中小店舗のキャッシュレス対応
第1回
老舗甘味処、キャッシュレス導入す。レジ刷新と選定理由
2019年5月15日 08:15
筆者の家族は、東京都内で飲食店を経営しています。その店では、これまでは現金決済のみの対応でしたが、2019年10月1日からの消費税の増税や軽減税率制度の導入、増税に合わせて実施されるポイント還元策などに対応するために、レジシステムの入れ替えや、キャッシュレスへの対応を行なうことになりました。本連載では、新しいレジシステム導入に至った経緯や、実際にレジシステムやキャッシュレス対応機器の導入をどのように進めたのか、紹介したいと思います。今回は、導入したレジシステムの選定理由を紹介していきます。
軽減税率や還元策への対応を行なうためにレジ刷新
まず始めに、筆者の家族が経営している店について簡単に紹介します。
筆者の家族が経営している店は、東京の神楽坂にある「紀の善」という甘味処です。あんみつやおしるこ、抹茶ババロアなどの甘味を中心として、店内でのイートインとお土産のテイクアウトを行なっています。
当初店では、消費税の増税に合わせてレジを入れ替えようとは考えていませんでした。それは、消費税の増税が実施されても、それまで使っていたレジに新価格を登録すればなんとかなるからです。
店で扱う商品には、消費税増税に合わせて実施される軽減税率制度の対象となるものがありますが、そちらへの対応も、イートインの商品とテイクアウトの商品を個別に登録し、それぞれの税率に合わせた金額を登録すれば問題なく対応できます。
ただ、2018年に入って消費税の増税に合わせて消費者への還元策を行ない、その還元策はキャッシュレス取引についてのみが対象といった話が出てきました。合わせて、近年の訪日外国人観光客の増加に伴う外国人客の増加も見られているため、やはりキャッシュレス対応は必要かな、という話が家族の間でも出るようになってきていました。
店は個人経営で、店舗は神楽坂にある1店舗のみ。2019年10月1日の消費増税に合わせて実施される「キャッシュレス・消費者還元事業」の対象店舗に含まれます。
合わせて、経済産業省が実施している「軽減税率対策補助金」の存在も、レジシステムの更新を後押ししました。軽減税率対策補助金は、「飲食料品等を扱う中小・小規模事業者の軽減税率対応を支援する目的から、複数税率対応のレジと併せて、付属機器として決済端末等を導入する際に係る費用を補助する」ものとして用意されたもので、レジの更新にかかる費用の最大3/4を国が補助するという制度です。この制度を利用すれば、レジシステムを刷新する場合でも、実質の負担金をかなり軽減できるわけです。
こういった経緯から、2018年後半ぐらいから店のレジシステムの刷新とキャッシュレス対応を検討し始めて、2018年末から2019年初頭にかけて、実際にレジシステムを更新することになりました。
レジシステム選定のポイントは、オペレーション負荷の低減
今回、店のレジシステムを刷新するにあたって選定のポイントとしたのが、なるべく店員にレジオペレーションの負荷がかからないようなもの、という点でした。
家族が経営している店は、曜日や時間帯によってはかなり混雑することがあります。そういった場面では、レジカウンターにイートインとテイクアウトのお客様が行列となることもあって、レジ待ちでお客様をお待たせするといったことがよくあります。そこで、なるべく短時間でレジ作業がすませられるものを基本としたわけです。
おそらく、レジ作業に最も時間がかからないのは、操作に慣れているもともとのレジを使う場合です。ただ、新しいレジを導入した直後こそ、操作に戸惑う場面があるかもしれませんが、時間が経てば操作に慣れ、従来のものと遜色のないスピードで操作できるようになるでしょうから、その点についてはあまり心配しませんでした。
それに対して、最も重視したのが、キャッシュレス決済時のオペレーションです。
キャッシュレス決済に対応している店を見てみると、キャッシュレス決済時のオペレーションはかなり煩雑です。流れとしては、商品をレジに打ち込んで金額を確定させてから支払い方法を選択し、現金またはキャッシュレスでの決済を行なうことになりますが、どういったレジシステムを利用するかによって、その操作手順は大きく変わります。
コンビニなどの大手チェーンでは、キャッシュレス決済に対応したPOSシステムが導入されていますので、レジ単体で商品の登録からキャッシュレス決済まで一気通貫で行なえるようになっていますし、処理のスピードもかなり速いです。しかし、個人店舗ではそういったシステムの導入はコスト的にも不可能です。
そうなると、レジに加えて、キャッシュレス決済用の専用端末を用意して、双方を使い分けるというオペレーションが基本となります。その場合のレジオペレーションは、レジで商品を登録して合計金額を出したあとに、キャッシュレス決済用の専用端末を取り出して合計金額の入力や決済方法を選択、そして実際の決済を行なう、という手順となります。個人経営でキャッシュレス決済に対応する店舗の多くが、こういった手順になっていると思います。
ただ、この方法ではレジ側とキャッシュレス決済用端末側を個別に操作しなければなりませんので、どうしてもオペレーションが煩雑になります。
また、決済処理がレジとキャッシュレス決済端末の双方で行なわれることになりますので、双方のレシートを合わせて管理する必要がありますし、閉店後の会計処理も煩雑となってしまいます。ただ、コストなどを考えると、個人店舗ではやはりこの方法以外を選択する余地はないのが現実です。そこで、この部分の手間をなるべく軽減できるシステムを選定の基準とすることにしました。
最終的に、「Airレジ」と「Airペイ」の組み合わせを選択
実際に2018年の秋頃からレジシステムのリサーチを開始しましたが、上記のポイントを満たすシステムとしては、タブレットとPOSレジアプリを利用したシステムが最も有力という結論に至りました。
近年、小規模店舗向けの専用POSレジシステムでも、昔ながらのボタンを使ったものではなく、タッチ対応ディスプレイを備えタッチ操作で利用するものが増えています。そういったタッチ対応POSレジシステムはかなり高価ですが、タブレットを利用するPOSレジアプリの活用なら、ほぼ同等の機能を実現しながら、汎用のタブレットを使うことでかなり安価に導入できます。
また、実際にレジを担当する店員の多くが、普段からスマートフォンやタブレットを使っているということなので、これまでのボタン式のレジから切り替えたとしても、それほど操作に戸惑う事はないだろうという判断もありました。
POSレジアプリは、種類がかなり多く存在していますし、実際にリサーチしてみると機能的にも大きな差はありませんでしたが、最終的に店で選択したのは、リクルートライフスタイルが提供している「Airレジ」でした。
Airレジは、タブレットやレシートプリンター、現金を入れるキャッシュドロアーなどの必要な機材を揃えてしまえば、その後の利用料がかからず無料で利用できるという点が選択理由のひとつでしたが、それよりも大きな理由となったのが、同じくリクルートライフスタイルが提供しているキャッシュレス決済サービス「Airペイ」の存在です。
Airペイは、大手ブランドのクレジットカードや、Suicaなどの交通系カード、iD、QUICPayに対応したキャッシュレス決済サービスです。また、中国のAliPayやWeChat Pay、日本のLINE Payやd払いといったコード決済に対応する「AirペイQR」も用意されています。
そして、これらAirペイとAirペイQRは、Airレジとの連携が実現されています。
キャッシュレス決済時には、キャッシュレス決済用のアプリを手動で起動することなく、Airレジの操作のみで決済までシームレスに行なえるのです。つまり、AirレジとAirペイ、AirペイQRの組み合わせであれば、コンビニなどのPOSレジに近い使い勝手が実現できるというわけです。これによって、キャッシュレス決済が加わったとしても、レジオペレーションの手間をかなり軽減できると考えました。
POSレジアプリからキャッシュレス決済サービスまで、全てリクルートライフスタイルが提供しているという点も、大きなポイントです。他のPOSレジアプリでも、キャッシュレス決済サービスと連携して、POSレジアプリから一貫した操作が可能となっていますが、キャッシュレス決済サービスは他社が提供するものを利用することになるものが多く、手続きやトラブル時の対応は個別に行なわなければならなくなるという懸念があります。Airレジ、Airペイ、AirペイQRは全て同じグループ企業が提供していますので、その点の不安も少ないと考えました。
というわけで、2018年末に最終的にAirレジの導入を決定し、2019年1月に必要となる機材の用意や各種契約を行ない、2019年2月頭より本格的にAirレジの運用を開始したのでした。
次回は、導入した機材の選択ポイントや、2019年10月1日以降の消費税増税と軽減税率けの対応も含めたAirレジの設定などについて紹介したいと思います。