西田宗千佳のイマトミライ
第117回
「20GB縛り」から自由に。iPhone 13発売と「端末購入料金」の今
2021年9月21日 08:20
先週はスマートフォン関連が騒がしかった。
もちろん、話題の中心は「iPhone 13」シリーズだ。17日金曜から予約が開始されたが、仕事柄もあり、筆者も予約済みだ。
iPhone 13/13 Proや新しいiPad mini、Apple Watch。Apple新製品発表
9月13日にはKDDI/沖縄セルラーがオンライン専用プラン「povo」の大幅なリニューアルを発表。翌14日には、ソフトバンクが5G施策と「Pixel 6 Pro」を携帯電話事業者として国内で独占的に取り扱うことを発表している。さらに、17日には、NTTドコモがスマートフォン販売のための新しい仕組みである「いつでもカエドキプログラム」を発表した。
povo2.0は月額0円から。データや機能をトッピング。街で貯める“ギガ活”も
ソフトバンク5Gは、Pixel 6 Proなど“独占”と体感速度を強化
このタイミングに発表が集まったことは、当然ながら「iPhone」という存在の注目度が大きく、携帯電話事業者にとっても重要、ということなのだろう。
また先週の一連の発表からは、特にこの2年政府から強く要請された「携帯電話料金の低廉化」が結果的にどうなってきたのか……ということも読み取れる。
今回はそのあたりを考えてみたい。
「20GB縛り」から自由になる携帯電話料金プラン
「povo 2.0」の登場は、筆者にとってもかなりの驚きだった。
3月末に始まったばかりのpovoが、半年もしないうちに2.0になるとは思わなかった。とはいえ、この変化はマイナスではなく歓迎すべきことである。
povo2.0の変化は、簡単に言えば「基本料にデータ容量を含めず、好きな容量を追加で買う」ということだ。
これは筆者の予想だが、KDDIとして狙っていたのは元々こういう形なのだろう。
毎月データをどれだけ使うかは読みづらい。その上で「一定の容量を超えないように使ってもらう」形ではなく、「好きなように容量を追加してください」という形にしたのが新しいpovoである。
「誰にでもシンプルでわかりやすい」というわけではないが、元々スマホから契約し、さらにスマホからアプリですぐに容量を追加できるわけで、理解しづらいわけではないだろう。
データ量を追加せず、通話もしなければ「0円維持」もできる関係上、同じく「0円」を謳う楽天モバイルと比較されるが、方向性は違う。楽天モバイルは「1つのプランで最低価格ゼロ円、最高額でも3,278円」というモデルであり、KDDIは複数のプランがある。
春以降、携帯電話の料金引き下げ議論の中では「20GBプランを3,000円前後に」という形が先行した。povoもその価格帯でスタートしたが、今回「20GB」からは離れていく。
先に多角化したところもある。ソフトバンクのオンライン専売プランである「LINEMO」は、7月に「3GBで990円」のミニプランをスタートしており、そこで「20GB」という前提からは離れた。
「LINEMO」、3GBで月額990円の新料金「ミニプラン」
政府は「20GB帯が他国に比べ高い」「料金が複雑である」と名指しして価格引き下げを迫った。そのためにある意味、まずは横並びで料金が変わったわけだ。
だが、それが単純にプラスだったわけではない。オンライン専売プランへの拒否感もあり、店頭販売の「UQ Mobile」「ワイモバイル」がむしろ伸び、全体的に低価格プランが増えた。5Gが増えていく中でデータ利用量が抑えられていくことには疑問もあるが、消費者の一つの選択として「20GBに拘らずやすく」という部分があったのだろうし、各社がNTTドコモと差別化する上で、ドコモが持っていない「サブブランド」「低容量プラン」をアピールしている……という点もあるだろう。
現状、携帯電話の料金プランは結局複雑化している。電気料金とのセット割引が強調されるようになったことも加味する必要はある。
「市場に合わせる」とはそういうことであり、シンプルに保つのは難しい。シンプル化とニーズに合わせた多様化の間で、天秤が揺れるように変わり続ける宿命にある。
KDDIとドコモが「残価設定型」購入プログラムをスタート
シンプルではないがお得、という意味で驚いたのは、KDDIとNTTドコモが打ち出した、スマホの購入プログラムだ。
16日KDDIは「スマホトクするプログラム」を発表し、その翌日、NTTドコモが「いつでもカエドキプログラム」を発表した。両者に共通しているのは、24回の支払い後に端末の買い取り額が残価として設定されている「残価設定型」である、という点だ。
au、新機種買わなくても残債免除の「スマホトクするプログラム」
残価設定型とは、販売後に買い取ることを前提として最初の販売価格を決定し、分割しての支払い金額を下げるモデルだ。24カ月後に本体を各社に戻せば当然それ以上の支払いは発生せず、使い続けた時には「残価」に合わせた支払いが発生する。
従来ドコモやKDDIが使っていて、今もソフトバンク・楽天モバイルが採用しているモデルは、24カ月後に端末を返却、もしくは買い替えをすると残りの支払いが免除される。一方、NTTドコモやKDDIの場合、24カ月後にも「次の機種の買い替え」を求められなくなる。一方で、機器を返却しない場合、さらに残価に応じて分割払いが始まる。
どの会社の購入プログラムも、現象面としては「4年の分割払いだが、2年使った後に携帯電話事業者に端末を返すことで端末が安く使える」ということに違いはない。ただ、2年後の端末をどう評価するかが違う、ということになる。
……わかりにくいって?
とにかくいくらになるのか、ということについては以下の記事が参考になる。
複雑さは悪のようにも思えるが、こうした購入プログラムが必要であるくらい「安く買いたい」ニーズがあるのもまた事実。携帯電話事業者としてもそれを活かして顧客との接点を作って回線利用を活発化したいのだろう。
残価設定でiPhoneとAndroidに生まれる「お得度」の違い
「残価」が設定されるということは、それぞれの機種に応じて評価が変わる、ということでもある。
特にNTTドコモは、今回の変更によって「残価をそれぞれの機種で変える」ことが大きい、とコメントしている。
NTTドコモが従来採用していた「スマホおかえしプログラム」の場合、36回払いのうち24回支払えば12回分の支払いが免除されるもので、機種による違いはなかった。すなわち、どの機種であっても等しく「33%分」が免除されていたわけだ。
だが新しい「いつでもカエドキプログラム」では、機種によって残価が変わる。
例えば、iPhone 13 Pro Max・1TBのNTTドコモでの販売価格は24万3,144円。残価は11万8,800円で、残価は約49%になる。一方、Galaxy Z Fold3 5Gの販売価格は23万7,600円で、残価は9万5,040円。残価は40%と、iPhoneに比べ低く設定されている。これまでより免除額が大きくなる一方、機種によってお得度が変わっている。
スマホの中古買取では、iPhoneの方がAndroidよりも高く設定されていることが多いのは事実。そうした影響を反映してのものとはいえるのだが、携帯電話事業者からはっきりと提示されるインパクトは大きい。
ドコモの「いつでもカエドキプログラム」が残価設定型になった理由
今回、ソフトバンクが販売施策を変えなかったのは意外でもあるが、その辺は、Androidで「独自モデル」展開を進めていることも関係しているのか……とも思う。
楽天モバイルの額も特徴的だ。販売額がアップルから直販されるSIMフリー版とまったく同じになっていて、他社に比べるとシンプルだ。料金プランでシンプルを貫く同社らしい。
こうした複雑さを全て嫌ってSIMフリー版をアップルから買う、という選択肢ももちろんある。アップルもPaidyによる分割販売を強く推しているし、旧機種の買い取りにも積極的だ。彼ら自身が「いかに入手しやすくするか」に配慮している。
こういう部分も含め、各社各様である点は面白い。このタイミングに各社が知恵を絞ってくるくらい、まだ日本では「iPhoneブランド」が強い、ということでもあるのだろう。