鈴木淳也のPay Attention

第204回

新型Amazon Freshなどレジなし自動化店舗の最新トレンド

早朝、雪のニューヨークを歩く

振り替えるとちょうど1年前、いわゆる「無人レジ店舗」についての視点から米ニューヨークで毎年1月に開催されるNRF Retail's Big Showについてのレポートを行った。今年のNRF 2024についても、やはり無人レジ店舗は主要トピックの1つであり、各社で類似する技術展示が行なわれている。

2017年に関係者限定のベータテストを開始、2018年1月に「Amazon Go」として米ワシントン州シアトルの第1号店が一般公開された「Just Walk Out」の技術だが、以後は同種の技術を研究する沢山のフォロワーを生み出した。

当初は「いかに“レジなし店舗の仕組み”を実現するか」という部分に比重が置かれた実験店を含む各社の店舗だが、2020年から始まったコロナ禍による小休止を経て、成熟化されつつある。

「入場者同士での荷物の受け渡しができない」という技術的問題をいまだ抱えるものの、トレンドはしだいに「いかに“ビジネスとして成立させるか”」という視点に移りつつあり、本稿最後の小売店が現在抱えている根本的な課題も含め、ビジネス視点での工夫が各社の差別化ポイントとなっている。

今回はまずNRF本体の話題に入る前に、出発点となった「Just Walk Out」の最新店舗が現在どうなっているかを見ていきたい。

Amazon.comの「Just Walk Out」

Amazon Freshのオーシャンサイド店にみる最新トレンド

NRF 2024が開催される直前、米ニューヨーク州のロングアイランドにあるAmazon Freshを訪問してみた。

Amazon Freshについては以前に米ワシントン州ベルビューにある店舗の様子を紹介したが、従来のAmazon Goのような都市型のコンビニエンスストアではなく、郊外型のスーパーマーケットにJust Walk Outの技術を適用したものとなる。Amazon Goとは異なる特徴としては大きく2つあり、1つは店舗面積が圧倒的に大きいこと、もう1つは生鮮食品やフードバー、軽食コーナー、量り売りの食肉コーナーなど、米国の一般的な大型スーパーにあるような売場が一通り揃っている点にある。

今回訪問したニューヨークはオーシャンサイド(Oceanside)という街にあり、マンハッタンからは公共交通を乗り継いで1時間半ほど、車でも渋滞なしで1-2時間程度はかかる郊外の立地で、普段旅行者が近寄らないような場所にある。

Amazon Freshのオーシャンサイド店

訪問したのは土曜日の昼前くらいだったが、地元民らしき買い物客がアプリなどを使って次々と入店していく姿を見かけた。店舗の詳細については前回のレポートを参照いただくとして、今回オーシャンサイド店で気付いたポイントを箇条書きで挙げていく。

  • 重量センサーを用いない商品販売コーナーや棚を多数見かけた
  • コーナーによって商品の詰め込み具合が加速しており、見た目の商品点数が増えている
  • カメラ台数が大きく変化した様子はなく、従来と変わらず多くのカメラが設置されている
  • サイネージ類が拡充されており、頻繁に商品宣伝を行なっている
Amazon Freshオーシャンサイド店内の様子

おそらく、国内外問わず無人レジ店舗の開発や運営にかかわる関係者が最も気にしているのは前半2つのポイントだろう。

今回の店舗訪問で最も驚いたのは、明らかに重量センサーが存在しない販売コーナーが存在しているのと、冒頭でも触れたビジネスモデルを成立させるうえで重要な「詰め込み」を行なっている点にある。

まず重量センサーだが、コストコ(Costco)で見られるようなパレットに商品を積んだまま店舗内への陳列が行なわれているコーナーだ。水の24個入りボトルのまとめ売りや、炭酸飲料の缶を複数詰め込んだ箱入りケースなど、そのまま平置きされている。従来のJust Walk Outではカメラで人の移動を追跡し、商品を人が取得したかを重量センサーで把握する2つのセンサーの組み合わせが一般的であり、今回のこの仕組みはカメラのみで行動を把握していることを意味する。

問題のパレットに載せた状態での商品販売コーナー。コストコなどでよく見かける光景だ
同様に炭酸飲料の例だが、普通の木枠の上に載せられていることが分かる

このほか、店内の棚群をいろいろと調べていたが、明らかに重量センサーを搭載していないと思われる棚の数が多く、Amazonが店舗から重量センサーを意図的に排除しつつあることが見てとれる。一方でカメラの数はそれほど変わっている印象を受けないため、純粋にカメラによる行動追跡のみで商品取得を判断できるほど精度を上げているのだと考える。

炭酸飲料を箱入りするコーナーも同様。このように無造作に配置されている。重量センサーをネットワーク接続するためのケーブルや電源供給用の装置がない点にも注目
冷凍チキンやターキーなどを冷凍庫に入れて丸ごと販売するコーナーにもネットワーク接続用のケーブルがない。おそらく重量センサーは存在しないと思われる
飲料販売コーナー。これだけを見ると普通の商品陳列棚に思われるが……
棚をよく見ると重量センサーと思われる仕掛けはなく、一般的なスーパーの棚什器を使っていると思われる

そして関係者には割と衝撃かもしれないのが、棚の詰め込み具合だ。現在、コンビニ型の無人レジ店舗で課題になっていることに、「商品点数をいかに増やすか」というのがある。一般に店舗あたりのコンビニの商品点数は3,000点ほどとされているが、無人レジ店舗では重量センサーの配置やカメラの追跡精度の問題からその6-7割程度まで商品点数が減少してしまう問題がある。商品点数はほぼ店舗売上に比例するため、店数をいかに増やすかはビジネス上の損益分岐点である日商に直結する。

今回のオーシャンサイド店だが、調味料やピクルスのコーナーなど、明らかに従来の無人レジ店舗の基準を超えるレベルの商品が棚に詰め込まれており、おそらく一般的なスーパーのそれと変わらない。加えて、重量センサーが配置されていると思われる棚においても商品ごとにセンサーのブロック分けはされておらず、棚の1段単位での重量計測を行なっているようだ。そのため、物理的な敷居は商品サイズに合わせて調整されており、前述のような詰め込みを可能としている。

同じ重量センサーを用いるのでもその数を減らした方がコスト効果は高いわけで、今回の店舗ではその工夫が随所で見てとれた。

調味料とピクルスのコーナー。商品が棚に大量に詰め込まれている
商品棚か確認したところ。ほぼ限界まで詰め込まれていることが分かる
乳製品と卵の販売コーナーだが、少なくとも商品単位で重量センサーが設置されている様子はない

まとめると、最新のAmazon Freshはより一般的なスーパーマーケットの(商品点数や配置的な意味での)フォーマットに店舗を近付けつつ、初期導入コストやメインテナンスの障害となっていた重量センサーを極力省いていくことで全体のコストを下げつつ、それを実現するためにカメラを用いた追跡、つまりAI処理の技術を向上させた点が大きな特徴といえる。

AmazonはJust Walk Outの外販に際して、重量センサーを用いない低コストなフォーマットを用意してアピールを行なっていたが、現時点での集大成と呼べるのがこのオーシャンサイド店なのだろう。従来の無人レジ店舗が抱えていた課題の解決に対する回答が多分に含まれており、無人レジ店舗のトレンドも第2フェイズへと移行しつつある。

これは商品棚に取り付けられたサイネージだが、これ以外にも商品宣伝を頻繁に行なう大型ディスプレイのサイネージが何カ所かに設置されている
商品によっては電子棚札(ESL)が取り付けられているケースもあるが、セール品などには普通に印刷した紙が貼られていたりと、何のためのESLなのか疑問に思う点も見受けられた
カメラの拡大図。1つの棚あたり1-2台程度が設置されていた

コストを削減しつつ市場を探す

今後、無人レジ店舗が向かう方向性は主に2つあると思われる。1つはAmazon Freshのオーシャンサイド店のように、できるだけ店舗フォーマットを既存の一般店舗に近付けつつ、無人レジ店舗での難点だった初期導入コストの高さや商品点数にまつわる課題をクリアして採算ラインに乗せることだ。

以前にTOUCH TO GO(TTG)代表の阿久津氏にインタビューしたが、同社はサブスクリプション型モデルで初期導入コストの高さをクリアしつつ、一定期間後に回収フェイズに入る収益曲線を描いていた。だが、商品点数などの問題から日商の問題がクリアできなければ店舗側も導入を躊躇し、仮に導入されたとしても初期導入コストそのものを下げられなければ採算ラインに乗るまでの時間がかかることになる。取っかかりとして、まずは機材そのもののコスト削減が必要だといえる。

今年のNRF 2024では、そこまでの状態に至っている事業者は少ないという印象だ。運営を進めることでこうした課題が見えてくるため、比較的先行しているベンダーとそうでないベンダーで差異があるからだ。

例えばMicrosoftブースで展示を行なっていたAiFiは先行するベンダーの1社であり、重量センサーを用いないカメラのみで追跡を行なう比較的低コストな仕組みを提供している。Microsoft Azureを用いたクラウドベースでのAI学習機能に強みを持っており、特にカメラですべてを追跡するため画像認識処理が鍵となるだけに、商品登録の際の画像学習が重要になる。例えばキャンペーンやコラボなどで見た目の異なる新商品が多数登場した場合など、学習データを店舗パートナー各社で共有することで登録時間を短縮できるといったメリットがあるという。とはいえ、同社によれば現時点での最大顧客はいまだポーランドのZabkaであり、フランスのCarrefourなど大手スーパーの顧客を獲得しつつあるものの、ブレイクスルーを得るには至っていない。

Microsoftブースでデモンストレーションを行なうAiFi

一般的な店舗フォーマットの展開には足踏みしているものの、市場は確実にあるということで、自身の技術が“はまる”場所を探しているという印象を受けたのも今年のNRF 2024の特徴だ。

例えば今回、日立製作所としては初のNRF単独出店となる「CO-URIBA(コウリバ)」だが、コスト削減を進めつつ社内では福利厚生向けのサービスを提供して認知を高めつつ、ここニューヨークでは多言語対応を含めた新たな可能性を求めて来場者の反応を確かめにきた。正直、当初発表された直後のコストでは設置場所を選ぶ印象が強かったが、現時点では使い方しだいで“はまる”市場が広がったのではないかと考える。

同様に、CO-URIBAを含む過去のイベント展示ではパートナーを構成していたイスラエルのShekelも日立の隣にブースを構えており、新しい重量センサー技術を紹介している。こちらは重量センサーのコスト削減に特化しており、棚の什器の下に2つのセンサーを取り付けるだけで全体の重量計測ができるというデモンストレーションを行なっていた。実際に該当する商品が取得されたかを重量を介して計測し、セルフレジで会計する際の答え合わせとする。行動追跡を含めた完全自動化の無人レジ店舗ではなく、あくまでセルフレジのセキュリティ対策に焦点を当てているが、先方の説明によれば「用途や想定コストに応じて使い分けられる商品を用意した」ということで、「Shekelの重量センサーは無人レジ店舗に展開するには高価」という評価への回答なのだと考える。

日立製作所の「CO-URIBA(コウリバ)」のデモンストレーション
Shekelの新しい重量センサーのデモンストレーション
棚から取得した商品を重量を基に計測し、セルフレジでのスキャン内容と合致しているかを判定する
Shekelの新しい重量センサー。棚の下に取り付けられた2つの装置で計測する

このように各社苦労がうかがえる、無人レジ店舗でのソリューション展開だが、ビジネスベースで割と普及が見込まれるのがクーラーボックスなどを使った自販機サービスだ。

NRFでは4年くらい前から展示を見かけているが、最近は技術展示のみならず、すでにビジネスを展開しており、新たなパートナー開拓を求めてNRFに出展するケースが増えている。

ポルトガルのSenseiというベンダーが無人レジ店舗のデモンストレーションをNRFで行っていたが、同社はもともと前述のクーラーボックスなどの設置販売を行なうビジネスを広く展開しており、業容拡大の一環として今回ニューヨークに来ている。

通常の自動販売機とは異なる大きなポイントとして、商品の形状を選ばないこと、一般的な自販機のように大がかりな装置が必要なく、AIカメラによる低コストでの管理や決済機能を提供できている点で、安価に広域展開が容易という特徴を持つことが挙げられる。

Senseiの無人レジ店舗のデモンストレーション
A-POPのクーラーボックス型自動販売機。同種の展示は今年のNRFでも複数箇所で見かけた

もう1つ、NRFでの大きなトレンドとして、次の項目にもつながるが、“レジの省力化”を実現する仕組みとして、画像認識のセルフレジが比較的普及している点だ。

先日、米ハワイ州マウイ島のカフルイ空港の複数の売店で見かけたのだが、店員がいるレジとは別にセルフレジコーナーが設けられており、スナックやドリンクの販売に画像認識レジを使えるようになっていた。これはMashginの製品だったが、同様のデバイスがNRFのGloryのブースにも展示されており、自動釣り銭機を提供する同社の説明によれば「画像認識レジのセットで一緒に提案しやすい」とのことで、この市場がそれなりに引き合いがある規模に成長してきていることが分かる。

米ハワイ州マウイ島のカフルイ空港内の売店コーナー。複数の店舗で画像認識レジが設置されていた
GloryのブースでのMashginの画像認識レジ。自動釣り銭機と合わせての提案が行ないやすい商品だという
NCR VOYIXの画像認識レジ。去年のNRF 2023でデビューしたものだが、こちらも引き合いが強く、今年はさらにRFIDタグリーダーを組み合わせた複合型セルフレジのデモンストレーションが行なわれている
東芝の画像認識レジの展示。こちらは残念ながら技術展示のみということで、無人レジ店舗やセルフレジでの不正検知システムを含めた総合技術をアピールするためのデモンストレーションという扱い

“人不足”という究極の課題

なぜ小売業界が無人レジ店舗やセルフレジ、また今回は紹介しなかったがスマートショッピングカートなど、“省力化”を実現する技術導入に興味を示すのだろうか。もともと米国における小売業界は、流通も含めた業界全体で米国の雇用人口の3分の1から4分の1を占める巨大なサービス市場を構成しており、これを活かしての議会へのロビー活動に強みを発揮してきた。

一方で近年、特にコロナ禍を経ての市場の変化で雇用吸収力が弱体化してきたばかりか、賃金上昇も含めた人流の変化で雇用そのものが難しくなっており、いわゆる“人不足”の現象に直面している。無人化や自動化はとかく“人員削減”ととらわれがちだが、実際のところ小売業界における問題は“人不足”に起因するものであり、いかに少ない人員でビジネスを回せるかという部分に帰結する。

NRF(全米小売業協会)はロビー活動での影響力を毎回アピールしている

そうしたなかで今年のNRFで気付いたポイントの1つが「ロボットの台頭」だ。店舗での案内やレストランでの商品運搬を行なうロボットはすでにお馴染みだが、ここNRFでは流通分野で活躍するロボットを多数見かけることができた。立体駆動で倉庫を駆け回って商品の上げ下ろしを行うロボットもいれば、人に追随してピッキング作業を手伝ったり、あるいはピッキング作業そのものを代行するものもある。Amazon FSで活躍するパレットの自動運搬ロボットも複数台見かけた。

さらには、AIで行動を学習して人間の動きを再現できる人型ロボットの展示まで行なわれており、従来のロボットでは専用のルート確保やレールの敷設が必要だったのに対し、学習済みロボットを放つことで24時間365日休まずの稼働が可能な倉庫が実現できるというアピールさえ行なわれていた。そのうち、リアルで動く人を正面で見ることが最大の贅沢……という時代がやってくる可能性さえあるのかもしれない。

Apptronikのロボット。シリンダー式のバッテリを交換すれば24時間365日無休での活動が可能になるという

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)