
合わせて次回は、Airレジ・Airペイ運用環境にちょっとした改善を実施したことや、コード決済サービス「AirペイQR」の導入などについて取り上げようと思います。