鈴木淳也のPay Attention

第23回

沖縄とキャッシュレス。生き残りをかける琉球銀行の戦略

沖縄そばを地元の食堂で。ラフテーとかまぼこが入っている標準的なもの

「キャッシュレス化」を考えたとき、そこには3つの側面があると考えている。

1つは「利用者の利便性」で、現金の代わりに別の決済手段を使いたいという利用者の要望をかなえるもの。2つめは「現金を取り扱わないことによる導入側の利便性」で、レジ締めや会計作業の簡素化など、日々の業務を改善するためのものであり、以前にもセミセルフレジの話題で触れた。そして3つめが「インバウンド」。

以前の欧州キャッシュレスの旅でも述べているが、基本的に旅行客は現地通貨をあまり利用したくはなく、可能であれば自国通貨やそれ以外のクレジットカードなどの手段で済ませたいもの。ゆえに外国人が必要とするキャッシュレス手段に多く対応することが、インバウンドで重要になる。

でも、こうした食堂での会計は現金決済のみだ

沖縄とキャッシュレス

さて、先日沖縄県の那覇市と石垣市を訪問した。沖縄は観光産業が盛んという特性を持っているが、その来訪者は日本の県外からのものに加え、地理的に台湾や中国、韓国などが近いこともあり、欧米を含むインバウンド需要も大きい。

一方で、決済方面からいえば昔ながらの現金主義であり、本州ほどにはカード決済が進んでいない印象がある。

電子マネーについては楽天による買収以前からビットワレットがEdyの加盟店を増やしており、サンエーなどの地場の大手スーパーがEdy機能を組み込んだハウスカードを発行するなど、いわゆるEdy天国な環境も展開されている。街のいたるところにEdyチャージ機が設置されており、「現金またはEdyのみ」あるいは「現金またはEdy/WAONのみ」という店舗も少なくない。

クレジットカードは目抜き通りである国際通り周辺などで対応店舗をよく見かける一方で、沖縄全県でみればお土産物屋などごく一部での対応にとどまっている。

最近は交通系電子マネーやクレジットカードに対応する店舗も出てきたが、石垣島で入ったA&Wの店舗では不可だった。写真には「CASH ONLY」とあるが、実は楽天Edyも使える。主に外国人向けの表記と思われる
沖縄県内ではいたるところでEdyチャージ機を見かける
楽天Edyが一体化した「サンエーカード」を発行する地元大手スーパーのサンエー

先日の「JR東日本がQRコード開催の実証実験を開始する」という話題の中でも触れたが、沖縄における交通系ICカードは「OKICA」という独自のもので、他地域で流通しているSuicaのようないわゆる「10カード」との互換性はない。

那覇空港駅とてだこ浦西駅を結ぶ「ゆいレール」では2020年春を目標に10カードへの対応を進めているが、そもそも流通していない電子マネーを沖縄県内で使うのは困難だ。最近でこそ電子マネーに対応した大手チェーンのコンビニが増え、今夏にはついにセブンイレブンが沖縄に上陸した。交通系電子マネーが使える場所は着実に増えているが、“国内インバウンド”という意味でいえば、まだまだ不自由を感じる面がある。

ゆいレールに乗ろうとすると、まず目に入ってくる表記。これだけ大々的に張り出すということは、それだけOKICAなしで突入する人が多いことの証左だろう
ついに沖縄進出を果たしたセブンイレブン。今回宿の隣なので重宝したが、品揃えは本州とほぼ一緒だった。独自メニューとしては「沖縄そば」を生状態で注文できるサービスが用意されていた

キャッシュレス化に生き残りの道を見出した地銀

こうした沖縄の状況に新風が吹きつつある。地元銀行である「琉球銀行」がアクワイアリング業務に参入し、自ら加盟店開拓に乗り出したのだ。

今回話をうかがった琉球銀行ペイメント事業部調査役の國吉謙輔氏によれば、同行がアクワイアリングに参入したのは2017年1月のことで、間もなく3年となる。代表取締役頭取である川上康氏が「融資事業だけでは今後先細りがくるのは確実」との判断から、現在同事業部の推進室長となっている平岡孝氏にアクワイアリング業務立ち上げを指示し、スタッフもう1名を加えた2人体制でペイメント事業部がスタートした。

琉球銀行本店の外観
琉球銀行ペイメント事業部調査役の國吉謙輔氏

「沖縄県のキャッシュレス比率は全都道府県の下から数えた方が早く。事業が始まった当時でも20%なかった。そのためまだまだ開拓の余地があり、海外のお客様の利便性を高めつつ、県民の皆さんにカードを使っていただく環境を整備することが銀行の生き残っていく道だと考えた」と國吉氏は説明する。

同氏によれば、現時点でも沖縄のカード普及率は体感で決して低くなく、おそらく大人であれば1人1枚は持っているだろうとのこと。一方で、前述のように一部スーパーや国際通りの土産物屋などを除く多くの店舗ではいまだ現金(あるいはEdy)が主流だ。「カードで買い物」という文化があまり根付いていないのが現状だという。

観光客が多く訪れる那覇市中心部の国際通り

沖縄で地銀は第二地銀も含めて3行あるが(琉球銀行、沖縄銀行、沖縄海邦銀行)、銀行としてイシュアやアクワイアリング業務をやっておらず、琉球銀行としてはグループ企業である「りゅうぎんDC」「OCS(オークス)」を通じてカード業務を行なっていた。

希望があれば加盟店の取り次ぎは行なっていたものの、もともと営業人員に限りがあることと、カード業務自体の業績評価が高くなかったこともあり、こうしたグループ会社経由の営業体制となっていたようだ。

だが昨今の超低金利自体で「銀行がどう生き残るのか」が大きなテーマになるなか、開拓の余地がある市場を広げ育てていこうという方針転換からペイメント事業部発足となった。琉球銀行の営業店としては60店舗以上あるものの、例えマニュアルが存在してもメンバーがイチから契約を獲得するのはなかなか時間がかかる。そこでりゅうぎんDCとOCSの2社の営業スタッフにサポートに入ってもらうことで、対応方法やノウハウを蓄積し、従来の2社体制では不十分だった営業力強化を可能にした。

これだと2社が琉球銀行の営業に駆り出されるだけでメリットがないようにも思われるが、その代わりに「加盟店契約時に2社のオンアス(on-us)を付与する」という条件でWin-Winの契約にしているという。

オンアスとはMastercardやVisaといった国際カードブランドではなく、カード発行会社が自社のカードを直接収容する仕組み。単純にいえば手数料の面で有利なため、日本国内では複数のオンアス契約を同時に1つの加盟店が結ぶマルチアクワイアリング方式が主流となっている。また、琉球銀行であればAlipay、りゅうぎんDCであれば銀聯カード、OCSであれば交通系電子マネーやWeChat Payといったように、それぞれが決済サービスの代理店になっている契約が存在し、このマルチアクワイアリングで一通りの決済手段をカバーできるメリットもある。

琉球銀行とグループ2社による契約形態(出典:琉球銀行)

利用は順調なようで、加盟店についても現在までで5,000近い店舗の契約を獲得しているという。決済端末には台湾Castles製のものを採用しており、Wi-Fiまたは4G LTE経由でスタンドアロン動作が可能となっている。

端末レンタル料は月額1,485円(税込)となっており、5年程度で端末代そのものの金額になる水準に設定しているとのこと。このうち、税金補助がある消費者還元事業対象事業者となった加盟店からはその分の金額を相殺するようだ。4G LTEの契約料やプリンタのロール紙の購入代金、QRコード(バーコード)決済用のカードリーダのレンタル料は別となっている。

なお、利用料を徴収する形であってもカード決済を導入する点について、どのように加盟店営業を行なっているのか聞いたところ、キャッシュレス対応による利便性を強調していると國吉氏は述べている。「毎日の資金管理の問題は大きく、1日の締め作業だけで15-20分はかかる。それを銀行に入金するという作業が延々と続くわけで、これをクレジット決済を導入することで1日の処理は集計表となり、運営方法改善に寄与できる」(同氏)という。徴収される手数料と、業務改善前に余分にかかっていた人件費を比べて、自動化の方がオーナーにとってメリットがあるという考えだ。

琉球銀行がレンタルしているCastles製決済端末。5年の目安というのは、端末の交換タイミングを想定しているとのこと
今回撮影協力いただいたJUMBO STEAK HAN'S 本店のランチメニュー。ここはOrigami Payを含むQRコード決済にも多数対応しているが、キャッシュレス決済のほとんどはクレジットカードだという。次点で利用が多いのがPayPay。中国系決済については「(大型クルーズ船が到着したタイミングなどで)ときどき利用がある」程度とのこと

また、今年10月1日にスタートした消費者ポイント還元事業に合わせ、その対応の有無で一般利用者からの問い合わせも増えているという。

加盟店側もそれに呼応する形で問い合わせが増えており、その申し込みだけで前年同月比2-3倍も増加があったということで、いろいろ意見があるポイント還元事業も中小企業のキャッシュレス化推進に一定以上の効果をもたらしていることがわかる。

一方で、こうした加盟店開拓はどうしても沖縄本島が中心で、琉球銀行の営業所がある石垣島、宮古島、久米島の3島を除く離島については、それぞれの商工会議所や観光協会との提携で営業活動を行なっているという。沖縄本島ほど地元民のカード決済需要はないと思われるが、そうした離島では逆に県外や外国からの観光客が宿泊所を利用するため、その点で対応が必要になるからだ。まだまだ始まったばかりの事業ではあるものの、沖縄においても少しずつキャッシュレス化は進みつつあるようだ。

鈴木 淳也/Junya Suzuki

国内SIerでシステムエンジニアとして勤務後、1997年よりアスキー(現KADOKAWA)で雑誌編集、2000年にプロフェッショナル向けIT情報サイト「@IT」の立ち上げに参画。渡米を機に2002年からフリーランスとしてサンフランシスコからシリコンバレーのIT情報発信を行なう。2011年以降は、取材分野を「NFCとモバイル決済」とし、リテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けている。Twitter(@j17sf)