西田宗千佳のイマトミライ

第113回

二つ折りスマホは普及するか Galaxy Z Fold3/Flip3に見るサムスンの本気

2つの「二つ折りGalaxy」。左がGalaxy Z Fold3 5G、右がGalaxy Z Flip3 5G

8月11日22時(日本時間)、サムスン電子は世界市場向けの新製品発表イベント「Galaxy Unpacked」を開催し、秋に向けた新製品群を発表した。

発表されたのは、5G対応スマートフォンの「Galaxy Z Fold3 5G」「Galaxy Z Flip3 5G」、スマートウォッチの「Galaxy Watch4/Watch4 Classic」、完全ワイヤレスヘッドホンの「Galaxy Buds2」である。

「Galaxy Z Fold3 5G」、Sペン対応の両開き折りたたみ型

縦折りで防水対応の「Galaxy Z Flip3 5G」発表

サムスン、「Galaxy Buds2」「Galaxy Watch4」を発表

どの製品も日本での発売予定は公開されておらず、日本仕様がどうなるかなども未発表だ。だがこれまでの経緯を考えれば、それぞれの製品は日本市場で発売される可能性は高い。

第3世代を迎えてよりマス向けの製品になった「二つ折りGalaxy」の方向性を考えてみよう。

初代から2年、二つ折り市場をサムスンがリード

サムスンが折りたたみのGalaxyを最初に発売したのは2019年のこと。同年は「二つ折りスマホ元年」とでもいうべき年だった。1月のCESでは中国のRoyoleが「FlexPai」を出展、2月のMWC 19 Barcelonaではファーウェイサムスンが二つ折りスマホの実機を公開している。

サムスン、「Galaxy S10 5G」の実機公開、「Galaxy Fold」も展示

そしてその後、Galaxy Foldの初代機が発売された。当初4月とされていた発売はトラブルにより延期され、製品版発売はグローバルで9月、日本で10月に伸びる、という産みの苦しみも味わった。

フォルダブルスマホ「Galaxy Fold SCV44」、auの秋冬モデルで登場

モトローラなどいくつかのメーカーから二つ折りスマホは登場したが、販売量的にもブランド的にも、「二つ折り」市場をリードしてきたのがサムスンである、といって過言ではないだろう。「二つ折り」で耐久性・品質を維持するのは大変だし、まだまだ高価なディスプレイパネルを使わねばならないので、十分に競争力のある製品を作って販売し続けられるメーカーは限られている。同じ時期にライバルであるファーウェイが米中問題に巻き込まれ、ハイエンドスマホの積極展開が難しい状況になったことも無関係ではあるまい。

価格低下で二つ折り市場を本格的に拡大

そんなサムスンの「二つ折り第3世代」となる今年の製品の特徴はシンプルだ。過去よりも品質が上がったにも関わらず、価格が下がっているのだ。

海外での発売日は8月27日。価格はGalaxy Z Fold3 5G が1,799ドルで、Galaxy Z Flip3 5Gが999ドル

Galaxy Z Fold3 5Gは、アメリカの場合17,99ドル(約19万8,000円)で、昨年モデル(Z Fold2 5G)の1,999ドルよりも200ドル安くなっている。

Galaxy Z Fold3 5G

縦折りのGalaxy Z Flip3 5Gは999.99ドル(約11万円)と、昨年の4Gモデル(Z Flip)の1,380ドルから大幅に価格が下がった。

Galaxy Z Flip3 5G

どんなパーツも改善を積み重ねて量産していくとコストが下がる。サムスングループのディスプレイ製造部門であるサムスンディスプレーは二つ折り向けの有機ELディスプレイの量産を進めており、2021年には戦略的に出荷量を増やす予定……との話が、部材などの生産メーカーの見通しとして報道されている。第3世代二つ折りGalaxyの値下げは、そうした「本格的な二つ折りスマホ」競争が生まれる流れに先手を打つ動き、と考えてもいいだろう。

中でも、Galaxy Z Flip3 5Gが1,000ドルを切り、他のハイエンドスマホに近い価格帯にまで落ちてきたことは大きい。よりコンパクトになるデザインを好む人向けではあるが、二つ折りを一般化するための戦略的な価格、とみていいだろう。デザインもよりカジュアルさを強調している。

Galaxy Z Flip3 5Gは縦に二つ折りするため、他のスマホよりコンパクトになる。
カラーも4色用意され、よりカジュアルな印象をうける

ハイエンドスマホの差別化は年々難しくなっている。カメラの機能アップは続くが、それだけで消費者を引きつけ続けるのは難しい。

サムスンはそこで、ディスプレイ生産と端末事業、両方で積極的に「二つ折り」へ投資することで、ハイエンドスマホ市場を維持し、そのトレンドを「二つ折り」にリードしてライバルに先行したい……と考えているのだろう。それができるのはサムスンくらいのものだし、2018年頃から積極投資を活かすには、今本気を出す必要があるのだ。

「note」と統合し実用性もアップ

Galaxy Z Fold3 5Gは、内部がさらに「戦略的」である。

Galaxy Z Fold3 5Gはより内部構造を突き詰め、戦略的製品に仕上げている

従来、サムスンのスマホ、特にハイエンドは「sシリーズ」と「noteシリーズ」の2ラインだった。noteはペンで手書きできることを軸に据えた大画面モデルであり、sシリーズよりも先鋭的な部分があった。

Foldシリーズが生まれるとハイエンドは3ラインになったが、今回、Foldにnoteシリーズの「大画面とペンによる手書き」という要素が加わって、Foldが存続する形となったのだ。

ペンでの手書きにも対応、noteシリーズと機能が統合された

「Foldの画面で手書きができれば」という話は初代Fold発売時からあったし、筆者も実機を試した時に「これでペンが使えれば」という感想を持った。

だが、それが難しいのもわかっていた。手書きに対応する場合、ペンを認識するための「デジタイザー」レイヤーを挟まねばならず、それが「折りたたみ」にとって大きなハードルになるからだ。

二つ折りはどうしても「折り目」に負担がかかるため、デジタイザーをここに入れると強度などの課題が生まれやすい

そこでサムスンは今回、デジタイザーを右と左で2つに分割することで、折り目の部分にデジタイザーがかからないようにした。

Galaxy Z Fold3 5Gではデジタイザーを左右に分けて「折り曲げない」構造を採用している

当然、そうすると問題は「中央のデジタイザーがない部分での認識はどうなるのか」ということになる。今回の場合には、左右のデジタイザーを連動させ、デジタイザーがない部分が目立たないようにしているようだ。この技術は、noteシリーズのデジタイザーと同様に、ワコムとの共同開発によって実現されているという。実際に違和感がないかどうかは、実機を試してみるまでわからない。

こうしたデジタイザーの工夫に加え、堅牢さや耐水性(IPX8対応)を向上させ、より実用的な製品に仕上げているのが特徴と言える。

自社の過去の折り曲げディスプレイに比べ80%耐久性が向上してるという。
耐水はIPX8を実現

また、これまでの二つ折りGalaxyに比べ、ユーザーインターフェース周りの改善を進めたのもポイントだろう。特に「Fold3」では、タスクバーの導入によってPC的な使い方がしやすくなっている。

マイクロソフトとの連携により、Microsoft OfficeやMicrosoft Teamsの使い勝手を向上させており、これも大きな価値となる。

二つ折りの大画面では、Microsoft Officeなどの利用が楽になる。サムスンはマイクロソフトとの関係を活かし、こうした部分での使い勝手も改善していく

実は二つ折りより野心的「Galaxy Watch4」

一方、「Galaxy Unpacked」で発表された製品の中で、筆者が一番興味を惹かれたのは「二つ折りGalaxy」ではない。今回のモデルはとても魅力的だが、新しい概念というよりも正常進化の賜物だからだ。

一方、スマートウォッチの「Galaxy Watch4」は名前こそ「4」だが、まったく新しい製品といっても過言ではない。

スマートウォッチの「Galaxy Watch4」

新Wear OS搭載「Galaxy Watch4」。Google マップやメッセージ対応強化

Android 12と新Wear OSはどのように変わるのか

OSはGoogleのWear OSとサムスンのTizen OSを統合したWear OSの新バージョン。同OSを使った「新生Wear OS」を使った最初のスマートウォッチとなる。

Galaxy Watch4は新生Wear OS」を使った最初のスマートウォッチだ。

GoogleがOS戦略を見直したのは、スマートウォッチのバッテリー動作時間をさらに伸ばすためだ。Galaxy Watch4の動作時間は最大40時間となっており、それを生かしたスリープトラッカー機能がアピールされている。

それと同様に興味深いのは、いわゆる体組成計に近い機能が内蔵されていることだ。これにより、体脂肪率や体内の水分量などを測れるようになる。サムスンによれば、その精度は一般的な体組成計の98%に達しているという。

腕につけて指をボタンに添えることで、体組成計のような計測が可能になる。
腕時計型で簡易な仕組みだが、計測精度は一般的な体組成計の98%に匹敵するという。

スマートウォッチ市場ではApple Watchの強さが目立つが、Apple Watchが弱い部分やまだ手がけていない部分をテクノロジーでカバーしてくる姿勢は好ましい。サムスンはそれだけ、この市場が有望であり、アップルからシェアを奪うことが重要と考えているのだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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