西田宗千佳のイマトミライ

第284回

さくせんは「ガンガンいこうぜ」 シャオミはなんで安いのか

発表会フォトセッションでの写真。左から、シャオミ・ジャパン プロダクトプランニング 安達晃彦氏、写真家 市川渚氏、ライカ・カメラジャパン 福家一哲氏、イオンモール取締役 坪谷雅之氏、シャオミ・ジャパン 副社長 鄭彦氏

3月13日、Xiaomi(シャオミ)は東京都内で日本市場向けの新製品発表会を開催、「Xiaomi 15 Ultra」などのスマートフォンから体重計まで、多数の製品をお披露目した。

常設店舗「Xiaomi Store」を国内でも展開すると発表、日本国内向けに積極展開を進める。

「いまはシンプルに言っちゃうと『ガンガンいこうぜ』というモード」

発表会後の囲み取材で、シャオミ・ジャパン プロダクトプランニング本部 本部長の安達晃彦氏はそう話す。ハイエンドスマホを中心に国内でも好調である状況を背景に、今年はさらに積極展開をすすめる。

同社の魅力は、幅広い製品群に加え、価格が安いことだ。機能面でもトップクラスの製品が、低価格で売られている。

なぜシャオミ製品はコスパがいいのか? そして、日本市場に向けた意気込みなどを見ていこう。

安さと製品の幅で一気に勝負

3月13日、シャオミ・ジャパンは「2025年上期新製品発表会」と題して発表会を開いたのだが、とにかく大量の製品が発表された。

スマホが3シリーズにタブレットにスマートウォッチ、ワイヤレスイヤフォンなどのスマホ関連製品にWi-Fiルーター、さらに掃除機やフライヤー・体重計などのライフスタイル家電まで、20近くの製品群が立て続けに発表された。

スマホだけでなくライフスタイル家電まで、幅広く展開

シャオミはスマホメーカーとして生まれ、現在は世界3位の大手となっているが、2010年代後半からはスマート家電に進出、いまやスーツケースやサングラス、水筒まで手がける。EV(電気自動車)も作っている。

スマホでは世界第3位のシェア

日本ではまだ販売していないが、昨年中国国内で発売した「Xiaomi SU7」は好調で、同社の収益を押し上げる原動力となっている……と言われている。

シャオミのEV「Xiaomi SU7」

2019年の日本市場参入以降、他国での展開と同じように商品展開を増やし続け、いまや他のスマホメーカーとはまったく様相の違うビジネス展開となっている。

その上、価格が安い。

13日に発表された製品のうち、スマート体重計の「S200」は1,980円。4月1日までに買えば1,680円になってしまう。

スマート体重計「S200」(右)は、期間限定1,680円と激安

チューナーレスの43型スマートテレビ「Xiaomi TV A 43 2025」は、解像度がフルHDではあるが価格は32,800円。3月26日までは30,800円で買える。

チューナーレスの43型スマートテレビ「Xiaomi TV A 43 2025」

一番の話題であったカメラ重視のハイエンドスマートフォン「Xiaomi 15 Ultra」は、昨年カメラ画質で評判を高めた「Xiaomi 14 Ultra」の後継機種。中国市場では2月27日に、グローバルでは今年3月2日に発表されたばかりだが、それからさほど遅れることなく、日本でも発売になる。

今回の目玉商品でもある「Xiaomi 15 Ultra」

こちらも安い。

Xiaomi 15 Ultraは、グローバルでの販売価格は1,499ユーロ(約243,000円)からとなっている。

だが日本では179,800円から。14 Ultraが199,800円だったので、この円安の中でさらに安くなっている。ユーロ換算すれば約1108ユーロで、300ユーロ以上の「優遇価格」だ。

価格は17万9800円から。昨年モデルより2万円安く、グローバル価格と比較すると300ユーロ近く安い計算に

しかも、4月15日までに購入すると、本来19,980円の「Xiaomi 15 Ultra Photography Kit Legend Edition」がプレゼントされる。

Xiaomi 15 Ultra Photography Kit Legend Edition。昨年の14 Ultra同様、プレゼントキャンペーンがある

さらに、3月31日までに「Xiaomi Buds 5 Pro」または「Xiaomi Watch S4」を同時購入すると、それぞれ3,000円割引となるキャンペーンも実施される。

とにかく、性能は盛りつつも価格は下げ、さらに早期購入キャンペーンも積極的に展開する。この積極性こそ、シャオミの持ち味そのものである。

安くするための多数の「策」を用意

では、なぜ安いのか?

1つはもちろん「日本への積極展開の結果」だ。Xiaomi 15 Ultraの価格は、14 Ultraのヒットを受けた展開と考えねばあり得ないものだ。

同時に、もう少しコンパクトな「Xiaomi 15」、ミッドレンジの「Redmi Note 14 Pro 5G」も用意し、上から下へと認知を広げる策も採っている。

Xiaomi 15。高性能なカメラにこだわりつつ、15 Ultraに比べコンパクト
Redmi Note 14 Pro 5G。55,980円と、よりコストパフォーマンス重視

日本向け価格をお得にしているのはそれで説明がつくが、そもそものコスパがいい、という点はそれだけでは説明がつかない。

理由は複数ある。

1つは「ハードウェアからの収益を低めに設定している」ということだ。シャオミは利益を「販売価格の5%以下とする」ことを公言している。

逆にいえば、徹底した効率化と販売数量の追求がなければ、そのような水準でビジネスを拡大するのは難しい。

そこで出てくるのが「グローバルに、可能なかぎり同じモデルを販売する」という点だ。

たとえば、今回発表された「Xiaomi 15」「同 Ultra」「Redmi Note 14 Pro 5G」は、どれもFeliCaに対応していない。これは、すばやくグローバルモデルを日本市場に投入するためだろう。

テレビについても似たところがある。

同社が日本に投入しているテレビは、基本的にチューナーレスモデルとなっている。

これは「テレビ放送へのニーズが減っているから」とは言えない。「テレビチューナーを省いて安くしている」のも少し違う。

テレビのコストにおいて、チューナー自体のハードウェアにかかるコストはさほどでもない。複数のテレビメーカーに聞いたことがあるが、もはやパーツ原価は1,000円以下だと言う。

だが、チューナーの動作・品質保証は手間とノウハウが必要な部分である。日本市場での経験が豊富なテレビメーカーなら最適化しやすいが、他国のメーカーにとっては意外と大変なものでもある。

ここをカットすると、単に品質保証コストが下がるだけでなく、中国などで作られた製品をシンプルに市場導入できるようになり、さらに価格を抑えやすくなる。

各国向けに最適化することは、たしかに望ましいことだ。だがそれにはコストが掛かる。

シャオミのスマホの場合、特にハイエンドでは、できるだけ部材を共通化した上で中国本国向けとグローバル向けを作る。

法的に必要な部分やUIなどの操作に関わる部分はともかく、「価格から割り切りを理解してくれる層」などに向けた製品では、その国向けの最適化は抑え、その上で核となる機能を重視してコスト最適化を図り、できるだけ多くの国で「同じものを売る」やり方でコストを抑えていくパターンが採れるわけだ。

他方で、Xiaomi 15 Ultraなどの写真機能をアピールするためにはコストもかける。製品の中でもグローバルに力を入れたところを、ブランドとして認知してもらうためだ。決して単にコストカットした製品、というわけではない。

Xiaomi Storeを日本展開する理由とは

そしてもう1つ、重要なのが「販路」である。

商品を広く流通させると、それだけ中間コストは多くなっていく。販路を広げると流通在庫を増やす必要があり、それは生産コストやビジネスリスク増大につながる。

市場が広く、リスクをとってたくさん売りたい製品では販路拡大もやむを得ないが、すべての製品でそうしたいわけではない。

その場合、一部のEコマースや自社直販に絞り、あえて拡大路線は採らない。さらに、そうした販路の製品では1ロットの生産・調達数もコントロールし、できる限り早いサイクルで「売り切る」ことが重要になる。

実は「チューナーレステレビ」のほとんどはこのパターンだ。大規模流通するほどのニーズはないが、生産委託元からサッと仕入れ、価格は抑えて売り切ればビジネスになる。旧来の家電メーカーは扱わず、比較的新興のメーカーがEコマースを中心に展開するのはそのためだ。

そして、そうした「高回転型のビジネス」を進める場合、実店舗を持っていることは大きな武器でもある。

実店舗展開はコストがかかるものの、販路として強く、商品の効率的なアピールもしやすい。

低価格・品質・実店舗のセットで認知を高めていくと、ブランドのファンがついて売上が安定する。

シャオミのビジネスモデルはここに核がある。

アパレルや生活用品では「ユニクロ」や「無印良品」などが構築してきた手法だが、それをスマホなどのデジタル機器から広げていったところが、シャオミのうまさだ。

今回、日本で常設店舗「Xiaomi Store」を広げていくことが注目されるのは、中国から世界へと広げてきたビジネスモデルを、いよいよ日本でも展開する準備が整った……ということでもあるからなのだ。

アップルとシャオミはどう違うのか

シャオミほど製品の幅は広げないものの、似たビジネスモデルでずっと前に成功させた企業がある。

アップルだ。

アップルはできるだけ大量に同じモデルを作り、世界中のアップルストアで販売し、ファンを作ることで強固なシェアを築いてきた。アップルとシャオミでは商品バリエーションが異なるものの、シャオミがアップルを強く意識しているのは間違いない。今もUIデザインなどには、アップルのフォロワーと感じる部分が残っている。

スマホ同士で比較した時の違いは、「アップルは高価だが、コアな市場である日本向けのカスタマイズをしている」という点にある。正確に言えば、「ミニマムに世界対応するのではなく、できる限り幅広く世界対応する」といってもいいだろうか。iPhoneのFeliCa対応はその1例だろう。

また、携帯電話事業者がシャオミのスマホを扱っていない……という点もある。

MM総研の調べでは、日本で売れるスマートフォンのうち、90.4%が携帯電話事業者を介して販売される。スマホメーカー直販など、オープンマーケット(いわゆるSIMフリー)市場の割合は9.6%しかない。

携帯電話事業者経由で売るとすれば、FeliCa対応や防水/防塵機能の強化などを求められる可能性もあるだろう。

日本でシェアを取りに来るなら、携帯電話事業者との連携が必須になるが、そうすると「日本仕様」を考えなければいけない時期も来るかもしれない。

一方でアップル製品は比較的高価であり、価格面でシャオミに魅力を感じる人もいるはずだ。

ハイエンドから認知を高めていけば、携帯電話事業者との連携を急がなくとも数量を伸ばし、収益性を高めていけるかもしれない。Xiaomi 15 Ultraの低価格攻勢は、そうした足場固めとみることもできるだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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