西田宗千佳のイマトミライ

第266回

船井電機はなぜ破産したのか その歴史と不可解な終焉

FUNAIはヤマダデンキと協力してテレビを展開していた

10月24日、船井電機は、東京地裁から破産手続きの開始決定を受けた。

今回の措置は同社の側からによる準自己破産申し立てによるもの。今後は再建ではなく、整理を目指すこととなり、1961年以来続いた「船井電機」という企業の歴史には終止符が打たれることになるだろう。

テレビやラジカセなどの家電で知名度を上げ、一時はアメリカなど国外でも、OEM事業を中心に大きなシェアを持っていた。

2017年からはヤマダデンキと組んでヤマダオリジナルブランドのテレビを生産、今年2月末にはカインズとも、オリジナル家電の共同開発で提携を発表していた。

この10年ほど経営状態は上向きとは言い難い状況であったが、今回の破綻はあまりにも急な動きであった。

船井電機になにが起きたのだろうか。

ヤマダは「責任を持って対応」 REGZAへのOEM製品は出荷停止へ

船井電機になにが起きたかを考える前に、消費者への影響を見ていこう。

前述の通り、船井電機は破産手続きに入るため、事業は止まる。社員は基本的に全員解雇とされている。つまり、家電製品の出荷には大きな影響が出る、ということだ。

近年の船井電機が手がける事業といえば、ヤマダデンキと組んで販売しているテレビ関連製品だ。製品についているブランド名こそ「FUNAI」だが、販売主体はヤマダデンキだ。

ヤマダデンキは「FUNAIブランド製品のアフターサービスは責任をもって対応する」とコメントしている。

2022年からはAmazonとも提携、OSにAmazonのFire OSを使った「Fire TV内蔵テレビ」を販売している。こちらも、企画・販売・サポートはヤマダデンキが主体だ。そのため事情は同じであり、ヤマダデンキが対応する。

この点についてAmazonは「ヤマダホールディングスと協議の上、検討していく」とのみコメントしている。

ヤマダデンキのオンラインショップ「ヤマダウェブコム」では、船井電機製のFire TVはすでに販売が停止されている。10月27日現在、Amazonでは販売ページが残ったものと、すでに販売されていないものが分かれている状況だ。

船井電機がOEM元となっている製品としては、TVS REGZAのレコーダー製品である「レグザブルーレイ」がある。

TVS REGZAによれば、レグザブルーレイ・ブランドのうち、2022年1月以降販売している「DBR-4KZ600/4KZ400」を除く製品が船井電機製。

今回の破産手続き開始に伴い、それ以外のレコーダー製品は、11月をめどに販売を停止するという。

企画・販売はTVS REGZAなので、こちらも購入済み利用者へのサポートについては、これまで通りTVS REGZAが行なうことになる。

船井電機はいかにして「世界のFUNAI」になったのか

次に、船井電機の歴史を分析してみよう。

船井電機は1961年大阪市生野区で創業。前身となった船井軽機工業は1959年からトランジスタラジオを生産し、まずはアメリカ向けのOEM生産で大きな成功を収めた。

その後も北米向けのOEM生産を中心に事業を進めたが、1980年代から90年代にかけては、国内向けに「FUNAI」ブランドで主に低価格製品の販売も手がけた。「FUNAI」ブランドをよく知るのは、この時代を過ごした方が多いのではないだろうか。

ただ、事業の主軸はずっとOEM事業だった。

船井電機の名前こそ出ていないが、2000年代の間は、DVDプレーヤーやデジタルカメラなどの中には、船井製のものが多かった。

特に事業として大きかったのは、テレビ事業とプリンター事業である。

AV機器メーカーという印象が強い船井電機だが、プリンター事業は一時大きなシェアを持っていた。

中心だったのは、1990年代から2000年代にかけて、特にアメリカで大きなシェアを持っていた「レックスマーク」向けの事業。レックスマークはIBMのプリンター事業が独立して生まれた会社。安さで定評があり、日本でも90年代末から、安価なインクジェットプリンターを販売していた。アメリカでは「99ドルプリンター」を売って成功させたのだが、船井はこれらの生産を手がけていた「陰の立役者」であり、当時はプリンターOEM市場でトップの地位にもいた。

テレビ事業には2つの大きなヒットがあった。

1つは、1990年代。ブラウン管テレビとVHSビデオをセットにした、いわゆる「テレビデオ」のアメリカ向け生産だ。同社社史によれば、最盛期には北米市場の60%以上をカバーしていたという。

そして2つ目が初期の液晶テレビ。2002年に生産を開始し、OEM向けとしてシェアを拡大した。2008年からはアメリカ・カナダ向けには「フィリップス」ブランドでのテレビ販売権を獲得、市場拡大とともに販売数量を伸ばしていった。

性能はトップではないが、他社より安く、安定品質。特に価格が重視されるアメリカ市場でビジネスを拡大し、2010年代までは絶好調と言って良かった。

時代の変化と「テレビ偏重」が業績を悪化させていく

ただ、その後は業績を落としていく。

理由は2つある。「メカを主体とした製品の時代が終わったこと」と、「低価格なテレビを供給するところは他にも出てきた」からだ。

プリンターやビデオデッキ、DVDプレーヤーは船井電機の大きなビジネスだったが、2000年代後半以降、その需要は急速に衰えていく。家電機器もデジタルの時代になり、ニーズは小さなものになった。

船井電機もデジタル機器は製造・開発できたが、同時に新興の中国系OEMと競争にさらされることになる。

時代がフラットパネル・テレビに移っていっても、初期には船井電機もシェアを維持できた。

しかし、液晶テレビ事業は「いかに安く、大量のテレビ向け液晶パネルを調達するか」がカギを握る市場でもある。

中国国内で液晶パネルの量産が拡大すると、それを大量調達して価格を下げ、OEMブランドで提供する中国メーカーのシェアが拡大していく。

ここで問題となるのが、船井電機は「自社に強いブランド力があったわけではない」ということだ。

アメリカでは「フィリップス」「SANYO」(2015年末にパナソニックより譲渡)の2ブランドで展開しており、FUNAIブランド自体に力はない。

借り物である「フィリップス」ブランドの力も落ちていく。

2013年にはオランダ・フィリップスから、北米事業のブランドライセンスだけでなく、AV事業そのものを買収しようとしたが物別れに終わる。

「低価格OEM元として、船井電機でなくては」というニーズが減っていく中で、同社が明確な手を打てていなかったのは事実だろう。

だ世界的に液晶パネルとテレビ需要が落ち着いていく中で、ブランド力がない船井電機は高単価・高利益率の製品を売ることもできず、かといって低価格製品は中国メーカーとの激しい競争にさらされる、という苦境に立った。

2010年代、船井電機は事業の9割を液晶テレビに頼っていたという。

結果、業績は坂を転がるように落ちていく。

2000年度には売上高が3,535億円だったのに対し、2017年度には1,338億円にまで落ち込む。

起死回生と期待した「ヤマダとのタッグ」も……

その中で、経営状況改善の策として選んだのが「ヤマダとの提携」だった。

なぜこれが当時注目されたのか、少し背景を説明する必要があるだろう。

日本の家電販売では、伝統的に家電量販店の割合が高い。GJK JAPANによる2020年の調査では、家電小売のうち、量販上位6社で約7割を占めている。

このうちヤマダのシェアは約2割で市場トップである。

日本で年間に売れるテレビの台数は約500万台。シェア2割のヤマダが本気で「同社で売るテレビの全数を自社ブランドにする」なら、理論上は100万台、ヤマダ×FUNAIブランドのテレビが売れる、という計算もできる。

船井電機としては、家電量販最大手にテレビを供給し続ければ安定した経営基盤になる……という考えだったのだろう。

2017年の提携当時、ヤマダ・船井電機両社は「初年度で国内シェア5%、20%も可能」と鼻息が荒かった。詳しくは以下の記事をご参照いただきたい。

だが実際には、彼らの目論見通りには進まない。

提携以降も、国内テレビ市場のシェアで船井電機が大きなパイを占めることはなかった。

日本ではテレビの買い替えサイクルが平均8年と長い。そのこともあってか、特にリビング向けではブランド力の高いトップメーカー(TVS REGZA・ソニー・パナソニック・シャープ)のシェアが高い。そこに低価格ブランドとして中国ハイセンスが伸びてきたり、有機ELを軸にLGが伸びていたり……というところだろうか。

これらを凌駕するわけでないFUNAIのテレビは、やはりなかなか売り上げを伸ばせない。ヤマダの店頭でも、ヤマダ×FUNAIブランドをアピールするものの、結局は顧客の求めに応じて他社テレビも販売していかざるを得ない、というのが実情だ。

船井電機の売上高は2021年度で804億円まで落ち込み、回復の糸口は見つかっていなかった。

2021年の上場廃止前の10年間の株価推移(出典:Yahoo!ファイナンス)

破産の原因は「家電事業の不振」ではない ガバナンスの問題

ただ、家電での苦境があったからといって船井電機がここまで急に破綻に至った……と考えるのは難しい。

大変な苦境ではある。

だが、ギリギリまで他社とのビジネスを継続していた、一定の規模がある会社が、突如「会社再生」でもなく「破産」を選ぶというのは異常な事態としか言えない。

実際、劇的に大きなシェアこそ得られていないものの、ヤマダ×FUNAI×Amazonによる「Fire TV搭載テレビ」はそれなりに好調だ。

率直に言って2021年以降、船井電機の経営は「不可解」の一言に尽きた。

2021年5月、秀和システムホールディングスによる船井電機の株式公開買い付けが成立、同社は上場廃止となった。

秀和システムはもともと、テクノロジー関連を主体とする出版社だった。しかし2015年に投資事業を行なうウエノグループに買収され、現在は秀和システムを存続会社とする「逆さ合併」の末、投資を軸とする「秀和システムホールディングス」となっている。

そこでなぜか2021年に、船井電機は脱毛サロンを経営する「ミュゼプラチナム」を買収することになる。

一応目的として「美容関係家電を軸に据えるため」とされているが、納得しづらい。

ミュゼプラチナムは大量の広告出稿で知名度は高かったものの、当時から経営状態は悪かった、と言われる。どう考えても「買うべきではない企業」だ。ミュゼプラチナムには広告費の未払いもあり、船井電機はその債務保証も行なわねばならない立場になった。

そしてここにきて急な破産である。

船井電機は非上場化されていたので、内実は不透明だ。

筆者もこの問題をじっくり追いかけていたわけではないので、「通常の会社再建とは異なる、なにか異常な状態が起きているのでは」と認識していた程度でしかない。

船井電機の創業者である船井哲良氏は、生産性とOEMビジネスによって「隠れた巨大家電メーカー」を作った名経営者と言われた。

だが、船井氏が2017年に死去して以降、同社は幾度も経営者を変え、今に至る。

結局のところ、伝説的創業者の威光が失われた後に正しいガバナンスをズルズルと失っていき、今回の事態に陥ったのではないか、という理解ができる。

新しい時代への対処に失敗したのが、船井電機つまづきの始まりであるのは間違いない。

だが、最後が「本業への取り組み方の失敗」ではなかったことは、企業ガバナンスを考える上で非常に重要なことではないだろうか。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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