西田宗千佳のイマトミライ
第111回
サイバーエージェント決算から見る「ウマ娘」ヒットの先にある安定戦略
2021年8月2日 08:20
7月28日、サイバーエージェントは2021年第3四半期決算を発表した。
一言で言えば「絶好調」。前年同期比で売上は70.3%増。利益に至っては前年比で「5.4倍」にも拡大した。2021年度通期の業績見通しも大幅に上方修正している。
今回は、サイバーエージェント好調の背景を分析してみよう。
「ウマ娘」効果で利益拡大。それだけでないゲーム事業
サイバーエージェントに圧倒的な利益をもたらしたのはなにか? それはゲームだ。
今年2月にスタートした「ウマ娘 プリティダービー」は、7月20日に900万ダウンロードを達成する大ヒットとなった。売上は前年比で約152%増、利益に至っては約484%増という結果は驚きという他ない。
スマートフォンを軸にしたフリー・トゥ・プレイ型のゲームは、成功すれば劇的な利益を企業にもたらす。過去幾度となく繰り返されてきたことだが、今回それが改めて浮き彫りになった。
しかし、である。
このヒットをシンプルに偶然と考えるのは少し違うだろう。
圧倒的な利益率に惑わされがちだが、むしろ注目すべきは、サイバーエージェントが長きにわたって「ゲームでは安定的な売上を出している」という点である。決算資料に示された2017年以降の売上を見てもそれはわかる。もちろん、売上に対して利益が落ち込んだ期もあるのだが、「ウマ娘」というヒットがなくても安定的な売上を続けている。それは、タイトルポートフォリオをうまく組み合わせ、持続的なビジネスとなるように工夫しているからなのだろう。
「ウマ娘」の収益もいつかは落ち着く。その時を見越していかにゲーム事業を「拡大安定」させるかが、同社にとって大きな課題と言える。
現在、サイバーエージェント傘下のCygamesは、家庭用ゲーム機向けタイトル開発に力を注いでいる。これはいわゆる「AAAタイトル」と呼ばれる大きな予算と人材獲得が必要になるもので、リスクも大きい。しかし、ゲーム事業を国際的な競争力のあるものに拡大していくならば、避けては通れない部分でもある。ゲーム事業における同社の次のチャレンジは、「スマホ向けと並ぶ収益確保の柱を作って大きくなること」なのだろう。
コロナ禍でも安定的な広告事業、「中長期的な支持」を目指す
ゲーム事業の輝きに目を奪われがちだが、むしろ注目すべきは、同社の柱と言える「インターネット広告事業」の安定性だ。ゲームのような劇的な利益ではないが、コロナ禍にあって売上は増加傾向にあり、特に2021年度に入ってからは四半期ごとに売上を伸ばしている。
いうまでもなく、コロナ禍では、消費活動の鈍化によって売上が下がった業種の広告費が抑えられる傾向にある。その中でも業績を伸ばしているのは、同社の足腰の強さを示すものと言っていい。
全般的に、「ヒットという変動に頼らない安定した基盤」がサイバーエージェントの基本方針なのだろう。売上拡大基調の中でも、販売管理費はほぼ横ばいである。決算説明において藤田晋社長も「ネット企業としてはほぼ理想的な形」と説明する。上昇基調の中での安定こそが、同社の狙いなのだろう。
決算説明の最後で、藤田社長は「中長期で応援してもらえる企業を目指す」と語った。その言葉は、こうした部分に現れているのだろう。
ABEMA事業への投資を継続、PPV収入はコロナ禍で拡大
ではその「中長期的安定」はなんのためなのか? それは「ABEMA事業への継続投資のため」といってもいい。
6月に藤田社長に単独インタビューした際にも、「長くやればやるほど、勝てる確率が上がるという考え方。ABEMA事業に関する一番の危機感は投資し続けられなくなること」と語っていた。そのためにはサイバーエージェント全体が、ABEMAへの投資を行なったとしても安定した利益を産み続けることが必要だった。「ウマ娘」のヒットで余裕は出たが、本質は「投資継続を支えられるだけの安定性」と言える。
一方で、ABEMAを含むメディア事業の安定性自体も確保されつつある。今期の売上は199億円と高い水準を維持している。
損益に目を向けると38億円と小さな額ではないが、ここでは「売上に関わらず損益が40億円から50億円の間」と、ある程度一定水準であることに注目していただきたい。すなわち、単純に費用をかけているわけではなく、売上規模を見つつかける費用を積み増し、赤字幅を一定にしている……と見ていいだろう。すなわち、まだブレーキを踏む時期ではない、ということだろう。
収益を支えているのは、同社が「周辺事業」と呼ぶ、ABEMAそのもの以外からの収益だ。特に大きいのは、公営ギャンブルのネット投票である「WINTICKET」事業。この種の領域では最後発に近い状態だったのだが、ABEMAの番組連動なども活かし、「すでに業界トップクラスに追いついてきた」(藤田社長)という。こうした部分で支えつつ、ABEMAを拡大期まで投資し続ける……という戦略に変わりはなさそうだ。
そのABEMAだが、週次でのユニークユーザー数は1,000万からの伸びが大きくないようにも見える。ただ、藤田社長は「足元の数字は良い」と説明する。その要因となっているのは、MLBの生中継を含めたスポーツ番組である。幅広い世代で安定的な支持を伸ばすには、確かに有用な武器と言える。
一方、収益に直結する形で伸びることが期待されているのが「ペイ・パー・ビュー(PPV)」だ。「緊急事態宣言が長引いている影響がある」と藤田社長は説明し、特に7月から9月期の伸びが期待されている。
コロナ禍もデルタ株の拡大で状況が見えづらくなっているが、その中でPPVなどの事業がどうなるのだろうか。日本の現状を見ると、需要は9月期より少し後ろまで伸びそうな印象もある。本当なら早く落ち着いてもらい、大型番組の展開を加速してもらいたい時期ではあるが、この辺ばかりは、少し読みづらいのが残念なところではある。