西田宗千佳のイマトミライ
第106回
Windows 11のTeams統合と「メッセージング戦争」
2021年6月28日 08:20
Windows 11が発表された。発表されたばかりでまだわからないことも多いが、Windows 10からの継続的な変化としては、妥当な流れかと思う。
今回のアップデートは、OSの機能や構造以上に、その上で展開されるサービスの刷新という面で特徴的なOS、ということができるだろう。
1つはアプリストアである「Microsoft Store」。そしてもう一つが「Teamsの統合」だ。
コロナ禍以降、ビデオ会議・通話サービスの重要性は大きく変化した。Microsoft Teamsはその中で、Zoomなどと激しい競争を繰り広げた。
それがついにOS標準となり、コア機能の1つに位置付けられる。
パーソナルデバイス向けのOSを抱えるプラットフォーマーは、皆なんらかの形で「メッセージング」に力を入れている。
今回はWindows 11を「メッセージング戦争」という視点で見てみることにしよう。
Windows 11にTeamsを統合
「プロダクティビティだけでも、クリエイティビティだけでもなく、それを超える部分こそ、Windowsにとって重要な部分です。愛する人々とつながることこそ、我々が最も重要視する部分です」
マイクロソフトのチーフ・プロダクトオフィサーであるパノス・パネイ氏は、Windows 11発表のプレゼンテーションビデオの中でそう述べた。
そしてその後に発表されたのが、OSへのTeamsの統合である。
現状Teamsはマイクロフトが提供する1アプリケーションの形になっている。OSから1クリックで呼び出せる通話アプリは「Skype」だった。
だが、Windows 11ではSkypeのインテグレーションは終了し、Teamsがより深く組み込まれることになる。
Teams同士でのチャットやビデオ通話は、もちろんWindowsというOSには依存していない。だから他のプラットフォームにおける位置付けはそのままだ。しかし、Windows 11からはアプリの追加インストールなしで、1クリックで呼び出しや着信が可能になる。
パンデミックの中で広がった「ビデオ会議」競争
2020年に入って新型コロナウィルスのパンデミックが広がると、ビデオ通話は一般的なものになっていった。まずそこで最初に注目を集めたのはZoomだ。
ビデオ通話そのものは新しい要素ではない。20年前から存在している。だがコロナ禍までは、「使う人は使う機能」として存在していた、と言ってもいいだろう。
そこでなぜ、ビデオ会議としてZoomが最初に注目されたのか? 簡単に言えば「お互いが同じサービスに登録済みでなくても良く、URL1つで会議に参加できた」からだ。参加してもらうためのハードルの低さが重要だったのである。
その後各サービスはZoomを追いかけることになる。一時期Zoomがセキュリティ面で不安視されたこともあり、そこでグッと利用者を伸ばしたのがMicrosoft Teamsである。Microsoft Officeの利用企業であれば利用権がついてきた……というのも大きいだろう。
だが、ZoomとTeamsの競争はそれだけにとどまらない。いわゆる「バーチャル背景」や「背景ノイズのキャンセル」、書類の共有など、ビデオ会議で必要となるものを、競うように機能追加していった。その中には、Zoomが先行するものもあれば、Teamsが先行したものもある。
バーチャル背景にしろノイズ除去にしろ、機能としては2020年以前に発表されていた。筆者が2019年6月に米マイクロソフト本社を訪れた際、「今後搭載を予定している機能」として見せられたのが「バーチャル背景」だったりした。
どこが早い・どこが追いかけたというより、皆が同じ方向を向いて開発していたものが、コロナ禍という世界的な課題の中、ビジネスチャンスとして一斉に外に出ていった……といった方が正しい認識なのだろう。
Windows 11ではTeamsが大幅進化。APIも解放
今回、マイクロソフトがWindowsという主力製品にTeamsというもう一つの主力製品を結びつけるのは必然だ。
Teams自体の内部構造も変わる。その結果としてメモリー利用量などが減り、より快適に使えるようになる、とされている。この新アーキテクチャはWindows 11に組み込まれるTeamsから導入され、その後、他のプラットフォーム向けに広がっていくという。
前述のように、他のサービスとの積極的な競争がある以上、2つのメッセージングサービスを同時にメンテナンスするのは無駄が多い。そこでマイクロソフトは、Skypeでなく、より新しいアーキテクチャに基づいており、利用者も急増しているTeamsの方を選んだ……ということになるのだろう。
実はWindows 11には、Teams以外のメッセージングサービスでも使える機能がいくつか導入されている。
例えば、メッセージングサービスに流れる音を簡単にミュートする「グローバルミュート・アンミュート」機能。どのアプリで動いていても同じキーボードショートカットで動作し、サービスごとに機能を覚え直す必要が減る。
操作中のPC画面を効率的にビデオ会議でシェアするための専用APIも用意される。
これらの機能はTeams専用ではなく、他のビデオ会議アプリでも利用可能な形で公開されるため、Windows 11では「どのビデオ会議アプリもより快適になる」といっていいだろう。
そしてその上で、「OSに統合されているからよりシンプルに使える」存在がTeams……ということになるわけだ。
全プラットフォーマーが目指す「メッセージングサービスの覇者」
冒頭でも述べたように、あらゆるOSプラットフォームがメッセージングサービスを重視している。重要なものであるのは明らかだし、そこでユーザーを掴むことはプラットフォームの利用を促進する近道である。
アップルは先日開催した開発者会議「WWDC」で、自社のメッセージングサービスである「FaceTime」を拡充した。通話中の背景をぼかせる「ポートレートモード」が使えるようになり、リンクを共有し、ブラウザ経由でWindowsやAndroidからも通話できるようになる。
Teamsは「会議」というイメージが強いが、FaceTimeは「個人の会話」というイメージが強い。実際機能的にも、Teamsは画像や資料共有などの会議向け機能が強く、FaceTimeは弱い。一方で音声遅延や品質ではFaceTimeが有利で、得意な部分が違う。
Windows 11に統合されるTeamsは個人向けの色合いが強く、アップルがFaceTimeで行なっていることにも近い印象を持つ。一方で、FaceTimeがWindowsやAndroidでの利用を促進するとなると、「同じ山に別のルートで向かう」状態に近くなってくる。
Googleも「Google Meet」機能の強化を進めている。ただ、他社に比べると派手さはない印象を受ける。
Google Meetに数人のピン留めや自身のワイプの非表示など新機能
Facebookも同様だ。
少し古い取材資料になるが、1つの写真を見せたい。これは2019年12月、シンガポールで開かれた、FacebookのAPAC記者向け説明会で示された資料の1つである。
同社の中でのメッセージングとソーシャルネットワークのユーザー数を示したものだが、グローバルでは2019年の段階で、APACでは2017年の段階で、すでにソーシャルメディアとしての利用者をメッセージングとしての利用者が抜いている。Facebookにとっていかにメッセージングが重要であるかを示すものと言える。ここから1年半が経過しているが、傾向はより強まっていることは疑いない。
FacebookのVR機器である「Oculus Quest」にも、今年の春のアップデートで、Facebook Messenger機能が組み込まれた。Oculus QuestはゲームなどのVRコンテンツを楽しむものであると同時に、VR空間内で一般的な作業をするものとしての機能アップも進められている。「ヘッドセットを外すことなく色々な作業を進める」ための第一段階としてMessengerが選ばれたのは必然だ。
このように見ていくと、Windows 11でのTeams取り込みは必須であり、マイクロソフトとして「今打つべき最大の攻撃」であるのもわかってくる。
では、そうした変化を受けて、ビデオ通話を軸にしたメッセージングの競争はどう変わっていくのだろうか? 単純にTeams有利、とも思えないが、注目すべき状況が続くことだけは間違いがなさそうだ。