西田宗千佳のイマトミライ

第157回

「Pixel 6a」と「AQUOS R7」から考える今のスマートフォン

シャープのハイエンドスマホ「AQUOS R7」。ドコモオンラインショップでの販売価格は198,000円

手元にスマートフォン新製品の評価機材が2つ、届いている。1つは、ソフトバンク版が7月8日に、7月15日にNTTドコモ版が発売された、シャープの「AQUOS R7」。もう1つは、予約が始まったばかりの、Google「Pixel 6a」だ。

Googleのミドルクラススマホ「Pixel 6a」。Googleでは53,900円で予約中で28日に発売

双方は価格も特性も違うスマートフォンだが、ちょうど両方が手元にあるので、比較しながら、今のスマートフォンのあり方をちょっと考えてみたい。

なお、カメラなどの比較用に、iPhone 13 Pro Max、Pixel 6、Pixel 6 Proも用意した。どう違うかをみながら進めていこう。

比べてわかった各機種カメラの「味付け」

今のスマートフォンの差別化点は、どうしても「カメラ」に集約される。コストや技術による差が出やすいこと、そもそもニーズが集中する機能であることなどが理由だ。

AQUOS R7は、まさに「カメラによるスマホの差別化」を体現するような存在だ。1インチのイメージセンサーを採用し、より多くの光を集め、さらにイメージセンサーのサイズを活かした「自然なボケ味のある写真」が撮れる、というのがウリである。デザインも、1インチセンサーとレンズを強調した、非常に特徴的なものだ。

AQUOS R7の背面。1インチのイメージセンサーを使ったメインカメラが目立つ

昨年の「R6」も含め、ソニーモバイルの「Xperia PRO-I」やシャオミの「Xiaomi 12S Ultra」(こちらは日本未発表)など、1インチセンサー搭載のスマホも増えてきた。

その中でR7は、昨年の「R6」「LEITZ PHONE 1」が抱えていた大きな欠点を解消し、かなり「使いやすい」スマホになっている。

昨年モデルはオートフォーカスが遅かった。そのため、動きのある被写体に弱かったし、撮影時の機動性に欠けるところがあった。いつでも持ち歩いている、というスマホの特性に合っていない感じがしたのだ。

だが、今回はその点が劇的に変わった。フォーカスが素早くなったので、サクサクと撮影できるようになったのだ。

AQUOS R7のカメラアプリで撮影中のスクリーンショット。AF領域が広く、素早く出てきて、R6で感じた「もたつき」がなくなった

Pixel 6aは、カメラについては上位モデルのPixel 6に劣る。カメラ部の出っ張りも薄くなり、ユニットはかなり変わっているようだ。

Pixel 6aの背面。Pixel 6シリーズ共通の「カメラ部が段差になった」デザイン。
Pixel 6(Stormy Black)、Pixel 6 Pro(Sorta Sunny)と比較。カメラ部の段差がかなり違う

公開されているスペックで見ると、メインカメラの画素数はPixel 6aの1,220万画素に対し、Pixel 6/6 Proは5,000万画素。また、Pixel 6/6 Proはセンサーサイズが1/1.31インチの大型センサーであるのに対し、Pixel 6aは1/2.55インチとサイズが小さく、Pixel 6とは異なるセンサーを採用している。

あくまで一般論としては、サイズの小さなセンサーはよりコストが低く、画質も劣る傾向にある。

「ということは、R7が頭抜けて高画質であり、次にPixel 6、6aはそこから劣る」とシンプルにイメージしたくなるところだ。

だが、ちょっと様相はそこまで単純でもない。

以下の撮影サンプルをご覧いただきたい。AQUOS R7・Pixel 6aに加え、Pixel 6とiPhone 13 Pro Maxで撮影した写真だ。

発色が、R7とそれ以外でははっきり違う。実際に近いのはR7だが、他の方がかなり「記憶にある映像」に近い色味になっている。

AQUOS R7
Pixel 6a
Pixel 6
iPhone 13 Pro Max

空の写真サンプル(23.78MB)

夜景の場合、ナイトモードでは定評のあるPixel 6・6aの画質がよく、iPhone 13 Pro Maxは少々暗めだが、雰囲気はある。AQUOS R7もいいが、他に比べ、撮影タイミングによってはノイズが乗りやすくも感じた、

AQUOS R7
Pixel 6a
Pixel 6
iPhone 13 Pro Max

夜の写真サンプル(11.73MB)

食事の写真だと、AQUOS R7はちょっとボケ味が強すぎる印象。発色も他の機種の方が美味しそうに見える。

AQUOS R7
Pixel 6a
Pixel 6
iPhone 13 Pro Max

食事写真サンプル(9.87MB)

じゃあAQUOS R7の画質が悪いのか? というとそうでもないのだ。

夜景はともかく、他のシーンにおいては、情報量はちゃんとある。強い記憶色にしていない、という方が正しいのではないだろうか。iPhone 13 Pro MaxもRAWで撮影ができるが、それだと強い記憶色にはならない。

以下の写真は、AQUOS R7でRAWモードを使って撮影したものを、Lightroomで調整して出力したものだ。RAW出力から自分の作品にしていけるポテンシャルを持っている、という点が、AQUOS R7の美点と言える。

R7で撮影したRAWファイルをLightroomで濃いめの色合いにいじって出力。自分で好きに加工するソースとしての力を持っているのが美点

ただ、ボケ味が強く出過ぎたり、色が淡くなりすぎる傾向があるとは思うので、「画面の上でパッキリと目立つ」絵作りではないと思う。

やはり「スマホ的」というよりはカメラ的」な映りなのである。

逆にPixel 6aは、特に青空については色を盛りすぎている気がする。iPhone 13 Pro Maxはさらにだが。エッジもはっきりしており、スマホの画面の中で映える印象が強い。

そして面白いことに、センサーが違うはずのPixel 6と6aの差は、そこまで大きくない。スマートフォンにおける写真が、どれだけ「ソフトウエアで処理されたものなのか」がわかる。

意外なほど差が小さい「Pixel 6」と「6a」

Pixel 6aは、プロセッサーにPixel 6と同じ「Google Tensor」を使っている。メインメモリーが8GBから6GBへと減っているので、アプリケーション処理時にはある程度差が出ても不思議はないのだが、正直大きな差を感じなかった。カメラの画質に対し、センサーの違いの影響が小さくなっているのは、Google Tensorに依存するソフト設計のなせる技だろう。

Google Tensorを使ったPixel 6では、画像から不要部分を消す「消しゴムマジック」や、オフラインでの精度の高い日本語認識などを実現している。それも、Pixel 6aで使える。

Pixel 6aでも「消しゴムマジック」が使える。動作速度もPixel 6と変わらないように感じた

実のところ、この傾向は、同じように上位機種と下位機種で同じプロセッサーを共有するiPhoneでもあったことだ。iPhoneの方がもう少し差は出たように思うが、その辺は、Googleの方がソフト依存度は高い、ということなのかもしれない。

違いとして感じたのは、ディスプレイのフレームレートだ。Pixel 6は90HzでPixel 6aは60Hz。そのため、見比べると滑らかさで劣る。

だが、逆に言えばそのくらいの差しかない。

Pixel 6aは「より軽く、より安いPixel 6」であり、これが53,000円程度で買える、というのは魅力的。非常にお買い得感の高い製品になっている。

しかも重量は、Pixel 6より29g軽い178g。手に持ってすぐわかるレベルの差なので、より軽いものを求める人には朗報だ。

AQUOS R7のディスプレイや操作感から「ハイエンドの意味」を感じる

一方、AQUOS R7は、Pixel 6aに比べるとかなり高い。ドコモ・オンラインショップでの販売価格は198,000円と、4倍近い価格差がある。

ちょっと高すぎるのでは……と思わなくもないが、触ってみると、「ああ、これは高いスマホなのだな」と納得する部分も多い。

まず、デザインや仕上げが非常にいい。レンズ部が目立つ、ということもあるが、本体背面は手触りの良い梨地仕上げで、かなり見栄えがいい。サイドのフレームの仕上げも丁寧だ。これは邪推だが、シャープは「センサーが高価になるのは分かっているんだから、変にコストダウンするのは止めよう」と思ったのではないか。かなり好感触だ。

本体サイドのフレームや、レンズ部の仕上げも良く、特徴がはっきりと出ている

ディスプレイのクオリティもいい。

写真で見せても差が分かりづらいのだが、AQUOS R7のディスプレイはひときわ鮮やかで明るい。ピーク輝度が2,000nitsで、コントラストは2,000万対1。スペックの数字以上に発色と輝度の良さが目を惹く。フレームレートも最大240Hzで、文字どおり「ヌルヌル」な操作感だ。プロセッサーの性能がいい、ということもあるのだろうが、それだけでなく、ディスプレイ周りの作り込みの良さを、はっきり感じるところに好感が持てる。

AQUOS R7(左)と、Pixel 6a(右)。写真だと分かりにくい部分もあるが、R7の方がピーク輝度・発色がよく、印象的な画質になっている

こうした部分は数字には出ないが、確かにハイエンドのもつ良さである。逆に言えば、Pixel 6aよりメモリー容量が多いとはいえ、Pixel 6/6 Proでも、この「快適さ」はない。

20万円のハイエンドスマホは、5万円のスマホに比べて売れにくいとは思う。だが、しっかりと作られたハイエンドにはその良さはあるはずだ。

スマホも、単純に性能だけでハイエンドのものは選ばれづらくなった。ミドルクラスであるPixel 6aはその象徴だ。Pixel 6に比べた「マイナス点の少なさ」は想像以上だった。

一方、「高いスマホの価値とはなにか」という点を、AQUOS R7は教えてくれる。逆に言えば、ハイエンドを作るならこのくらいでないと、ということなのかもしれない。

主軸であるカメラについては、もう少し「スマホのトレンド」の画質に寄せてもいいのでは、と思うが、日常的に感じるディスプレイの美しさや操作の快適さが、思いもよらない満足度を与えてくれるだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41