鈴木淳也のPay Attention

第160回

JR東日本がついに開始する「QRコード改札」 狙いと仕組みを完全整理

新型自動改札機(在来線用)への QRコード読み取り機の設置例(写真提供:JR東日本)

先日、「JR東日本、QRコード乗車を2024年度に開始」というニュースが出たが、この件に関して誤解によるとみられる意見が多く散見された。今回は一問一答形式でJR東日本の公式回答を交えて情報を整理したい。

まず前提としてQRコードを使った乗車サービスの概要をまとめると、次のようになる。

  • (老朽化した機材の交換が始まる)2022年12月から、一部の通路にQRコードリーダーを搭載した新型自動改札機を順次設置
  • 対象となる区間はJR東日本の営業エリアで(BRT区間を除く)新幹線・在来線全線
  • 2024年下期に東北エリアでサービスを開始し、順次対象を拡大
  • 「えきねっと」で乗車券を予約・購入した際に「QR乗車」が選択可能になり、アプリに表示したQRコードで在来線と新幹線を問わずに「チケットレス」での移動が可能になる

この情報を踏まえて、よく勘違いされるポイントや、疑問に思う部分をまとめていく。

QRコードは「Suica」を置き換えるものではない

多く見られたのが「QRコードはSuicaを置き換えるものなのか? 」という疑問だ。

これは明確に「違う」。

QRコードはSuicaの置き換えではない。あくまで既存の改札システムに「QRコードによるチケットレス乗車」の機能を追加するもので、従来の交通系ICカードや磁気切符はそのまま利用できる。IT用語風にいえば、あくまで「アドオン」の扱いだ。

磁気切符に対応した改札機のメインテナンスや磁気切符そのものの廃棄処理にかかるコストが問題であり、将来的にJR東日本が磁気切符をなくしたいという希望はあると思われるが、「連絡切符など他社の乗り入れにおいて磁気切符の必要性があり、今回の件で磁気切符をなくすという話はない」(JR東日本広報)と説明している。

また、QRコード乗車はあくまで付加機能として用意されるものであり、同社によれば「各駅のご利用状況に応じて適切な台数を設置する予定」という。

組み合わせとしては「IC+QR」「IC+磁気+QR」「磁気+QR」の3つのパターンが考えられ、それに合わせて必要な台数が用意される。

おそらくレーン全体にQRコード読み取り機が設置されるようなケースはなく、多くが心配するような「QRコード読み取り機を設置するとラッシュ時に改札が詰まる」というのはそれほど問題にならないと思われる。

QRコード読み取り機の既存改札への設置例(写真提供:JR東日本)

当面は「えきねっと」アプリ経由での利用を想定

JR東日本の回答によれば、下記のように同社の予約サービス「えきねっと」利用を前提としており、アプリ経由で表示される購入済みチケットを対応自動改札機に“かざす”ことで通過できる仕組みとのこと。自動改札機のない駅が起点または終点の場合、アプリ上で「通過」処理を行なうことで利用を終了する。

QR乗車サービスは「えきねっと」で購入いただいた場合にご利用いただけるもので、基本的にはスマートフォン上のアプリでQRコードを表示してご利用いただく方法を考えている。(紙での印刷やアプリを使わないPDFや画像ファイルでのQRコード表示など)他媒体での利用含め、利用方法の詳細等は現在検討中であり、時期がきたら発表させていただきたい(JR東日本広報)

つまり、インバウンド用途などで海外でチケットを購入しておき、そのままSuicaなどの交通系ICカードを購入せずに、スマートフォンあるいはQRコードが印刷されたチケットだけで改札を通過して目的地に行くことは現時点ではできない。あくまで「えきねっと」のサービスを利用し、アプリ上でQR乗車を選択する必要がある。

「えきねっと」を経由したQR乗車サービスの概要(出典:JR東日本)

なお、上記サンプルにもあるように、現状では出発地と目的地を指定したチケットで乗車する仕組みが例として挙げられている。実際に「周遊券」「1日切符」といったシーズンチケットと呼ばれる特殊切符など、どのような商品をJR東日本が発売するかは現時点でまだ検討中とのことで、時期が来た段階で改めて発表する予定だという。

QR切符情報はリアルタイムでセンターサーバで処理される

このQRコードを使ったJR東日本の改札処理をどのように実装しているのか、筆者が過去に何度も考察してきたが、正式にサービス開始が発表されたことで、いよいよ答え合わせする機会がやってきた。

実際、どのような処理が行なわれているのだろうか。

過去の記事では「QRコード改札はすべてクラウド接続され、ユニークIDを埋め込んだQRコードが改札を入場あるいは出場する情報をすべてリアルタイム管理している」と推測していたが、プレスリリースの説明文にある下記の図版においても「センターサーバ」への照会が触れられており、JR東日本に改めて回答をもらったことで“正しい”ことが分かった。

QR乗車を実現するシステムの構成(出典:JR東日本)

QR切符情報は毎回リアルタイムでセンターサーバとへ照会を行ない判定を行なう。また同じ区間の利用でも、個々に異なるユニークなQRコードが発行される(JR東日本広報)

つまり、すべてのQRコード読み取りに対応した自動改札機はセンターサーバへと接続されており、そこを通過したQRコード情報をリアルタイムで把握している。QRコードは同じ区間切符だったとしても異なるものが生成されるため、「使い回しはできない」ということになる。

またこれについて、「同じQRコードを連続で通そうとした場合、あるいは異なる出入り口の別の改札機を通そうとした場合にエラーが発生するのか?」と質問したところ、「一度利用したQRコードの再利用はできないようにするため、提示いただいたパターンではエラーが発生する。不正利用防止のための必要な手段を講じる予定」(JR東日本広報)という。

複製など考えられる不正利用のパターンを検証し、対策は施されているというのが同社の回答だ。こうした仕組みもすべての改札がリアルタイムで接続されていなければ実現できず、磁気切符とSuicaでの特徴だった「自動改札のローカル処理」という仕組みは、QR乗車の時代には「クラウド」へと変化したことが分かる。

以上、簡単だがJR東日本の回答を元に「QRコードによる自動改札の通過」のニュースの情報を整理してみた。同社によれば、12月中に東京にあるJR代々木駅での対応自動改札機の設置を予定しているとのことで、この時点で直接取材する機会があれば、改めて最新情報を報告したい。

JR代々木駅の外観

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)