西田宗千佳のイマトミライ

第116回

「+メッセージ」は普及するのか? その課題と可能性

9月2日、NTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの携帯電話大手3社は、携帯電話番号を使ったメッセージングサービス「+メッセージ」が利用可能なユーザーを拡大すると発表した。

「+メッセージ」が携帯3社の全ブランドとMVNOに拡大。UQ・ワイモバも

従来、+メッセージはNTTドコモ(ahamo含む)・au(povo含む)・ソフトバンクのサービスに加入している人のみが利用できたのだが、今後はそれぞれのサブブランドに加え、各社の回線を利用しているMVNOにも解放される。

対応が拡大され、「3社の回線を利用している携帯電話契約」であれば利用可能になる

今回は、この拡大がどのような意味を持っているのか、今後どう使われていくのかを考えてみたい。

ようやく利用者拡大、「+メッセージ」とはなにか

そもそも+メッセージとはどんなサービスなのだろう。まずはそれを振り返ってみよう。

+メッセージが利用しているのは、RCS(Rich Communication Services)という技術。携帯電話の世界的な業界団体であるGSM Associationが策定したオープンな規格であり、SMSを代替し、よりモダンでリッチなメッセージ交換を実現することを目的としている。要は、LINEやFacebook Messenger、WeChatなどのメッセージングサービスと同様のものを提供するために作られたもの、と言っていい。

機能としては、スタンプを送ったり、災害対策や企業などの公式アカウントが提供されていたりと、確かに「LINEのメッセージング」に近いことはできる。

+メッセージがスタートしたのは2018年5月のこと。当時、楽天モバイルはまだMVNO。自前で回線インフラを持つ大手3社が乗り合いで、共通規格を使って提供するということで注目を集めた

とはいうものの、その後+メッセージはさほど注目されず、利用も進んでいない。アプリのダウンロードも2,500万を超えたとはいうものの、「+メッセージ」として使われている例は少ないように思う。筆者もアプリは各スマホに入れているものの、SMSのやりとりにたまに使うだけで、+メッセージらしい使い方はさほど広がっていないのが実情である。

理由の一つは、+メッセージを使える携帯電話サービスが限られていた……という点にもある。冒頭で述べたように、+メッセージはNTTドコモ(ahamo含む)・au(povo含む)・ソフトバンクのサービスに加入している人のみが利用できて、それ以外は使えない。MVNOには門戸が開かれていなかったし、UQ mobileやワイモバイル・LINEMOの利用者も使えない。

そもそも、「アプリを入れている人同士でないと+メッセージとしてのやりとりができない」という制約もある。アプリ上からは一応「相手が+メッセージが使えるかどうか」がわかるようにはなっているが、それを確認しないといけないのは使いづらい。

それに対してLINEは、アプリさえ入れれば、どの回線を使っている人でも利用できる。そもそもLINEは先に普及しているので、多くの人はLINEの方を使い、わざわざ+メッセージを使うところまで至らない……というのが実情だった。

今回、3社は+メッセージ利用拡大に向け、ようやくテコ入れを行なった。とにかく「3社の回線さえ使っていれば使える」という形になることで、アプリを入れても利用できるわけではない、というわかりにくさを解消する。

+メッセージ対応スケジュール

普及拡大には「4つ」もの課題が

とはいえ、問題が解決するわけではない。

課題の1つ目は、3社の足並みが揃っていないことだ。

+メッセージの導入に最も積極的なKDDIは、すでに9月2日からMVNOやUQ mobileなどでも使えるようサービスを拡大済みなのだが、NTTドコモは「9月下旬」から、ソフトバンクは「2022年春」と、サービス開始時期が異なる。

特にソフトバンクは自社内にLINEを抱えるようになったこともあって、+メッセージを積極的に利用する意味が薄くなっていることからか、動きが鈍い。

二つ目は、楽天モバイルが参加しないことだ。同社は「MNO回線では対応をする予定がない」としている。

楽天モバイル、MNO回線で「+メッセージ」は対応予定なし

実は楽天モバイルがメッセージングに使っている「Rakuten Link」は、規格的にはRCSそのものである。だが、+メッセージとは相互接続しておらず、メッセージのやり取りもできない。

RCSは共通規格ではあるものの、それだけで各社間で互換性があるわけではない。RCSを採用するサービスは世界中にあるものの、それぞれが別々の存在として使われているところが最大の問題と言える。

三つ目は「情報提供の不徹底」。MVNOでも使えるようになった、とはいうものの、それはMNO 3社が一方的に発表し、MVNO側にとっては寝耳に水だったようだ。

IIJは公式ブログにて、自社MVNO「IIJmio」での+メッセージ利用について「速報」として情報公開を行なっている。だがこれも「現時点では各社から報道発表以上の情報は提供されていないため私たちにもわかりかねる部分が多い」「IIJが実験で確認した範囲、推測できる範囲の情報」(ともに同社ブログより引用)という状況だ。

IIJmioでの+メッセージのご利用について (速報)

確かに利用はできるようだが、MVNOとしても対応状況を顧客にちゃんと説明できないという状況は好ましくない、と考えているはずだ。これはMNO側としても根回し・準備が足りなすぎるのでは……と感じる。

そして最後、4つ目の課題は「それでも、多くの人には利用するモチベーションが欠けている」という点だ。それはそうだろう。MVNOで使えるようになったから、という理由で使い始める人は限られる。

LINE代替・基盤としてのあり方を

では、+メッセージが無意味な存在なのか、というと「そうではない」と筆者は考えている。

存在価値は「LINEでない」ことにある。

LINEは確かに普及した存在で便利だ。だが一方で、1企業が提供するサービスであり、なにかあったときの代替は必要だ。

過去のいわゆる「キャリアメール」が役割を終えつつあり、一方でSMSでは機能的に不足も多い。だからLINEが広く使われているわけだが、LINEを使いたくない人が行政や企業から同じような質のサービスを受けるための「オープンな受け皿」はあっていい。

「キャリアメール」の延命とメッセージングの将来

3月にLINEが中国や韓国にデータを置いていたことに端を発する「情報管理問題」が表面化した。LINEはその後改善を進めているが、それとは別の問題として「1つのサービスに頼り切る」ということは、思わぬところに存在する落とし穴によって多くの人が影響を受けることを回避できない……という話でもある。

LINEの情報管理問題が示した課題。LINE“だけ”に頼るDXで良いのか

メールやウェブはオープンなものとして誰もが使えて、インフラとして成立している。本当はRCSもそうなるべきだったのだが、現状そうなってはない。

次善の策として、「相互接続」という課題はあれど、RCSベースの+メッセージを「行政も利用するLINEのオルタナティブ」として用意しておくことは、間違いではないと思っている。そういう意味では、楽天モバイルと3MNOは、相互に話し合って、+メッセージとRakuten Linkの相互接続を実現してほしいと思う。総務省には、携帯電話の料金引き下げだけでなく、こういう部分で指導力を発揮して欲しいと思うのだが。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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