西田宗千佳のイマトミライ

第123回

2021年秋、バラエティが広がるハイエンドAndroid市場を俯瞰する

今年のAndroidスマートフォンを俯瞰すると、「バラエティの広さ」が際立っている。あくまで付加価値を追求できるハイエンドに関してのことではあるが、メーカーによって方向性に変化が大きくなっている。

スマホは変化が出しづらい製品ではある。だがその中で、各社の持つ強みを出す形でハイエンドスマホが作られているのは良いことだ。

今回は、今年後半のハイエンドスマホを俯瞰して、各社の発想を見ていこう。

スマホを使ったカメラ「Xperia PRO-I」

先週発表され、話題を集めたのがソニーモバイルの「Xperia PRO-I」だ。

Xperia PRO-I

1型センサーで約20万円「Xperia PRO-I」。グリップ追加でVLOGCAM

発表に合わせてメディア向けの体験会も開かれたので、そこで撮影した本体写真もご紹介したい。

Xperia PRO-I

Xperia PRO-Iは「1インチセンサーを使い、カメラに特化したスマートフォン」という言い方がされる。だが、触ってみると、それも正しい説明ではないように思う。Vlog撮影を含め、「大型のセンサーを使って撮影しやすい条件」が求められるシーンに合わせたスマホ、といった方がいい。

Xperia PRO-Iは「1インチセンサー」が注目されているが、実際にはセンサーの全域を使っているわけではなく、約2,100万画素のセンサーのうち、約1,200万画素の領域をクロップして使っている。

Xperia PRO-Iのセンサー。「RX100VII」に使われているセンサーを使いつつ、静止画の場合には、約1,200万画素の領域をクロップして使っている

理由は、撮影領域の90%という、カバーエリアの広い像面位相差AFを搭載することだ。リアルタイム瞳AFなども使っており、領域が狭い方が処理速度は稼げる。その上で、センサーサイズ自体は大きいので、円形の絞りを使って光学的なぼけ味を実現することもできる。なお、静止画では約1,200万画素だが、動画撮影時や手ぶれ補正などではその外側の領域も使っている。

F値を切り替えると円形の絞りが切り替わる。大きく開いているのがF2.0、絞っているのがF4.0の時

要は、スマホで使いやすいバランスを考えた上で「求められる撮影の要素」を高いレベルで実現しようとしたのがXperia PRO-I、ということになる。周辺機器である「Vlog Monitor」も、Xperia PRO-IでVlogをやるために必要な要素を細かく分析して作られている。

別売の「Vlog Monitor」(25,000円)と、シューティンググリップ「GP-VPT2BT」

極論すれば、「カメラがすごいスマホ」ではなく、「スマホを応用して作られたカメラ」の一つがXperia PRO-Iなのだ。1インチにフォーカスしたプロモーションはちょっと本質からズレているようにも思う。

同じようなアプローチとして、今年の前半にライカがシャープと組んで作った「Leitz Phone 1」がある。こちらもソニーの1インチセンサーを採用し、「ライカのカメラ」として作られたものである。

シャープが製造・設計し、ライカが企画とチューニングを担当した「Leitz Phone 1」。7月にソフトバンクより発売

「ライカ」のスマホ登場。シャープと組む理由とソフトバンク独占の事情

Xperia PRO-Iがビデオを含めた「機動性の高いカメラ」として作られているのに対し、Leitz Phone 1はちょっとクセがあり、じっくり使うカメラになっていたように思う。

機械学習という強みを活かした「Pixel 6」

それに対し、「スマホの一要素」としてカメラを作っているのがGoogleのPixel 6シリーズだ。

Pixel 6シリーズ。左がPixel 6、右が4倍光学望遠で120Hz対応の「Pixel 6 Pro」

「Pixel 6」、グーグルのAI技術を全力で楽しめる新機能を試してみた

自動で一部を消す「消しゴムマジック」のような機能はその一例だ。真っ先にアドビがソフトで「Photoshop Camera」あたりに実装しそうな内容だが、GoogleはGoogleフォトに載せてきた。

消しゴムマジック
「消しゴムマジック」を使うと、写真内から一部を消し、「その場になかった」かのような写真が撮れる

同業者の間では「レコーダー」機能の日本語書き起こしが話題だが、確かにすごい。実際に取材にも使ってみたが、「完璧からは程遠いが、これでもちゃんと中身があとからわかる」「自分語りの書き起こしなら9割くらいそのままで使える」という感じだろうか。これがオンデバイスで、クラウドを使わずに使えるのはすごい。

Pixel 6の「レコーダー」での日本語音声自動書き起こし。録音と同時に日本語がテキストになり、記録される。オンデバイスAIなので、ネット接続は不要。
レコーダーでの録音データをGoogleアカウントにバックアップすると、ウェブから録音とテキストにアクセスできる

自社が持つ機械学習技術の強みを全面に押し出し、CPU・GPUによる性能アップとは違う流れによるスマートフォンを作ろうとしたのがGoogleだ。サイズや重さを除けば、とても良い出来だと思う。

ストレートにスマホを作る上で差別化するならプロセッサーから、というロジックを、アップルとGoogleは展開している。それが常に「イエス」かどうかは異論もある(特にQualcommはそう思っていないだろう)ところだが、少なくとも、GoogleはPixel 6でそれを証明したし、アップルもこの数年ずっと証明し続けている。

当然のことながら、大きくカスタムした独自SoCを作れるのは大手に限られる。他社はそれ以外のアプローチを考える必要もあり、カメラは当然そのうちの1つの要素ではある。

アップル・Amazon・Googleが半導体を独自設計する理由

ディスプレイで差別化するサムスン、軽さを追求したシャープ

大手の一角であり、プロセッサーでも工夫しているのに、さらにディスプレイで工夫しているのがサムスンだ。同社がモバイル向けディスプレイ製造の大手であり、もっとも強みを出せる部分である、というところも大きいだろう。

二つ折りスマホは普及するか Galaxy Z Fold3/Flip3に見るサムスンの本気

Galaxy Z Fold3は筆者も購入した。正直、スマホの域を超えた価格だとは思ったが、同時に、スマホの域を超えた使い勝手でもある。ほぼタブレットだ。

Galaxy Z Fold3 5G。本のように軽く折って持てるため、画面が大きく重いわりに、手の中で安定しやすい

同じものは、ディスプレイがあってもすぐにはできない。ソフトウエアや機構の工夫があってのものだ。サムスンも第3世代までの苦労が実っての、この完成度だと感じる。

シャープのように、あえて軽さを追求するメーカーもある。ここまで挙げたフラッグシップが軒並み200gオーバーであることを思えば、「AQUOS zero6」の146gというのは圧倒的な軽さだ。性能は他より抑えめだが、「軽さ」でフラッグシップ、というのもアリな世界ではある。

AQUOS zero6

シャープ、146gで5G対応の「AQUOS zero6」

どれも安価な機種ではない。

だが、差別化するなら安価には作りづらいのが実情だ。低価格なスマホを求める流れは強いが、低価格な製品だけでは市場は育たない。

一方で、単にハイエンド=パワーでは、やはり均質化して伸び代がなくなる。

それがわかっているからこそ、各社のハイエンドスマホは、以前以上に各社の思想が出るジャンルになってきたのだろう。自社の強みを出さないと生き残れない市場であり、今ハイエンドに残っているメーカーは、皆、どこかで「自社の強み」を出せる企業だ、と言ってもいいのだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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